インターネット電子地図を利用した
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インターネット電子地図のシステムの設計指針を示す。
インターネット電子地図システムでは,情報がプロットされた地図データをサーバーからクライアントに配布する必要がある。地図データの基本的な配布方式としては,次の2種類がある。
ラスターデータ配布方式
ベクトルデータ配布方式
ラスターデータ配布方式は,サーバーで地図画像(ラスターデータ)を作成しその画像データをクライアントに送り表示させる方式である。また,ベクトルデータ配布方式は,地図を描画するために利用する線の始点や終点などの座標データ(ベクトルデータ)をサーバーからクライアントに送り,クライアント側で地図を描画する方式である。一般的に,ラスターデータ配布方式と比較して,ベクトルデータ配布方式の方には次のような特徴がある。
配布するデータ量が少ない
地図のスクロールや縮小拡大などをクライアントで処理できる
このため,ネットワークの負荷が軽く,システムの柔軟性が高いといった特長がある。一方,ラスターデータ配布方式には,次のような特徴がある。
クライアント側には単純な機能しか必要ない
地図のベクトルデータが二次利用される可能性がない
小中学校に配備されているコンピュータのハードウェアやソフトウェアはさまざまな種類やバージョンがある。このため,多くの小中学校で問題なく利用できるシステムを構築するためには,クライアントとして利用する小中学校のコンピュータにできるだけ単純で性能も要求しない処理方式を採用することが望まれる。ベクトルデータ配布方式では,クライアントとして利用する小中学校のコンピュータに地図処理用のプログラムを導入する必要があり,小中学校の環境によっては,うまく利用できないことが考えられる。
このような技術的な理由から,本プロジェクトでは,地図の配布方式として,ラスターデータ配布方式を採用した。なお,ラスターデータ配布方式の採用には,技術的な理由以外も大きい。インターネット電子地図を運用するためには,電子地図の作成者から地図データの提供を受ける必要がある。地図データは,その提供者にとって重要な営業上の資産であるため,その地図データがインターネット上で不特定多数に再利用,再配布可能な形式で取得され,さらには二次利用されると,収益に深刻な問題を生じてしまうという問題がある。ベクトル形式でのデータ配布は,情報の劣化を伴うことなく,この様な二次利用を簡単に行うことができる。このため,ベクトル形式での配布を基本としたシステムでは,地図データの提供者からの地図データの取得に大きな制約が生じる可能性がある。
サーバーからクライアントに配布する地図データの画像形式はPNG(Portable Network Graphics)とした。WWW用に広く利用されている画像形式としては,GIFとJPEGがある。GIFを利用する場合にはライセンスとその使用料上の問題点があるため,採用できなかった。また,JPEGは写真などには適しているが,地図画像に利用すると,文字や線などがにじみ,画像が汚くなるため採用しなかった。
長期的には,上記のようなベクトルデータ配布方式の問題点が解消されれば,適当な時点で,ベクトルデータ配布方式に移行することを考えている。
地図画像の配信方式としてラスターデータ配布方式を採用したこともあり,システムの設計指針としては,サーバーに処理や機能を集中させ,クライアント側は単純な構成で利用できるようにした。これは,一般的なコンピュータさえ導入されていれば,追加のソフトウェアやハードウェアを必要とせず,どのような学校でもインターネット電子地図を問題なく利用できるようにできるという効果がある。このような設計により,インターネット電子地図の利用校のコスト負担とシステム管理の負担を軽減させることができる。
現在の小中学校のインターネット接続は,64kbpsのISDNが主流であり,インターネットの接続帯域が低いという問題がある。このような制約を緩和するために,基本的に利用校には,WWWキャッシュサーバーの設置を行うこととした。WWWキャッシュサーバーにより,小中学校側のインターネットの接続帯域の事実上の向上が望めることに加えて,サーバー側にとっても,一校あたりのリクエスト回数やデータ伝送量を低減できるため,資源の有効利用を図れるという利点がある。
インターネット電子地図は応用範囲が広いため,多くの学校で利用されることになるものと考えられる。利用者が多いと,必然的にシステムへのアクセスが増大し,システムに大きな処理性能が要求されることになる。この様な場合には,多数のサーバーを束ねてサービスを運営することとなり,サーバーのコストが大きな問題となる。
この様な観点から,サーバーは低コストで構築できるように,PCサーバーとフリーUNIXを利用することとした。また,システムを構築する上で必要なさまざまなソフトウェアも,特別な理由がない限り,フリーソフトウェアを利用して構築することとした。
インターネット電子地図のサーバーには,児童生徒が記録した貴重なデータが大量に保存されることになる。これらの重要なデータがシステムの障害により失われることを防ぐために,RAIDディスクを利用して,児童生徒によって入力されたデータが失われないように配慮した。
我々は,データベースと統合された電子地図すなわち地理情報システム(GIS)は,機能によって以下の2種類に分類できると考えている。
分析的な地理情報システム
情報流通のための地理情報システム
分析的な地理情報システムは,いわゆる従来の地理情報システムで,場所と関連付けられた主に数値的なデータを対象として,さまざまな分析,レポート機能を提供するものである。一方,情報流通のための地理情報システムは,インターネットの発達と共に急速に発展しつつあるもので,場所と関連付けて文字,写真,映像などのマルチメディアデータを記録し,多様なデータの蓄積,発信,交換機能を提供するものである。これは,場所と関連付けて情報を管理する,マルチメディアファイリングシステムとして考えることができる。
本プロジェクトでは,後者の情報流通のための地理情報システムに重点を置き,子供たちが調べた事柄を,地図の上で場所に関連付けて整理,記録していき,それをもとにした情報発信や情報交換を支援できることを,システムの中核機能として実現することとした。
最初の年度であり,システムの整備に利用できる先行期間がほとんどないことと,実証授業で基本的な機能に重点を置いて評価を行ってもらえるように,場所に関連付けて情報を地図に記録する基本的な機能のみをシステムに実装した。インターネット電子地図に今回実装した機能の概要を以下に示す。
ログインすると地域の周辺の地域も見渡せる小縮尺の地図を表示する。
対象となる地域を選択し,小縮尺から大縮尺へ地図を拡大する。
地図上に既にプロットされている点をクリックして,関連情報を取得する。
インターネット電子地図のサービスを実現するためには,電子化された地図のデータが必要である。本プロジェクトでは,電子化された地図のデータとして,国土地理院がCD-ROM形式で発行している数値地図2500を利用した。数値地図2500には以下のような特徴がある。
日本全国の主要都市をカバーしている
ベクトル化されており拡大縮小やオーバーレイ処理が可能
低コストで提供を受けられる
インターネット上での配布が許されている
一方,数値地図2500には以下のような問題がある。
提供されていない地域が多い
収録されているレイヤーが基本的なものに限られる
数値地図2500の提供地域は徐々に拡大しているものの,提供されていない地域が多いのが大きな問題となる。数値地図2500の提供地域は,都市圏を中心としているため,人口に着目した場合には,かなりのカバー率になるが,面積的には多くの地域が未提供となっている。このため,インターネット電子地図の利用が広がるにつれて,電子地図データの取得が大きな課題となる。数値地図2500でカバーできない範囲の地図データは,民間企業から調達することも,技術的には可能であるが,コストや利用形態の制限などこれから解決すべき課題が大きい。
インターネット電子地図のサーバーは,多数の学校の利用を想定し,以下のような要素から構成される。
ファイヤーウォール
(リバース)キャッシュサーバー
負荷分散装置
WWWサーバー
地図画像サーバー
セッション管理サーバー
データベースサーバー
ただし,今年度は,利用する学校数が少ないことと,システムの利用特性を簡易に取得,分析するために,次のような簡略構成で設置,運用を行った。
WWWサーバー兼地図画像サーバー
セッション管理サーバー兼データベースサーバー
それぞれ,OSにLinuxを利用したPCサーバーで構成した。
インターネット電子地図に対するWWWブラウザからのリクエストを直接的に処理するサーバーである。一般的なWWWサーバーの機能と,地図画像の動的な生成機能を提供する。地図画像を生成するGISエンジンとしては,飯塚市の飯塚市研究テーマ探索事業による研究助成により硴崎が開発したシステムを利用した。
リレーショナルデータベース管理システムを中核とするサーバーで,WWWサーバー兼地図画像サーバーののバックエンドサーバーとして機能する。このサーバーは,各利用者に対するセッション管理と,登録されたデータの記録,検索を担当する。
インターネット電子地図の応用分野では,自らが学外に出て調査・取材を行うことが一般的である。学外でのそのような活動を直接的に支援するためには,インターネット電子地図がモバイル利用できることが望ましい。インターネット電子地図のシステムは,サーバー側に複雑な処理機能を集約し,クライアント側には一般的なWWWブラウザがあれば利用できるような構成になっているため,モバイル利用できるWWWブラウザがあれば,特別なソフトウェアの購入や導入を行うこと無くインターネット電子地図を利用できることになる。
このような用途では,WindowsCEを利用することができる。WindowsCEにはInternet Explorerが装備されているため,PHSカードなどを付加してインターネット接続することにより,WindowsCEの標準構成で,学外のどこででもインターネット電子地図を利用した学習を実施することができる。
本プロジェクトでも,WindowsCE機であるヒューレット・パッカードのJornada720を調達し,PHSを通じてインターネット電子地図を問題なく利用できることを確認した。WindowsCEは1Kgをきる軽量のコンピュータである上に価格も安いため,教育現場での導入も行いやすいものと考えられる。
インターネット電子地図の利用は,WWWブラウザを利用して行う。WWWブラウザとしては,小中学校で標準的に利用されているInternet Explorerを利用する。なお,地図利用に関してInternet Explorerに固有の機能を部分的に使っているため,現時点では,Netscapeには対応していない。
システムにログインすると,図 3に示すように利用者の校区の周辺部を含む小縮尺の地図が表示される。
図 3 小縮尺の地図表示
地図上で注目している地域をマウスでクリックすると,クリックした地域が図 4に示す様に大縮尺の地図で表示される。
図 4 大縮尺の地図表示
インターネット電子地図には,さまざまな情報を場所と関連付けて記録することが可能であり,情報が記録されている地点には,赤丸とその情報の表題が表示されている。その情報の詳細を参照したい場合には,参照したい場所に表示されている赤丸をマウスでクリックする。クリックした場所に関する情報は,図5に示すように,画面の右の枠内に表示される。
図 5 記録されているデータの参照
情報としては基本的には説明文が表示され,関連する写真なども記録されている場合には,それも表題や説明を付加した形で一覧表示される。表示された写真に興味がある場合には,その写真をマウスでクリックすることにより,その写真の登録者がシステムに登録したもとの大きさで写真が大きく表示される。
新たなデータをインターネット電子地図に登録したい場合には,地図画像の左上に表示されている入力ボタンをマウスで選択した上で,情報を記録したい場所をマウスでクリックする。すると,図 6に示すように,指定した場所に十字と二重丸が組み合わされた記号が表示された地図が表示されるとともに,そこに登録する情報を入力する記入枠が右側に表示される。
図 6 説明の登録
十字と二重丸が組み合わされた記号が指定した正しい位置に表示されていることを確認した後に,右側の入力枠に説明文を入力し,記入枠の下にある登録ボタンをマウスでクリックする。この操作により,入力した情報が電子地図に登録される。この様にして登録されたデータは,その登録者が参照できることはもちろん,インターネット電子地図のすべての利用者が参照できるようになる。
文字情報に加えて,写真などを追加登録したい場合には,図 5の様に,追加する元となる情報をまず表示させ,そこに表示されている画像の追加ボタンをマウスでクリックする。これにより,図 7の様な画像の登録用の記入枠が表示される。
図 7 画像の登録
記入枠に対して,画像の表題や説明文を入力するとともに,画像ファイルを指定する。これらを入力したら,入力枠の下の登録ボタンをマウスでクリックすることにより,その画像が電子地図に登録される。この様にして登録された画像は,その登録者が参照できるのはもちろん,インターネット電子地図のすべての利用者が参照できるようになる。