E-Square ProjectEスクエア・プロジェクトホームページへ 平成13年度 成果報告書
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実践事例の報告  東京都西東京市立保谷中学校

美術教育・英語による国際文化交流の実験プロジェクト
− エジプト・アラブ共和国の学校との国際交流 −

中学校3年・美術科・英語科
東京都西東京市立保谷中学校
美術科 神 毅  英語科 安部 直子
(株)富士通 松田 宏
potokori@jcom.home.ne.jp
キーワード  中学校,美術科,英語科,国際交流,
エジプト,インターネット,電子メール

インターネット利用の意図
 エジプトという普段子供たちには教科書やマスコミを通じての情報しか入ってこないような国について,インターネットを通じて調べたり,電子メールでお互い交流することで,より新鮮な情報を得たり,直接的な結びつきを感じたりすることが出来る。又,従来の手紙などでの交流では返事が返ってこなかったり,返ってきても時間がかかったりして,子どもの興味が半減してしまうようなこともあったが,コンピュータでの交流ではその手間と時間を大幅に短縮することで,より実感を伴った,子どもの心に深く受け止められる交流になるのではないかと思われた。
 ただ,コンピュータも万能ではなく,画面上でのバーチャルなつながりのみにならないよう,美術作品,という最も人間くさいものの一つを交換し,肌のぬくもり,と言ったようなものを補完するような交流になるように努めた。
 もともと国際交流ということの目指すものは,お互いの国やその文化,生活などを知り合う中で,国や民族,人種,宗教を越えて理解し合い,平和の礎を築く,というところにある。この交流もそれを目指して企画したわけだが,たまたま縁あって交流の相手先となったエジプトという国がイスラム教国であったことは,偶然とは言えとても意義深いものであった。昨年9月のアメリカ同時多発テロ事件で図らずも身近なところに映し出されることになった「イスラム教」「コーラン」・・・。放っておけば,それそのものが悪者になってしまいそうな流れの中,直接調べたり,ふれあったりすることが,偏見を予防し,思いこみを崩し,本当の結びつきを実現する,という,今の時代にまさに合った交流を目指すこととなった。

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1. 美術の授業・英語の活動による国際交流:

(1)ねらい:
 美術の活動そのものが,深く自分を見つめ,それを表現する,という視点に基づいたものである。又,英語教育においては言葉の壁を越えて,他者と知り合い,つながり合っていく,と言うことが大きな目標の一つである。
 今回のこの取り組みでは,この2つを合わせて両方向からより深い自己表現を行いながら他者との結びつきを求めていく中で,世界を広く見つめ,行動していける心を養うことが大きなねらいである。
 具体的には「偏った見方をなくす」と言うことも出来るだろう。私たちは単純に「知らない」と言うことだけで勝手に忌み嫌ってみたり,嫌わないまでも近づこうとしてみなかったり,ということがある。それが,先入観やステレオタイプな見方を生み,果ては「偏見」を持つことになってしまったりする。それは平和な世の中の実現には大きなハードルとなる。この偏見を持たないために,又はあるものをうち砕く,又はそこまで行かなくても凝り固まった固定観念にピリッとひびをいれることが出来れば,ということである。

(2)指導目標:
・版画による自画像の作成により,自分を見つめ,それを紙の上に表現することで人に伝える力をつける。
・インターネットを使って的確に情報を得ながら,該当する国等を調べ,理解を深める。
・電子メールによる情報交換で,エジプトについて,そこに住む人々について理解を深め,国を越えて人とつながったり,ふれあったりする楽しさを知る。
・交流先の生徒の美術作品を鑑賞し,作品を通じて感じたことを伝えあう中で,心の深い部分での交流を楽しみ,偏見のない,人間同士のつながりを大切に思う心を育てる。

(3)利用場面:
この活動では次のような学習場面でコンピュータを利用する。
1) 調べ活動
 コンピュータでエジプトについて調べる活動をする(CD・ホームページ利用)
2) 交流活動
 コンピュータ(インターネット)でエジプトの生徒と電子メールの交換をする。

(4)利用環境
  子どもたちはこれまで英語の授業でルーマニア,パラオ,カナダ,アメリカ等いろいろな国の子供たちと文通やメッセージの交換を行ってきた。又,アメリカの同時多発テロの後は特にニューヨークの学校と平和についての意見を交換するなど,継続的に国際交流的なことを行ってきていた(全て紙による交流)。コンピュータについては技術科や数学科の授業を通して基本的なことは学んでおり,インターネットのやり方も全員ではないがかなり多くの生徒が精通している状態にあった。電子メールは回線がつながって間もないこともあり,学校としてメール交換の活動は全くしていない状態であった。
 西東京市ではコンピュータ専門員が週2回学校に来てくださり,専門的なことを教えていただけるので大変心強かったが,生徒が活動する時間(授業・部活動)と必ずしも一致しないため,直接生徒指導をしたわけではなかった。

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2. 指導計画

 
美術科
 
英語科
 
JRC部
(青少年赤十字部)
9月

 


 


 
本校紹介用ホームページ用の写真をデジカメで撮影する。
10月

 
自画像の版画制作の準備を始める。(1時限)
 


 
エジプトについてインターネットで調べる。(3回)
11月

 
制作開始。(2時限)

 


 
調べたものを壁新聞の形にし掲示する。
(2回)
12月

 
刷り上がり。(2時限)

 
アラビア語の初歩を学習する。名札兼メッセージカードを作成し,作品に貼る(1時限)。

 
12−1月
作品を携え,美術科教諭他2名がエジプト訪問。現地で作品の展示・版画のワークショップを行う。(9日間)
1月

 
エジプト訪問報告及び,エジプトの生徒の作品の紹介。 エジプトの生徒からのメッセージカードを読む。エジプトの物や文字に触れる。

 
2月


 
エジプトの作品展示会(校内)。写真に撮り,現地の学校に送る。
 
本校の様子を取った写真をパワーポイントで送り,紹介する。
エジプトの作品についての感想を英語で書き,電子メールで送る。続いてお互いの生活を紹介し,質問しあう。
3月
 
自画像版画,名札カード,エジプトの生徒の作品とメッセージを載せた文集を作成する。
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3. 学習の展開

(1)エジプトについて調べる。
 JRC部の活動としてインターネットでエジプトについて調べた。「エジプト」で検索し,大使館関係や観光旅行社,大学の研究室等のサイトで主に調べたが,エジプトとなると個人でサイトを開いている人も多く,ミイラの作り方等というサイトもあった。子どもたちは興味を引かれていたが,個人のサイトになると,どこまで本当かという信頼性の問題も発生し,子どもとともに大人も考えさせられた部分であった。
 プリントアウトし,模造紙に貼って学年全体の生徒で見られるようにした。

(2)自画像を刷る。名札兼メッセージカードを書く。
 「オレだって刻みつけたい何かがある。」というスローガンのもと,15年間生きてきた自分を見つめ,それを自画像という形で表した。下絵を描いた後,版木に彫り,刷った。
 英語の授業で簡単なアラビア語をプリントで学んだ後,B6版の大きさの紙に自己紹介とエジプトへのメッセージを英語と一部アラビア語を交え書いた。顔の見える交流を目指し顔写真(又は似顔絵)も片隅に貼った。それを自分の版画の下に名札代わりに貼った。

(3)エジプトで作品紹介とワークショップをする。
 2001年12月29日(土)より2002年1月5日(土)の約1週間(正味),神教諭とコーディネーターの松田氏がエジプトを訪問し,下記の学校で交流を行った(主にカイロ近郊)。
1) エル・アルスーン校(El Alsoon School)
 − ギザ市サッカラ,私立校
2) アッバース・アル・アッカド・ランゲージ校(Abbas Al Akkad Language School)
 −ナセルシティ,公立校
3) イブン・エル・ナフィース・ランゲージ校(Ibn El Nafees Language School)
 −ナセルシティ,公立校
  *1)〜3)とも幼稚園から高校までの一貫教育校で男女共学。
4) ヘルワン大学美術教育学部,ザマレック
5)ルクソール大学美術学部,ルクソール市
 *4)〜5)とも美術の教員を育てる学部
 本校から持参した版画の自画像を紹介・展示した後,紙版画のワークショップをエジプトの生徒たちとともに実施。紙版画を選んだのは,表現の技法において日本的なものであり,かつ1時間程度の時間で仕上げられるものであること,授業準備が簡単であり,使用する道具が日常の生活の中にあるもので携行可能であること,の2つの観点からである。又,今回持参した作品は木版画の作品であったため,版画というコンセプトで活動できれば,関連性を,持った取り組みとすることができる,というねらいもあった。
 子供達は未知の表現を楽しむように前向きに取り組んでいた。通訳を介しての授業だったので,いつものように子供達と言葉のキャッチボールをしながら表現へと向かわせることができないのがもどかしかった。しかし子供達はいきいきとした表情で紙を切り,台紙にはりつけていく。そんな子供達の熱意におされ,こちらも身振り手振りそして片言の英語で,時には制作に手を貸しながら「ハンガ,ハンガ」と口走りながら授業を進めていく。子供達も「ハンガ,ハンガ」と答えてくれる。文字通り美術を介してのコミュニケーションである。言葉が通じない違和感はなくなっていた。
製版が終わると最後の刷りである。インクをつけバレンでこする。刷り紙を版から離すとそこに形が浮き上がる。輪郭線を囲む,紙の地色のぼんやりとした面,一瞬のうちにたちあわれる予測不能な世界に,子供達の表情がぱっと明るくなる。この瞬間は日本の子供もエジプトの子供も変わらない。

(4)エジプトの作品とメッセージを紹介する。
 帰国後,美術の授業でエジプトの写真や資料とともにエジプトの生徒の版画を紹介し,その制作風景をビデオで紹介した。生徒はピラミッドなどの象徴的な写真はもちろんだが,そこに暮らす生徒に自分の作品が紹介されている風景を非常に新鮮に受け取ったようだ。又,日本の子どもにとってはなじみのある紙版画に描かれたエジプトが非常に興味深く感じられたようだった。この後,エジプトの子ども達の版画を現地でデジタルカメラで撮影した作者本人の写真とともに,「エジプト交流美術展」と銘打って校舎内の廊下に展示する(2月1週間程度)。表現の違いは文化の違いということを体感させたい。

(5)エジプトの生徒と電子メールを交換する。
 交流先の学校のうち,学校としてメールアドレスを持っているEl Alsoon School とIbn El Nafees Language Schoolの2校とメール交換を行う。この2校と本校ともアドレスは生徒個人持ち,と言うわけではなく,学校に1つなので,運用面を考えてepalsのシステムを使うこととする。
  日本側からスタートし,内容としてはエジプトの紙版画の感想,自分の暮らしぶりを含めた自己紹介,相手への質問とした。相手からの返答はまだであるが生徒たちの卒業までの短い時間内でも2〜3往復はさせたい,と思っている。
 学校紹介ホームページを開くべく活動してきたが,諸事情で間に合わなかったため,ほぼ同内容の物を当該校宛にパワーポイントの形で送ることにする。

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4. 成果と課題

○成果
 いずれ実際にインターネットで交流する,という目的があったため,ホームページで調べる活動の時点から子どもたちはかなり熱心に取り組んでいた。
 又,初めてパソコンにさわった生徒もいたが,ホームページで調べものをする活動やメール交換の作業など,ガイドしてもらいながら進める内に,みんな基本的なことは一人で使いこなせるようになった。現代に生きる子どもたちのたくましさを感じるとともに目的を持たせることの大切さも痛感した。
 コンピュータを介してのみでなく,美術作品を通しても交流できたことは非常によかったと思う。「肌のぬくもり」のようなものが感じられることはむしろこれからのコンピュータ時代,大切なのではないだろうか。
 最終的に伝えたいのは「情報」ではなく「心」であるのだから。
○課題
・コンピュータ施設,それもインターネット回線のある学校に交流先が限られてしまう。
 自ずと先進国の方が取り組みやすく,途上国の場合は一部の学校等非常に限られる。
・両者の人数のアンバランスがあまりあるとやりにくく,調製する必要がある。
・インターネットの即時性が魅力であるはずなのだが,結果としてお互いの行事(試験等) やコンピュータ室の利用制限等の関係で即時と言うわけには行かず,魅力は半減する。
・外国との交流にコンピュータは大変有用だが,どうしてもバーチャルな世界にとどまりがち である。画面一つ・ワンクリックでつながれる簡便さがかえって実感の伴わない,無機質 な交流になってしまう危険性をはらんでいると思う。インターネットでの調べ学習も短時間 で多くの情報を得られるため,どれだけ子どもたちが自分のものにしていけたか,少々疑問が残る。情報の信頼性の問題も依然大きな問題である。
・総合的な学習として国際交流を行っていくことも増えると思うが,「さあ交流しましょう」で はなく,教科学習などの積み重ねの上にそういった交流が積み重なっていくと内容が深まると思う。今回の交流は美術の授業で「自分を見つめる」という原点から出発して自画像 を描く,英語の授業で英文で自己表現をする,という2つの教科で普段の学習を深めながら,そこにコンピュータが絡んでいく,と言う形で進行していった。どちらの分野でも普段の学習の積み重ねと深まりがあったからこそ,よい形の交流になったのだと思う。
・コンピュータ専門員の配置があったからこそ,出来た部分もある。学校教育でのコンピュータ・インターネット利用を高めるにはこういった専門員の配置がどこの学校でも不可欠であると考える。
・交流は1つの国とやって終わりでなく,いろいろな国と交流させていきたい。

ワンポイント・アドバイス
・交流は最終的に子どもたちにどんな力をつけさせたいのか,を自分の中にしっかり持って取り組みたい。
・外国との交流においては自分の国のことについてしっかり説明できるようしておきたい。
・コンピュータを介して交流するにしてもそれを成立させるのはやはり人間である。交流する両者に子どもたちを結びつける仲立ちとしての大人(教師)がいないと成り立っていかないし,継続は難しい。それも根気が必要である。  

参考文献等
・世界各地のくらし30 エジプトのくらしー日本の子どもたちがみたコーランとピラミッドの国(ポプラ社)
・いろんな国いろんなことば(3)こども・友だち・学校 世界の子どもたち  ポプラ社

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