世界規模の仮想企業経営学習プログラムを支援する
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当該テーマでは、仮想企業経営プログラム(バーチャル・カンパニー)の運営を支援する電子商取引システムを開発し、複数校がこのシステムを利用して国際的なネットワークに参加し、一定の設定された期間で国内外と取引を実施することにより、開発したシステムの教育的効果について実証実験を行った。
ただし、本テーマは、グループワーク、職業観などを培う教育システムであり、利益優先で商品の売買を行う電子商取引システムではない。したがって、システムが方針を決定したり、自動化したりする意思決定システムや電子モールシステムとは異なり、教育効果の大きい作業は生徒が自ら行い、システムはその行為を支援するツールに過ぎない。
電子銀行システムは、仮想企業及びその社員が国内外の仮想企業と商取引を行うための口座管理、資金の移動(送金、振替、引き落とし、クレジット等決済機能)及びそれらの取引履歴を記録、集計する機能を提供する。
下図に、電子銀行システムと仮想企業経営環境との関係を示す。
今回開発した「世界規模の仮想企業経営学習プログラムを支援する電子商取引システム」の一部である「電子銀行システム」の開発意義としては以下のような理由があった。
従来、商品の売買においては、見積、発注、納品、検品、請求、支払といった一連の書類作成がすることにより取引が進んでいったが、近来、インターネットの普及により、流通や手続きの簡素化、手数料の低価格化が進み、CALS(Commerce At Light Speed)と言われるほど、電子商取引への期待が高まっている。このように実社会でネット上での電子決済の活用が普及していくなか、学校教育においてその仕組みを実際に体験しながら学ぶような実践授業がなかった。
特に、専門高校の一つである商業高校では、社会のニーズにあった実践的スキルや知識を習得させることが期待されているにもかかわらす、未だ旧態依然とした方法がとられている。10年前に出版された教材を利用し、手作業による会計処理の授業を行い、簿記などの検定試験の受験準備に終わってしまっており、生徒の減少から教員の流動が進まず、企業現場の実情やニーズが生徒の教育に反映しにくい現状がある。
このような実社会と学校教育の現状を照らし合わせた時、今後、日本経済の活性化に寄与し、かつ国際化・情報化時代に対応できる人材育成には、実際の企業現場で必要とされる情報技術を活用した実践教育や他校との交流、起業の視点をもったビジネス教育を行う必要性があるのは明白である。そして、世界規模の仮想企業経営学習プログラムはこのような人材育成に最も適しているビジネス教育の一つであり、この仮想企業経営プログラムをよりリアルに体験し、学習効果を増すためには、電子決算処理が行える電子銀行システムの開発は不可欠である。
電子銀行システムを開発することにより、以下のことが可能になるのである。
簿記などの経理知識のない生徒の参加を可能にする
複数校との交流を可能にする
専門高校のように多くの時間をビジネス教育に当てられない学校でも、商取引や企業運営について学習することが容易になる
オンラインショッピングの仕組みやそのリスク・利便性などについて学ぶ機会になる
電子決算や電子マネー、それを活用したビジネスの仕組みについての理解を深める
ITをツールとして使いこなせるようになる
今回、なるべく現実世界を模倣すべく銀行システムを開発し、金銭の送受信を主に実現したが、今後、取引活動の様々な段階でサポートできる総合的なシステムを開発する必要がある。貸借対照表等の資産計算だけでなく、商品検索、取引交渉、顧客との対話などの活動を支援する機能を備えたシステムが開発されることで、システムを利用した生徒達はより実践に近い体験をし、ITをツールとしてより利便性の高いシステム開発を実社会で実現していくようになるのではないだろうか。
開発する電子銀行システムは、データベースソフトを搭載したWEBサーバで稼動し、インターネットを介してブラウザ端末と接続された環境で、その開発が行われ、稼動する。
電子銀行システム
ハードウェア:
CPU:Pentium 相当500MHz以上、メモリ:128MB以上、
HDD:10GB以上のDOS/V互換機
Ethernet Card (100Base以上対応)搭載
ソフトウェア:
FreeBSD 2.2.7以降、Apache 1.3.12以降
Postgress 6.5.3
開発言語:
GNU C++ 2.7.2.1以降、Perl(Ver5.004以降)
PHP3.0.15
ブラウザ端末
ハードウェア:
CPU:Pentium 相当300MHz以上、メモリ:64MB以上、
HDD:5GB以上のDOS/V互換機
Ethernet Card (100Base以上対応)搭載
ソフトウェア:
Windows95以降、
Netscape 4.5以降又はInternet Explorer 4以降
Microsoft Excel 97以降
ネットワーク
Ethernetで接続されたLAN環境及び、ISP(Internet Service Providor)を介してインターネットに接続されたネットワーク環境で稼動する。
本テーマの実践授業は、仮想企業経営プログラムのネットワークに登録している参加校のうち、3高等学校の協力を得て実施する予定である。実践授業において、各参加校の指導者に開発した電子銀行システムの講習会を行った後、各校が運営する仮想企業が商取引を行う際に、本システムを利用してもらい、指導者9名、生徒128名から、アンケートとヒアリング調査を行い、開発システムの効果等、実証実験項目の検証を実施するものである。
<参加校>
京都府立大江高等学校 ソフト経済科 情報処理コース 3年3・4組(28名)
京都市立西京商業高等学校 情報処理コース 3年4組(37名)・5組(38名)
学校法人呉武田学園呉港高等学校 機械学科 3年A組(9名)、B組(9名)、C組(7名)
<参加人数>
生徒:計128名
指導教官:計11名
(大江高校:4名、西京商業高校6名、呉港高校1名:内主担当は各校1名:計3名)
当該テーマでは、仮想企業経営プログラム(バーチャル・カンパニー)を支援する電子商取引システムを開発し、複数校がこのシステムを利用し、国内外の参加校と取引を行うことによる教育的効果について、以下の実験項目に基づきアンケート調査やヒアリング、生徒の作成資料やプレゼンテーション、授業への取り組み姿勢などを通じて検証を行うことにした。
1)協同作業能力の向上
本プログラムでは、生徒が教員や同じグループの仲間、支援企業の人などと相談しながらビジネスプランを策定し、会社を運営していく。この活動を通して、どのようにコミュニケーション力、プレゼンテーション能力、問題発見能力、問題解決能力、判断力、決断力、リーダーシップなどが養われたかを見る。
本プログラムでは、生徒達が、自主的に自分の役割における課題や責任を果たすことで、会社組織及び経済の仕組みの概要を理解し、社会人としての自覚を促すことを期待している。企業人と接触し、企業経営や他校との取引などを通じて、生徒の職業に対する意識がどのように変化したかを見る。
3)ITスキル習得効果の検証
本プログラムではインターネット及び各種ソフトウェアを駆使して、商品調査、企画、設計、広報、販売、会計処理等を行うことになるため、自然にITスキルを習得することになる。役割によって利用するITツールは異なるが、利用したツールに関するアンケート調査によって、その効果を計る。
本テーマで開発した成果物はEスクエアの「先進企画プロジェクト」上で公開すると同時に、継続的な活動は起業家教育センター*のホームページ上で公開し、教育関係者に仮想企業経営を手段とした教育方法の意義や習得能力について広く理解を得る。そして、参加に興味のある学校には起業家教育センターにてその導入や運営を支援する。
起業家教育センターでは、本テーマの仮想企業経営プログラムの導入に際しては、導入したい学校のねらいや達成目標を念頭にいれた最適な導入方法、既存授業とすりあわせた授業計画の立て方、協力企業の発掘支援などのコンサルティング、指導するための教員研修、他校との商取引に必要なノウハウの提供、また企業運営に必要なネットワーク管理などの付加価値的サービスの提供を実施する。そして起業家教育センターはその対価として仮想企業経営プログラムの運営に必要な経費をネットワークへの参加料として参加校から募り、継続的な支援活動を視野にいれ今後より多くの学校の参加を促し、普及・支援活動を行っていく予定である。
仮想企業経営プログラムに参加を希望する学校は、最初はゲストとして商取引に参加できるようになっている。ゲスト利用するには、起業家教育センターに問い合わせるか、Eスクエアのホームページ:http://www.cec.or.jp/es/E-square/の「先進企画プロジェクト」から当テーマを選択し、「電子商取引を体験」の箇所を読むことで利用方法がわかるようになっている。仮想企業経営プログラムを模擬体験して上で、参加を決めた学校は、起業家教育センターより教材とネットワークに正式メンバーとして参加できるパスワードが提供され、Web上で開発した商取引システムを利用し、自由に他校と取引を行えるようになる。教材には、本テーマで開発した電子銀行システムの取扱いや他校との取引方法を説明したバンキングシステム操作マニュアル、仮想企業運営のねらいや運営方法を記載した運営マニュアル、企業の設立方法や組織について説明した生徒用ガイドブックがある。
*起業家教育センター(Center for Entrepreneurship Education)は、1999年1月に結成された起業家精神涵養環境整備事業推進委員会のもと、(財)京都高度技術研究所、(株)京都ソフトアプリケーションと京都リサーチパーク(株)の3社が中心となって、起業家教育を推進するために同年4月に設立された。同委員会は、ベンチャー企業創設の草分け的存在である堀場雅夫((財)京都高度技術研究所理事長)を委員長とし、産官学の代表者が参加して、日本経済の活性化に寄与し、かつ国際化・情報化時代に対応する人材育成に必要な支援体制の構築に努めるものである。
起業家教育センターは、その支援体制の実現の場として産官学の各界をつなぐ橋渡し役として機能するものであり、新しい教育プログラムや研修プログラムを提供する支援センターおよび起業家教育に関する情報のリソースセンターの役割を果たすものである。
起業家教育センターでは、教材・学習プログラムの開発、教育者研修、学校への企業人の派遣や企業研修のコーディネイト、セミナーや生徒発表会などの啓発活動などを行っている。
問い合わせ先:起業家教育センター
〒600-8813京都市下京区中堂寺南町17京都リサーチパーク内
Tel.:075-315-9103 Fax:075-315-9134
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