E-Square ProjectEスクエア・プロジェクトホームページへ 平成13年度 成果報告書
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実践事例の報告  東京都立工芸高等学校

高校生の調べた,地域公共施設の紹介WEBコンテンツ制作
−地域公共施設の親しみやすいWEBコンテンツ制作 −

高等学校3年・工業
東京都立工芸高等学校
グラフィックアーツ科 中西 芳樹
nakanisi@kogei-tky.ed.jp
http://www.kogei-tky.ed.jp
キーワード:地域密着・可読性・プレゼンテーション・メディアリテラシー

インターネット利用の意図
 グラフィックアーツ実習でこれまで制作している広告のデザインを生徒の興味・関心を維持しながら,地域に密着した教育を試みる。さらにマルチメディアネットワークを活用して生涯学習社会に対応できる力(情報発信者として,情報の受け手として)を育成する。また,Webコンテンツの制作において情報の可読性をはじめとして,グラフィックアーツの技術・理論を応用した親しみやすいコンテンツ制作を行う。

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1. 地域公共施設の親しみやすいWEBコンテンツ制作

ねらい
生徒がテーマに沿って問題を認識し,企画・立案する能力と人を説得できるプレゼンテーション能力を養い,生涯学習社会に対応できる(情報発信者として,情報の受け手として)を育成すること。
今日,われわれの社会において受け手としてだけの従来のメディアリテラシーを拡げて,情報の送り手としてのメディアリテラシーが重要となってきている。その意味では,メディアに関わる個々人の責任や規範の育成が求められている。
この実習で客観的判断と主体的判断の成長を促すことをめざす。これまで授業の課題として取り組んできた商品広告などのコマーシャルをベースとした制作とは視点の違う対象として公共施設のあり方をテーマとした。利用者と公共施設担当者とのコラボレーションによって公共施設の利用率の向上が図られるものと考える。このような観点から「考える力」「コミュニケーションする力」「創造する力」の育成を図る。

グラフィックアーツ科の学習
グラフィックアーツ科は,従来のマルチメディアにおける紙のメディアを含めて,最新のエレクトロニクスメディアにおける画像・情報のクリエイティブな制作について学習する。特にグラフィックアーツに関連するグラフィックデザイン・エディトリアルデザイン・タイポグラフィー・写真・DTP・3Dグラフィックスなどについて学習する。さらに自己表現力を育成するためにプレゼンテーション形式による学習展開を取り入れている。
・ 1学年ではグラフィックアーツに慣れ親しむこと。
・ 2学年ではグラフィックアーツの技術・理論の理解を深めること。
・ 3学年では生徒が主体的にグラフィックスの企画・デザインから最終製品の完成までを展開できる応用力を習得することを各学年の目標としている。
課題としてポスター・書籍・新聞等を企画・デザイン・編集して,最終メディアとして完成させている。さらに2次元アニメ・3次元アニメ・WEBコンテンツ制作などのメディアの多様化にも対応して実習を行っている。
グラフィックアーツを通して,豊かな感性と創造力を養い,人と人とのコミュニケーションを円滑に行い,クリエイティブな人格を形成することを目標としている。

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2. 指導計画・指導案

(1) 対象
グラフィックアーツ科 3学年 40名
教 科  「グラフィックアーツ実習」「課題研究」
(2) 実施体制
グラフィックアーツ科教員
(3) 実施カリキュラム
グラフィックアーツ実習(8単位)
課 題 研 究 (2単位)
(4) 実施内容
 実習グループを各班(4〜5名)に分け,各班が文京区施設(ふるさと歴史資料館,児童館など)を選択する。
(ア) 事前学習:各グループで選んだ公共施設の意義について事前学習をする。公共施設として文京区が設置しているものは多岐にわたり,施設の環境整備の根拠となる法律や社会的背景について図書館やインターネットによる検索で事前学習を行う。
 (例 文京区の歴史,生涯学習,男女雇用機会均等法,保育行政など)
(イ) 施設の取材:施設側の課題や利用状況,施設を利用する人々の要望などを取材によって把握する。
(ウ) 現状と課題:関係者とのミーティングを行い,“施設の親しみやすいWebコンテンツ制作”を企画・立案する。
(エ)Webコンテンツ制作:これらの情報を元にWebコンテンツのデザインワークに入る。
(オ)アップロード:本校サーバにアップロードし,地域住民へのPRに役立てる。

評価については,“公共施設の親しみやすいWebコンテンツ制作”を必須項目として,レイアウトの可読性や美しさ,広告の意味を明確に反映するように(公共施設としての社会的背景を吟味して)制作されているか。
さらにWebコンテンツとしてのインタラクティブな情報の提供に役立つアイデアを実現できるように工夫しているか。グループのプレゼンテーションなどを参考に総合的に行う。
(5) 実施スケジュール

期 間

企 画 内 容 の 項 目

指導のポイント

学習の展開

平成13年4月

 

“地域公共施設の親しみやすいWEBコンテンツ制作”

・文京区で配布しているパンフレットなどでどのような施設があるか調査する。

(導入)
*公共施設のPRは商業広告とは性格や目的が異なることを理解させる。
*はじめに広告と公告の定義や違いについて,生徒に考えさせる。
*今回のテーマに沿った“公告”を企画する際の要点について事前調査のデータをもとのグループ討論し,整理させる。



グループ討論

5月

・図書館やインターネットで公共施設について調べる。

・文京ふるさと歴史館,湯島生涯学習館,湯島児童館の取材の許可を得る。

・取材の準備をする。

・取材をはじめる。

・取材データを整理し,企画・立案する。(キャッチコピー・ラフスケッチなどの制作)

*文献やインターネット検索で公共施設のあり方や社会的背景について調べ,候補施設を決める。
*生徒が候補地として選んだ文京ふるさと歴史館,湯島生涯学習館,湯島児童館の公共の場としての必要性について学習させる。
*取材については施設の関係者や利用者の立場になって,それぞれの意見を引き出せるよう事前の準備について指導する。
*キャッチコピー・ラフスケッチなどを制作して施設関係者と打ち合わせ,こちらのコンセプトを正確に伝え,施設関係者から指摘があれば取り入れるように指導する。

*施設の設置場所はその地域の歴史も反映していることを学習した。


取材をはじめる

6月

・広告デザイン決定
・テキスト編集・画像などの整理とコンピュータへ取り込み
・レイアウト完成

*これまでのグラフィックアーツ科の学習を生かして,読みやすさ,見やすさを十分に吟味して,Webコンテンツを制作するように指導する。

*地区ごとの特色をつかみ表現することも重視する。



テキスト編集・画像をコンピュータへ
取り込み,レイアウト

9月

・施設関係者との打ち合わせ及びプレゼンテーション

・WEBページ作成・テスト
・HPへアップロード

*プレゼンテーションは施設関係者の立場に立って行う。

*9月14日本校ホームページ開設と共に文京区の施設紹介をアップロードする。

 

*文献やインターネット検索で公共施設のあり方や社会的背景について調べ,候補施設を決める。

*生徒が候補地として選んだ女性センター,本郷保育園,総合体育館について学習し地域との関わりを調べさせる。

*取材については施設の関係者や利用者の立場になって,それぞれの意見を引き出せるよう事前の準備について指導する。


完 成 例

* 特に今回の不忍通りふれあい館は地域と密着した施設であるために利用者の関心も高い。


施設関係者,利用者との打ち合わせ

10月

・取材先の選考準備をする。

 

・女性センター,不忍通りふれあい館,本郷保育園,総合体育館に決定する。


・取材をはじめる。

11月

・企画・立案(キャッチコピー・ラフスケッチなどの制作)

・関係者とプランについて打ち合わせ
・利用者のインタビュー

*キャッチコピー・ラフスケッチなどを施設関係者と打ち合わせ,こちらのコンセプトを正確に伝え,施設関係者から指摘があれば取り入れるように指導する。
*地元の人との話し合いで地域情報を収集する。

 

不忍通りふれあい館で利用者へのインタビュー

12月

・デザイン・コンセプトを決める
・テキスト編集・画像などの整理とコンピュータへの取り込み
・レイアウト完成
・施設関係者との打ち合わせ及びプレゼンテーション
・WEBページ作成・HPへアップロード

*プレゼンテーションを行い,パンフレット,Webコンテンツの最終確認をする。レイアウトを完成させる。

*本校サーバーへデータをアップロードする。


樋口一葉をモチーフにデザイン

平成14年
1月

 

・これまでの実習の反省とこれからの課題について

*公共施設の利便性を高めるためにCCDカメラなどを用いて,よりインタラクティブな情報発信システムを構築し,実習に取り入れる。

 
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3. 学習の展開(具体的な場面,内容/エピソード/効果)

(ア)公共施設の選定
公共施設といってもその内容は多様であり,生徒一人一人が最も興味を持つものを設定させた。
ただし,生徒が施設の選定をする際には次のことを考えさせる。
・異なる地域の同一施設を比較すること。なぜそこに施設が必要なのか?
・取材等の結果,施設PRのための改善点を見つけること。

(イ)事前調査
・公共施設の持つ社会的背景について正しい知識をもって取材できるように,図書館やインターネットを使って事前調査をさせた。このために施設担当者との意見交換が比較的スムーズにできた。また,施設内の写真撮影のアングルも決まりよい写真が撮れた。

(ウ)取材
・ふるさと歴史館や不忍通りふれあい館では利用者の施設に対する思いが熱く伝わってきて,コミュニケーションの場としての地域に根ざした公共施設の大切さを感じた。

(エ)Webページ作成
・本校ではHTMLによるWebページ制作を行っているので,エディターを使用させなかった。この結果Webページの画像サイズの変更やトリミングなど,レイアウトの実践的な力がついた。
・今後の指導のポイントは,ファイル名・拡張子をすべて半角小文字に統一させること。
生徒の制作したWebページを構成するファイル名にはアルファベット表記を指導したが拡張子までチェックをしなかったため,初めてアップロードしたときに表示できない画像があった。これは,OSがUNIXなどで構築されたサーバのへの対応として必要であり,Windowsレベルでは見落としがちなので注意が必要である。

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4. 成果と課題(学習意欲の向上等の成果,今後の課題等)

(1) 成 果
(ア) 地域に密着した学習で地域社会のコミュニケーションやそこに住む人々の地域への愛着心など,この実習を通じて学校では得られない体験をした。
(イ) プレゼンテーションはクリエイティブな一面であることを理解しているためか,生徒の発表はそれなりにできる。普段の授業中などで発表をしたことがない生徒でも「ていねい語」や「敬語」を使ってプレゼンテーションをする。その点では,普段と異なった生徒の側面に気づかされることもある。

(2) 課 題
(ア) プレゼンテーションの論理構成は生徒によってそれぞれの個性が発揮される。自ら調査するとプレゼンテーションに説得力や深みが出てくる。インターネットのホームページだけの調査のみで終わるプレゼンの場合,発表者に自信が不十分なためか説得力に欠けることが多い。
(イ) CCDカメラを用いた情報交換を学習現場に導入して今回の実践をさらに深化させる。

ワンポイント・アドバイス
1. 「考える力」,「創造する力」を育成することが大切である。プレゼンテーションの教育をパソコンの「How To Operate」に重点を置いてもさほど意味はない。パソコンは「何かをする(創る)」ための道具であり,道具として利用する経験に応じて「How To Operate」の能力は向上する。

2. 情報の受信者としてのみではなく,情報の発信者としてのメディアリテラシーの教育が大切である。限られた情報の中では,同一の情報を異なった文化的,社会的,経済的,歴史的観点から異なった結論を引き出すことは容易である。また,99%の事実と1%の虚偽によっても結論が異なることがある。IT化の時代は,「情報の氾濫」から「情報の選択」の時代に移行する。誰でもが「客観的で公正」な情報を発信するわけではない。常に主体的判断を求められている。

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