E-Square ProjectEスクエア・プロジェクトホームページへ 平成13年度 成果報告書
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実践事例の報告  三芳町立三芳中学校

知的障害学級で行う総合的な学習におけるインターネットの活用および情緒障害の遠隔教育

三芳町立三芳中学校  溝口文雄
ホームページ:http://www7.ocn.ne.jp/~miyoshij/
Email:miyoshit@giga.ocn.ne.jp
キーワード  中学校,特殊学級,総合的な学習,自立活動

インターネット利用の意図
1.総合学習におけるインターネット利用
 知的障害を持つ生徒にとってコンピュータを活用することは難しいが,活用方法を工夫することによって障害が重い生徒もコンピュータ教育を行うことができる。だが,文字情報中心のインターネットは知的障害を有する生徒にとって高い壁である。今回の企画では総合的な学習の時間にインターネットを活用して調べ学習を行うことで,高い壁を乗り越えて学習の道具としての活用し,豊かな学びを実現しようと考えた。
2.情緒障害の生徒の遠隔教育に対する指導の可能性を広げる。
 学校に適応することが難しい心因性の情緒障害の生徒が,心理不安などから集団参加場面を回避することが多いため,CCDカメラで学校行事を撮影し,リアルタイムの映像を見ることで集団の活動場面に参加する意識が持てるようにしたいと考えた。また,学校に登校できない状態が続いた時にE-mailによる教育相談を実施したり,ホームページに学習するページを用意し,家庭学習の幅を広げようと試みた。

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1. 総合的な学習の時間におけるインターネットの利用
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1.1 単元名  進路学習

(1)ねらい
 知的障害の生徒にとって社会を知る学習は実際の場を見学する体験によって理解を深めることができる。しかし,学校にいながら様々な情報を集めることはインターネットでなければ出来ないため,これからの社会を生きる力をつけるためにもインターネット利用が出来る生徒を育てることは必須である。特殊学級(以下,本学級)の昨年までの実践で,知的障害の程度が軽い生徒は自分の趣味の情報を集めるために,インターネットの活用ができるところまで取り組んできた。今年度は総合的な学習の時間の調べ学習で資料を集められることが出来る生徒を育成する。
 また,本学級の生徒が通常学級に参加できる授業は少ない。総合的な学習の時間は自ら発見し,自ら学び,自ら学習し発表するなどの生きる力を育成するために新設された学習内容であるため,一人で集団参加ができれば通常学級で一緒に学習することができる授業である。通常学級の総合的な学習の時間に参加している生徒はインターネットを使って鉄道の種類や歴史を調べ,一人でプレゼンテーションソフトで学年発表することにした。

<1> コンピュータシステム(2台のノートパソコン)
<2> ネットワーク(校内無線LAN,無線アクセスポイント及び,有線LAN)
<3> 周辺機器  SHARP製CCDカメラ CE-AG07       2個

(2)コンピュータ設置事情      【実施環境】
 校内のインターネット接続可能なコンピュータ設置状況は,コンピュータ室に22台,職員室,学校図書館に各1台ずつ設置してある。しかし,本学級からインターネットに接続する環境が必要なため次のように配備した。

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1.2 総合的な学習の時間における指導計画

 進路学習前期の「将来の仕事」で,後半で「上級学校」について体験的に学習することで,主体的に進路を選択していける生徒を育成しようと試みた。インターネットの活用については,就きたい職業の情報収集,職場実習先の会社のホームページ閲覧,上級学校調べなどを行った。
(1)本学級における総合的な学習の年間のスケジュール(週1時間,年間35時間)

期 日  
学 習 内 容
4/19,4/26 前期:将来の職業  就きたい職業調べ (インターネット等で調べる)
5/10,5/24,5/31,6/7,6/14  テーマの設定, 調べ学習(職場見学)
6/18〜7/6  職場体験実習
6/28,7/5,7/12,9/6,9/13  まとめ,発表準備(実習のお礼の手紙)
9/14, 9/20  文化祭=総合学習前期発表,  前期まとめ(クラスで感想発表)
9/27,10/4,10/11,10/18 後期:上級学校調べ  学校調べ(インターネット等で調べる)
11/15,11/17,12/4
11/22,11/29,12/13
 養護学校3校見学。
 見学のお礼の手紙,卒業生を囲む会(進路講演会)
1/10,1/17〜2/28  まとめ(htmlファイルへ) ホームページでの発表

(2)通常学級の総合的な学習の時間に参加する生徒の学習内容
 交流教育として通常学級の総合的な学習の時間に参加している生徒は昨年度からの参加である。今年度は職業について考えることが学習テーマであったことから,自分の好きな電車をテーマに学習を進めた。学習内容は以下の通りである。

学習過程
学 習 内 容  
基礎学習
体験する
テーマ設定
調べ学習
発表する
まとめ
 テーマを知り,必要な知識と方法を学ぶ。
 将来の職業について考え,職場における体験学習を行う。
 自己のテーマを決定する。
 自己のテーマについてインターネットなどを使って調べ学習を行う。
 色々な形式で発表する。
 学習したことを評価(自己,他己,他者)する。
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1.3 学習の展開

(1)本学級における総合的な学習の進路学習の展開
 将来の進路を考える上で職場体験を中心に,上級学校への訪問を含めた進路学習を展開する。
以下の単元計画は前期「将来の仕事を考えよう」の計画である。

学 習 活 動
活動への働きかけ
1.将来の職業
・就きたい職業とその企業の仕事内容
希望の進路についてインターネット等で調べる
2.職場見学
・見学
・見学のまとめ(インターネットで会社を確認する)
3.職場実習
・職場実習の事前学習と実習

・インターネットでなければ分からない事柄を調べ,他のことは書籍等で調べる
・職場見学時のマナー学習により保護された環境での生活から,厳しい社会に出ていくことを意識させる。

・実習ノートの記入,毎日の実習終了後の電話連絡を徹底させる。
4.職業についてのまとめ
○将来の職業,体験した仕事,仕事についての感想
○発表用にまとめる
・お礼の手紙(メール)・中学校と会社の違い
・プレゼンテーションの練習
5.文化祭での発表
・発表の事前学習を十分確保し表現力の育成を図る。
・感想を個別に発表させる。
・実際の会社の仕事内容を知りこれからの生き方を考えさせる。
・発表の様子を家庭にも報告して三者で成長を確かめ合う,

(2)通常学級の総合的な学習の時間に参加する生徒のインターネット利用
 東武伊勢崎線の車両の種類,特徴,走行路線などを書籍,インターネット等で調べた。インターネットには,時刻表,歴史,路線図,発車ベル音などがあり,それをダウンロードし,さらに現地まで出かけて撮った写真と書籍で調べた情報をパワーポイントに書き込んだ。パワーポイントは約10時間かけて作成し,学年発表の時間に一人で操作しながら発表した。

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1.4 成果と課題

 コンピュータは書字能力(文字を書く力)の弱い知的障害の生徒にとってキーボーを覚えればきれいな印刷文字を自力で作成することができ,信号や買い物学習などのあまり失敗が許されない場面をシミュレーションで何回も練習できるなど効果の高い学習機器である。しかし,インターネットは,知的障害の生徒にとって苦手な漢字の多い活字だらけの教科書と同様に活用が難しいイメージがある。そのため,ホームページ読み上げソフトや,ホームページふりがなソフトなどを用意してインターネットを活用した。それにより活字は多いが画像が多い情報であることから,一人で情報を集められるようになってきた。また,学習が進むと色々なサイトから必要な情報を選択し,コピーすることができる生徒も出てきた。
(1)本学級における総合的な学習の時間におけるインターネット利用の効果
(ア) 職場見学後にその会社のホームページを見た。「あっ,このおじさん見たことがある。」「昨日職場見学で会った社長さんだろ。」などと声が挙がる。見学してきた直後のため活字のページでも生徒の目が吸いつけられている。「先生,何て書いてあるのですか?」早速質問が飛ぶ,「会社の方針だよ。それはね・・」昨日の会社のイメージが頭にあるためか読み始めるとみんな熱心に聞いている。体験と関連した内容は学習意欲を高揚させる例であった。
(イ) 上級学校調べではあまりインターネットが活用できなかった。ホームページを掲載していない学校が多く,私立高校や一部の県立高校以外情報がなく,養護学校は県内では1,2校だけだった。来年度以降本格的に総合学習が行われるようになると上級学校調べが他の中学校特殊学級でも行われるようになり,Webでの検索が盛んになるだろう。その時に情報がないのは困るため,本学級の上級学校調べのまとめをホームページに掲載し,他校でも役立てられるようにした。
(ウ) 職場実習後にお礼の手紙を書く。「先生。私メールを出したい。」予期せぬ要求に驚くと同時に,メール文化が定着し始めたことを感じる。会社のホームページからメールを開きお礼文を書き込む。操作方法は先生の指示を聞きながらおこなっていたが,内容は一人で考えて長文のメールを打った。機器の操作はあくまで手段であり,感謝と気遣いのある文面は本人の心である。メールは新鮮な心を新鮮なうちに相手に届けることができる。後日,会社に他の生徒のお礼文を届けたところ,先のメールによるお礼文に感激していた。早々と謝辞を述べることは社会でのマナーであるが,生徒のメールを早々と電信することの効果を知ることができた。
(2)通常学級の総合的な学習の時間に参加する生徒のインターネット利用
 この学年では総合的な学習が2年目を迎え,個別のテーマ設定で学習を進められるようになっていた。そのため,周りの友達に気兼ねなくマイペースで学習を進めることができた。サーチエンジンに並べられたホームページリストから選択したページを表示しながら「へー。すごい。」「そうなんだ。」と声をあげながらWebを眺めている。たまにわからないことがあると質問する程度で,ほとんど教員の手助けはいらない状態である。ここまでできるようになるとインターネットは資料と同じになる。本人はホームページに記してある漢字を半分も理解できないが,Web検索の過程でいくつかの漢字を覚えたため必要な文章の概略を理解することができ,わからなければ質問して覚えていく。国語の学習ではなかなか覚えられない漢字でも,自分の興味のあることに直結すると学習意欲が飛躍的に向上する好例であった。
(3)今後の課題
 総合的な学習の時間におけるインターネットの利用は障害の程度が軽度,及び社会性のある中度の生徒に限定して取り組んできた。それも,調べ学習という苦手な学習での使用であった。子供の成長が多く見られ予想以上の効果があった。今後は,障害が重い生徒がいかにしてインターネットを活用できるのか取り組んでいきたい。障害のある生徒にとって社会参加は大きな課題であるが,将来は動画や音声が充実し,ボイスメールを発信したり,ネットで旅行先のホテルの部屋の作りがバリアフリーになっているか動画で確認したり,飛行機や電車の乗り方を家庭に居ながらネット上でバーチャルに練習したりできるようになるだろう。その時にネットを活用できる「生きる力」を今から育てたいと願っている。

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2. 情緒障害生徒の遠隔教育におけるインターネットの利用
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2.1 ねらい

 学校に適応することが難しい心因性の情緒障害の生徒が,教室から体育館でおこなわれている学校行事をCCDカメラで見ることで,「参加できない」という心理的負担を減らし,学校生活の見通しを持ち,集団参加意識が持てるようにしたいと考えた。また,学校に登校できない状態が続いた時にE-mailによる教育相談を実施し,家庭学習を行う家庭がさらに学習の展開を広げられるようにホームページ上に学習ページを用意した。
【校内のライブ中継】〜体育館との情報のやりとり〜
体育館までの電話線がなく,有線LAN,無線LANアンテナの設置は予算不足のため,PHSを利用したライブ中継を行う。
(ア) ノートPC1台を体育館に移動してCCDカメラで行事を撮影する。
(イ) PHSを使いビデオメールを配信する。(ストリーミングライブ放送ではない)
(ウ) 教室のノートPCで放送を受信する。

 

CCD搭載

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2.2 指導計画

(1)校内行事のライブ中継
 学年集会,朝会などの儀式的行事をライブ中継して教室で見学することで,参加しているような気持ちになったり,参加しようという動機付けにになるように働きかけることにした。しかし,本校は各教室用のテレビやテレビ用の放送設備がないためライブ中継ができず,体育館などから教室にPHSを媒介にしてビデオメール発信し,次第に他の生徒に慣れていくような心理適応を進めることにした。 
(2)不登校時の自宅学習の充実
 心因性の情緒障害生徒の不登校状態が進む中,学級のホームページに学習ページを掲載して自宅でも学習を進めるようにしたり,E-mailによる教育相談に応じるなど遠隔教育を実施する。
(ア) 学級のホームページに学習ページを加える。
(イ) E-mail「けやきメール」のアドレスを設置する。

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2.3 学習の展開

 ホームページについては,7〜1月の間にサーバのクラッシュ,ノートPCの設定不能,業者の変更,増設工事等のアクシデントが続いて計画が大幅に遅れた。その間に対象生徒は9月から学校に来られない状態が続いたが,12月から少しずつ登校するようになった。登校するようになると学校行事や集会に参加できるようになった。そのため,儀式的行事をライブ中継する必要がなくなった。しかし,他のクラスとの交流給食の時間は交流にいくことができないため,ネットミーティング給食をおこなった。ネットミーティング給食は交流先のクラスの生徒から希望者を募り,簡単な会話をし,交流クラスに慣れることをねらっておこなった。初めは好奇心からミーティングに参加してくれた。「たまには一緒に食べようよ。」と声をかけてくれると,照れながら断っていた。ネット給食を重ねることでその気になっていくことを期待している。この方法は給食時の数分間でおこなうため互いに負担が少ない。これにより廊下ですれ違ったときにお互いに声をかけ合えるようになれば成功である。
 また,学校を休む日もあるため家庭における学習や連絡のためにホームページが活用できるように連絡をした。が,生徒の家庭ではまだインターネット環境がなかった。調べてみると各家庭には携帯電話があり,携帯からメールを送る,iモードのコンテンツを利用した経験がある家庭もあるため,本校のホームページにiモード用,J-スカイ用のページを加えることにした。現在は全校に知らせられる段階に来たが,学校は直接の相談業務ができる体制ができていることやコンテンツの利用に慣れていないため,ホームページへのアクセスは少なかった。

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2.4 成果と課題(学習意欲の向上等の成果,今後の課題)

(ア) システムがうまく作動しない情況に見舞われたが,少しずつインターネットを利用した教育活動が軌道に乗り始めた。インターネットに接続していない家庭が多く,携帯電話からアクセスできるようにしたが,各家庭のニーズに応じたシステムを考え,途中の計画を変更しながら本校の実態に応じた方法を模索することが大切だと強く感じた。
(イ) 行事への参加はライブ中継を実施する前に解決したが,次の課題である交流給食の対応策としてネットミーティング給食へと切り替えることでネットの活用の幅が広がった。取り組み始めた課題であるが,新しい出会いが期待できる方法である。精神的な負担が少ないことは教育相談的な配慮を要する生徒に向いていると思えた。

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2.5 ワンポイントアドバイス(他校の先生のお役立ち情報/箇条書き)

・知的障害のある生徒にとってインターネットの敷居は高いが,趣味の幅を広げるつもりで好きなアニメや歌などの情報収集等をおこなうことで取っかかりを作れる。
・情報をホームページにアップすることで他校,地域とのデータ共存の道が開ける。
・集団適応を図るには,バーチャルな訓練からスモールステップを踏んで実際の体験へつなげると効果的。ミーティング機能の煩わしさに負けずチャレンジを。

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