E-Square ProjectEスクエア・プロジェクトホームページへ 平成13年度 成果報告書
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実践事例の報告  横浜市立盲学校高等部

地学教育におけるインターネットおよびイントラネット利活用の試み
-盲学校児童・生徒の空間イメージ化を育てるインターネット活用法-

横浜市立盲学校高等部 太幡慶治・鳥居秀和・大野みさよ・連絡係:松田基章
学校ホームページ:http://www.edu.city.yokohama.jp/sch/ss/yokomou/
理科研究ホームページ:http://www.yokomou.ed.jp/rika/
連絡先:こちらへどうぞ

キーワード:

盲学校,高等学校,弱視学級,特殊教育学校
高等学校1・2年 盲学校高等部本科1・2年
地学1A 地学 理科
課題解決学習 総合学習 交流学習 海外交流 視覚障害教育
天文 空間概念形成 音による天体観測

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1. ねらい
 視覚障害児にそれまで地球規模の巨大空間のイメージ化は難しいとあきらめられてきたが,生徒がメールやチャットなどのインターネットを利用した交換の中で天気の変化や地震の揺れなどを通して地球の広さが感じられるということを実感させたい。授業外でも現在,生徒間のメールでの情報交換が始まっているので,理科の授業でもこのつながりを活用して,南中高度や時間の差を調べ,そのデータを基に地球の大きさを測ったり,流星を電波で観測して音で捉えたり,歩行の距離経験で育てた地理的空間概念を結びつけ盲学校の生徒に地球の広さを実感させようということがあたらしい試みである。これを機会として,盲学校間のネット利用による共同授業が普及していくことをねらうことにした。
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2. 実践経過
メディア活用の意義:盲学校に通学する生徒は小人数化故に,同じ障害を持ち発達段階の同じ生徒が共同で学ぶことが難しく,また県に1校という所が多く学校間の距離が離れているので気軽に情報交換をすることが難しい状況にある。また,盲学校の生徒は広い空間を見渡す視力を持っていないために地球規模の空間イメージを実感させることが難しい。この両課題をIT活用により,時間と距離を超えて同じ課題に取り組ませ課題解決と経験共有と仲間意識に結びつける実験を行うことを昨年来から盲学校間で話し合ってきていた。インターネットを活用し,地域情報を交換することにより視覚障害生徒に地球という空間のイメージを地学の授業とその延長線上の総合学習の中で実感させることをねらった取り組みである。
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3. 実施スケジュール

期間:平成13年4月〜平成14年3月
4月:生徒から「地学:研究計画書」提出(35時間/年間)
5月:各地の盲学校と高等学校理科部会に共同観測呼びかけ
6月:準備観測 6月14日(木)4時間目(地学)12:00
   第1回観測 6月21日(木)夏至(観測)12:00
7月:天体望遠鏡と電波による流星の音観測を併用の試み
8月:全国盲学校教育研究大会(北海道)
9月:筑波大学(学生)より電波観測に適した周波数等の情報が提供
10月:流星数を電波観測(オリオン流星群とジャコビニ流星群)
11月:CEC中間発表,獅子座流星群電波観測(測曇天で雲の間から獅子座方向観)
12月:冬至の太陽高度共同観測(データ交換):サンパウロ日本人学校の協力交流
   第2回観測 12月23日(日)
1月:データをまとめ自主研究レポートにする作業
3月:ホームページ公開「総合学習の時間」
5月:日本学生科学賞神奈川県予選に応募予定

実施環境:
インターネット・校内イントラネット(有線・無線)・webサーバ・移動用ノートPC・GPS・VTRカメラ・天体観測用機器・盲学校用特殊機器・アマチュア無線機器・パソコン計測システム等

メディア利用環境:
a.利用機種:Windows98パソコン
b.入出力装置:センサー計測システムの一部を利用(ウチダ)
c.稼働環境:校内ネットワーク接続(インターネット利用)
 PORER4100(日本ACRER )プリンター利用

d.利用ソフト:
音声スクリーンリーダー(画面読み上げ用ソフトウェア)
VDM100W
画面拡大ソフトウェア(弱視用)ズームテキスト(NEC)
ホームページリーダー(IBM)
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4. 実践内容

太陽の南中高度の測定実験
・実施日時 第1回 平成13年6月21日(木曜日)12時(夏至)
        第2回 平成13年12月23日(日曜日)12時(冬至)
・実験場所:盲学校高等部ベランダ
※メーリングリスト等で全国の学校に呼びかけ
・使用機材:感光器,太陽位置測定器,方位磁針ならびに校内LAN
・本校での取り組みの様子
 地学実験室の可動式実験台に盲人用方位磁針と太陽位置測定器に感光器(光の強度を音に変換する)とプリズムを使って組み合わせて一体化したもの(左写真)を固定した簡単なものである。太陽の南中高度測定は触察(目印)方式とVR(可変抵抗器)を利用した出力をセンサーとパソコン計測システムで同時に記録した。こうやって生徒の手で得られたデータと他校から寄せられたデータを使って「地球の大きさ」の計算を地学の授業でおこなった。

図1 太陽高度音声測定器
図2 測定の指導風景
図3 生徒の手による測定
図1 太陽高度音声測定器
図2 測定の指導風景
図3 生徒の手による測定

獅子座流星群の観測実験
・実施日時:平成13年11月18(日)〜19日(月曜日)の2日間
・実験場所:盲学校調整室
※メーリングリスト等で全国の学校に呼びかけ
・使用機材:アマチュア無線機材ならびに校内LAN
・本校での取り組みの様子(音による流星観測)
 オリオン流星群とジャコビニ流星群についても観測を予定したが,今年最大のしし座流星群を観測することになった。なお,メールを通じて音による電波観測の方法について筑波大学の学生ならびにソフト開発研究者の方より応援をいただくことができた。
 本校は山の頂上に建って(3階)おり北方向には新横浜,東方向には東京湾とベイブリッジ,南方向にはランドマークタワー,西方向には富士山が見え遮る物がない環境である。アンテナは屋上に鉄製タワーがありその上にある。校内ネットワークにつながれているPCは画像の左側にある。場所は調整室と呼ばれる放送設備の部屋の一角。

図4 無線機を使った観測
図5 校舎からの遠景(みなとみらい21方面)
図4 無線機を使った観測
図5 校舎からの遠景(みなとみらい21方面)

電波観測での生徒の反応:電波の反射音を無事に捉えることができるだろうかという心配は杞憂に終わり,横浜でも光害の少ない山の上の本校では雲の切れ間から夜空の天体ショーを音と暗視カメラで捉えることができました。弱視の生徒は暗視カメラで強調された光の帯を見て感動していました。また,流星により反射された電波の特有な音「コォーーン」という響きも空という巨大空間の広さを実感させてくれたと全盲の生徒が感動していました。同時にインターネットを通して離れた場所から聞こえる同じ流星からの反射音を比較してすごい距離を流星がすごい速度で移動していることを生徒は実感したようです。

(1) 盲学校独自の様子(例)
・地球規模の確認:背中からの光を受け,太陽と地球各点での角度を体感(図6)
 ハワイやサンパウロ日本人学校(協力校)などの位置を確認した。
・日本規模→地方図→都市図→近郊図(歩行地図との関連付け)の確認
 関東地区と横浜の位置関係を立体地図で触察確認(図7)
※自宅位置と学校位置の確認(直線距離など)  
 北海道帯広盲学校(交流校)の大まかな位置確認(図8)
※修学旅行先:北海道地区を考慮

処理した緯度差データと距離データから空間イメージを確かめる様子

図6
図7
図8
図6
図7
図8

補助的な説明:盲学校における空間イメージ形成を育てる(6つの観点)

観点<1>
観点<1>

観点<3>
観点<3>

観点<2>
観点<2>

観点<4>
観点<4>

観点<5>
観点<5>

観点<6>
観点<6>

授業実践事例:
<1>. 対象:横浜市立盲学校高等部普通科第2学年(生徒数:9名)
<2>. 教科:理科(新教育課程の総合学習を考慮しての取り組み)
<3>. 授業時数:24時間(概数)
南中高度の測定:8時間(1学期,2学期),流星の観測:教科時間外8時間(2学期)
データ整理とまとめ:8時間(3学期)
<4>. 教育課程上の扱い
教科領域区分:理科(地学T)→総合的な学習の時間
指導形態:チームティーチングと個別指導を弾力的に併用
地学TA (1)地球の構成 ア.地球の概観 (イ)地球の形状と活動
 地球の大きさ“エラトステネスの試み” の授業を平成12年に行ったところ,地球の大きさの計算法 R=360S/2π(α-β) αとβ=α・β地点それぞれの緯度,S=緯度間の距離を実際に測って地球の大きさを求めてみたいという希望が生徒から出された。これを平成15年度から始まる総合学習開始を意識して,平成13年に取り組んだものである。

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5. 実践成果

 盲学校では視覚障害により視覚情報の制限を受けるためにそれぞれの状態の応じた配慮が必要となる。生徒が自らの興味・関心を持った事柄に対して介助者の手を借りず(指導は受けるが),自らが主体的となり企画し,予定を組んでその活動進めていくという経験をさせることができたと思う。今回の取り組みは,視覚障害の生徒が「自ら学ぶため」にどういう環境を整えていったらよいかヒントを与えてくれた。その取り組みの中でITの利活用が視覚障害の生徒には有効であることが,以下のように感じられた。
 地学では地球という巨大空間イメージを形成し,そのイメージを基に天体や宇宙を捉えていく学習をおこなう。インターネットの活用により盲学校でもこのような取り組みが可能となった。空間イメージを基に考えさせることが難しい故にそれまでは,机上の学習を優先した「言葉中心」または,「模型中心」の地学の授業展開が本校では多かったと反省している。模型はあくまで「見たものを同じように見えるように作ったもの」であるから視覚経験のない生徒のとって実感を与えることは難しいことが多い。模型だけでなくそれを意味づけるメディアはないかと考えていたところに音声対応PCと校内LAN経由でのインターネットが登場した。
 今回は「歩くことで得られた距離感覚の経験」と「音によっても観ることができる」とインターネットを利用した「位置情報の交換を模型と結びつけてリアルタイムでイメージすることができる」の3つを組み合わせることによって空間イメージを膨らませる試みを行い,自主活動を確保することができた。視覚障害ゆえに「自ら学び課題解決できる能力を伸ばす」ことが妨げられることがあってはならないと思う。我々教員側のちょっとした工夫によって教材・補助具を開発し提供することにより生徒の意欲を引き出すことができ,次の意欲につながる「自ら学び課題解決できる能力を伸ばす」活動につなげることができる。「視覚障害の生徒が自ら取り組んだ活動そのもの」が成果であると思う。

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6. まとめ

このような取り組みができたのも南中高度観測のデータを快く送ってくださった小・中・高等学校・もう・老・養護学校の生徒さんと先生方の協力と深夜に関わらず電波観測に協力いただいた全国の研究者の方,天文愛好家のみなさま方とインターネットと校内ネットワーク設置のおかげだと感じました。この場をお借りしましてお礼申し上げます。得られたデータを使って生徒は「自ら問題を見いだしそれまで学んだ知識だけでなく自らの発想に立って課題を解決する課題解決総合学習(研究の真似事?)を生徒が始めたようです。このような機会を協力により与えてくださったみなさまに感謝します。ありがとうございました。

関連URL
北海道帯広盲学校:http://www.tokucen.pref.hokkaido.jp/obihiro_b/
サンパウロ日本人学校:http://www.nethall.com.br/spescolajp/

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