インターネット電子地図を利用した
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学校に次のような環境を整備することにより,インターネット電子地図を利用することができる。
WindowsベースのPC
Internet Explorer 4.0以上
インターネット接続
WWWキャッシュサーバー
現状では,WWWキャッシュサーバーが設置されていない学校がほとんどであるため,その整備を行う必要がある。この点を除けば,インターネット電子地図は,特に高速なコンピュータや特殊なソフトウェアを必要としないため,すでに学校に導入されているPCのハードウェアとソフトウェアで十分に利用できる状態にあるといえる。
一方,現在の多くの学校のインターネットの接続環境には,インターネットを利用した教育を実施する上で回線の太さが十分でないという問題がある。インターネット電子地図は,地図画像や写真画像など容量の大きなデータの転送をインターネット上で頻繁に行う。したがって,十分な学習効果をあげられるようにするためには,特にインターネット接続の回線の太さが重要な要素となる。
インターネット電子地図を利用するためには,実証授業の現場での印象やデータ転送量の分析結果から,各利用校にWWWキャッシュサーバーの設置が必要不可欠であると考えられる。22台のPCが設置されており十数台のPCを同時に利用した小学校の例では,WWWキャッシュサーバーの設置により,64KbpsのISDNで,快適といえないまでも十分に学習に利用することができた。この様子は,システムの数値的な分析結果からもうかがえる。しかしながら,42台のPCを設置している中学校では,WWWキャッシュサーバーを設置しても,なおかつインターネットのアクセス速度が不十分なものであったとの指摘があった。したがって,インターネット電子地図はもちろん,インターネットを積極的に利用した教育では,WWWキャッシュサーバーを設置した上で,インターネット接続の帯域幅を少なくとも128Kbps以上にする必要があるものと考えられる。
インターネット電子地図を利用する場合には,情報をわかりやすく伝えるために,画像を積極的に記録できるようにすることが望まれる。このために,取材に利用するデジカメやスキャナなどの取材用の周辺装置,画像加工用のソフトウェアなどを整備することが望まれる。特に今後は,インターネット電子地図にビデオなども記録できるようになる予定であるため,ビデオ撮影機能を持ったデジカメなどを整備すると効果的な学習支援を行えるものと考えられる。
インターネット電子地図は幅広い分野の学習に利用できるが,効果的に利用するためには,インターネット電子地図の特長を積極的に利用した多面的な学習指導を行えることが重要である。このためには各教科科目の専門家はもちろん,情報教育の専門家も交えて,基本的な指導案の整備と実証授業の実施による評価改善を行っていく必要がある。
インターネット電子地図を利用した教育は,インターネットと電子地図を利用したこれまでにない教育方法であるため,まず教師自身が,インターネット電子地図の特徴,操作法,授業への活用法などを十分に習得することが必要がある。特に,インターネット電子地図の活用分野は広いため,これまではコンピュータを利用した教育に距離をおいてきた教師やその担当科目での利用も急速に広がるものと考えられる。この様な広がりを後押しするためには,インターネット電子地図をテーマとした教師の研修会などを実施し,教師の指導能力を積極的に伸ばす機会を設けることが望まれる。また,インターネット電子地図を利用してどのように授業を進めるといいのかを具体的な形で広めるために,利用面で先行する学校や教師の公開授業などを実施し,普及に努めることが望まれる。
インターネット電子地図を利用する授業は,教師にとっても子供にとっても不慣れであるため,インターネット電子地図やコンピュータに詳しい補助教師やインストラクターが必要になるものと思われる。特に初期の授業では,多くの子供たちに個別の指導を行えるように,数人のインストラクターを派遣できることが望ましい。実証授業の例でも,最初は多数の子供たちから多くの質問があったため,数人のインストラクターが授業を補佐することが,授業を円滑に進める上で大きく貢献した。
また,授業を実施する上で,以下のような事柄について十分に配慮しなければならない。
著作者権の取り扱い
情報公開条例等
プライバシー
本年度はプロジェクトの初年度である上に十分な準備期間がなかったため,文章や画像といった基本的なマルチメディアデータの記録と発信に重点をおき,単純化されたシステムの提供とそれに基づく評価を行った。今年度の事業により,インターネット電子地図の基本的な有効性が確認されたが,一方で,来年度以降の活用に向けて,さまざまなシステム的な課題が上げられている。
現在のインターネット電子地図は,以下のような機能の不足や問題点がある。
地図の縮尺の変更
日本全土の地図の表示機能
地図の上下左右へのスクロール
記録された情報の分類表示機能
線や領域の書き込み
データの入力法が煩雑
来年度は,これらの問題点を解消したシステムを利用者に提供できるように作業を進めている。
今年度は,インターネット電子地図を利用する学校数が,高々10校程度であったため,性能的な問題はまったく発生しなかった。しかしながら,インターネット電子地図は応用範囲が広いため,来年度以降は多数の学校から頻繁に利用されるようになることが予想される。このため,次のようなインターネット電子地図サーバーの性能を拡張していくことが必要になると考えられる。
処理性能
ネットワークの帯域
現在,複数サーバーの組み合わせと負荷分散による,インターネット電子地図サーバーの処理性能の向上を進めている。ネットワークの帯域に関しては,接続料の継続的な負担が大きな問題となるため,当面は現在の5Mbpsを維持し,利用量や特性を評価した上で,対処法を考える予定である。
大きく分けて,以下のような二点におけるセキュリティ対策を進めている。
システムのセキュリティ
データーのセキュリティ
インターネット上でサービスを提供するサーバーを運用する場合,クラッキングを排除できるように,システムのセキュリティーを向上させる必要がある。現実的な問題として,インターネット電子地図システムも,週に数回から場合によっては1時間に数回のポートスキャンなどのクラッキングを目的とするアクセスを受けている。
クラッキングによるシステムの乗っ取りや機能不全の発生を防止するため,セキュリティーホールを除去するためのパッチの適用や進入路を除去するためのシステム設定などを行ってきているが,さらにシステムのセキュリティを向上させるため,ファイヤーウォールの設置を行う予定である。
データのセキュリティという面では,インターネット電子地図に記録される情報は,基本的に公開を前提としたものである。このため,システムに記録されているデータの想定外の流出に関しては,商業サイトのように,極度に神経質になる必要はないものと考えている。ただし,各データが誰によっていつ,記録・修正されたかは各データの重要な基礎情報であるため,この様な情報を含めて,情報の改変などに対するデータセキュリティ機能は,完備するようにシステムを整備していく予定である。
インターネット電子地図は利用されれば利用されるほど,サーバーに蓄積される情報は,(1) 地域の広がり,(2) 時間的な広がり,(3) 対象分野の広がりが増大する。このため,インターネット電子地図のサービスの継続的な維持により,学習資源の大きな発展性が期待できる。したがって,インターネット電子地図サーバーのサービスを継続的に提供していくことが非常に重要になる。
インターネット電子地図は,電子地図や,それに関連付けて書き込む画像や文章などの多量データを処理するという特徴がある。このため,広く利用されるようになると,(1) 太い帯域を持つインターネットの接続費用,(2) 処理速度が速く容量が大きなサーバーのハードウェアとソフトウェアの費用,(3) サービスの維持管理のための人件費,などの費用負担が必要になることが大きな課題となる。したがって,何らかの長期的な予算措置が必要である。
インターネット電子地図のサービスを各自治体の教育委員会に個別にゆだねることも考えられるが,インターネット電子地図は,場所に関係付けて広域の情報を一元管理することにより協働学習を支援するシステムであるため,可能な限り,全国を対象としたある程度集中的な管理運用体制をとるべきであると考えられる。この様な観点からは,予算や労力の提供を含め,インターネット電子地図の運用主体がどこになるかということが,長期的には重要な問題となる。
逆の観点で見ると,インターネット電子地図では,サービスを提供する予算や労力の負担を集中的に取り扱うことができるため,各学校の負担を低く抑えることができると考えることもできる。
複数の学校が連携して協働で学習を進める協働学習プロジェクトの重要性が高まっている。インターネット電子地図は,協働学習プロジェクトの支援システムとして,特に優れた特性をもっていると考えられる。インターネット電子地図を利用すると,場所に関連した学習成果を異なる学校間で自然と共有することができるため,協働学習を強力に支援することができる。
ここでは,場所に関連した情報が重要で,インターネット電子地図が協働学習の中核となるテーマを示す。
高齢者福祉や障害者福祉の重要性が高まり,学校教育でも,高齢者福祉や障害者福祉が重要視されて重要な教育テーマとなっている。
最近では,高齢者や障害者の社会生活を支援するために,街のバリアフリー化が進められている。国の重要な施策になっているのはもちろん,各自治体においても,「バリアフリーのまちづくり条例」などが制定され,建物や道路のバリアフリー化が進められている。バリアフリーに対するもうひとつの動きとして,バリアフリーマップの作成が注目されている。バリアフリーマップは,高齢者や障害者が街に出て生活するうえで役立つあるいは障害となる事物がある場所とその内容を地図上にまとめたものである。現状では,多くのバリアフリーマップは紙の上にまとめられ,書籍やパンフレットなどの形で配布されている。
役に立つバリアフリーマップを作成するためには,幅広い領域で新鮮な情報を提供できるように,毎年繰り返し調査することが求められる。また,最新の情報を利用者に速やかに提供することが求められる。インターネット電子地図を利用すると,各学校がそれぞれの校区のバリアフリー情報を調査して取りまとめることによって,幅広い領域のバリアフリーマップ(図 50)を作成することが容易に行えるという特長がある。また,学校教育の場では,それぞれの学年の生徒児童は進級により毎年入れ替わるため,毎年同じ単元で同じ地域の調査を繰り返し行うことができ,バリアフリー情報の調査を継続的に行うことができるという特徴がある。さらに,インターネット電子地図にまとめられたバリアフリー情報は,それを必要とする人たちにとっていつでも最新の情報を参照できるという特長がある。この様に,インターネット電子地図を利用したバリアフリーマップの作成は,社会的に意義が高いだけでなく,子供たちにとっても達成感の高い学習になるものと考えられる。
図 50 バリアフリーマップの一例
CECのEスクエアプロジェクトの協働実践企画として,宮崎大学教育文化学部の中山迅教授,宮崎大学教育文化学部附属小学校の中西英教諭を中心とした,全国発芽マッププロジェクトがある。全国発芽マッププロジェクトは,全国の小中学校で同じ日にいっせいにケナフの種を植え,その成長の過程を日本全国で調査し,その成長の様子を情報交換し,協働学習を行うものである。すでに150以上の学校が参加しており,全国的に活発な活動が行われている。
現在の全国発芽マッププロジェクトでは,ケナフの発芽時期,開花時期,茎や葉の成長量などの調査結果をメイリングリストや各プロジェクト参加校のホームページで交換することにより,協働学習が進められている。しかしながら,メイリングリストやホームページによる情報交換では,子供たち自身の手で直接情報交換したり,提供された情報の分析や比較検討を簡単に行うことができないため,協働学習を進める上での制約となっている。
本年度では準備できなかったが,この協働学習のプラットフォームとして,インターネット電子地図を利用することが考えられる。全国発芽マッププロジェクト用のインターネット電子地図としては,日本全国を表示できる小縮尺の電子地図を用意し,プロジェクトの参加校をその地図上にプロットできるようにする。また,各参加校が各自で個別に,ケナフの発芽時期,開花時期,茎や葉の成長量などの調査結果を登録できるようにする。さらに,登録されたデータを利用して,発芽時期ごとに色分けした各学校を示す点を日本地図に表示をしたり,対象となる部分の成長量を示す棒グラフを各学校の位置に立てた日本地図を表示したりといった,様々な表示,分析機能を提供できるシステムを提供したいと考えている。
CECのEスクエアプロジェクトの協働企画・先進企画や学校企画のテーマとして,環境学習を題材としたものが多数見受けられる。環境学習も,さまざまな調査データを場所と関連付けて取りまとめることによって整理や分析が行われている。以下のようなデータを調査して環境に関する理解を深める学習が広く行われているが,これらのデータをインターネット電子地図に記録していくことにより,各学校で個別に行った調査の結果を相互に参照することを手始めとして,協働学習を容易に行うことができる。
降雨の酸性度
窒素酸化物
二酸化炭素の濃度
河川の水質検査
インターネット電子地図に記録された環境情報は,年度を重ね,参加校が増え,調査地域が広がっていくことにより,社会的にも重要な調査データの蓄積ができるものと考えられる。
自分と社会のつながりを学んだり,自分たちの地域の様子や特徴を学ぶために,以下に示すようにさまざまなテーマで地域の調査を行う学習が行われている。
工業,商業,農業
さまざまな施設
季節と風景
動植物
遺跡や史跡
お祭り
郷土の自慢
地域の情報もまた,場所と密接な関連をもっており,調査結果の取りまとめや分析,発表を行う上で,インターネット電子地図を効果的に利用することができる。記録された地域の情報を他の学校と交換することにより,協働学習を進めることができる。特に,遠方地域の生活などは何気ない事柄が大きく異なることもあるが,そのような生活様式の違いなども,教科書に載っているようなステレオタイプのものではなく,それぞれの地域の子供たちによってまとめられた,生活観にあふれた情報を元にして理解を進めることができるようになる。
インターネット電子地図には,年度を重ねるごとに,さまざまなテーマに基づいて子供の目から見た社会の移り変わりが記録されていくことになり,地域情報アーカイブとして地域の貴重な資産となる。