点訳歌詞データベース構築を目的とするボランティア学習の試行
−地域のボランティアサークルとの連携を活かして−
(1) ねらい
バリアフリーという言葉が一般的なものとなり,社会や街も少しずつではあるが,障がい者にとっても暮らしやすいものとなってきた。しかし,鉄道会社の点字表記の間違いなど,まだまだ,作れば終わり,後のことには責任を持たないというような風潮があるのも確かである。これらの問題点を是正し,いわゆるノーマライゼーションの社会を作っていくためには,行政への対応を求めるだけでなく,個人レベルでのノーマライゼーションに対する意識が重要である。そのためには,学校教育におけるボランティア学習のバリエーションの拡大と充実が求められている。
本校では点訳ソフトを使った学習をすでに5年前から初めている。当時は点字でプリントアウトした手紙を県立の盲学校に送り文通をしていた。ネットの普及により,本校も相手校にもネットが接続され手紙による文通からメール交換へとその形が変わってきていた。
本研究では,新たな活動として,情報機器を活かしたボランティア学習を考えた。選択授業の中で,パソコンと点訳ソフトを用いて,生徒が最新のヒット曲の歌詞を点訳し,ボランティアグループを通して視覚障がい者のもとへ届けるという活動である。視覚障害を持つ方の中にもカラオケを楽しんでおられる方は多い。通常は,歌詞カードを,点字板を使って一つ一つ点訳をするため,新しいものが次々と流行しては消えていく歌を歌詞に対応していくことは困難であった。これをパソコンの点訳ソフトを使い,歌詞をデータベースに保存し,必要に応じてプリンターを使って歌詞カードを印字できるようにすれば,最新のヒット曲にも対応することができるであろう。この活動によって視覚障がい者のレクリエーション,社会参加に寄与することができると考える。
この活動を中学生が主体的に行うことを通して,ヒットしそうな楽曲を敏感にとらえる「若い感性」という点で,障がい者と健常者に差がないことが自然に理解できると同時に,いち早く歌詞を点訳するという点で,情報機器が非常に有効な手段となることも理解できるものと考える。
本研究の成果があがれば,中学生が作成した歌詞のデータベース利用者が増えることが予測できる。これまでの点字板を用いた点訳方法に比べ,比較にならないほど多くの視覚障がい者に活用される可能性を秘めたこの手法は,中学生のボランティアに対する意欲を,より一層向上させるだけでなく,デジタルデバイドの対象者になってしまいがちな視覚障がい者にとっても非常に有効な歌詞の点訳データベースを構築させることができよう。そして,この活動や学習を通じてふれあう視覚障がい者の方々との交流が実現できれば,双方の心の成長にも影響を与えるものとなろう。
さらにこの活動を通して日本ではまだまだ「ボランティア=ただ働き」との考え方が根強いボランティア活動に対する社会の認識を改めさせる機会にしたい。自分の意志で楽しみながら活動に取り組むことは,自分自身の成長にも大きな影響を与えることになることが実証できると考える。
(2) 実施環境
・デスクトップ型コンピュータ20台(ネットワーク接続済み)
・点字プリンター1台 ・点訳ソフト(無料配布のもの)
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