E-Square ProjectEスクエア・プロジェクトホームページへ 平成13年度 成果報告書
目次へ戻る総目次へ戻る

実践事例の報告  学校法人高橋学園 千葉学芸高等学校

発想法の育成Webプロジェクト
−ネットワークを活用した創造的発想を育成する教材の開発・研究−

学校法人高橋学園 千葉学芸高等学校
原田康司 高橋邦夫
harada@cgh.ed.jp
http://www.cgh.ed.jp/cec2001
キーワード 創造性の育成,等価変換理論,TRIZ,Web教材

インターネット利用の意図
 リアルタイムで意見や情報交換のできる掲示板,各種研究機関等のデータを利用するためにはインターネットの利用が最適であり,必要であると考えられた。

目次へ戻る

1. ねらい

 学校教育における学習活動の形態はさまざまな方向性を示している。その中でインターネットを利用した調べ学習や総合的な学習の重要性は増していくであろう。そこで調べたものをどのように活用し,発展させていくか,さらにはどのように生徒自身に考えさせていくかということは教育実践上の重要な課題である。しかしながら,課題学習における問題解決などの発想法の教育手法については未だ確立していないのが現状である。他方,科学技術分野ではTRIZやUSITといった新しい手法をもとに創造性の開発を支援するツールが適用されつつあり,これらが学校教育に利用されれば発想法の教育の手法として有効なものとなる可能性がある。
 そこで,本企画では現状を踏まえ,ネットワークのもつインタラクティブな特性を活用し,創造性の開発を支援する手法を用いたWeb教材を開発し,学校教育への適応可能性を検討した。この企画は高校生の創造性の育成を図ろうとする教材を開発する初めての試みであり,物の見方・考え方を養うことで情報社会に主体的に対応する態度を育て,問題を解決する能力の育成にも効果を期待できるものである。

目次へ戻る

2. 指導計画

 本企画は創造性の開発を目的としている。ここでの創造とは「新たに造る」という意味ではなく,「過去の事例を参考に新たな視点から物事を変換再構成して新しいものを創り出す」という行為を意味する。そのために,「物事や問題の本質を捉え,視点や考え方を変え,何か新しい物事を創り出したり,問題解決する能力を育成するというアプローチを試みた。
 まず,物事を抽象化,モデル化して物事の本質を捉えることを学習する。そのために,本企画では異なった物の中にある等価な物を探すという教材を作成した。
 次に模倣から創造への発展について考えさせる。視点を変えることで模倣ではなく創造としての発展があること,また,歴史的な発展はその連続であったことにも言及する。
 最後に身近な発明を取り上げ,TRIZの手法の有効性及び,その他の事例についても考えさせる。TRIZとは発明のヒントを与えるためのツールであり,様々な解釈・各人の感性によっても生み出されるものが違ってくることを理解させる。
 また,各教材はコンピュータ部の生徒が自らの観点でどのようにすればわかりやすくなるのかという点について留意し,作成した。結果,図を多用することにより親しみやすく考えるための例題のページと解説のページからなる。

図1 教材1
図1 教材1

2.1 教材1 等価性の発見
 「同じものを探してみよう!」(1時間)(図1)
(1) 目的
 具体的な事象を抽象的な事象として捉え,本質を把握することによって,他と比較しその中に等価関係を発見することを目的とした教材である。ある意味で連想ゲーム的な教材であり,難しいものとは思われないかもしれない。しかしながら,普段から物事を見る中で抽象化・モデル化をする能力を養うという点において活用する。元来,物の形態は機能性に関連する要素が必ず関係しているはずであるという思想からすれば,形態が似ているものの中にはその機能性に何らかの同一性が見出せても不思議はない。そこでいくつかのものを例にとり,形態を抽象化し,その機能性を考えさせることを目的としている。
(2) 指導目標
 物事をモデル化・抽象化させ,その中から物の本質について考えることができるようにさせる。
 ものの形態と機能性の間にはなんらかの関係性があるという考え方を学び,いろいろな視点からものを見る力を養う。

 

 
図2 教材2
図2 教材2

2.2 教材2 視点の変化
「模倣から創造へ」(0.5時間)(図2)
(1)目的
 人間の歴史的な経緯の中では模倣が必ずしも創造を生み出さないわけではないことが証明されている。教材1では同じということで模倣ということが強調されてしまう側面をもっている。模倣とは創造と反対の意味をもつ語である。そのため,創造には「過去の事例を参考に新たな視点から物事を変換再構成して新しいものを創り出す」という行為もあるということを認識させる。たとえば運搬という視点で見た場合,木材の牽引から人間の運搬へという行為は単なる模倣である。しかし,人間の運搬ではなく乗り物としての馬ゾリへの発展と視点を変えた場合,これは明らかに創造なのである。また解説の中では火の使用を例として示す。すなわち,歴史的に見た場合,人間の模倣的な思惟が必ずしも模倣に終わるとは限らない場合があり,視点を変えることにより模倣ではなく創造へと発展するということを認識させることを目的とした。
(2)指導目標
 創造は模倣により生まれることがあることを認識させる。
 歴史的な側面からすると,道具の発展は模倣から生まれたと考えられることを認識させる。

2.3 発明の手法(1.5時間)
(1)目的
 創造の手法TRIZについて学ぶ。科学技術分野ではTRIZやUSITといった新しい手法をもとに,創造性の開発を支援するツールが適用され効果を上げている。これらのツールが学校教育において利用されれば,発想法の教育の手法として有効なものとなる可能性がある。そこで,発明とはどのような論理によってなされているのか,またそのためにはどのような考え方があるのかを学ぶ教材としてTRIZの解説および例を示す教材を作成した。例としては掃除機およびセンサーライトの例を挙げTRIZの理論での後付け例を示した。ここでは手法としてTRIZを使用するためにどのようなことが必要か,という点について考えさせる。
 何を改良したいのか,またその結果,何が問題になるのかということをモデル化・抽象化することからTRIZの理論によるいくつかのヒントが提示され,そのヒントをもとに新しい視点から問題解決の方法を得ることができることを認識させる。

 
発明の手法

(2)指導目標
 物事の本質を捉え,問題点を抽象化・モデル化する能力を育成する。
 TRIZの手法について学び,TRIZマトリックスからヒントにより問題解決を図る方法やその事例について学習する。

目次へ戻る

3. 学習の展開

3.1 使用教材
WWWブラウザ Microsoft Internet Explorer5.5 SP2
Web教材   http://www.cgh.ed.jp/cec2001/
参考資料   http://almond.kek.jp/~mejuev/Triz/index_j.html

3.2 授業展開

授業計画

 

事前アンケート

事前アンケートについては予備知識なしで行なう

導 入

創造とは何か,発明とはどんなことかについて考えさせるよう発問しながら導入を行なう

等価性の発見
教材1 

1.自ら考えさせ,考えた結果を掲示板にて発表する。全員が何らかの形で意見を出せるよう配慮する。
2.ものの形と機能の間に相関があることを理解させる。
3.自ら例を考えさせ,インターネット等を利用して調べさせ,掲示板で発表させる。
4.掲示板の意見については自らの意見だけでなく,他人の意見についても確認させ,いろいろな意見について考えさせる。

視点の変化
教材2

1.歴史的に見た場合の物事の発明は模倣から生まれていることもあることに気づかせる。
2.視点を変えることにより模倣から創造が生まれることもあることを認識させる。

発明の手法
教材3
参考資料

1.身近な発明・改良の中にどのような利点および欠点があるのか考えさせる。
また,その問題を抽象化することを学習する。
2.TRIZの手法について理解させる。
3.身近な問題の解決方法にどのようなものがあるのか考えさせ,掲示板を利用し発表させる。

事後アンケート

事後アンケートの実施

目次へ戻る

4. 成果と課題

4.1 事前・事後アンケート結果
表1 物の形と機能性について

 

あると思う

どちらかといえばあると思う

どちらかといえばないと思う

ないと思う

授業前

9.9%

67.9%

18.5%

3.7%

授業後

65.0%

21.3%

6.3%

7.5%

機能性

授業前

4.9%

16.0%

46.9%

32.1%

授業後

63.8%

21.3%

13.8%

1.3%

表2 模倣と想像の間にどんな関係がありますか

 

同じ意味

模倣の先に

創造がある

想像の先に

模倣がある

反対の意味

授業前

3.7%

16.0%

7.4%

72.8%

授業後

11.3%

21.3%

52.5%

15.0%

表3 普段新しい機能について考えたことがあるか

 

ある

少しある

多分ない

ない

授業前

21.0%

43.2%

32.1%

3.7%

表4 TRIZを理解できましたか

 

理解できた

少し理解できた

よく理解できなかった

理解できない

授業後

21.3%

51.3%

16.3%

11.3%

表5 TRIZを使ってみようと思いますか

 

利用しようと思う

少し利用しようと思う

あまり利用しようと思わない

利用しようと思わない

授業後

18.8%

42.5%

23.8%

15.0%

4.2 成果と課題
(1)等価性の発見
 形態の相似性については,もともと直感的理解がなされていたようであるが,機能性との関連性については理解がされていなかったといえる(表1)。しかし,授業後では形態性と機能性の面での関連性について思考することができるようになり,形態の抽象化および等価性の発見について効果が見られた。

(2)視点の変化
 教材を用いた学習により,視点の変化,模倣と創造について理解し,問題解決に適用できるようになった(表2)。しかし,中には模倣と創造が反対の関係にあると考え,同じものとしては認識できないという少数意見もあった。

(3)TRIZの手法
 利用してみようという興味をもった生徒が半数以上いた(表4・表5)。その反面,理解できなかった,面倒くさいという理由で利用しようと思わない生徒もいた。

(4)まとめ
 創造性の育成に関して効果を上げられたと考えられる。特に,「等価性の発見」および「視点の変化」では大きな効果を上げ,各人が何らかの意識をもてたようである。
 TRIZの利用では新製品という題材を取り上げた。発明や新製品にはかなりの生徒が興味をもっているが,その必要性や,改良の根拠を深く考えようとしない傾向がある。生徒に問題解決の一手法としてTRIZを用いるメリットを認識させ,創造的に考える習慣をつけさせることで,今後さらなる教育効果が期待できる。

(5)課題
 創造性の育成は授業の中で教えることで身に付くことではない。日々の生活の中で習慣化することにより効果を期待できる。今後どのように定着させていくかが大きな課題である。そのためにどのような方法が考えられるか検討中である。
 また,TRIZの概念や用語については技術用語や難しい言葉も多く,そのために理解できないという点もあった。さらにソフトウェアとしてのTRIZに対しては抵抗がある生徒もいた。今後はTRIZマトリックスの各発達段階に応じた用語の変更,簡略化した形でのWebでの提供も行っていく必要性が感じられる。

ワンポイント・アドバイス
 各生徒の意見を尊重するという形式の場合,生徒の人数に制限をつけたほうがよい。また,物の本質をみる一つの方法としてTRIZという手法があることを知り,日々の生活の中でも活用できるようにすると良いだろう。

参考文献・URL資料
市川亀久彌 「創造性の科学」 日本放送出版協会 昭和45年5月25日発行
大阪学院大学 中川 徹 TRIZホームページ
http://www.osaka-gu.ac.jp/php/nakagawa/TRIZ/
株式会社三菱総合研究所 知識創造研究チーム TechOptimizer体験版
Igor Mejuev氏 (高エネルギー研客員研究員)のTRIZ 矛盾マトリクスのツール (日本語版) http://almond.kek.jp/~mejuev/Triz/index_j.html

目次へ戻る

前のページへ次のページへ このページの先頭へ戻る


CEC