4.1 成果
今回の高専生主体の授業を行うまでに,相手校である,いわき市立中央台南小学校に対して,学校行事等への参加を含めて2学期中に12回,3学期も5回の授業支援を行ってきた。
いつも教わる立場の学生が,教える立場に立つことによって,教えることの難しさや,面白さが体験できた,とても有意義な授業であったと認識している。授業を実施した高専生にとっては,テーマの設定から,授業の流れ,使用マニュアルの作成など,さまざまな体験を通して学ぶものが多かったに違いない。以下に,学生の報告書から抜粋すると,
・児童代表のお礼の言葉と楽しかったとの声に,感動のあまり涙が出そうになった。
・人に教えるということは,こんなにも大変で,こんなにも知識が必要なのか,と改めて考えさせられた。そういう面からも,今回のような体験ができてとてもよかったと思う。
・教科書も何もないところから,一枚の教案を作り,35人の児童に対して授業をした。とてもいい経験でした。自分が教える側の立場になってはじめて,先生の偉大さを実感しました。
・今回のような体験をして達成感というものを味わうことができたし,がんばった分だけ,いろいろな形で自分に返ってくる事を学んだ。こんな体験を多くの人にしてもらいたい。
等の充実感・達成感・責任感を示す所感が述べられており,教育的な効果が大きかったことを物語っている。
また,児童達からは,
・ 「楽しかった」,「面白かった」,「またやりたい」。
・ これから,今日習ったことを生かしていきたい。
といった意見が出され,初めて行ったメッセージ交換で,新鮮な感動と面白さを学ぶことができたようである。
授業実施後には,担任の先生に講評をお願いした。そこでは,
・ 中傷文の送信犯人を明かすまでの時間が短かったようだ。もう少し,児童に考えさせる時間を取ったほうがよかったのではないか。
と参考になる助言を頂いた。
さらに,その後,今回の授業が成果を上げたので,他の4クラスにも同様の授業をして欲しい旨の要望が出されたため,3学期中に実施することとした。
協力校の中央台南小学校は,新興住宅地の大規模校(30学級,約1,000人)で,地域としての歴史や伝統が浅く,人と人とのつながりや結びつきが弱いことが特徴であり,このため,総合的な学習の時間のテーマとして,「人と人との豊かなかかわり」が掲げられていた。そこで,本企画においては,教師,児童の他に高専生という全く異なる第三の要素を取り込んで,相互作用による教育効果を期待したのである。
このねらいは,十分に達成され,総合的な学習の時間における,新しいかたちを提示できたのではないかと考えている。
このような取り組みは,非常に手間暇のかかる大変なものであるが,共に学ぶ時間を通して,それぞれ通常の授業形態では得られないものをたくさん吸収できたと言えよう。
4.2 今後の課題
今年度のここまでの活動を振り返ると様々な問題点が浮き彫りにされてきたが,まとめると以下の様になる。
・プロジェクトの運営全体を把握し,連絡・調整等のマネジメントを行う人物が必須となる。活動において,小学校,高専の間に立ち,それぞれの連絡・調整を取るのが最も重要で最も骨の折れる作業である。小学校との連絡に電子メールが使えないため,電話とファックスでせざるを得なかったのも効率の面からは問題であった。
・ 小学校と高専の文化の違い。初等中等教育と高等教育の連携を行う際には,まず,いかにギャップを埋め,互いに歩み寄るかが重要なキーとなる。生活時間帯から異なる両者が活動を共にする難しさは,互いの理解なしには進まない。いかに,互いの児童生徒を,学生を見慣れた存在になるまで時間を共有するかが,成功への近道になる。
・ 高専生も自分の授業時間中の支援になるため,その時間は欠席になってしまう。幸い今年度は公欠(学校が認めた欠席)の扱いになるため無断欠席ではないが,授業を受けられないことに変わりはなく,いかにその穴を埋めるかが問題となる。
・ 移動に時間とお金が掛かる。活動から戻ってきて午後の授業に間に合わせるような場合,昼休みが半分ということもたびたびあった。往復の移動時間も大きな障壁となり,遠方の場合はさらに問題となる。また,現地集合・現地解散の場合,バスなどの交通費も掛かるので,負担が大きい。
・ 現場の教員が,皆コンピュータの知識を十分に持っているわけではないこと。教員のスキルを向上させるため,教員に対する講習会も必要である。この点に関しては,12月から教員有志参加の講習会も開始し,さらに充実させる予定である。
・ 学生の育成には時間が掛かる。あせってはダメ。ようやくこの頃になって,指示をしなくても動けるようになってきた。もう少し効果的に才能・技量を見出し伸ばせる秘策はないものだろうか。
本企画における福島高専の役割は,情報化推進コーディネータと呼ぶべきものであろう。今後さらに一歩進めて,総合的な学習の時間コーディネータを目指して,規模の拡大,内容の充実を図って活動を続けていく予定である。この活動によって,総合的な学習の時間を通して高専が地域社会に貢献できる可能性を示すことができたと考えている。
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