E-Square ProjectEスクエア・プロジェクトホームページへ 平成13年度 成果報告書
目次へ戻る総目次へ戻る

実践事例の報告  大津市立瀬田小学校

WBT(Web Based Training)システムを利用した学力評価システムの構築
−児童のつまずきを分析し,指導方略をデータで示す学習システムの開発と運用−

小学校 5年 算数
大津市立瀬田小学校 教諭 石原 一彦
WEBページ:http://www.otsu-seta-e.ed.jp/
メールアドレス:kazu.ishihara@nifty.ne.jp
キーワード 小学校,5年,算数,WBT,評価,レーダーチャート,指導方略

インターネット利用の意図
 WBT(Web Based Training)とは,主に企業や大学で企業研修や遠隔教育などで用いられている教育・研修システムで,WEBのインターフェイスを用いて,知識ベースの学習情報を提供し,評価を行うものである。WBTには大変優れた面がある。それは,そのデータ処理の速さと正確さである。この良さを活かした評価システムの構築が小学校の現場で有効に活用できると考えられる。従来,小学校における知識ベースの評価は主に紙メディアと教師の手作業で行われてきた。放課後の職員室では,教師が机に向かって採点をしている姿が多く見られる。しかし,単純な採点や集計作業に教員のマンパワーを振り向けるのは効率的ではない。そのような単純作業はシステムで処理をして,児童との面談指導や作文の添削,評価システムで得られたデータを元にした今後の指導方略の立案など,教師でしかできない創造的な仕事に教員のマンパワーを使う時代が来ようとしている。この企画では,富士通の「インターネットナビウェアー」を用いて,5年生の算数で実際に児童を評価するためのシステムを構築し,実際に評価テストを行って分析を試みた。

目次へ戻る

1. 単元名 「算数能力テスト」

1.1 単元のねらい
 本単元では,今までに学んできた算数の能力を項目に分けて総合的に評価テストを行う。この評価によって,児童一人一人の算数の能力を分析し,どこにつまずきがあるのかを見つけだして今後の指導方法を一人一人の児童に合わせて対応策を考察することがねらいである。

1.2 指導目標
 算数の評価テストを行い,児童の学習でどこに課題があるのかを見つけ,指導方略を立案する。

1.3 利用場面
 5年生の算数で「整数の性質」を学習する。この単元では,「偶数と奇数」,「倍数と約数」,「最小公倍数と最大公倍数」などを学習することになっている。この学習は今までの四則演算の計算の能力を基礎にして,数の意味を理解する大変重要な単元であり,後の分数の学習でも通分する際に必要な能力となっている。しかし,この学習でつまずいている児童も多く見られ,高学年の算数の一つの山場と考えられる。そこで,この学習を終えた時点で,総合的な評価を行い,一人一人の児童の持っている課題を見つけることにした。

1.4 利用環境
 評価用のWBTのシステムとして,富士通の「インターネットナビウェアー」を利用した。このシステムは,教材の作成や評価などに大変細かく配慮されていて,優れたユーザーインターフェイスを持っている。このシステムのために専用サーバーを購入し,このサーバー内にコンテンツを作り込むことにした。

専用のWBTサーバー
大津市立瀬田小学校のネットワーク
専用のWBTサーバー
大津市立瀬田小学校のネットワーク
インターネットナビウェアーのログイン画面
授業の風景
インターネットナビウェアーのログイン画面
授業の風景

1.5 稼働環境
 現在大津市立瀬田小学校のコンピュータ室には,デスクトップが25台,ノートパソコンが10台程度稼働していて,ほぼ一人1台を利用できる環境になっている。デスクトップマシンは有線で,ノートパソコンは無線で校内ネットワークに接続され,インターネットにもCATVの回線を使って,1.5Mの帯域で利用できるようになっている。

目次へ戻る

2. 指導計画

第一次
 算数評価テスト・・・・コンピュータ室でWBTのシステムを用いた算数評価テストをおこなう。
第二次
 成績の分析と課題の発見・・・一人一人に結果と成績のレーダーチャートを手渡し,それらの資料を見ながら,自分の学習にどこに問題があるのかを見つけ,これからの学習計画を立てる。

目次へ戻る

3. 学習の展開

学習活動

教師の支援

1. WBTのシステムの使い方を知る。

2. 評価テストをおこなう
・自分のIDとパスワードを入力し,WBTのシステムにログインする。
・テスト画面に移動し,テストをおこなう。
評価テストを終了し,コンピュータをシャットダウンする。

・プロジェクターを用いて,WBTシステムのログインの仕方や,評価テストの進め方を指導する。
・あらかじめ,IDとパスワードを印刷した個票を児童に渡し,パスワードの保護の大切さについても説明する。
・机間巡視を行いながら,操作方法でとまどっていないか確認する。
・すべての児童が受験したことを評価システムで確認しする。

目次へ戻る

4. 成果と課題

4.1 システムの構築
この企画で用いた算数の評価テストは以下の項目を設定した。

<1> たしざん
<2> 引き算
<3> かけ算
<4> わり算
<5> 小数の加減

<6> 小数の乗除(1)
<7> 小数の乗除(2)
<8> 整数の性質
<9> 公倍数と公約数
<10> 最小公倍数と最大公約数

ログイン画面
ログイン画面
講座の選択
講座の選択
テストの選択
テストの選択
テスト項目の選択
テスト項目の選択
問題の画面
問題の画面
成績結果一覧
成績結果一覧
SP表(問題の分析)
SP表(問題の分析)
SP表(学習者の分析)
SP表(学習者の分析)

4.2 成績結果に基づく分析
 このインターネットナビウェアーには,学習者個人や問題別,学習者全員別のなど多くの学習結果を分析する画面がある。SP表によって,問題の質を分析したり,学習者全体の能力をプロットして表示することができる,また,集計された多様なデータをCSVファイルの出力する機能も持っている。成績結果を出力して,成績別のチャートに表すと,児童一人一人の課題が見えてくる。我々教師は,このデータを元にして,児童一人一人の学習課題に応じた指導方略を立案することができる。
 また,データを分析していくと,これら項目別結果分析のチャートから,学習課題別のいくつかのパターンがあり,このパターンごとにグループ化されることも分かってきた。ここでは,学習課題別の典型的なパターンを見ていくことにする。

 ほぼ円形に近いチャートを持つグループである。このグループは,まんべんなく学習ができていて,能力の偏りもなく,習熟が進んでいるパターンを示している。
 このような子どもたちに,四則演算などの基本的な練習は必要なく,むしろこれらの知識をベースにした応用問題を与えて,より高度な思考鍛錬にチャレンジさせるべきである。

 左半分が欠けている半円型のチャートを持つグループである。このグループは,四則演算はきちんとできているが,小数の計算や,整数の性質など5年生で習った学習の定着が遅れているパターンである。
 これらのグループの子どもたちには,欠落している項目に関してワンポイントで教師の指導を入れ,さらに復習用の教材を用意してくりかえし定着を図る必要があるだろう。

 星形に近いチャートを持つグループである。このグループは,「たし算」はできても「ひき算」苦手であったり,「かけ算」はできても「わり算」が苦手であったりするグループである。位取りの概念や繰り下げのやり方に課題が残っていると考えられる。
 このグループの子どもたちには,ひき算やわり算などのくりかえし練習を与えて計算能力の定着をはかると共に,5年で学習した項目をさらに復習させる必要がある。

 全体にチャートの形が細く,貧弱な形を持ったグループである。このパターンの子どもたちは,算数に関して低学力であると言える。指導に当たっては,この児童とできる限りマンツーマンの指導ができるようにし,TTなどの体制を組んだりすることも考慮すべきである。簡単な四則演算の練習から始めて,ひき算やわり算などの繰り下がりを定着させ,何とか5年の学習までを復習させて6年で自信を持って学習できるようにしたい。

ワンポイント・アドバイス
 今後,WBTによる学習・評価のシステム構築が進むと考えられる。その際,全国の小学校教員が参加してよりよい評価テストを作成すると共に,共有しあってシステム全体を多くの手で育てていく必要があるだろう。このシステムによって,子どもたちに本当に必要な支援を与えることができるだろうし,系統だった連続的な「伸びの評価」を行うことも可能になるだろう。

参加・協力校の名称,参考文献,参考URL,引用等
富士通Internet Navigwareのページ  http://navig.fsel.co.jp/
大津市立瀬田小学校のWBTシステム    http://seta5.otsu-seta-e.ed.jp/inavi/

目次へ戻る

前のページへ次のページへ このページの先頭へ戻る


CEC