E-Square ProjectEスクエア・プロジェクトホームページへ 平成13年度 成果報告書
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実践事例の報告  福島県双葉郡広野町立広野中学校

「お金と現代社会」
−“バーチャル・クラス”で学ぼう!お金と社会のこと−

福島県双葉郡広野町立広野中学校
校長 木幡 恭一
zeni-ken@group.gr.jp
http://zeniken.jp/

キーワード:バーチャル・クラス,STOCKリーグ,円ダービー,ネットワーク,インターネット

インターネット利用の意図
 Web上に“バーチャル・クラス”を設置し,協同的学び合いの場を実現させ,学習活動を支援するためのグループ・ウェアを構築し,活用することをねらいに設定した。特に,地域を越えた学校間コラボレーション(例:高等教育機関⇔初等・中等教育機関)による知恵・知識および人的資源の分配および共有をめざし,ネットワーク・インフラを活用した双方向(キャッチボール型)コミュニケーションの実現を試みた。
 本企画では,バーチャル・クラスの中で多様な人と関わることにより,他者を認知することを学ばせ,学外からもアクセス可能な学習の場を活用することで個々のペースに合わせた学習を可能にさせようと務めた。さらに,Web上に逐次登録される学習の過程を直接および間接的に観察しながら,他者の成功や失敗から多くのことを学ばせることができるものと考えた。

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1. 企画のねらい

1.1 学習テーマにおける新規性
 お金と現代社会私達にとって身近でありながらも,その意味・本質をじっくり考えることの少ない「お金」というものを中心に,世の中のことを学習した。お金に組み込まれた仕組みを理解しながら,社会において,お金が様々な問題解決の一助となっていることを知るだけでなく,お金に頼らない問題解決方法についても検討した。

1.2 学習形態としての新規性
 グループ・ワークを中心とし,多様な他者のあり方を認め,共に学び合える環境を実現できるよう配慮し,バーチャル空間と実空間を複合的に利用し,作業空間の拡大と多様化が図れるよう努めた。
◎ 学習の成果を互いに授業し合う事で,相手の理解を得るために必要なコミュニケーション能力を磨く
◎ 様々な人と関わっていく中でコミュニケートすること,そして互いに調整を図る術を知る。

1.3 成果目標
(1) “生きる力”に直結した学習テーマの選定と授業の実践
(2) 円滑かつ有意義なグループ学習の展開
(3) ネットワーク・インフラの有効活用(操作性,活用度合い,学習への効果など)
(4) グループ・ウェアの有効活用
(5) 仮想空間を学習の場として活用するための例示

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2. 実践の対象および実施期間

(1) 対   象: 福島県広野町立広野中学校3年生(総合的な学習の時間における本コース選択者15名)
(2) 実施期間: 2001年度1学期および2学期 総合的な学習の時間(毎週金曜日5時限目)

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3. 実践内容

3.1 指導方法

 基本的な学習スタイルは生徒の自主的なグループ学習であるが,各グループに大学院生1名と大学生1名がメンターとして参加した。
メンターの重要な役割としては・・・
● 学習におけるアドバイザー(脇役)であること。
● 異質な者との協同学習を実現するための存在であること。

 以上の二点を挙げ,その他には学習の全体的な進行役とネット環境利用の促進を担うよう努めた。また生徒達とのコミュニケーション方法は次の二通りであった。
●現地にて中学生と直接的なやり取りを行った
●遠隔地からネットワークを通じてやり取りを行った

 授業開始直後は,メンターによる簡単な授業を行い,ある程度理解が進んだところで生徒達の自主的な学習に切り替えた。その後メンターは脇役に徹し,生徒達の要望に応えたり,彼等とは異なる着眼点を折に触れて示すことにした。また,このような学習方法を実現させるためには,日常的に生徒同士,生徒と先生,そして生徒および先生と大学(院)生がコミュニケーションを取る必要があった。そのためにインターネット基盤を活用したコミュニケーション・システムを活用し,さらに「広野中学校」と「慶応義塾大学SFC」および「Web」の三拠点を統合した一つの新しい学習の場として“バーチャル・クラス”という大きな枠組を設けた。(図1)

図1 「バーチャル・クラス」イメージ図
図1 「バーチャル・クラス」イメージ図

3.2 学習内容 
(1) 1学期 
 1学期は,お金の持つ基本的な役割を理解するために,参加者を下記三つのグループに振り分け,テーマに沿ったグループ・ワークを展開した。なお,グループ・ワークにおける導入部ではメンターによって作成された資料を元に各テーマにおける基礎事項を学んだ。

図2 授業風景(1学期)
図2 授業風景(1学期)

<1> 『日本のお金と歴史』チーム(5名)
<2> 『会社と株とお金』チーム(5名)
<3> 『為替』チーム(5名)

1) 学習内容T(各グループ共通)

◎インターネットを利用した調べ学習
◎ネットワークを利用したコミュニケーション
◎ネットワーク環境:利用方法の理解,活用
◎学習成果を共有するため,学習発表(図2)   

2) 活動内容U(グループ別)
<1> 『日本のお金と歴史』チーム
・日本のお金について,その成り立ち,役割,使われ方を学んだ。
・昔のお金と今のお金の違いについて考えた。

<2> 『会社と株とお金』チーム
・会社を構成する要素と機能について学んだ。
・会社と社会との関係について,各人なりにイメージし,学習した。
・自分の最も関心のあるところから,必要な知識を吸収した。

<3> 『為替』チーム
・為替の基礎事項を学習した。
・全国学生対抗円ダービーへの参加した。
・今,話題となっている(為替をめぐる)問題について考えた。

 なお,為替チームは参加した円ダービーにおいて最終エントリーの260チーム中32位,中学生のみでは5位という好成績を得た。

(2) 2学期
 2学期は,日本経済新聞社が主催する「日経STOCKリーグ」(以下,STOCKリーグ)に参加した。STOCKリーグは,中学生から大学生までを対象にした株式学習コンテストであり,インターネットを活用して,実際の株価に基づいて株の模擬売買を行いがら,経済や金融の仕組みや働きを理解することを目的に行われているものである。本授業では株式取引を実際の株価変動に基づいて行うことにより,現代社会と経済との関係を理解を図ることができるのではないかという期待が持たれた。また,コンテスト形式の学習を行うことにより,よい意味での競争意識が生まれ,学習意欲が向上するのではないか等の考えからSTOCKリーグを採用した。
 学習形態については,1学期と同様に3つのグループに分かれ,グループ学習の形態をとった。ただし,基礎事項の修得を目的とした1学期とは異なり,教師もしくはメンターによる指導は極力減らし,学習目的に対し,各グループでディスカッションを中心にして自主的に学習を進めていく形をとり,それを教師・メンターが支援するようにした。

  具体的な活動内容は以下の通りである。

1) バーチャル株式の体験学習
 10月1日より11月30日までの2ヶ月間,仮想資金100万円を利用し,インターネットを利用したバーチャル株式売買を体験した。この学習を通し,新聞やTVニュースなどで報じられていること株価の関係性について,理解した。

2) 自主テーマによるポートフォリオ学習
 「バーチャル株式の体験学習」で理解したことを生かし,各グループで独自の投資テーマを設定し,仮想資金500万円以内でそれぞれのテーマに沿った銘柄選定を行った。この学習を通して,今までの学習内容を生かしながら,グループで議論をし,意思決定(テーマ決定,銘柄選定)を行うというグループ学習プロセスを経験した。なお,各グループが設定したテーマは以下の通り。(なお,グループ名は生徒が独自に設定した。)

■チョモランマ班:「福祉」
■MONEY班:「健康な生活を送るために」
■ワールドポート班:「この冬,各家庭で子どもが夢を創るために楽しめるもの」

3) レポート作成
 「バーチャル株式の体験学習」及び「自主テーマによるポートフォリオ学習」について,各グループでレポートを作成した。1学期では,口頭発表によって学習内容をまとめたが,2学期ではレポート執筆を通して学習内容をまとめた。なお,書くべき項目については,あらかじめ設定し,その項目に沿って,レポート執筆を行った。

(3) 実施体制
1) 指導体制
 以下のメンバーを中心とした教員の参加・協力
● 校 長
● 社会科担当教員1名
● 慶應義塾大学大学院 政策・メディア研究科の大学院生による下記二つのプロジェクトから,学習テーマの選定,授業方法・環境整備の企画立案,実践参加を含めた全面的な協力を得た。

◎『Mag21プロジェクト』指導教員:斎藤信男(慶應義塾大学大学院 政策・メディア研究科長c)
◎『モービル広域ネットワークプロジェクト』指導教員:村井純(慶應義塾大学 環境情報学部 教授)

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4. 指導計画

(実施全日程を含む・・・表1)

表1 指導計画

月 日
お も な 学 習 活 動 ・ 内 容

3/27
4/
5/15
5/18
5/25
6/ 1
6/ 8
6/15
6/22
6/29
7/ 6
( 1学期 )
企画に関するミーティング
実施環境の現状把握,環境の整備,企画妥当性の検討
事前準備
一学期のガイダンス(顔合わせ,自己紹介,活動内容の説明,質疑応答)
メンターによるグループ別インプット授業(学習用資料は支援者サイドで作成)
グループ・ワーク(学習用資料は支援者サイドで作成)
グループ・ワーク(学習用資料は支援者サイドで作成)
グループ・ワーク(学習用資料は支援者サイドで作成/円ダービー)
学習内容のまとめ(最終発表をどのように行うか決め,これまでの学習内容をまとめた/円ダービー)
最終発表の準備(効果的な発表のための準備)
一学期の成果発表(グループ毎に学習した内容を発表,質疑応答)

8/19
9/21
9/28
10/ 5
11/ 9
11/30
12/ 7
12/14
12/21
1/
( 2学期 )
円ダービー最終予想(ネットワーク上で活動)
二学期のガイダンス(ネットワーク活用,STOCKリーグ参加等の説明,質疑応答)
グループワーク(STOCKリーグ:参加に向けた準備,株式の基礎事項を学習)
グループワーク(STOCKリーグ:専用Webの活用)
グループワーク(STOCKリーグ:二学期の活動について中間発表)
グループワーク(STOCKリーグ:ポートフォリオ作成)
グループワーク(STOCKリーグ:提出用レポート作成)
グループワーク(STOCKリーグ:提出用レポート作成)
実施内容に関するアンケート調査
実践内容に対する評価・考察,報告書作成

<実施環境>
 本企画における授業では,生徒自らが問題を設定し,その問題について何らかの解決手法を見出し,その手法を使って生徒なりの解決方法を見出す事を重要視した。それにより伝統的な知識獲得型モデルではなく価値創造型モデルによる授業を実現することを目指したものである。このような目標を達成するための重要な要素として,共同体の中で「共に学ぶこと」と同時に「議論を発展的に導く」者の存在があげられる。従来,その役割は担当教員が担って来たが,そもそも1名の教員が授業時間内外に同時並行的に展開される議論に深く関わることは不可能である。そこで,本授業ではその役割として現役の大学生・大学院生アドバイザーが授業に参加し,議論の活性化と授業全体をコーディネートする教員の負担軽減を実現することを目指した。その結果,教員は授業のスーパーバイザーに徹する事ができたと考えられる。
 以上のような学習環境を実現するために,「広野中学校」・「慶応義塾大学SFC」・「Web」という学習の三拠点をインターネットによって接続し,この場を一つの大きな協同学習環境,すなわち“バーチャル・クラス”として活用した。

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5. 指導案 (表2)
表2 指導案(実施日:2001.10.5)
学 習 活 動
活動への働きかけ
備  考

1.既習事項を確認する。 

・株式の仕組み
・投資活動の目的と意義
・株価に影響をあたえる事象
・ハイリスクとハイリターン
・新聞の株式欄の見方

○前時の学習事項の要点を確認し,本時の意欲づけを行う。

○メンターによる補足

・ストックリーグ学習マニュアル3冊(日経新聞社発行)および,新聞を活用する。
2.本時の学習課題を把握する。
バーチャル株式を体験しよう。−仮想資金100万円−
 
3.投資先を班ごとに話し合う。

・ワークシートに投資する銘柄および,選定理由などを記入する。
○企画の概要を理解させてから活動に入らせる。

○メンターが分担して各班の話し合いに参加し,短時間に投資先が決定できるよう支援する。
・ノートパソコン
 3台
(無線LAN)

・ワークシート

・マニュアル
4.バーチャル株式投資倶楽部のホームページにログインし,投資活動を行う。

・各ページの情報を把握する。
・実際に各班が選んだ銘柄に投資する。
○ログイン方法とパスワードを確認する。


○今後の活動に必須となる情報のページを確認させる。

○操作状況を随時確認する。
5.各班が選んだ銘柄とその理由について発表する。 ○各班の進行状況や銘柄決定自由についてメモを取らせる。 ・ワークシート

・新聞の活用の重要性(株式欄および時事ニュースの把握)

・書き込み掲示板の利用
6.自己評価及び今後の活動の見通しを立てる。

・本時の活動の反省や感想を書く。
○休憩時や自宅等において,随時確認するよう促し,次時(次週)までに,株価の変動状況が発表できるようにさせる。
○疑問点解決のためにWebを活用させる。
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6. 学習の展開

 授業内容は,前述(3.2.(2)および表2参照)の通りである。ストックリーグをはじめ,円ダービーなどは,活動そのものがインターネットの活用を前提として成立する。株価の変動や円相場は,現実社会のそれらと直結・連動していることから,世の中で起きている出来事や新聞等の報道に生徒の目を自然なかたちで向けさせる効果が得られる。特に,授業以外の時間を用いて自発的な活動を促すことにもつながり,生徒一人一人の経済に対する関心や意欲が高まったと言える。
 また,無線LANを接続したノートパソコンの活用により,コンピュータ室以外での活動が可能となり,活動の場を容易に確保することができた。

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7. 成果と課題

 実施内容について,生徒(および担当教員)にアンケート調査を行った(『添付資料:アンケート用紙/アンケート調査結果』参照)。計画時の評価対象項目については下記のような結果が得られた。
(1) 選定した学習テーマ
・生徒たちに関心を持って受け入れてもらえたようだ
・これまで目が向いていなかった経済分野への関心を引き出すことができた
・従来の学校教育では扱ってこなかったテーマ設定によって学習のみならず今後の活動における新たな視点を得るチャンスとなった
(2) 実践方法の有効性:
・外部参加者やネットワークの利用によって学習の機会が拡大したようだ
・問題解決への糸口が教師以外の場所からも得られることは,円滑な学習活動を実現し多様な考え方に触れられるということでもあった
(3) 円滑かつ有意義なグループ学習の展開
・グループワークは従来の学習形態と異なり,様々な意見や評価を得ることができた
・メールの活用により,学校以外でのやり取りも可能になった
・活動できる時間が少なすぎた(生徒たちはもっと活動できる時間が必要だと感じていた)
・相互に発表をしたことで理解できたことがあったようだ
・互いの意見をやり取りし,批評・採点しあうことが有効であると感じた生徒が多かった
(4) ネットワーク・インフラの十分な活用
・十分な活用に至る道筋はできたと思われる(十分な環境さえ整えば様々な活用が可能と思われる)
・バーチャル・クラスとしての枠組みを十分に活かしきることができなかった
・グループ・ウェアの活用は実現できなかった
・インターネットを取り入れた活動に強い興味,関心を持ってもらえたようだ
・生徒たちはインターネットを利用する機会が増えた
・生徒たちは新聞を手に取る機会が増えた
・インターネット活用は主に資料収集に使われていた
・問題の早期解決に役立ったようだ
・自分自身をアピールする(作成したHPや関心事の紹介等)手段として活用している生徒もいた
(5) 学習のデザインに対するインパクト:
・外部参加者を含めた学習環境において,先生・生徒間のやり取り以外に生徒・SA間のやり取りが確保されたことは,彼らの活動に新たな視点を与えたと思われる
・総合的な学習の時間を外部参加者と共に作っていくことができた
(6) その他
・総合的な学習の時間における外部参加者との協力体制について有益な事例となった
・外部参加者との連携をはかるためのコミュニケーションコストがかかり過ぎた
・外部参加者が存在することで,生徒たちに学校ではなかなか得られない情報を得ようという意欲が感じられた

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8. 参加企画および協力

a 全国学生対抗円ダービー:日本経済新聞社主催の円ドルレート予測によるコンテスト。
b 日経STOCKリーグ:バーチャル株式投資,ポートフォリオ・コンテストなどの体験を通して経済を学ぶ。(日本経済新聞社主催。)
c 指導教員(斉藤信男):所属は企画実施当時のもの。現在は慶應義塾大学常任理事。

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