E-Square ProjectEスクエア・プロジェクトホームページへ 平成13年度 成果報告書
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実践事例の報告  つくば市立竹園東中学校

デジタルポートフォリオ評価の実践とそれに連続したデジタルコンテンツ作成

中学校1年 総合的な学習の時間
つくば市立竹園東中学校 森田 充(教頭)・柏村秀子(第1学年主任)
キーワード 中学校 2年 総合的な学習の時間  ポートフォリオ評価
 環境学習 交流学習 デジタルコンテンツ

企画の目的・インターネット利用の意図
 新教育課程では,「自ら学ぶ力の育成」が大きな柱となっている。この学ぶ力の育成には,授業の構成の工夫と共に,評価の工夫も重要であると考える。
 評価について新教育課程では,「児童生徒が自らの学習を振り返り,新たな自分の目標や課題を持って学習を進めていけるような評価を行うこと」が求められている。また,総合的な学習の時間の評価については,「試験の成績によって数値的に評価することはせず,活動や学習の過程,報告書や作品,発表や討論に見られる学習の状況や成果などについて,児童生徒のよい点,学習に対する意欲や態度,進歩の状況を踏まえて適切に評価すること」が求められている。この総合的な学習の時間の評価については,いろいろな方法が試行されているが,依然として困惑している教師が多いという言うのが現状であろう。
 そのような状況の中で,ポートフォリオ評価が注目され,多くの学校で取り組まれてきている。ポートフォリオは,子ども達に自分の学習の過程や結果に関わる様々な成果物(例えばレポートや絵など)を長期にわたり目的別・計画的にフォルダなどに蓄積させたものであり,それを見て学習の達成度や成長を評価するという方法である。
 本校では,このポートフォリオに,デジタルデータを生かした,デジタルポートフォリオを取り入れてみた。なぜなら,デジタルデータは,「保管に場所を取らず,整理が容易であるだけでなく,ネットワークサーバーに保存すれば,校内のどのパソコンからも利用することができるし,データを組み合わせたり,順番を変えたり,加工するのが容易になる。」という利点があるからである。
 さらに,本校のデジタルポートフォリオは,「グループウェアを活用し,各自がデジタルデータを校内のネットワークサーバーに保存し,それらを加工して,交流のための資料やプレゼンテーションの資料を作成する活動」を主にしている。
 グループウェアを活用することにより,これらの活動で作成されたデジタルデータは,学習のコミュニティ(クラスメイトや他学級・他学年の子ども,保護者や地域の学習協力者など)に簡単に公開することができるので,より多くの人からの評価を受けることになる。こうすれば,目的意識が高まり,深まりのある学習が成立する。
 また,グループウェアを活用したデジタルポートフォリオ作りには,情報の収集,選択,加工,表現,伝達,評価などの活動が含まれており,「情報活用の実践力」の育成を自然な形で行うことができるのである。
 さらに,生徒が作成したデジタルポートフォリオを,デジタルコンテンツとして公開すれば,他の生徒に役立つ情報になったり,地域の人々への情報発信になったりして,有効性が広がると考えたのである。

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1. 第1学年 総合的な学習「ふるさとつくば 花室川をみつめて」

(1) ねらい 
 学校のすぐ近くを流れる花室川に親しみながら,花室川に関する様々な課題を発見し,それらの中から決定した自己課題を追究し,つくば市や花室川の未来への展望を見出す。また,これらの活動を通して,実践的な課題解決能力を育成する。
(2) 指導目標
<1> 知識目標
・ 花室川の歴史と人々のくらしについて理解する。
・ 花室川の環境問題について把握する。
・ 花室川と学園都市開発とのつながりについて気付き,川の役割を理解する。
<2> 態度目標
・ 自分を見つめ,他者を尊重し,問題に共感を持つ。
・ 計画や見通しを持ち,広い視野での興味関心を持つ。
・ 人々と共に生き,希望を持って未来のために貢献しようとする。
<3> 技能目標
・ 資料を収集・選択し,活用できる。
・ 資料を分析し,多角的に考察できる。
・ 調べたこと,体験したことなどを整理し,表現できる。
・ 相手意識を持って,平和的にコミュニケーションできる。
・ 問題解決に先見性を持って,建設的な意志決定をし,提言できる。

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2. 活動計画
図1 グループウェアのメニュー
図1 グループウェアのメニュー

(1) グループウェアとポートフォリオ
 グループウェアは,「表現」と「情報交換」という二つの過程で構成されている。
 「表現」は図1のノート機能で行う。ノートは文字表現や描画表現だけでなく,映像や音声を加えた表現や,ハイパーリンク機能などにより,表現した情報同士を関連づけて表示することができる。
 「情報交換」は,図1の電子メール,電子掲示板,データベースの3つの機能を使って行う。電子メールは,特定の友達とやりとりしたいとき,電子掲示板は,大勢の友達に情報を見てもらいたいとき,データベースは,テーマ毎にみんなで情報を集めてデータバンクを作りたいときや,特定のテーマを巡って会議のような感じで情報交換を行いたいときに使う。
 生徒は,課題を解決する活動の中で,グループウェアのノートを使い,記録を残す。そして,それらを編集・加工し,情報交換のための資料や,プレゼンテーションの資料を作成する。これが,デジタルポートフォリオづくりとなる。

 

(2) 活動の流れ

生徒の活動
教師の準備・教師の支援
4月
・ガイダンスをもとに,1年間の活動のねらい・手順をとらえる。既存の体験・知識を整理しながら,活動や評価の見通しを立てる。 ・Webingや質問紙法により,川に対する知識や関心を整理できるようにする。
・ポートフォリオの基準を用意する。
5月

6月
・花室川を観察し,関心を持った事柄について調べる。
・グループウェアのノートに,調査したことや気付いたことを記録していく。
・川を観察したり,親しむ活動をしたりしながらながら,川は研究価値のあるものをたくさん含んでいることを気付かせていく。
7月
・調べた事柄を整理し,追求したい課題を設定する。
(第1次課題)
・生徒一人一人と学習相談を行い,適切な課題となるよう助言する。
・同じような課題に取り組む生徒をグルーピングし,主担当教師を決定する。
8月
・夏休みを利用し,調査活動・資料収集を行う。  

9月

・調査・研究を行う。その記録をグループウェアを活用し,行う。
・グループウェアを活用し,本校だけでなく,他校の生徒や地域の人々・専門家等と情報交換しながら,追求を深めていく。
・グループウェアで記録したこれまでのノートをもとにして,中間発表会用の資料づくりを行う。
・グループ内で中間交流会を行い,そこでの自己評価や相互評価をもとに,プレゼンテーション資料を再編集し,中間発表会の準備をする。

・メタ認知的な問いかけをし,生徒が自己に問いかけながら活動を深める力を伸ばす。
・ねらいに沿って,活動記録や成果物を集めているか観察し,助言する。

・誰に見てもらうか明確にして,表現しようとしているか常に生徒に問いかける。
・生徒達が気付かない視点から評価をする。

11月
・中間発表会を行う。
・さらに追求する課題を設定する。(第2次課題)
・生徒一人一人との学習相談を行い,中間発表の様子やその資料を評価し,次の活動計画について,助言する。

12月

・第2次課題について,調査・研究を行う。
・第1次課題と同様に,グループウェアを活用し,本校だけでなく,他校の生徒や地域の人々・専門家等と情報交換しながら,追求を深めていく。
・中間発表会での評価をもとに,活動が深められているか観察し,助言する。
3月
・1年間の活動を振り返り,プレゼンテーションの資料づくりを行う。
・最終報告会を行う。
・生徒の変容を評価し,本題材における活動計画や,教師の支援などが適切であったか,評価し,記録しておく。
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3. 活動とその例・ポートフォリオ

(1) 自己の課題を決定する
 花室川を散策し,調査しながら,自分で追求したい課題を決定した。実際には,大きく分けると
 地層,化石,歴史,植物,魚,鳥,虫,水質調査,憩い,水利
の分野で,それぞれのテーマが作られた。全部で40ほどのテーマが設定された。

図2 生徒達の活動記録
図2 生徒達の活動記録

(2) 活動を記録する
 生徒は,グループウェアを活用して,自分で活動した記録や,研究レポートを作成していく。生徒達はデジタルカメラの画像やビデオ等を取り入れ,各自,自分なりの方法で記録していく。このとき,研究内容だけでなく,エピソードや感じたこと,気がついたこと,自己反省等も書かせた。

図3 電子掲示板の画面
図3 電子掲示板の画面

(3) 中間交流会と中間発表会
 本校では,中間発表会と称して,プレゼンテーションの機会を作っている。
 生徒は,研究を進めながら,プレゼンテーションに備える。そのとき,生徒は疑問を少しでも解決したいし,よりよいプレゼンテーションをしたいというのが素直な気持ちである。
 そのために,生徒達は,ネットワークを使い,交流を進めていく。どうしても疑問が解決できずにいるときには,電子掲示板を活用して,つくば市内の小中学生に質問を投げかける。(図3)また,メールで,専門家に質問する。
 プレゼンテーションの資料づくりにアドバイスが欲しいときにも,作成した資料を掲示板に掲示する。すると,他校の生徒達から,「もっと…したほうがいいよ。」「…がわからないからもっとくわしく。」などのアドバイスや指摘が得られる。このようにして得られたアドバイスをもとに,研究方法を変えたり,活動内容を広げたりする。そして,交流で残したデータも含めて,これまでの自分のデータの中から,必要なものを選び,再構築し,資料の内容を徐々に充実させながら,プレゼンテーションに備えていく。
 例えば,こんなこともあった。「親水 花室川の秘密を探ろう〜植物編〜」を課題としていた生徒は,秋深まった頃,川辺を歩いていると,田園の風情また季節感を演出しているススキに出会った。十五夜の行事を通して,私達の生活にも密着しているススキをプレゼンテーションの中で紹介をしたいと考えた。交流の中でみつけた小学生の活動やホームページの情報によって,ススキを生かしたフラワーアレンジメントやふくろう作り等があることを知り,取り組むことにした。最初はメールを使って,専門の方に教えていただいたり,地域の方に紹介していただいたりしたが,何回かやりとりしているうちに,直接指導していただけることになった。作品(図4)は,中間発表会後には,地域の公民館や市役所に飾らせていただき,彩りを添えた。また,掲示板によってふくろう作りを呼びかけたところ(図5),小学生が集まり,小中学生が一緒になってふくろう作りを行った。

図4 できあがったフラワーアレンジメント
図5 フクロウ作りの呼びかけ
図4 できあがったフラワーアレンジメント
図5 フクロウ作りの呼びかけ
図6 中間交流会
図6 中間交流会
 中間発表会の前に,中間交流会を実施した。中間交流会は,同じ分野の研究をした者だけが集まり,自由な雰囲気の中で,お互いの意見を出し合った。よりよいプレゼンテーションができるように研究内容や研究方法はもちろん,資料の構成や画面づくりの技術などについてもアドバイスし合った。(図6)
 そして,それらをもとに修正を加え,中間発表会を行った。本年度は,この中間発表会を文部科学省指定「学校インターネット」の研究発表会の際に実施したため,保護者に加え,研究発表会の参観者にも参加していただいた。(図7)
(4) 最終発表会
 中間発表会を終えた時点での自己評価や相互評価によって,それまでの取り組みの問題点や課題が見えてきた。ここで新たな課題を決めるときには,教師が生徒一人一人と学習相談を実施し,生徒と共に活動を振り返り,今後の見通しを明らかになるよう支援した。また,この学習相談を通して,教師は,その生徒の活動や思いを評価することができた。
 こうして,最終発表会に向けて,活動が再開した。
 現在は,これまでの自分のデータを再構築し,プレゼンテーションの資料を作っている最中であるが,最終発表会が終了した後には,そのプレゼンテーションの資料をWeb化し,コンテンツとして公開することになる。このコンテンツは,後輩にとってデジタルポートフォリオを進める上でのいい手本になり,同じような学習に取り組む他校の生徒にとっても,大いに参考になるものである。生徒達は,現在,その目的意識をもって,よりよいポートフォリオづくりに取り組んでいる。
図7 中間発表会
図7 中間発表会
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4. 成果と課題

 デジタルポートフォリオを実施することにより,発表会に至るまでの活動の目的意識が高まった。また,自己評価や相互評価が,曖昧な判断や表現ではなく,基準を持って,評価できるようになった。それにあわせて,生徒の活動に対する教師の役割が整理され,評価も確実に行えるようになった。
 しかし,今年度は初めての取り組みであったため,基準作りが不十分だったり,教師の役割が十分に果たせなかったりした。今後は,基準を活動の最初から,生徒に明確に示せるように準備し,活動の流れや教師の役割を明確にし,生徒により確かな見通しを持たせられるような,教師や生徒へのマニュアル作りをしたいと考えている。
 また,保護者による活動参加を促すように,保護者と教師・生徒による学びのためのメーリングリストを整備し,地域掲示板を稼働したいと考えている。

ワンポイント・アドバイス
 デジタルポートフォリオは,それを生かす授業設計が大切である。つまり,目標,活動内容,評価場面・基準,それに合わせた教師に役割の明確化が大切である。これを決めるときには,一人ではなく,3,4人で知恵を出し合い,話し合うことが重要である。

参加協力校
つくば市内全小中学校,潮来市立潮来第二中学校

参考文献
「生きる力を育てるデジタルポートフォリオ学習と評価」余田義彦編著 高陵社出版

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