世界規模の仮想企業経営学習プログラムを支援する
電子商取引システムの開発


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7. 成果と課題

7.1システム機能の評価

      開発した銀行システムの各機能の評価指標を示す。

      7.1.1 管理者用機能の評価

         本機能は、

          管理者認証機能

          会社管理機能

          個人管理機能

          口座管理機能

        から成るが、管理者認証を受けた者だけが特権的に行なえる操作は会社管理機能の下位機能である会社登録機能と税率等仮想会社経営プログラムを運用するためのパラメータ設定(変数設定機能)だけであり、それ以外は、会社操作機能、個人操作機能と同様の機能を提供する。ここでは、会社登録機能と変数設定機能の評価について述べる。

         会社登録機能は、管理者認証を受けた者だけが操作できるようになっており、最初に会社を創設する時に呼び出され、会社IDを発行すると共に、会社の資本金が設定され取引きが可能な状態となる。アクセス権限を定義して実装したことにより、安全なシステムを構築できた。また、一旦設定された資本金を変更できないようにし、年度末、税金等計算機能で税額を確定でき、公平な取引きができるようにできた。

         変数設定機能は、

          普通取引口座利率

          定期口座利率

          延滞手数料率(口座残高がマイナスになった時の利率)

          口座送金手数料(購入者が銀行に振込む場合の手数料)

          口座振替手数料(電子商取引で販売者が購入者の口座から振替る場合の手数料)

          クレジット決済手数料率

          個人給与控除率(税、保険等)

          会社負担率(保険等)

          個人固定費率(食費、水光熱費、住居費等)

          購買上限率(個人が消費可能な月当たりの限度)

          購買下限率(個人が消費義務のある月当たりの限度)

          法人税率(「収益:収入−支出」に対する比率)

          消費税率(売上に対する比率)

          決済日(毎月のクレジットや給与控除の計算日)

          ボーナス月(年2回)

        といったシステム変数を設定する機能であり、これらの変数は仮想会社経営プログラムの運用ルールを規定するものである。当然管理者権限でしか変更できないように実装したが、設定した内容を会社IDや個人IDでログインした時に参照できるようにしたことによって、設定された変数(運用ルール)を参加者が確認できるようになった。

      7.1.2 会社操作機能の評価

         本機能は、

          会社認証機能

          個人管理機能

          会社口座管理機能

        から成る。

         会社認証機能は会社設立時に発行された会社IDでシステムにログインするための機能で、認証後、各機能に認証情報を渡すことによってデータベースへのアクセス権限を制御できるようになっている。

         個人管理機能は、設立された会社の社員を登録する機能で、社員の給与を決めることが特徴である。社員情報を登録すると、その給与が社員の口座に振り込まれ、個人単位で商取引が可能となる。変数設定機能で設定された

          購買上限率

          購買下限率

        によって、購買を義務化することによって、仮想会社経営プログラムでの取引きを促進する効果がある。

         会社口座管理機能は、会社の売り上げ等取引き口座の記録を見たり、集計する機能である。売り上げ、消費、取引き手数料、給与振込、税金計算等全ての口座に関するトランザクションを参照できるだけでなく、CSV(Comma Separated Value)形式で端末にダウンロードできるため、会社経営のための収益計算を行なうことができる。

         更に、会社口座管理機能は、会社の口座間や会社と個人の口座間での送金機能を提供しており、「電子商取引機能」での商品売買方法だけでなく、見積もり、注文、納品、検収、支払いといった書類ベースでの取引き行為をサポートすることができるようになっている。また、消費者と送金金額の一覧をシステムに与えることができ、その送金金額にマイナス金額を許すことによって、一括引き落とし機能を実現することができる。これによって、例えば、情報提供のための会員を募り、毎月会費を徴収するようなビジネスモデルを支援することができるようになっている。

      7.1.3 個人操作機能の評価

         本機能は、

          個人認証機能

          個人口座管理機能

        から成る。

         個人認証機能は個人(社員)登録時に発行された個人IDでシステムにログインするための機能で、認証後、各機能に認証情報を渡すことによってデータベースへのアクセス権限を制御できるようになっている。

         個人口座管理機能は、個人の取引き口座の記録を見たり、集計する機能である。給与振込、個人消費の口座に関するトランザクションを参照できるだけでなく、CSV(Comma Separated Value)形式で端末にダウンロードできるため、個人の消費に関する計算を行なうことができ、生活設計等行なうことができるようになっている。また、消費が、変数設定機能で設定された

          購買上限率

          購買下限率

        で指定された範囲に無い時、その個人に対して警告メイルを送信するようになっており、購買を義務化することによって、仮想会社経営プログラムでの取引きを促進する効果がある。

      7.1.4 電子商取引機能の評価

         本機能は、

          オンライン購買機能

        を提供するものであり、購入者の認証と、商品販売者と購入者の口座間で商品購入代金の移動(振替え)を行なうと共に、販売者の口座から取引き手数料を引き落とす。振替えは、即座に行なう即時決済と1ヵ月後に行われるクレジット決済とがあり、個人の生活スタイルに応じた消費活動を行なうことができるようになっている。

      7.1.5 税金等計算機能

         本機能は、

          個人給与控除額計算機能

          会社運営経費振替機能

          会社税額計算機能

        から成る。

         個人給与控除額計算機能は、個人の(消費活動以外の)生活費や年金、保険等積み立てなど給与から天引きされるものを計算する機能であり、給与からこれらの経費を差し引いた金額に対して購買上限率、購買下限率をかけることによって、個人が消費可能な金額を規定する。これによって、仮想会社経営プログラムでの取引きを促進する効果があり、個人の生活スタイルに応じた消費活動を行なうことができるようになっている。

         会社運営経費振替機能は、会社運営に必要な経費を資本金から計算する機能である。商品販売活動に直接必要な経費以外に、会社運営に必要な経費を理解させる効果を与えた。

         会社税額計算機能は、年度末に会社にかかる税金(法人税と消費税)の計算をする機能であり、税金に関する理解を深める効果を与えた。

7.2効果の検証

       実践授業を通して、開発した電子商取引システムの利便性や仮想企業経営プログラム(バーチャル・カンパニー)の取り組みの有効性を確認するため、担当教師からの直接のヒアリングに加えて、以下のような方法でその効果の検証を図った。

      1. 電子商取引システム活用

        本テーマで開発した電子商取引システムを導入したことにより、どれだけ活発に他校との取引が実践されたかを、ヒアリングとシステムの取引記録より調査する。

      2. アンケート調査1

        実証実験の検証項目にあげていた当初の3項目「協同作業能力の向上」、「職業意識の向上」、「ITスキル習得」に、「自主性・積極性の発達」、「異文化理解」、「企業理解」の3点を追加した5段階形式の自己評価アンケートを、バーチャル・カンパニーを設立した初期・10月初旬と取引を終了し収支決算を行う12月に実施。その変化を数値化して、生徒の意識・習得技能の変化を調査した。

      3. アンケート調査2
      4.  バーチャル・カンパニーの終了時の1月中旬に「はい」「いいえ」の2者択一でその理由を記入する形式の自己評価アンケートを生徒、教員、支援企業のスタッフに実施。参加者全員の意識調査をした。

      7.2.1電子商取引システム活用調査

         参加した3校の首担当者は、8月末の電子商取引システムの研修会に参加。結果的に3校25社が参加して、9月にバーチャル・カンパニーの登録を開始。ホームページ上にオンラインショッピングの出来る商品販売ページを作成し、他校に広報活動をしながら、10月から1月にかけて、実際に商取引システムを利用して売買を実施した。そして、学校やクラスによって日時は異なるが、12月から1月末にかけて開設した口座を閉じ、収支決算を行った。

        この9月の会社登録から口座閉鎖までの期間に、参加生徒や担当教員から電子商取引システムに関してあった問い合わせやクレームには以下のようなものがあった。

        A.授業中のトラブル

        1. 会社運営において光熱費・税金以外の運営経費の取扱い方法をどうするか。

            例)コンピュータのリース代金や仕入れ商品の支払いなど

          〈解決方法〉

          運営経費以外の経費や仕入れなどについてはすべて、国内送金機能の使って、セントラルオフィスに支払うことによって、必要経費を消費することとしており、研修会で述べたが、周知していなかったので、再度確認し、問題無く授業を進めることが出来た。

        2. 会社からのお給料が振り込まれるまでに個人が消費活動を行えるようにしたい。

          〈解決方法〉

          今回の銀行システムでは、マイナスの残高を許していたので、給料前の消費活動は可能であったが、不自然であるということで、個人口座の開設と同時にセンターより口座に10万円を振り込み、給与が振り込まれるまでの個人の購買活動を円滑に行えるようにした。

        3. 購入・販売時に購入者と販売者に通知されるメールがわかりにくい。

          〈解決方法〉

          通知メールに即時・クレジット決算のどちらか、会社ID、商品名、商品数、価格、に加えて購入者、販売者の名前とIDを追加した。

        4. 口座残高と銀行システムのトランザクション記録があわない。

          〈解決方法〉

          送金や振替の手数料の計算に誤りがあったので、修正した。

        5. 一定比率の消費活動を行わなかった場合に来る「警告メール」が送信されなかった。

          〈解決方法〉

          銀行システムのトランザクション記録の間違いからきたもので、原因を突き止め修正。

        6. 商品を購入したのに購入確認メールが送信されなかった。

          〈解決方法〉

          生徒が作成したホームページのなかにある電子商取引ページの購入確認ページのメッセージがサンプルページ用に作成した会社名への振込みを指示しており、その会社に商品の売上代金が振り込まれていたために起こった。間違って振り込まれた会社から、正しい会社の口座に送金をして返金処理を行って解決した。

        7. 11月の会社負担額が自動引き落としされていなかった。

          〈解決方法〉

          会社負担額を処理する以前に処理されるはずだった11月分のクレジット決済処理の途中でエラーが発生して、そこで処理プロセスが止まってしまっていたため生じた。エラー原因を突き止め修正。

        8. 11月分の運営経費が自動引き落としされていなかった。

          〈解決方法〉

          システム側の入力ミス。引き落としを実施し解決。

        9. トランザクションデータの商品名の一部に文字化けが発生した。

          〈解決方法〉

          「FORM」に入っている2バイト文字のエンコードをブラウザが誤認識するためで、文字コードが混在している時やCharsetの指定などが無くてEUCで書かれたHTMLをブラウザがSJISとご認識した時に文字化けが起こった。HTTPheaderでCharsetを指定したので、普通は回避できるようになった。

        10. トランザクションデータをもとに売上一覧表を作成しようとしても、一定の時期以降のデータがなくなってしまっていた。

          〈解決方法〉

          9番の原因からトランザクションデータに文字化けした情報が入ったため、そのデータをダウンロードして計算する売上一覧のマクロが正しく動作しなかった。トランザクションデータを修正し、解決した。

        11. 「売上・支出管理用マクロ」の支出管理一覧をクリックするとエラーメッセージがでる。

          〈解決方法〉

          10番と同じ原因。

        12. 生徒が誤って20億円の買い物をしてしまい、送金機能を使って返金しようとしたが、国内送金の限度額に引っかかり返金できなかった。

          〈解決方法〉

          送金の限度額の設定にミスがあり、修正し、対応した。

        B-1アンケート調査2から:電子商取引システムに関するクレームコメントの抜粋

        1. (教員)現行のシステムでは、仕入れ取引の部分がなく、諸掛がないなど商業高校として教えたい帳簿の記入などの学習が出来ない。

          (生徒)毎時間銀行システムをチェックして、仕訳帳・商品有高帳・売上帳・当座預金出納帳に記帳するのが日課となりましたが、この帳簿は商品を仕入れていないのに売上があるという不思議な代物となりました。仕入額がわからないため損益計算書の作成をやむなく断念せざるおえない状況になりました。

          〈対処方法〉

          仕入れについては送金機能を使って対処したが、仕入れもととなる会社を作るなどして、仕入れ・売上・収支のプロセスを体験できるように工夫したい。今後、担当教員などの意見を聴取し、検討していきたい。

        2. (教員)インターネットに関するシステムの研修が不充分であった。今後、各校導入する場合のネックになるであろう。

          〈対処方法〉

          商取引システムの導入研修を半日実施したが、来年度は2回ほどにわけて2日間実施する予定。

        3. (教員+生徒)海外の加盟校の情報や取引方法が良くわからなかった。

          (教員)ホームページ作成のためのビジネス英語の参考図書が欲しい。

          (生徒)海外の人との取引などをもっとしたかったので自動的に翻訳してくれるようなシステムがあったらよい。

          〈対処方法〉

          正味3ヶ月ほどの短期間に日本語と英語の両方の広報ツール(ホームページやちらし)を作成し商取引を実践するには時間的な無理があった。また、海外の参加校の情報が英語であり、また国によってその取り組みがまちまちであるので、担当教員のキャパシティーを超えてしまっていた。今後、参加校の情報を日本語で要約した案内を配布したり、英訳を引き受ける業務を請け負ったりするバーチャル・カンパニーを作って(大学生や専門学生)、英語が苦手な生徒を得意な生徒が支援する形を作って行きたい。また、海外の指定校をつくって、まずはそことの取引を行うことから始めたりしていく予定である。

        4. (教員)ホームページ作成の手引書が欲しい。

          〈対処方法〉

          これについても、ホームページの計算式などの難しい部分を指導したり、質問に答えてくれる業務を請け負うバーチャル・カンパニーを設立する予定。よって、これもプログラミングの苦手な生徒を得意な生徒がフォローする形になる。

        5. バーチャル・カンパニー用のWebサーバーを起業家センターに用意してほしい。(現在情報教育センターのサーバーを借りているが、管理上の制約が多い。)

          〈対処方法〉

          参加校のWebをすべて管理するサーバーの設置については費用の問題があって、今後の検討課題である。

        6. (教員)各校の授業の進捗状況を流したり、他校の学校の先生と問題点を話し合ったりできるような「掲示板」の設置。

          〈対処方法〉

          掲示板を設けるよりも、研修会などで互いの状況を報告できる機会をもっと頻繁に持ったり、メーリングリストを作ってお互いの情報を伝えあったりできるような方向で方法を検討中である。

        7. (教員)参加校の商取引をする期間が一致していなかったため、流通が少なかった。

          〈対処方法〉

          本来は、商取引の期間を10月から11月と定めていたが、ホームページの作成にかかる時間が学校やグループによってまちまちであったため、取引が思ったほど活発に行えなかったので、来年度は、参加校に日本語版のホームページの完成時期を出来るだけあわせるように依頼すると同時に、取引週間などを設けて、参加校以外の生徒がバーチャル・カンパニーの商品を購入する時期を設定して、売上や取引の活性化につなげる予定である。

        8. (生徒)1回の販売ごとの支払いに手数料400円が発生するので、商品の価格が引いた場合赤字になる。もうすこし、販売金額ごとに支払い手数料を変えるなど配慮して欲しかった。

          〈対処方法〉

          手数料を廃止するか、一回105円程度にする方向で検討中である。

        9. (生徒)日本国内では参加校不足で、企業の数も消費者の数も少ないように思う。ライバル店(校)がないのも問題だと思う。
        10. 〈対処方法〉

          来年度は参加校が10校以上になる予定で、また、香港、タイ、オーストラリアの各国に1校ずつ指定校として日本と取引する学校を認定した。このことで、他校との交流や取引の活性化を実現できる予定である。

        11. (生徒)期間が短かった。もっと相手の損益についても詳しく出来るようになったら良かったのにと思った。
        12. 〈対処方法〉

          授業に余裕が持てるように各参加校のカリキュラム作成を早い段階で行い、調整する予定である。

        13. (生徒)個人消費の金額が分かりにくかった。何も商品を買わなくてもオーバーしそうになるということがあった。

          〈対処方法〉

          より充実した研修や教材で理解を徹底していく予定である。

        B-2アンケート調査2から:電子商取引システムの効果についてのコメントを抜粋

        1. (生徒)これからインターネットで買い物をすることが増えてくるので、その点で役に立つと思った。

        2. (生徒)ネット上での商品売買の仕組みを知ることができた。

        3. (生徒)商品の取引や宣伝など、本格的な会社経営ができてよかった。

        4. (生徒)実際に企業で働く体験ができたこと。海外にもメールを送ることができたことがよかった。

        5. (生徒)ホームページの作成など知らなかったことがいろいろ分かった。カタログの作成も出来て良かった。

        6. (生徒)商品を買ったときにメールによる通知が来たりして、本当に取引をしたような気になる。

        7. (生徒)商品取引の難しさがわかった。ワンクリックで簡単に商品を買えるようにできてよかった。しかし、買うのは簡単だが、ひとつの商品を開発して売るのはとても難しいということがよくわかった。

        8. (生徒)商業科でしかできない珍しい授業に参加できて良かったと思う。コンピュータを使って行う授業が新鮮でホームページを作ったりして楽しかったし、時代に乗っているような気がした。

        9. (生徒)なかなか良く出来ている。こういうものがあると社会に出る前に社会のことを体感できていい。

        10. (生徒)こういうリアルな授業を各地に増やすべきだ。そして、社会の厳しさ難しさを学んだらいいと思う。

        11. (教員)工業高校なので、会計の知識などがなく電子銀行システムがあって助かった。

        C.システムのトランザクション記録

           バーチャル・カンパニーの口座取引記録より、電子商取引システムを利用して学校間の取引がどれだけ活発に行われたかを各バーチャル・カンパニーの口座取引のトランザクション記録より調査した。

          以下は各校バーチャル・カンパニーの全取引のうち、他校との取引がどれくらいあったかを示したものである。(詳しい集計データは参考資料「1.他校との取引実績調査」を参照のこと)

            学校名

            会社数

            売上高

            取引回数

            他校との取引

            全体取引に占める割合

            大江合計

            2社

            \2,485,560

            116

            89

            77%

            西京合計

            20社

            \19,064,584

            1,725

            177

            10%

            呉港合計

            3社

            \761,360

            172

            122

            71%

            総合計

            25社

            \22,311,504

            2,013

            388

            19%

             この表において、大江高校と呉港高校はその取引の7割以上が他校から引き合いが来ていることからわかるように、電子的に商取引が出来るシステムが導入されたために、取引の手続きが簡略化され、商業高校以外の生徒でも気軽に他校の生徒と商取引を実践することが出来たことを示している。これは、校外の生徒との交流のきっかけにもなり、生徒達は他の生徒から刺激を受けながら企業運営を行っていたようである。

             ただし、西京商業高校の場合は、ほとんどがクラス内で別のバーチャル・カンパニー所属の社員に商品を購入してもらっている状態であった。これには、以下の2つの要因が考えられる。

            1. 西京商業高校のバーチャル・カンパニーの立ち上げが遅く、また他の2校が12月中に収支決算を行って商取引をほぼ終了していたのに対し、西京高校では、1月に一斉に取引を行うなどして、取引のタイミングがずれた。

            2. 西京商業高校の商品が生徒のアイデア商品であったことや、ホームページの作成が実際の企業のホームページに則ったものでないものが多く、商品にリアル感が欠け、他校の生徒に興味を持ってもらえなかった。

      7.2.2 電子商取引システムの活用調査まとめ

         上記の調査から、この仮想企業経営プログラムに電子商取引システムが開発導入されたことで、以下のメリットがあったといえる。

          <メリット>

          1. 電子商取引システムが導入されたことで、より活発にリアル感を持って、他校との商取引活動を行うことができるようになった。

          2. システムの導入により、手続きが簡素化または自動化されたことで、商業高校以外の学校でも商取引を取り入れたビジネス教育が容易になった。

          3. インターネット上で電子商取引が体験できることで、ネット上での商品売買の仕組みを理解できる。

          4. 自ら商品販売用の電子商取引のホームページを作成することにより、広報活動についての知識を得、また消費者に商品を販売する難しさを認識できる。

          5. 国内外の参加者とビジネスを通じた交流が図れる。

         また、電子商取引のシステムの今後の課題としては、以下のことが挙げられる。

          <今後の課題>

          1. 担当教師のシステム利用研修の充実

          2. 生徒にわかりやすいシステムの利用マニュアルの作成

          3. システムの様々な変数の設定値(例:手数料、会社運営費など)の見直し

          4. 商品の仕入れ、ホームページ作成のスキル、英語力の問題の解決のために、これらの業務を請け負うバーチャル・カンパニーの設立を検討する。

          5. 海外取引の活性化のため情報提供と海外セントラルオフィスとの交流を密にする。

          6. システムの計算ミスなどを減らすための、常勤専任スタッフのための費用の確保

      7.2.3 アンケート調査1

         5段階評価アンケートは10月初旬と12月中旬(ただし、西京商業高校のみ、1月半ば実施)の2回に分けて実施し、生徒の意識の変化ついて調べた。

         このアンケートでは、「自主性・積極性の発達」、「協同作業能力の向上」「異文化理解」、「企業理解」、「職業意識の向上」、「ITスキル習得」の5項目に焦点をおき、計128問について「非常にそうである」、「そうである」、「どちらかというとそうである」、「そうでもない」「まったくそうでない」の5つの選択肢の中から回答者が適切と思われるものを選びだす方法をとった。

         参加者数128名のうち、有効回答数98名の1回目と2回目の回答の変化を調査した。この際、肯定的に変化した場合は+に、否定的に変化した場合は−として数値化した。そして最終的には項目ごとに合計した数値をクラスの人数で割って、学校ごとと全体に対する割合を出した。

         ただし、西京商業高校の場合は、2クラスの数値にかなりの違いがあったので、クラス別に標記した。

         以下は上記の方法でアンケート結果を集計したものである。(詳しい集計データは参考資料「2.アンケート1の集計結果」を参照のこと)

         

        質問項目

        呉港高校

        大江高校

        西京3−4

        西京3−5

        合計

         

         

        変化値

        回答数

        変化値

        回答数

        変化値

        回答数

        変化値

        回答数

        変化値

        回答数

        1

        自主性・積極性の発達

        19

        20.5

        35

        27.9

        48

        25

        18

        24

        120

        97.3

         

        各校平均変価値

        0.93

        1.26

        1.92

        0.75

        1.23

        2

        グループ作業

        26

        20.4

        -68

        28

        0

        25

        51

        24

        9

        97.4

         

        各校平均変価値

        1.28

        -2.43

        0.00

        2.13

        0.09

        3

        異文化理解

        32

        20.8

        5

        27.85

        -15

        25

        -17

        24

        5

        97.7

         

        各校平均変価値

        1.54

        0.18

        -0.60

        -0.71

        0.05

        4

        企業理解

        -6

        20.9

        98

        28

        88

        25

        109

        24

        289

        97.9

         

        各校平均変価値

        -0.29

        3.50

        3.52

        4.54

        2.95

        5

        職業意識

        -26

        20.3

        70

        27.9

        4

        24.6

        65

        24

        113

        96.8

        各校平均変価値

        -1.28

        2.51

        0.16

        2.71

        1.17

        6

        ITスキル

        47

        20.9

        143

        28

        46

        24.8

        37

        23

        273

        96.7

         

        各校平均変価値

        2.25

        5.11

        1.85

        1.61

        2.82

        自己評価アンケート1の結果

           アンケートの細かい結果を見ると、当然のことであるが、各学校やクラスによって、焦点をおいて取り組んだ内容や指導教員の指導方法によって、成果の出方も多少ばらつきがあり、また、個人によって、大切だと思う項目が違うのは当然であり、同じ項目でも質問によってかなり温度差が生じた。

           しかしながら、結果としては、今回の仮想企業経営プログラム(バーチャル・カンパニー)の取り組みにおいては、各学校においてかなり差はあるものの、合計すると以下の順序で習得率が高く、特に企業理解とITスキルの向上においてはかなり顕著な効果が見られた。

          1. 企業理解

          2. ITスキルの向上

          3. 職業意識

          4. 自主性・積極性の発達

          5. グループ作業能力

          6. 異文化理解

        <検証項目のなかで変化の比率の高かった質問>

           全体として数値の変更が高かった質問事項を以下にあげる。ただし、(−)は否定的な方向に変化値が上がったことを示している。

          1. 主性・積極性の発達

            • 人前で自分の意見を述べることができる

            • 物事がうまくいかなかい場合はその原因は何か見つけようとする

          2. 協同作業能力の向上

            • グループ内で自分の意見を進んで述べることができる

          3. 異文化理解

            • 英語を使って簡単な会話ができる

            • 電子メールで英語を使って、必要な情報を得ることができる

            • できるだけ多くの国に旅行してみたい(−)

            • 異文化を理解することは大切である(−)

            • 海外の人と仕事をする上で、文化の理解は重要だと思う(−)

          4. 企業理解

            • 簡単なビジネス文書が作成できる

            • 電子メールで簡単なビジネス交渉ができる

            • 簡単なビジネスプラン(事業計画書)が書ける

            • 簡単な広報ツールが作成できる

            • 会社の組織について理解している

            • ベンチャービジネスについて理解している

            • 市場調査について知識がある

          5. 職業意識の向上

            • 多様な経験をして、自分に向いている職業をみつけたい(−)

            • 自分が将来就きたい仕事に必要な知識や技能を知っている

            • 学校卒業後の進路が決まっている

            • 商品開発に興味がある

          6. ITスキル習得効果の検証

            • イラストや写真を利用した簡単な文書のデザイン処理ができる

            • インターネットを活用して情報を適切に収集できる

            • インターネット上の情報の収集や発信に関して生じる著作権について理解している

            • 電子メールの設定ができる

            • 電子メールが使える

            • 電子メールでCC、FW機能を使って効率良い情報交換ができる

            • 電子メールで添付ファイルの交換ができる

            • 情報発信にあたって個人の責任やプライバシーの保護について理解している

        <学校別変化値>

           上記の項目以外で、学校によって特に上昇率の高かったものをあげると以下のようになる。

            1)大江高等学校

              • 人の意見は聞くが、あくまで参考にするだけである(−)

              • 問題が起こった時には、皆で一緒に相談し、解決しようと努力する(−)

              • 先生は何でも知っているべきだと思う(−)

              • 給与は年功序列で、歳をとったら上がるほうがよい(−)

              • これからの社会でどのような人材が必要とされているか認識している

              • 情報化の進展とその意義について理解できる

              • 何か新しく作り出すことがすきである

              • 簡単な広報ツールが作成できる

              • イラストや写真を利用した簡単な文書のデザイン処理ができる

              • 図形表現ができる

              • 静止画像のデジタル化など画像処理ができる

              • 画像の変換や合成を行い、動きを出した簡単なアニメーションを使った動画の設計や表現ができる(―)

              • データの圧縮・解凍ツールが使える

               情報化による社会の変化への認識が高くなっているが、従来の年功序列で年上の人が知識豊富に部下を指導することへの肯定感が強まっている。問題が発生したときも、皆で解決し努力するより、教員の指導を求める傾向が強い。

               今回の授業では他校と比較してITスキルの向上が著しい。

            2)西京商業高等学校

              3-4組

              • 自分と違った視点で物事を考える人に興味がある

              • 自分が当然と思っていることが、他の人には当然でないことがある(−)

              • 授業中、先生には常に指示をあたえてもらいたい(−)

              • 商品開発に興味がある

              • 会社の設立や運営の仕方を理解している

              • 将来自分で独立して会社を始めたいと思っている(−)

              • 将来就きたい職業がある(−)

              • 自分の興味のあることを仕事に結びつけたい

              3-5組

              • 自分の考えよりも他の人のほうが正しいと思った時に、その人の意見に同意することができる

              • 問題に直面した時に、まず、最初に人に相談する(=相談しない)

              • 問題が起こった時はできるだけ自分一人で解決しようとする(=一人で解決しない)

              • 問題が起こった時はできるだけ関わらないようにする(=協力する)

              • 授業に対して積極的に学習しようという姿勢で取り組むことができる

              • 先生は何でも知っているべきだと思う(=そうは思わない)

              • 会社で必要な最低限のビジネスマナーを理解し、実践できる

              • 会社の設立や運営の仕方を理解している

              • 販売促進や広報活動について理解している

              • 将来就きたい仕事がある

              • 情報通信ネットワークのシステムに関する基礎的な知識と技術がある

               他校と比較して、会社の設立や運営の仕方への理解向上度が高く、商品開発(4組)への興味や販売促進(5組)などの理解も深くなっている。反面、問題が発生した場合の解決方法を見ると、ユニークな意見には興味も持ち、他人の意見も大切にし、求められれば協力もするが、自ら面と向かって意見を述べることを避け、一緒に議論することから何かを生み出そうとすることへの消極性が表れているようだ。

            3)呉港高等学校

              • 問題に直面したら、まず、最初に人に相談する

              • 授業中先生には常に指示を与えてもらいたい(もらいたくないという方向に+)

              • 答えは自ら探し、そこから学ぶべきである

              • 社会人や会社の社長にいろいろ話を聞いてみたい(−)

              • 将来英語を使える職場で働きたい

              • 会社を作って倒産しても、また会社を設立する人を尊敬する(−)

              • 将来自分で独立して会社を始めたいと思っている(−)

              • 失敗してもまた挑戦しつづけることが大切だと思う(−)

               グループで相談しながら取り組むが、教員に指導されるのではなく、自ら答えを見つけ学びたいという積極的な姿勢がみられる。また、英語に対する興味が深まった反面、企業運営について学んだことで、かえって自ら会社を設立して失敗した場合のリスクへの認識が強まり、それが否定的な回答となってでているようである。

      7.2.4アンケート調査1のまとめ

         上記の5段階式のアンケート1の結果をまとめると、以下のメリットと課題があったと言える。

          <メリット>

          1. バーチャル・カンパニーの運営を通じて、人前やグループの中で自分の意見を進んで述べることができるようになった。

          2. 会社の組織や自分が将来就きたい仕事に必要な技能などへの理解が進んだ。

          3. コンピュータを利用して、簡単なビジネス文書や広報ツールを作成し、必要な情報収集を日本語でも英語でも行えるようになった。

          <課題>

          1. 海外との取引が活発に行えなかったことが起因して、実際にビジネスをする場合には相手文化の理解が不可欠であることや、他国の文化に興味を持つような異文化理解への理解度の向上はあまりみられなかった。

          2. 卒業後の進路がほぼ全員決まっていることから、多様な経験をして今から就きたい仕事を見極めたいという姿勢は少ない。

         また、これらを、学校別に効果を見ると、一学期に流通などについて授業し、商店街などの交流を実施していた学校や企業との連携においてテーマを絞って生徒と一緒に課題について話し合うような形を取った学校では、企業理解や職業意識の向上度が高かった。しかし、専門高校の3年生ということでほとんどの生徒が卒業後の進路が決定しており、その過半数が就職することを反映してか「今後多様な経験をして自分に向いている職業を見つけたい」という意識は低かった。

         また、バーチャル・カンパニー一社の社員(生徒)数が多かった学校では、社としてグループ作業は発生したものの、所属部署によってはまとまった仕事がなく、一体感を覚えるような取り組みが少なかったため、グループ作業に対して否定的な意見も見られたようだ。また、他校においても、グループ作業に対しては、今まで他の授業であまり取り組んだことがなかったため、今回初めて取り組んで、グループで物事を進めていく大変さと大切さの両方を認識させられ、また自分達が当然と思っていることでも、他人には当然でないというような意識をもつようになっている。

         海外の学校との交流を積極的に行った学校では異文化理解度が上がり、外国語への興味や将来英語を使う職場への興味が深まりっている。

         最後に、どの学校にも共通して言えたのがIT技能とプレゼンテーション能力の向上である。単に利用方法の講習を受けるのではなく、業務の中でITをツールとして活用し、支援企業やクラスで発表を何回か重ねることで自然とスキルを磨いたと言える。特に、ホームページの作成に時間をかけた学校では、生徒自身のスキルアップに対する意識が著しく高かった。

      7.2.5 アンケート調査2

         バーチャル・カンパニーの終了時の1月中旬に「はい」「いいえ」を2者択一し、その理由を記入する形式の自己評価アンケートを生徒、教員、支援企業のスタッフに実施。参加者全員の意識調査をした。

         アンケートの「はい」「いいえ」の部分の全体データをまとめた表を以下に示す。

         なお、項目ごと・学校ごとの詳しいデータや生徒のコメントは参考資料「3.アンケート2の集計結果」を参照のこと。

        <生徒用アンケート集計結果>

           

          質問項目

           

          3校全体

          はい

          いいえ

          回答数

          1

          授業の内容に入りやすかった。

           

          72

          64%

          41

          36%

          113

           

          2

          学習内容に興味を持って取組めた。

           

          108

          96%

          5

          4%

          113

           

          3

          学習の目的や趣旨が良く理解できた。

           

          93

          82%

          21

          18%

          114

           

          4

          自ら課題(授業でやるべき事ややれること)を見つけ、それに取り組むように努力した。

          90

          79%

          24

          21%

          114

           

          5

          グループ作業に興味を持って取組めた。

          103

          90%

          11

          10%

          114

           

          6

          グループ内で自分の意見を進んで述べることが出来た。

          79

          69%

          35

          31%

          114

           

          7

          グループ活動のなかで自分の果たすべき役割や責任が理解でき、それを果たせるよう努力した。

          76

          67%

          38

          33%

          114

           

          8

          グループ内での作業が思うように進まなかったとき、その原因は何か考え、その解決に取り組んだ。

          95

          84%

          18

          16%

          113

           

          9

          様々な課題や問題に対してまず自分自身の答えを見つけるよう努力した。

          102

          91%

          10

          9%

          112

           

          10

          授業を進めていく上で疑問が生じた場合、担当教師や支援企業の人、まわりの生徒などの意見や協力を求め、一緒にその解決に取り組んだ。

          106

          94%

          7

          6%

          113

           

          11

          自分の意見を正確に相手に伝えることができた。

          62

          55%

          51

          45%

          113

           

          12

          進んで他人の意見を聞くようにした。

          101

          90%

          11

          10%

          112

           

          13

          自分の考え方よりも相手の考え方のほうが正しいと思った時に、相手の意見に同意することができた。

          110

          98%

          2

          2%

          112

           

          14

          相手の考え方よりも自分の考え方のほうが正しいと思った時に、相手に対し自分の意見を説明することができた。

          83

          75%

          27

          25%

          110

           

          15

          意見が対立した時、お互いの考えを理解するよう努め、一番良い結果を出そうとした。

          101

          90%

          11

          10%

          112

           

          16

          授業時間を出来るだけ有効に使い、授業を通じて何かを学ぼうと努めた。

          80

          72%

          31

          28%

          111

           

          17

          この授業は自分にとって得るものがありましたか。

          106

          97%

          3

          3%

          109

           

          18

          このような仮想の企業経営の授業は将来の自分の職業について考える上で役立ったと思いますか。

          65

          62%

          40

          38%

          105

           

          19

          先生以外の社会人の人に指導を受ける授業は自分達にとって利益があると思いましたか。

          98

          94%

          6

          6%

          104

           

          20

          グループ作業中心のバーチャル・カンパニーの授業は生徒が主体となって授業を進めるものですが、このような授業形態は自分達にとってメリットがあると感じましたか。

          94

          91%

          9

          9%

          103

           

         「はい」「いいえ」を2者択一する問題とは別途、生徒自身がこの授業で習得したと考える技能・知識についても尋ねた。以下がその結果である。

          皆さんがこの授業で習得したと思われる技能を選んでください。(複数回答可)

           チームワーク力

          79

          76%

          104

           責任感

          78

          75%

          104

           コンピューター技能

          67

          64%

          104

           創造力

          61

          59%

          104

           コミュニケーション能力

          54

          52%

          104

           問題解決能力

          49

          47%

          104

           決断力

          46

          44%

          104

           判断力

          43

          41%

          104

           表現力

          40

          38%

          104

           問題発見能力

          34

          33%

          104

           チャレンジ精神

          31

          30%

          104

           リーダーシップ力

          12

          12%

          104

           語学力

          8

          8%

          104

          その他

            知識

          1

          1%

          104

            ブラインドタッチでキーボードが打てるようになった

          1

          1%

          104

        <教師用アンケート集計結果>

           

          質問項目

          全3校の回答

           

           

          はい

          いいえ

          回答数

           

          <生徒や授業について>

           

           

           

          1

          VCの導入はスムーズに行えた

          2

          20%

          8

          80%

          10

           

          2

          VCの目指す「生徒主体」の授業の進め方に問題はなかった

          5

          56%

          4

          44%

          9

           

          3

          生徒は授業の趣旨を理解し、グループ作業に興味を持って取り組んでいた

          7

          78%

          2

          22%

          9

           

          4

          生徒達はグループ内で自分の意見を進んで述べ、グループ活動の中で自分の果たす役割や責任を理解し、それを果たすように努力していた

          7

          78%

          2

          22%

          9

           

          5

          生徒は授業の趣旨を理解し、グループ作業に興味を持って取り組んでいた授業を進めていく上で、疑問が生じた場合、担当教師や支援企業の人、または回りの生徒などの意見や協力を求め、一緒にその解決に取り組んでいた

          7

          78%

          2

          22%

          9

           

          6

          生徒は従来の総合実践の授業と比較して、このVCで違ったスキルや技能を修得した

          5

          56%

          4

          44%

          9

           

          7

          先生以外の社会人の人が生徒を指導することは生徒達にとって利益があると思われましたか

          9

          100%

          0

          0%

          9

           

          8

          このような仮想の企業経営の授業は、生徒が職業観を育成する上で役立つと思われましたか

          6

          60%

          4

          40%

          10

           

           

          <指導者自身の取り組みについて>

           

           

           

          9

          VCを導入する上で、この教育プロプラムの意義やねらいについて指導者間で十分な議論がなされ、それを理解した上で授業に取り組めた

          5

          50%

          5

          50%

          10

           

          10

          VCを導入する上で、担当者は自ら課題を見つけ、既成の授業形態にとらわれず、毎回授業に積極的に取り組んだ

           

          6

          67%

          3

          33%

          9

           

          11

          毎回の授業内容や導入方法を他の担当者と一緒に検討し、授業計画を作成し、授業のねらいとするところの達成に努めた

          7

          70%

          3

          30%

          10

           

          12

          授業のねらいとするところが達成できなかった場合、その原因について考え、他の担当者と議論し、次回の授業の参考とし授業内容の改善に取り組んだ

          7

          78%

          2

          22%

          9

           

          13

          授業のねらい、授業の問題点・改善点などについて、支援企業などと意見交換し、学校外の人ができるだけ授業支援がしやすいように努めるとともに、外部支援を効果的に利用できるよう努力した

          3

          30%

          7

          70%

          10

           

          14

          生徒は支援企業などの社会人講師に礼儀正しく接することが出来るように(継続的な支援を視野に入れ)、日頃から生徒を大人として扱い、最低限の社会マナーが習得できるようにしている

          10

          100%

          0

          0%

          10

           

          15

          生徒が自ら考え答えを見出せるように、生徒が何か問題に直面した時は、まず「自分はどのように考えるか」を尋ね、答えを与えるだけでなく、問題を解決できるように誘導した

          8

          80%

          2

          20%

          10

           

          16

          生徒の得意なスキルを見出し、それが発揮できるよな課題提案や授業誘導を行った

          7

          78%

          2

          22%

          9

           

          17

          先生以外の社会人が授業に参加することは、指導者自身にとって利益があると思われましたか

          8

          80%

          2

          20%

          10

           

          18

          VCを導入する前にご自身の企業研修を希望されますか

          2

          20%

          8

          80%

          10

           

          19

          VCの導入研修はあったほうがよい

          6

          60%

          4

          40%

          10

           

          20

          来年度もこの授業を担当されたいとお考えですか

          3

          43%

          4

          57%

          7

           

          21

          この授業を実施したことで、生徒だけでなく、指導者としてご自身にも何か得るものがありましたか

          7

          78%

          2

          22%

          9

           

        <支援企業用アンケート集計結果>

           

          質問項目

          全3校の回答

           

           

          はい

          いいえ

          その他

          回答数

          1

          ご支援をお受けになった際、学校の説明は十分でしたか

          5

          83%

          1

          17%

           

           

          6

           

          2

          生徒達はこの授業の意義を理解し、自分の意見を進んで述べたり、または質問したりするなどして、積極的に授業に取り組んでいるようでしたか

          5

          71%

          1

          14%

          1

          14%

          7

           

          3

          VCのように授業に先生以外の社会人の人が授業に入ることは生徒達にとって利益があると思われましたか

          7

          100%

           

           

           

           

          7

           

          4

          VCの授業のように社会人の人が授業に加わることは、教師や学校にとって利益があると思われましたか

          7

          100%

           

           

           

           

          7

           

          5

          このような仮想の企業経営の授業は生徒が主体的に授業に取り組んだり、職業観を育成したりする上で役立つと思われましたか

          6

          86%

           

           

          1

          14%

          7

           

          6

          来年度もこの授業を支援したいとお考えですか?

          6

          86%

           

           

          1

          14%

          7

           

          7

          この授業をご支援されたことえで、ご自身にも何か得るものがありましたか

          7

          100%

           

           

           

           

          7

           

      7.2.6 アンケート調査2のまとめ

         アンケート2の生徒用の調査結果からは、回答者の9割以上がバーチャル・カンパニーの目的や趣旨を良く理解し、興味を持って、グループワークや支援企業との授業に取り組み、この授業から何か得るものがあったと考えていることがわかる。特に、グループで取り組むことや、教師以外の大人と接する機会に対して、評価が高い。また、他人の意見を尊重すると同時に、自らの意見を述べるよう努力し、主体的な授業に肯定的である。

         そして、生徒達がこの授業で習得したと考えている技能についてはチームワーク力、責任感、コンピュータ技能とあげているものが回答者の約7割を占め、続いて創造力、コミュニケーション能力、問題解決能力、決断力、判断力、表現力が4〜6割となっている。

         代表的なコメントとしては以下のようなものがある。

        (詳しくは参考資料「3.アンケート2の集計結果:生徒用アンケート」を参照のこと)

        <メリット>

        1. 会社運営についてわかった

        2. 自分で考え、調べて学ぶことの楽しさを知った。

        3. コンピュータやインターネットの知識がついた。

        4. 皆でいろいろ意見が言い合え、協力し合えた。

        5. 何をするのも自分達が主体となってやるのは楽しいし、自然と興味を持つようになった。

        6. 買うのは簡単だが、商品を開発して売るのはとても難しいということがよくわかった。

        7. 商品を売るだけではなく、売るために何をしなければいけないかなどについて考えなければならないことに気づいた。

        8. 他の学校の人と交流できたことはよかった。

        <課題>

        1. やることがないことがあった。

        2. もっと多くの学校と取引がしたかった。

        3. 海外との取引が難しかった。

        4. 期間が短かった。

         指導者である教員のアンケート結果を見ると、導入時の戸惑いが見える。講義形式での受身な授業とは異なり、生徒が主体的に物事を進めていけるように誘導していくことに加え、バーチャル・カンパニー自体がまだ完成されたものとは言えないので、最初の授業での導入がスムーズに行えなかったようである。これは、生徒にとっても同じで、結果のわからないまま問題を解決することが多く、最初は授業に対するとまどいも見られたが、大半の生徒が自分で課題を見つけ考えながら進めていく授業に徐々に意義を見出したようである。(詳しくは参考資料「3.アンケート2の集計結果:教師用」を参照のこと)

         また、この授業の最大の評価として支援企業が授業に入ることをあげており、教員自身も支援企業と接することで得るものが多いと答えている。しかしながら、指導者として自分自身が企業研修などを受けることには、本当に実践部隊として仕事をさせてもらえないからという否定的な教師が多かった。これは、今後生徒のインターンシップを考える上でも、検討していくべき課題である。

         バーチャル・カンパニーは、従来の授業と比較すると、教師用に授業がマニュアル化されていないことからくる不安や授業準備の大変さ、慣れない企業との交渉など、業務の負荷の大きさから、主担当になることに対しては消極的な意見が多かった。しかしながら、研修などに参加せず起業家教育のねらいをあまり理解しえていなかった教員からの評価が低かった反面、大変ながらも主担当として積極的に支援企業との交渉やカリキュラムの開発などにあたった教員は、プログラムへの評価が高く、また今後の取り組みに対しても前向きであることがアンケート調査からうかがえた。これは、このような授業が、積極的に取り組んだ生徒にとってより充実した取り組みとなるのと同様に、積極的に授業を変革しようと新しい試みに自ら取り組んだ教員には得るものが大きい授業となったようである。

         最後に支援した企業からのコメントをまとめると、仮想ではあるが企業を設立し運営しながらビジネスに関して学ぶバーチャル・カンパニーのプログラムを実践スキルがつくものとして高く評価している。また、支援した企業人全員がこのように社会人が授業に入って指導することが生徒だけでなく学校にも教員にも利益があると考えており、同時に支援者自身にとっても得るものがあったと回答している。

         以下に企業の支援者があげたこの授業のメリットと学校へのアドバイスを以下にいくつかあげる。(詳しくは参考資料「3.アンケート2の集計結果:支援企業者用」を参照のこと)

        <メリット>

        1. 最近の高校生の若い感覚に触れ一般消費者の感性を思い出した

        2. 人に何かを伝える場合は、自分自身も勉強しておかなければならないので、自分の業務などを見直す良い機会になった

        3. 採用担当者として、現在の高校生の現状を把握できた

        4. 企業が欲しい人材について学校側に伝えることができる

        <アドバイス>

        1. スポット的に講演のテーマを与えて依頼するだけではなく、一年間のカリキュラムを提示して、その中のどの部分を企業に支援してもらいたいかという意義付けを行って欲しい

        2. 授業の進捗状況などを時々知らせてもらえると、必要に応じて相談にのることもできる

        3. 授業に入る際は、グループディスカッションにはいって、一方的に進めるのではなく、対話形式で一緒に情報交換しながら進めるのが良いのでは

        4. 机をとっぱらって、椅子のみでサークルになって気軽な雰囲気で授業をしてみてはどうか

        5. 先生の交渉、応接、説明などは一般の企業人と比べて苦手な印象を受けた。先生もこれらの研修に積極的に参加して、社外ネットワークづくりや情報収集をやってみるのもよいのでは。

         アンケート調査から見られる興味深いの点は、このバーチャル・カンパニーは参加した生徒や支援企業のスタッフの評価が高いのに比べ、実際に指導している教員自身の評価がかなり低いことである。この原因は、実証導入ということでセンターのサービスの不十分さが指導教員に不安を与えたことが第一の原因と見られるが、それを考慮しても、教員の中に「講義スタイルの教え方のほうが向いている」と回答しているものがいるように、教員の新しいことへ取り組むことへの消極性が表れているのではないだろうか。バーチャル・カンパニーのように不完全で教師自身の創意工夫から柔軟にどのような授業展開も出来る実践教育は、教える教師にとって最もチャレンジングであり、マネージメント能力が必要とされる授業である。

         また、アンケートに否定的な意見が多かったもう一つの理由に、専門高校の1クラス複数担当制が上げられる。これは、授業を視察した時に得た感想であるが、たとえ、主担当の教員が熱心に取り組んでも、他の教員と一緒に組んで教える場合は、教員全員がこの教育の意義を理解し協力が得られないと、なかなか思ったように授業が展開できず、生徒にとって混乱を招く要因となっていた。例えば、ビジネスマナーを徹底させようと思っていても、中には生徒に仲間言葉で接する教員がいたり、教師の指導マニュアルがないことから準備不足で、生徒の質問に対してうまく回答を得るように誘導してやることができず、「自分で調べて」と突き放してしまったり、また各教員が興味のあることを次々取り入れたために、業務が多く生徒にとって優先順位が判断できず、結局消化不良になってしまったようなマイナス点があった。

7.3 今後の課題と対策

       3校ともに、電子商取引システムを使ってのバーチャル・カンパニーの導入が初めてであったこともあり、予期しなかった問題が発生し、学期初めに作成した授業計画どおりには授業が進まなかったが、その中で、生徒と教員がお互いに工夫しながら、問題を解決した1年となったようである。

       アンケート調査や担当教師へのヒアリングから、今後の課題とその対策方法をまとめると以下のようになる。

        1.システム機能の充実

        • センター機能の効率化

        • 多様な決済機能(例:商品検索機能など)の提供

        • 変数の設定値(手数料、会社運営経費など)の見直し

        • 企業の商品販売ページの多様なサンプル提供

        • 生徒が利用しやすい簡易マニュアルの作成

        2.取引の改善

        • バーチャル・カンパニー設立時期の早期化

        • 参加校の授業スケジュールを調整しホームページの立ち上げ期日を設定

        • 各校のバーチャル・カンパニーの商取引週間を設け、一斉に取引を実施、流通を活発にする

        • 国際取引の簡易化に取り組み、海外取引の活性化に努める

        • 仕入れ、翻訳の業務を請け負うバーチャル・カンパニーを参加校の中に設ける

        3.指導教員への研修

        • システム利用などの研修を充実させ、取引開始後のトラブルを防ぐ

        • コンピュータ技能などののスキルアップ研修

        • ビジネス経験やビジネス現場での知識の習得機会の提供

        • 生徒主体に授業展開できるようなワークショップの開催

        • 体験をよりリアルにするため、商品の実際販売の場を設ける

        4.指導教員・学校の課題

        • 教師から指示がないと積極的に活動できない生徒への誘導をどのように図っていくか

        • 商取引をよりリアルにするため、ホームページ上での取扱商品を工夫する

        • 支援企業とのより効果的なパートナーシップづくりのために、年間授業カリキュラムの早期作成と、長期的な支援体制の構築

        • 授業担当教員では指導できない分野(英語、ホームページ作成、企業知識など)においての他の教科担当教員との連携

        • 参加校の教員が交流し、情報交換ができる場や機会を設ける

       上記の課題を受けて、来年度の取り組みとしては、学校間で得意分野において業務委託できるような連携(特に英語への翻訳やホームページ制作)、各地の学校が参加して実際に支援企業の協力のもと商品売買などが実施できるトレードフェアの開催、補助教材の開発、より充実した指導者研修の実施などを予定している。

       最後に、仮想企業経営プログラム(バーチャル・カンパニー)は、企業経営や電子商取引システムをあくまでも手段として使い、協同作業を通じて職業観やチームワーク力などを培う教育システムである。したがって、システムが自動的に数字や解答を出していくゲーム性の高いものではないだけに、生徒が自ら課題を見つけその解決に取りくまない限り、成果の得られないものである。よって、授業の意義を理解し、積極的に取り組んだ生徒には実りの多い授業となるが、他の授業のように教員の指示を待って他人に依存する気持ちが消えない生徒にとっては、何をしてよいかわからず、することがないまま時が過ぎて行ってしまう危険性もあることが今回の実証実験でわかった。

       そして、ITをツールとして、実践的なビジネス教育を行い、かつ地元との交流を通じて産学連携で人材を育成していくことをねらいとした、この仮想企業経営プログラムのような教育においては、学校システムや授業スケジュールに縛られ柔軟性のある発想ができず、従来の講義式の教授方法やマニュアルに依存してしまっている教員の姿勢も改革していく必要がありそうである。

       最後に、すべてを包括するようなコメントを呉港高等学校の生徒がしているので最後にここで紹介したい。

       授業の中間あたりで僕が先生に「分からないから教えてください」と言った。ところが先生は「わしも分からんから調べてくれ」と言った。今になって考えると、それがバーチャル・カンパニーの面白さだったと思う。普通の授業形式では先生に知らないことはない。自分が調べなければまったく進めないという状況になって初めて本気で取り組めたと思う。おそらく会社の仕組みとか経理のしかたなどは、実際はこんな簡単なものではないだろう。ちょっと分かったような気にはなっているがまだかじってもいない状況だと思う。だったらこれの意味は何かと考えた。自分のことから言うと、この授業で得たものは友達だろう。今まで教室では見えなかったものがいっぱい見られたし、それに伴ってもっと知りたいと思った。そして、それは今後にもプラスになると思う。

       今後、このプログラムが普及し、より多くの学校が参加することで学校間の交流だけでなく、地域の交流がより活発になり、その中で上記のような気付きを得る生徒が多く生まれることを期待する。

実施企業・団体名:京都リサーチパーク 株式会社



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