E-Square ProjectEスクエア・プロジェクトホームページへ 平成13年度 成果報告書
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実践事例の報告  神奈川県立汲沢高等学校

教育の情報化を目指したインターネット活用と生徒支援プロジェクト
〜いつでもどこでもコミュニケーション!
フレキシブルスクールにおける個々のライフスタイルに応じた支援体制作〜

神奈川県立汲沢高等学校
持永修平 大坪宏 吉村浩明
http://www.gumisawa-h.ed.jp
master@gumisawa-h.ed.jp
キーワード 高等学校,情報リテラシー,教育用コンテンツ,電子メール

インターネット利用の意図
 神奈川県立汲沢高等学校は県立高校改革推進計画によって,平成15年度に「フレキシブルスクール」として生まれ変わる。フレキシブルスクールは「単位制による全日制の課程 普通科」だが,ダイナミックな授業展開をすることにより,個々の興味関心に応じた科目選択や,午前型・午後型等の時間割作成が可能となることを目指して,学習へのさまざまなアプローチを提供していく学校となる。また検定結果や大学や専門学校での受講結果の単位認定と,学校の内外を問わず学習の成果を認めていく学校である。このような変化を前提に,場所・時間にとらわれずに学習活動や生徒支援ができる体制を整えていくことを考えたときに,インターネットの利用は欠かせない。電子メールでの生徒支援や,インターネット上での教育用コンテンツ配信,及びそれらを利用するための基本として身につけておくべきリテラシーの修得等を本研究のテーマとした。具体的には
I. 全1年生に対する情報リテラシーオリエンテーション
II. 携帯端末の利用も視野に入れた生徒支援体制
III. 教育用コンテンツの作成及び配信
の3つの内容を実践した。

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I. 全1年生に対する情報リテラシーオリエンテーションの実施

1.情報リテラシーの育成
ア.背景
 高等学校においては平成15年度から新教科「情報」が設置されるが,情報が必修でない現教育課程の生徒たち(今年度を含む2年間の間に入学してくる生徒たち)に対しては,意識してこれらを学習する機会を設けてあげる必要がある。
 またII,IIIを実践する前段階として,情報モラルの育成は欠かすことのできない内容である。したがって特定のクラスだけではなく,全1年生に実施する必要があった。教育課程上に必修として位置づいていない現状の中で,相応の時間数を捻出し,かつ担当者を割り当てるための工夫を行いながら,実践した。

イ.指導目標
  インターネットの利便性や効果的な活用方法については,「光の部分」としてさまざまな場面で体験・学習することができる時代となった。情報関連の科目に限らず,教科学習でインターネットを使うことは,決して特別なことではなくなっている。むしろ家庭や中学校での体験から,生徒の方が進んでインターネット活用を望む場面なども見られるようになった。
  一方その「影の部分」については,話題として取りざたされることも多いが,各教科分散型の情報教育中心の現行教育課程では,まとまって学習する機会は意識して作っていかなければならない。今回のオリエンテーションでは,インターネットの光と影の部分について理解し,学校生活において快適安全に利用できるリテラシーを身につけることを目標にしている。

ウ.実施形態
  全1年生に10時間程度のオリエンテーションを行うには,LHRや放課後の利用ではうまく運営ができないと考えた。高等学校では各教科分散型で場面に応じて情報機器を活用することになっている。その視点から,5教科(国語,社会,数学,理科,英語)の授業時間を2時間づつ使わせていただいた。
  指導担当者は,「新校準備委員会」が担当した。この委員会は前述のフレキシブルスクールを立ち上げるために作られた組織で,8名の委員が所属している。オリエンテーションの流れ,使用プリントの準備,授業の調整等,企画運営をこの組織で行った。 平成15年度の新教育課程実施を目前にして,情報科目を必修科目として教育課程上に位置づけるのは困難が予想される。今回とった形式は,担当者の確保がうまくいけば,授業展開としては実現しやすいものと考える。

エ.利用環境・稼動環境
 今回はインターネットの活用が中心であるので,特別必要なソフトウエアや周辺機器は無かった。しかし30人〜40人生徒が一斉にアクセスしてもストレスを感じない,インターネット環境が必要となる。このオリエンテーションの最中にISDNからADSLに接続環境を変更した。ISDNの場合は10台づつ順番にインターネット接続をさせたりする工夫が必要で,授業の流れも途切れがちであったが,ADSL環境になってからは,問題なく実施できた。

2.指導計画・指導案

 

学習指導案       神奈川県立汲沢高等学校  第1学年1組〜4組
               指導者 
               持永修平 大坪宏 吉村浩明 松崎剛 田中均 中村節

項目名

情報リテラシー教育と情報モラルの育成(全10時間)

目標

 授業を始め学校生活全般の中で,情報機器を安全にかつ有効に活用できるようにリテラシーを身につける。また情報モラルやインターネットを利用する場合の注意についても重視し,擬似体験や仮想オンラインショッピングを通じて,自ら問題点を見つけグループ討議につなげるようにする。

指導計画

ア 情報の検索と収集
第1・2時  図書館における情報収集とインターネットを使った情報収集を比較しながら,検索システムと情報検索の効率化を理解する。
第3・4時  さまざまな情報検索・収集の方法を行う中で,情報の整理の仕方を学ぶ。
イ 情報モラルの育成(本時)
第5・6時  Eスクエア先進事業「ネット社会の歩き方」を使って,インターネット活用時に起こる事柄を擬似体験し,インターネットの影の部分について学習をする。
第7・8時  電子メールの取り扱いについて学習し,モラルや留意していかなければならにことをまとめる。
ウ 学校生活の中での活用
第9・10時  PC教室以外でのインターネット利用の仕方や電子メールの活用方法等,学校生活の中で情報機器を総合的に活用できるようにする。

留意点

1 PCの扱いについては,検索やメール作成時に支障のない程度の日本語入力ができる程度にとどめる。
2 情報通信ネットワークなどを活用した実習を中心に扱うようにする。体験を通して帰納的に理解させる流れを重視する。
3 情報の伝達手段の信頼性,情報の信憑性,個人の責任,プライバシーや著作権への配慮など,情報収集・発信の際の留意事項を十分に理解させる。

(「情報リテラシー教育と情報モラルの育成」全10時間のうち7・8時間目)

活動

指導上の留意点

使用教材等

本時の目標

フレキシブルスクールにおいての,メール活用の必然性を説明する。

 

Webメールの使い方の学習

あらかじめWebメール用のURLへのリンクを張っておく。携帯端末やメーラーを利用した場合との違いや,ログイン・ログアウトの必要性についてふれる。

パソコン,インターネット

アドレスの配布

あらかじめ作成しておいた,個々人のアドレスを配布する。パスワードの変更が重要であることを説明する。

 

送受信を行ってみる

自分自身への送信及び受信の後に,友達や先生への送信を行ってみる。また自分の携帯端末とのやり取りなどを通じて,外部とつながっていることを体感することも可能であることにも触れる。

 

送受信を通じて感じたことをまとめる

やりとりをした事例の中で,気になったことや問題と思われることを記入してみる。事例としては,間違いメール・大きなファイルサイズ等の問題や,携帯端末へメールを送った場合の料金課金等が考えられる。

プリント

グループ内での討議

プリントに記入された内容をグループ内で発表をして,事例を共有化する。その後電子メール使用時に留意しなければならないことをまとめる。

 

グループごとの発表

各グループ内であがった事例や留意点等を簡単に発表する。

 

まとめ

今後のメールの使い方について注意する。

 

3.学習の展開
 実際にWebメールを使って,パスワードの変更からメールの作成・送信・受信を行った。自分自身の携帯電話との間で,送受信を行って確認してみる生徒も少なくなく,数年前とは状況がずいぶん変化している。グループ活動の中では,授業当日の話題を越えて実際に自分が学外で体験している話なども発表された。メールは,多くの生徒にとってすでに生活の中で活用されているものであり,情報のやりとりや生徒支援を考えた場合に,イントラネットの中だけでのメール環境では,もはや限界があるのではということを感じた。また携帯端末ならではのメールに関するネチケットも,我々は押さえた上で学習活動をする必要性が生じ始めていることも感じた。

4.成果と課題
 生徒たちは入学当初に,インターネットの利用方法などを学んだ。その後の授業の中では,彼らの方から場面をとらえて「それはインターネットを使うといいのでは?」という声があがっている。課題としては,今後の携帯端末の発展とともに,学校でリテラシーについて考える前に,すでに生活の中で使い始めることが十分に予想されることである。
 また結果的に教科担当者とオリエンテーション担当者とのTTになることから,今まであまり情報機器やインターネットを利用したことがない先生方も参加する形となった。これにより「現在インターネットの世界で何ができるのか,生徒はどのくらい興味を持って取り組んでいるか」を目の当たりにする機会を得たことになった。その後自分の授業にも何か使えることはないかという話しも持ち上がって,当初は期待していなかった教員側におけるうれしい効果もあった。

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II. 携帯端末の利用も視野に入れた生徒支援体制

1.電子メールによる生徒支援
 フレキシブルスクールにおいては,生徒が自分で時間割を作っていくことになるので,先生が彼らの動向をつかんだり情報を伝達したりすることが難しくなる。また生徒側からしても,「学校に登校しない日でも先生とコミュニケーションをとりたい」等の場面も考えられる。このような状況の中で,電子メールを活用できないかを調査研究した。

2.環境の構築
 複数の生徒が同じ端末を利用することから,Webメールを使える環境作りを第一に考えた。選択肢としては次のようなものが考えられた。
1.商用フリーメールを使う
2.学校で外部メールサーバーをたてる
3.学校で校内用(イントラネット用)メールサーバーをたてる
4.教育センターや自治体で管理するサーバーを利用する
5.ホスティングサービスを使う
結果的に5の体制で実践することにした。

3.展開
 携帯端末(携帯電話)も含めた実践となるので,1学年から1学級を選び試行実施した。期間は4ヶ月とし,メールによる連絡はあくまでも補助的なものであることを確認しながら行った。しかし電話よりも手軽であるからか,欠席や遅刻の連絡などが多く入った。またクラス内のできごとの相談や保護者からの連絡も数件あった。

4.成果と課題
 基本的にメールのセキュリティーはあまり確保されていないことを前提として,この事業を実施していかなければならない。一方で生徒は,さまざまな内容を気軽に送ってくることも少なくない。今後はメールにて連絡できる内容なども整理して,生徒に説明しながら行っていきたい。また携帯電話への転送機能を提供したが,パケット代がかかるという生徒の意見もあった。

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III. 教育用コンテンツの作成及び配信

1.教育用コンテンツ配信による生徒支援
 コンテンツ作成に際しては,
1.短時間で作れる
2.簡単に作れる
の2点を押さえて,どのような形で作成するかをWeb上で動くという前提で検討した。コンテンツでの学習は3分〜5分程度で完了するようなモジュール化を図ることにした。短い時間に多くの情報量を埋め込めるとともに,簡単に作ることができる素材として,ビデオが候補にあがった。ストリーミング技術の進歩や回線の高速化という追い風もあった。結果としては,SMIL(Synchronized Multimedia Integration Language )ベースに作るのはどうかとの意見がだされた。Webページを時間軸で制御でき,動画と静止画の同期をとって表示できることから,配信コンテンツに適していると判断した。どのオーサリングソフトを使うべきかを考えながら,SMILにとらわれず同様の効果があるベースも含めて模索した。結果として「Microsoft Producer」を利用することにした。

2.内容・展
 授業の補完として利用する目的で作成された,教育用コンテンツである。復習を始め,欠課となった時間の補いや,テスト前の学習にも利用できるように配慮した。コンテンツの視聴については,放課後に開放されているPC教室以外に,新たに図書室に端末を設置して,空き時間等にも有効利用できる環境作りを模索した。今後は自習室やラウンジにも自由に使えるパソコンを設置する予定である。

3.成果と課題
 自分の知っている先生が画面上にでてきて説明をすることから,生徒にとっては通常のWeb教材よりもとっつきやすいようであった。今回は単元のうち一部分のコンテンツ作成となったので,今後は全校あげてコンテンツの充実を行っていきたい。

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