E-Square ProjectEスクエア・プロジェクトホームページへ 平成13年度 成果報告書
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実践事例の報告  国立福島工業高等専門学校

高専による「総合的な学習の時間」支援計画

小学校第4学年・総合的な学習の時間
国立福島工業高等専門学校
島村 浩,内田修司,中尾 剛
いわき科学教育研究会
高木さやか
shima@fukushima-nct.ac.jp
http://www.fukushima-nct.ac.jp
キーワード:高専,小学校,総合的な学習の時間,授業支援,情報教育

インターネット利用の意図
 福島高専では,平成8年度からコミュニケーション情報学科3年生に,「課題学習」(3単位)という科目を履修させている。これは,いわゆる「総合的な学習の時間」に該当し,自らテーマを設定して,その内容について調べたり,まとめたり,実践したりするものである。情報処理教育センターが平成12年度に行ったアンケート調査結果から,小中学校の総合的な学習の時間の試行において,人手不足,知識不足が明らかになっていたため,この科目でその支援をしてみようという案が持ち上がった。そこで,学生の有志を「愛好会」のかたちにまとめて,プロジェクトとして組織的に活動を開始した。
 本企画は,小中学生と高専生が,互いの「総合的な学習の時間」を通して,「共に学ぶ」場を創ろうとするものである。実際の支援にあたっては,高専生の持つ知識・技術が生かせるような分野が望ましいとの考えから,「情報」「環境」に絞ることにした。特に今年度は,その中の「情報」に対する支援を行うこととし,協力校のインターネット本格利用を前に,児童に対して注意を喚起する内容で実施した。

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1. 単元名 コンピュータリテラシー

(1) ねらい
 社会生活を送る上で,今後必要不可欠なコンピュータの操作技能や情報モラルを計画的に身に付けさせる。
(2) 指導目標
 総合的な学習の時間における情報倫理の導入として,メッセージ交換を題材に,顔の見えない相手とのコミュニケーションにおける注意事項を理解させる。
(3) 利用場面
 この学習では,次の場面でコンピュータを利用する。
・メッセージ交換ソフトの設定をする場面
・メッセージの送受信の練習をする場面
・メッセージを自由に交換し演習を行う場面
(4) 利用環境
 コンピュータ教室。
・稼働環境
 Windows98機,22台。
 教室内は,10BASE-TによるEthernetを利用したLANが敷設済。
・使用ソフトウェア
 ペタろう(メッセージ交換用フリーソフト)

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2. 指導計画と指導案
2.1 指導計画
 第4学年の総合的な学習の時間は,年間48時間確保され,その中にコンピュータリテラシーという単元で16時間が配分されている。今年度のねらいとしては,
・インターネットを使って情報を集めることができる。
・キーボードで文字を入力することができる。
・ホームページ作成ソフトの基本操作がわかる。
 の3点が挙げられている。
 来年度(5年生)から本格的にインターネットで電子メールを利用する予定であることから,今年度のうちにインターネットを利用する上での注意事項等を喚起することとした。本授業は,年度当初のカリキュラムには存在しない特別のものであり,教育効果を高めるために2時間連続の授業とし,期日は,平成14年1月23日(水)の3・4校時とした。

2.2 指導案
 「ペタろう」を使ってインターネット上のマナーを知ろう,というタイトルで授業を行う。
 メッセージ交換ソフトである「ペタろう」を使って,児童間でメッセージの交換をさせる。その中でインターネットの利用にあたって注意すべき点を挙げ,来年度本格的に使用する時につながるように予備知識を与える。
 コンピュータを利用して初めて行うメッセージ交換の授業の中で,使用法にとらわれた内容に終始するのではなく,マナーの内容を盛り込む。初めてだからこそ味わう感動とともに,顔の見えないやり取りについて考える機会を設定し,必須マナーを自発的に身に付けさせる。
 具体的には,送信者の分からない中傷文を全児童に送信し,これをきっかけにして,事の善悪からインターネットを利用したコミュニケーションにおける注意事項の理解へとつなげる。人員は,教師役の学生1名,補助学生7名で行う。

「ペタろう」を使ってインターネット上のマナーを知ろう

授業の流れ

指導上の注意

配分

<導入>
 今日の授業と使用ソフト「ペタろう」についての簡単な説明をする。

 初めてのメッセージ交換に期待を持たせるよう,ソフトの解説をする。
 本当の電子メールではなく,疑似体験であることの説明も欠かさないようにする。

3分

<作業1・設定>
  スクールメニューを終了し,デスクトップの画面に切り替える。「ペタろう」の起動を確認する。
(1)名前をつける:アイコンを右クリックし,一定ルールに沿ったチーム名(例:美穂子と絵美)を設定。


 作業領域が普段あまり使わないデスクトップ上のため,アイコン等も目に入ってしまうが,「ペタろう」に関する部分だけを操作するようあらかじめ注意をしておく。(※日本語入力の切替え,ローマ字入力,カーソルの位置,変換などは随時確認する。)

7分

<作業2・使い方>
  練習と仕組みの理解のため隣のコンピュータと送受信を行う。
(1)本文の入力:固定のメッセージ(例:こんにちは)を入力。
(2)送信:右クリックでメニューから選択。
(3)受信:隣から届いた後向きのペタ紙をダブルクリック。
(4)返信:届いたペタ紙を右クリックし,メニューから選択。隣のコンピュータに返事を送信。


 隣同士のコンピュータで,メッセージの送受信を確認させ,使い方と同時に仕組みも理解させる。
  届いたかどうかの確認に加え,送受信したメッセージには,名前や時間が自動入力されることにも注意を向けさせる。
(※文字入力については,ペースを十分配慮して進め,入力作業が中心にならないよう操作を優先する。)

20分

<演習>
  学習した機能を利用して,自由にやり取りをする。余裕を見て,キャラクターや表情の変え方,メッセージの保存・削除なども解説する。


 やり取りがスムーズに運ぶよう,開催予定の行事やクラスの関心事などをトピックに設定する。

15分

休み時間10分

<演習(続き)>
 1時間目の作業をよりスムーズに行えるようメッセージ交換を続ける。

 設定したトピックにとどまらず,自由な内容で多くの相手と交換させ,楽しい印象を持てるようにする。

20分

<問題提起>
  送信者不明の中傷文を全児童のコンピュータに突然送り,顔の見えないやり取りについて考えさせる。
(1)中傷文を送り,しばらく様子を見る。
(2)静かにさせ「誰が送ったのか?」「書いてあることは本当か?」など考えさせる。
(3)種を明かし,「もし自分について書かれていたら?」と再度考えさせる。

 演習中にひやかしや嫌がらせのような内容が飛び交っていれば,そのことにも触れ,指導者が送った中傷文とあわせて考えさせる教材とする。
 無記名やなりすましは可能であるが,やってはいけないと強調する。
 嫌悪や同情など,素直な反応が出れば,じっくり時間をかけ深く考えさせる。それ以外には考える支援をする。

10分

<まとめ>
  してはいけないこと,されて嫌なことを考えながら4つの注意事項にまとめる。
(1)悪口は書かない
(2)自分の名前をつける
(3)他人の名前は使わない
(4)返事は書く

 ひとつずつ具体例を提示し,理解させながらまとめていく。
  一度復唱させ,使用マニュアルの「気をつけること」の欄に自分の字で書き込ませ学習の成果を印象付ける。コンピュータ終了後に再度学習した内容を振り返らせ,発表させながら確認しまとめる。

15分

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3. 学習の展開

  授業時における反応として,次のようなことがあった。
自由に送受信する時(図1)
・「ばーか」「ふざけんな」「お二人さん,お似合いよ」等の人を傷つけるメッセージ
・「早く返事ちょうだいね」といったコミュニケーションを促すメッセージ
中傷メールの送信時
・「かわいそう」といった同情・送信者を非難する発言・反応
・「犯人は誰だ?」という真相を究明しようとする発言・反応
気をつけることの提示の時(図2)
・「さっきはごめんね」「お返事遅れちゃってごめんね」といった注意事項を理解した上での反省メッセージ
・注意項目の読み上げごとに児童が復唱したこと
・自発的に注意事項を書きとめ始めたこと

図1 使い方の指導
図2 気をつけることの説明
 
図1 使い方の指導
図2 気をつけることの説明
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4. 成果と課題

4.1 成果
 今回の高専生主体の授業を行うまでに,相手校である,いわき市立中央台南小学校に対して,学校行事等への参加を含めて2学期中に12回,3学期も5回の授業支援を行ってきた。
  いつも教わる立場の学生が,教える立場に立つことによって,教えることの難しさや,面白さが体験できた,とても有意義な授業であったと認識している。授業を実施した高専生にとっては,テーマの設定から,授業の流れ,使用マニュアルの作成など,さまざまな体験を通して学ぶものが多かったに違いない。以下に,学生の報告書から抜粋すると,
・児童代表のお礼の言葉と楽しかったとの声に,感動のあまり涙が出そうになった。
・人に教えるということは,こんなにも大変で,こんなにも知識が必要なのか,と改めて考えさせられた。そういう面からも,今回のような体験ができてとてもよかったと思う。
・教科書も何もないところから,一枚の教案を作り,35人の児童に対して授業をした。とてもいい経験でした。自分が教える側の立場になってはじめて,先生の偉大さを実感しました。
・今回のような体験をして達成感というものを味わうことができたし,がんばった分だけ,いろいろな形で自分に返ってくる事を学んだ。こんな体験を多くの人にしてもらいたい。
 等の充実感・達成感・責任感を示す所感が述べられており,教育的な効果が大きかったことを物語っている。
 また,児童達からは,
・ 「楽しかった」,「面白かった」,「またやりたい」。
・ これから,今日習ったことを生かしていきたい。
といった意見が出され,初めて行ったメッセージ交換で,新鮮な感動と面白さを学ぶことができたようである。
  授業実施後には,担任の先生に講評をお願いした。そこでは,
・ 中傷文の送信犯人を明かすまでの時間が短かったようだ。もう少し,児童に考えさせる時間を取ったほうがよかったのではないか。
 と参考になる助言を頂いた。
 さらに,その後,今回の授業が成果を上げたので,他の4クラスにも同様の授業をして欲しい旨の要望が出されたため,3学期中に実施することとした。
 協力校の中央台南小学校は,新興住宅地の大規模校(30学級,約1,000人)で,地域としての歴史や伝統が浅く,人と人とのつながりや結びつきが弱いことが特徴であり,このため,総合的な学習の時間のテーマとして,「人と人との豊かなかかわり」が掲げられていた。そこで,本企画においては,教師,児童の他に高専生という全く異なる第三の要素を取り込んで,相互作用による教育効果を期待したのである。
  このねらいは,十分に達成され,総合的な学習の時間における,新しいかたちを提示できたのではないかと考えている。
  このような取り組みは,非常に手間暇のかかる大変なものであるが,共に学ぶ時間を通して,それぞれ通常の授業形態では得られないものをたくさん吸収できたと言えよう。

4.2 今後の課題
  今年度のここまでの活動を振り返ると様々な問題点が浮き彫りにされてきたが,まとめると以下の様になる。
・プロジェクトの運営全体を把握し,連絡・調整等のマネジメントを行う人物が必須となる。活動において,小学校,高専の間に立ち,それぞれの連絡・調整を取るのが最も重要で最も骨の折れる作業である。小学校との連絡に電子メールが使えないため,電話とファックスでせざるを得なかったのも効率の面からは問題であった。
・ 小学校と高専の文化の違い。初等中等教育と高等教育の連携を行う際には,まず,いかにギャップを埋め,互いに歩み寄るかが重要なキーとなる。生活時間帯から異なる両者が活動を共にする難しさは,互いの理解なしには進まない。いかに,互いの児童生徒を,学生を見慣れた存在になるまで時間を共有するかが,成功への近道になる。
・ 高専生も自分の授業時間中の支援になるため,その時間は欠席になってしまう。幸い今年度は公欠(学校が認めた欠席)の扱いになるため無断欠席ではないが,授業を受けられないことに変わりはなく,いかにその穴を埋めるかが問題となる。
・ 移動に時間とお金が掛かる。活動から戻ってきて午後の授業に間に合わせるような場合,昼休みが半分ということもたびたびあった。往復の移動時間も大きな障壁となり,遠方の場合はさらに問題となる。また,現地集合・現地解散の場合,バスなどの交通費も掛かるので,負担が大きい。
・ 現場の教員が,皆コンピュータの知識を十分に持っているわけではないこと。教員のスキルを向上させるため,教員に対する講習会も必要である。この点に関しては,12月から教員有志参加の講習会も開始し,さらに充実させる予定である。
・ 学生の育成には時間が掛かる。あせってはダメ。ようやくこの頃になって,指示をしなくても動けるようになってきた。もう少し効果的に才能・技量を見出し伸ばせる秘策はないものだろうか。
 本企画における福島高専の役割は,情報化推進コーディネータと呼ぶべきものであろう。今後さらに一歩進めて,総合的な学習の時間コーディネータを目指して,規模の拡大,内容の充実を図って活動を続けていく予定である。この活動によって,総合的な学習の時間を通して高専が地域社会に貢献できる可能性を示すことができたと考えている。

ワンポイント・アドバイス
・ プロジェクトを管理するマネージャが必須。
・ 文化の違いを乗り越える。
・ すぐに効果は上がらない。あせらず,無理せず,ゆっくりと。

謝辞
 協力校のいわき市立中央台南小学校におきましては,菅本校長,内谷教諭をはじめ大勢の先生方にご理解とご協力を頂きました。また,長野県茅野市立玉川小学校の瀧澤教諭には,「ペタろう」をご紹介いただき,今回のような効果的な授業を実施することができました。ここに謹んで謝意を表します。

協力校の名称
福島県いわき市立中央台南小学校
参考URL
http://www.peta.gr.jp/

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