E-Square ProjectEスクエア・プロジェクトホームページへ 平成13年度 成果報告書
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実践事例の報告  宮城県立西多賀養護学校

病弱養護学校における在宅就労を目指した情報教育の実践

高等部3年 総合実践
宮城県立西多賀養護学校 浅利 倫雅
キーワード 養護学校高等部,商業,在宅就労

インターネット利用の意図
 本校は国立療養所西多賀病院に隣接する病弱養護学校であり,高等部に在籍している生徒の大半は筋ジストロフィーである。在校生の中には大学や専門学校を目指したり,通所授産施設を目指すものもいるが,継続入院を余儀なくされている。
 高等部での学習を終えた卒業生は,余暇活動として病棟のサークル活動をはじめ作詞・作曲や印刷物の作成,インターネット等でパソコンを積極的に活用している。これらの活動は高等部在学中の活動の延長であるが,修得した技能を就労に活かしたいと考える生徒も少なくない。また,近年病院側も在宅での療養を積極的に考えており,将来の在宅就労に向けた情報教育の在り方が高等部の課題となっている。
 在宅就労を視野に入れた情報教育では,インターネットの活用も不可欠であると考える。
 障害者にとって,インターネットは社会の情報を得たり交流したりするための重要な手段でもある。インターネットを就労に活用している障害者が増えており,東京をはじめ宮城県やその近県ではそれらを支援する団体等もある。インターネットを活用すれば地域の違いは大きな問題ではないが,本校では協力を依頼し直接話を伺うことも可能である。
 本実践では,高等部3年生の選択科目「総合実践」でのWebコンテンツの作成とノンリニアビデオ編集を中心に,在宅就労を目指した情報教育について検討を行う。

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1. 指導目標

 この実践では,Webコンテンツの作成とノンリニアビデオ編集の二つの課題を設定させて取り組ませた。これらの課題に取り組ませることで,企画や構成,資料や素材の収集,加工等の一連の作業を通して行わせる。
 ホームページを作成する場合,すべてを一人で行うことは個人的なページを除くとまれであり,分業することが一般的である。しかし,作業の流れを把握するとともに,自分の適性を考えさせるためには,在学中にこのような学習に取り組ませることが必要だと考えた。
 また,ノンリニアビデオ編集も同様に企画から完成までの一連の作業に取り組ませる。動画の作成は単体でも,WebやCD−ROM用の素材としても活用されるため,今後のマルチメディアに関する技術の習得としても重要だと考えた。

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2. 指導計画

 ホームページの作成の準備の段階として,1学期に,フォトレタッチソフトとドロー系グラフィックスソフトの基本操作を学習させる。本校では1年次に「情報処理」が4単位必修であり,簡単な操作についての学習はしている。しかし,より専門的な知識と操作の体系的な学習は行っていないことから,マルチメディア検定の内容も意識したものとした。
その後,HTMLオーサリングソフトの基本操作の学習を行う。
 2学期は本実践の中心となる二つの題材である,ホームページの作成とノンリニアビデオ編集を行う。今回の実践では,ホームページやマルチメディア関連の課題を設定し,そのような活動をしている就労支援団体等の方から現場の状況等について電子メールを通して情報を得ることを併せて行う。3学期には3DCGを行う(表1)。

表1 指導計画

学  習  内  容
ね   ら   い
4
5
6
7
フォトレタッチソフトの基礎

ドロー系グラフィックスソフトの基礎
HTMLオーサリングの基礎
基本となる操作を体系的に学習する。


 
8
9
10

11
12
 
ホームページの作成


ノンリニアビデオ編集

 
企画や素材の収集をはじめ,総合的に課題に取り組み,実践を通してWebコンテンツ作成の技術を養う。

企画や絵コンテ作成,撮影,編集の一連の工程を実践を通して学び,ノンリニアビデオ編集の技術を養う。
1
2
3DCG
 
3DCGの基礎を体系的に学習する。
 
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3. 学習の展開

3.1 フォトレタッチソフトの基礎
 フォトレタッチソフトの基礎学習に際しては,ソフトウェアに付属しているチュートリアルを参考にしながら,体系的に学習させた。その際,マルチメディア検定の内容も取り入れた(表2)。
 「選択範囲の操作」,「レイヤーの基礎」では実際に操作しながら学習を進めることができるが,「写真のレタッチ」では,検定でも出題される専門的な用語も多いため,補助資料を用意し,用語の意味や理論を確認する時間を設けた。

表2 「フォトレタッチソフトの基礎」の学習内容
○選択範囲の操作
・いろいろな選択
・選択範囲の変形
・選択範囲の追加と一部の解除
○レイヤーの基礎
・並び替え
・不透明度と描画モードの変更
・レイヤー効果
   
○写真のレタッチ
・解像度と画面サイズ
・色調範囲の調整
・カラーの置き換え
・画像の一部の置き換え
  ・画像の切り抜き
・カラーバランスの調整
・彩度・明度の調整
・フィルタの適用

3.2 ドロー系グラフィックスソフトの基礎
 ドロー系グラフィックスソフトの基礎学習でも,ソフトウェアに付属しているチュートリアルを参考にしながら,体系的に学習させた(表3)。
 ドロー系のソフトウェアの活用は今回が初めてである。操作に戸惑う場面もあったので,時間をかけて慣れさせた。

表3 「ドロー系グラフィックスソフトの基礎」の学習内容
○基本的なオブジェクトの作成
・各種ツールの活用
○ペイント
○文字を使った作業
・段組
・パスに沿った文字の作成
・アウトライン文字の作成
○ペンを使った描画
・直線,曲線の作成
・曲線の編集

3.3 HTMLオーサリングソフトの操作
 ホームページの作成は1年次に簡単に行っているので,比較的スムーズに学習に取り組むことができた。テーブルとフレーム,フォームについては今回初めて行う内容なので,時間をかけることにした(表4)。

表4 「HTMLオーサリングソフトの基礎」の学習内容
○テキストの入力
○ページのレイアウト
・画像とテキストを組み合わせる
・テーブルを使ったレイアウト
・複雑なレイアウト
○リンクとフレーム
○フォーム

3.4 ホームページの作成
 ホームページの作成は本人の希望で学校紹介のものになった。必要な素材と,作成の計画を本人に考えさせて実施した。(表5)

表5 生徒が作成したホームページの作成計画
校時
内       容
6日

10日
13日
17日
20日
27日

 
2,3

1
2,3
1
2,3
2,3

 
写真撮影    玄関前1枚,廊下2枚,学校全体1枚
ボタン作成   「TOP」3種,「沿革」3種
ボタン作成   「行事」3種
画像作成    校章,地図
写真加工
オーサリング  「history.html」,「event.html」
オーサリング  「main.html」,「head.html」,「contents.html」
          「index.html」
テスト
図1 作成したボタン

 実際には,写真の撮影とボタン作成(図1)に時間がかかり予定の時間では完成しなかったが,この経験を通して,計画を立てる際に自分の作業ペースをしっかりと把握し,見通しを立てて計画を立てることを学んだようだ。

 

3.5 ノンリニアビデオ編集
 デジタルビデオカメラで撮影した映像をパソコンに取り込み,テロップやナレーションを加える学習を行った。題材はデジタルカメラのCMで,15秒の作品を作ることにした。絵コンテの作画から完成まで通して行ったが,時間を把握し,15秒の時間に収めて内容を考えることが難しく,苦労しながらやっと完成させることができた(表6)。

表6 「ノンリニアビデオ編集」の学習内容
○ノンリニアビデオ編集の概要と制作の流れ
・概要
・絵コンテ
○デジタルビデオカメラの使い方
・撮影
○ビデオ編集ソフトの使い方
・ビデオキャプチャ
・編集
・テキストと移動パス
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4. 成果と課題

 コンピュータを活用した仕事には,今回の実践のような画像や音声,動画といったマルチメディアに関するものと,表計算やデータベースといったビジネスソフト,あるいはシステム開発に関するものが考えられる。実際に障害者が取り組みやすい分野はグラフィックスやホームページであることが,協力者等の情報により確認できたので,今回の実践では,ホームページ作成に関する様々な基礎的な技術と発展させたものとして動画の編集に取り組んだ。
 今回の実践を進めるのにあたっては,障害者の就労支援団体等からの協力者を企画の段階から考えていたが,現在の活動の状況から判断して,2名の方に依頼した。一人はコンピュータグラフィックスの作品を在宅で行っている方,もう一人は就労支援団体の代表でもあり,会社も設立して活動されている方である。
 この実践は商業の選択科目「総合実践」でのものだが,「進路体験学習」で協力者の自宅を訪問し,作品を見せて頂いたり,話を伺うことができた。また,「総合的な学習の時間」には,もう一人の協力者の講演を聞く機会も設けることができた。講演ではパソコンを使っていくきっかけから,様々な人たちと協力し合って仕事を進めている話など,制作したビデオ作品の紹介と併せて話して頂いた。
 「総合実践」での学習は,1,2年次の学習を発展させ,総合的に学習できる機会ととらえたい。その意味で,「ホームページ作成」と「ノンリニアビデオ編集」の2つの課題に取り組ませることができ,充実した学習活動を展開できたことは大きな成果だったと考える。
 高等部は,平成15年度から学年進行で新しい教育課程が実施されるが,本校の特性を考慮して専門科目「情報」を開設する予定である。そこで,専門科目「情報」へのスムーズな移行を目指し,これまで行ってきた商業の科目を新たに編成し直した。「総合実践」もその一つであり,本実践を通してその有効性を確認できた。今年度の2年生は「プログラミング」,「商業デザイン」が選択科目として選択できたので,来年度の「総合実践」では,それらの学習の成果を発展させ,より充実させたいと考えている。
 現行の教育課程と新教育課程で実施予定の情報教育に関する科目は表7の通りである。

表7 情報教育に関する科目
現行の教育課程
新教育課程
1年次:
2年次:
情報処理
プログラミング
文書処理
商業デザイン
3年次: プログラミング
商業デザイン
総合実践
1年次:
2年次:
    
    
3年次:
情報A,情報処理
プログラミング
情報と表現
情報実習
情報システム開発
ネットワークシステム
マルチメディア表現
情報実習

 本校高等部は開設当初から商業を中心として情報教育に積極的に取り組んできたが,商業科としての目標は本校の生徒の実態に必ずしも適当とは言えなかった。しかし,専門科目「情報」が開設されることで,より専門的な内容を生徒の実態に応じて指導できる可能性が高まった。
 今回の「総合実践」における実践は,パソコン等の情報通信機器を,卒業後にも目的に応じて使いこなす技術と資質や,自ら学ぼうとする態度を育むことをねらいとして指導内容を検討してきた。十分な成果が得られたと考えるが,基礎となる1,2年次の科目での単元の内容と配列を新教育課程実施に向けてさらに検討したい。

ワンポイント・アドバイス
 課題は生徒の興味関心によって,他にプログラミングやCD−ROMの作成等も考えられる。在学中にパソコンを購入するケースもあり,体系的に知識や技能を修得させた上で,より実践的な課題に取り組ませていくことが,在宅就労や余暇活動を充実させる一助となると考える。
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