E-Square ProjectEスクエア・プロジェクトホームページへ 平成13年度 成果報告書
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実践事例の報告 宮城県登米郡迫町立佐沼小学校

「情報活用の実践力向上プロジェクト」 〜主張性をKey概念として〜

宮城県登米郡迫町立佐沼小学校 6年担任 小松英明
hideaki@hide-family.net
キーワード:小学校,総合,交流学習,コミュニケーション能力

インターネット利用の意図
 本プロジェクト実施は,小規模校の児童のコミュニケーション能力の育成にネットワークを利用した交流学習が寄与することは明らかとなっているが,大規模校の児童のコミュニケーション能力にはどのような意味があるのかを検討したいと思ったことが契機となっている。本プロジェクトにおいては,交流学習のスタイルとして,電子掲示板の利用を中心にすえていたので,インターネットを利用することを考えた。

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1. 単元名「長く続いた戦争とアジアの人々」
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2. 指導計画及び指導案

○本単元における基礎・基本
【社会的事象への関心・意欲・態度】
・日本が戦争に突き進んでいった社会背景や,戦争の様子,侵略されたアジアの人々の様子などについて進んで調べようとすることができる。
【社会的な思考・判断】
・日本が引き起こした戦争について,当時のアジアの人々や日本の国民の立場に立って,その苦しみを考えるとともに,戦争の実態を知り,世界平和の意義について考えることができる。
【観察・資料活用の技能・表現】
・聞き取り調査,遺跡や資料館・博物館の見学,戦争に関する資料の収集などができ,それらを通して戦争について感じたこと,考えたことを表現できる。
【社会事象についての知識・理解】
・日本が行った戦争について,その諸相に関する基本的な知識を得るとともに,その戦争が,アジアの人々や日本国民に悲惨な実態と苦しみをもたらしたことや平和であることの意義について理解できる。
○視点に基づく指導の手だて

問題解決能力の育成の視点から

よりよい関わりの醸成の視点から

・課題を明確にするために学習カードを活用する。
・活動に必要なこれまでの経験を想起できるような情報の提示を工夫する。
・集めた情報を比較しやすいような壁面構成を工夫する。
・自分の現在の学習状況をモニタリングできるようにするために,課題や感想が記入できるような学習計画表を使用する。

・自分の意見を話すときは,根拠を明示して話すように働きかける。
・相手を意識した分かりやすい話し方を心がけさせる。
・話し手の意図を考えながら聞くことを心がけさせる。
・進んで話し合い,それを基に自分の考えを深めていけるような形の話し合いの場を設定する。
・電子掲示板を用いて,自分の考えを明確に表現できるようにしながら,他校との交流を図る。

○単元の展開
単元の展開

○本時の構想(3/5)
・自分の課題に基づいて,様々なメディアを使って情報を収集できるようにする。

問題解決能力の育成

よりよい関わりの醸成

・ 自分の課題を明確にする。
・ 自分の課題に沿った情報を収集する手段について考える。
・ 整理する段階で,どのように資料を使うかを意識して情報を収集する。

・ 同じ課題や似た課題をもっているグループと情報交換をしながら調べる。
・ グループの成員や他のグループの意見を自分のまとめに生かすような受容的な態度をもつ。

○本時の展開

戦争についての自分の課題について調べよう。どんなメディアを使ったら自分に必要な情報が手にはいるかな?

問題の発見と計画

・ 本時の学習課題を確認する。(一斉)

太平洋戦争に対する自分の意見をはっきりさせるため,必要な情報を集めよう。

・ 学習手順を示した掲示物を用いて,自分が今どんな作業をしなければならないかをイメージさせる。
・ 学習計画を立てる。(一斉→グループ)

情報の収集

・ 留意点を確認する。(グループ)
・ 学習カードを利用して,どんなメディアを用いて何を調べるかを確認する。
・ 資料をどのように保存しておくかを考えさせる。
・ 調べる。(グループ)
・ どの資料を使ったら,自分の意見を聞き手に伝えられるかという観点で調べさせる。

整理・分析・判断

・ 発表する段階でどんなメディアを用いるかを意識し,保存の方法を考えさせる。
・ 調べた資料を保存しておく。(グループ)
・ 本時で調べて分かったことを確認し,自分たちの課題解決にどのように生かせるかを考えさせる。
・ 調べて分かったことを確認する。(グループ)

発信・伝達

・ 今日調べて分かったことを似た課題をもっているグループ同士で発表させ,お互いの意見を聞き合わせる。
・ グループ間で発表する。(小集団)
・ 出された意見を次の段階で生かせるように,兄弟グループを設定するなどして,受容的な態度で聞き合わせる。
・ 出された意見について検討する。(グループ)

期待する姿

・ 戦争についていろいろ分かったぞ。
・ どんな方法でまとめたらいいかな。
・ みんなに納得してもらう方法を考えよう。

○資料
<他校との交流>静岡県引佐郡細江町立中川小学校について
 中川小学校の藤原教諭は,6年生を担任している。藤原教諭に宮城県名産のササニシキを送ったところ,藤原教諭は,そのお米をクラスの子どもたちと炊いて食べた。そこから交流が始まった。社会科のみならず,総合的な学習の時間や休み時間などを利用して,日常的な交流が行われている。
<電子掲示板>利用する電子掲示板について
 文部科学省が平成12年度の事業として行ったソフトウェア開発事業で作成されたものである。認証付きの掲示板で,画像も表示できるようになっている。申請を行えば,誰でも無償で利用できるようになっている。授業者である小松は,この掲示板の開発に関り,管理者権限をもっている。掲示板の検証実験もかねて,本掲示板を利用することとした。

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3. 学習の展開

○交流学習の流れ

写真1 社会科交流用掲示板
写真1 社会科交流用掲示板

 夏期休業中に細江町立中川小学校の藤原先生と研修会で一緒となり,交流の構想を話したところ,協力いただけることになったので,2学期から交流学習を始めた。
 はじめは,学年全体で行った学校紹介のテレビ会議から始まった。初めてのテレビ会議で新奇性のためか,どの子も意欲的に取り組んでいた。学年全体へ電子掲示板への書き込みを促したが,時間の確保が難しく残念ながら全体の取り組みとはなり得なかった。
 掲示板への書き込みは,自己紹介から始まった。メディアは,認証付きの電子掲示板を用いた(写真1参照)。自己紹介の書き込みと同時に社会科の交流の掲示板ももうけた。社会科の交流の掲示板では,学習したことについての自分の歴史認識を書き込むということで交流を実施した。 掲示板への書き込みは,10月中旬からの2ヶ月間でのべ143通であった。当校の6年生は,キーボードに初めてふれたのが9月中旬からであり,実施担当者のクラス1学級だけの数字としては,かなり多い数字であると考えている。 書き込みは,はじめは時間がかかって短い文書だったが,だんだんと文書量が増してきた。また,初期の段階では,相手の書き込みを受けて書くのではなく,自分の書き込みたいことを一方的な書き込みが多かったが,相手の書き込みを受けてそれに同調したり反論したりするような書き込みが見られるようになってきた(表1参照)。

 
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4. 成果と課題

 本実践は,学習のねらいもあったが,交流学習が児童の主張性にどのような影響を与える以下について検討するというねらいも同時にあった。この成果と課題では,主張性の変化について記述したい。
 ネットワーク等を用いた交流学習とコミュニケーション能力育成についての先行研究によると小松(1999)は,交流学習は,小規模校の児童にとっては,集団を擬似的に大きくすることになり,小規模校児童のコミュニケーション能力で指摘されている様々な問題を改善する可能性があることを主張性という概念を用いて統計的に明らかにした。しかし,大規模校の児童にとって交流学習は,コミュニケーション能力にどのように影響を及ぼすかについては明らかにしていない。本実践を企画した意図の1つがそこにある。
 本研究では,当校4クラスを交流学習の経験の多少により群分けをし,濱口(1994)の構成した児童用主張性をもとに主張性を規定している因子を探索した。また,因子得点を計算し,交流学習の経験の多少が主張行動の傾向にどのような影響を与えているかについて検討した。
 その結果,主張性は,自尺度主張因子と他尺度主張因子によって規定されるということが分かった。また,2つの因子について因子得点を算出し,交流学習の経験の多少によるそれぞれの群の平均値を表4にまとめた。2つの因子得点について,1要因被検者間計画の分散分析を行ったところ,他尺度主張因子については,有意差が見られなかったが(F(1,121)=1.77,p>.10),自尺度主張の因子得点については,交流学習経験多群の平均が交流学習経験少群の平均よりも有意に低かった(F(1,121)=14.27,p<.01)。

表1 掲示板への書き込みの例(社会科の掲示板)
写真3 テレビ会議中,自分たちの意見について話し合う
写真2 テレビ会議の様子1 
 因子分析で抽出された2因子について交流学習経験多群と交流学習経験少群の比較を行った結果,他尺度主張の因子得点については, 有意差が認められなかったが,自尺度主張の因子得点について群間に有意差が認められた。すなわち,交流学習経験が多いものは,交流学習経験が少ないものよりも自尺度主張因子に強く支配されていないと言うことができる。逆に言えば,交流学習経験が少ないものは,自尺度主張因子に強く支配されているということになる。有意差は見られなかったが,他尺度主張の因子得点に関しては,経験多群の平均が経験少群の平均を上回っており,相手を意識した他尺度主張により強く支配されているという姿が浮かび上がってくる。そこからは,交流相手に対しての思いやりの発露が伺える。
 大規模校の児童にとってもネットワークなどを使った交流学習を行うことは,情報教育の目標の1つである「情報活用の実践力」の「受け手の状況などを踏まえて発信・伝達できる能力」の育成に寄与することが分かったといえるだろう。交流学習が,小規模校の児童にとっては,形成される集団を擬似的に大きくする試みであり,より広がりを持った人間関係の育成につながり,コミュニケーション能力の育成に寄与することは分かっていたが,本研究により大規模校の児童にとっても交流学習がコミュニケーション能力の育成に深く影響を及ぼし,情報教育の目標達成に大きく寄与する可能性があることが分かった。
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5. ワンポイント・アドバイス

 はじめての共同学習 http://is.im.mri.co.jp/~co-study/
 平成12年度 文部省初等中等教育局が公募した『教育用コンテンツ開発事業』に採択され,開発されたシステムである。平成15年度3月末まで,教育関係者へは無償提供することになっている。Web上から交流学習に必要な様々な機能を設置することができる。例えば,認証付き掲示板,アンケート,テスト,チャット,自己成長表,予定表等である。また,共同学習に関するノウハウなども蓄積されており,交流学習を行う上で有意義なコンテンツだと言える。
<実践協力校>
静岡県細江町立中川小学校 http://www.yaramaika.ne.jp/school/nakaga.htm
<参考文献>
小松英明(1999) 小規模校における児童の主張性に関する研究 上越教育大学大学院修士論文
小松英明(2001) 「小規模校における児童の主張性に関する研究」.全日本教育工学研究協議会富山大会研究紀要,pp.317-320
濱口佳和(1994)「児童用主張性尺度の構成」.教育心理学研究,vol.42,pp.463-470.
情報化の進展に対応した初等中等教育における情報教育の推進等に関する調査研究協力者会議(1997)
  体系的な情報教育の実施に向けて(平成9年10月3日)
<参考URL>
はじめての共同学習 http://is.im.mri.co.jp/~co-study/

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