E-Square ProjectEスクエア・プロジェクトホームページへ 平成13年度 成果報告書
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実践事例の報告  甲奴町立宇賀小学校

Webふるさと子ども市場
― 農業問題や電子商取引についての理解を深めよう ―

小学校3年生から6年生・総合的学習
甲奴町立宇賀小学校
湯浅 康司
uga@fuchu.or.jp
http://www.fuchu.or.jp/~uga/index.html

キーワード 小学校,3年,4年,5年,6年,総合的学習,電子商取引,社会科,農業

インターネット利用の意図
 本校は,全校で21名と極小規模校である。一人一人の児童に対して丁寧な指導が可能である。しかし,指導が行き届きすぎるあまり,過干渉となり児童の積極性が損なわれたり,多くの意見を聞いて,異なった意見や立場を理解し,問題解決をする資質や態度が育ちにくかったりする傾向もある。インターネットの利用は,教室や学校という枠を越えたつながりを可能にし,多くの友だちの意見を聞いたり,取り組みを知ったりすることが可能になる。
 また,農作物は収穫してから長い間保存することができない物が多く,その情報を早く,広い地域に送る必要がある。ホームページに収穫物の紹介を載せ取引すれば,ほぼリアルタイムに情報交換をすることができるため,インターネットの利用が有効であると考える。

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1. 単元名 ふるさと子ども市場

1.1 ねらい
  本校は広島県の中山間地の位置していて,町の人口は約3000人である。兼業農家がほとんどだ。他地域に働きに出るものが多く,農業従事者人数も減り,地域は過疎化の傾向にある。子ども達は一番身近である農業に関心が低く,また,機械化が進んだことにより,家庭が農業をしていても手伝いで農作業をする子は少ない。こういった過疎の課題を持つ町では,経済効率が悪く商売が成り立たないので店の数も少ない。子どもたちの中には,自分で買物をする経験が少ない子どもも多い。
  インターネットサービスにおいても同様で,十分なサービスが受けられず,地域ボランティア団体がインターネットの利用を促しても,ネットワークの広がりは鈍い。
 そこで,総合的な学習や栽培活動で同じような取り組みをしている学校どうしが,農産物を作る過程での工夫や苦労,収穫した農産物をホームページで紹介しあう中で,農業や食生活に対する理解と関心を高めたい。ホームページ上の市場作りを通して,自分たちの栽培した農産物を,交流相手校と電子マネーを用いて交換する電子商取引の仕組みやルールを考え,今後ますます利用されることが予測される電子商取引について理解を深めたい。また,多くの人の考えや,意見を聞く中で,異なった意見や立場を大切にしながら,問題解決する力を育てたい。さらに,この取り組みを地域のボランティアと共に考えたり,紹介したりする中で,中山間地域におけるインターネット利用の有効性を検証し,利用の活性化を図りたい。

1.2 指導目標
・他校との交流学習を進める中で,農業や食生活についての理解と関心を高める。
・みんなで市場のルールや,取引の方法を考えることにより,異なった意見や立場を理解し,大切にしながら,問題解決をする資質や態度を育てる。
・市場に参加し,農産物の交換をすることにより,電子商取引について理解する。

1.3 利用場面
この学習では,次のような学習場面でインターネットを利用する。
(1) ホームページとメールによる参加の呼びかけ。
(2) グループ紹介や地域の特徴,学習していることの紹介。
(3) 欲しい情報や聞いてみたいことなど,チャットや掲示板による情報・意見交換。
(4) オークション形式での農産物交換。
(5) テレビ会議による交流学習

1.4 利用環境
(1) 使用機種 デスクトップパソコン 6台 ノートパソコン 1台
(2) 周辺機器 USBカメラ 液晶プロジェクター 1台
(3) 稼働環境 ISDNダイヤルアップ接続 校内LAN 地域無線LAN

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2. 指導計画,指導案
 

指 導 内 容

6月

・転作の田を借用し農産物の栽培をする。
・栽培した植物の成長を観察し,記録する。
・社会科で日本の農業の特色を学習する。

7月

・作物の栽培方法や,農薬の問題,有機栽培など,インターネットを使って情報を収集する。
・インターネット上に「ふるさと子ども市場」を作成する。
(1) 青果市場の見学
(2) 校内で市場のせり体験
(3) インターネットを使った販売方法の学習(竹炭,家具,養鶏,工芸品など)
(4) 地域ボランティアの協力を得ながら,CGIを使い農作物の交換ができるページを作成する。

8月

9月

10月

・そのページを使い,互いの商品を交換する。必要に応じて,企画参加校内のみ有効な電子マネーを設け,オークションのようにして商品の交換する。
・地方独特の料理など,参加校どうしテレビ会議などを利用して交流学習をする。

11月

・近隣の企画参加校が集まり,地域の方を招待して収穫祭をする。
・交流のあったところと,寒い地方の暮らし(社会科 4年生)方言(国語科4年生)など,教科においても交流学習をする。

総合的学習指導案

1. 日 時 2001年10月15日(月)〜11月16日(金)
2. 参加者 協力校児童3年生から6年生
3. 題 材 ウェブ ふるさと子ども市場
4. 題材について
・ この地域で盛んだった農業も,労働時間に対する収入の低さから農業を離れるものが多くなってきた。一方で,共同による農業で生産コストを下げたり,労働時間を短縮している営農集団があったり,安全な農産物生産から食品加工,販売まで一貫しておこない利益を得ているグループもある。このような中で,農業を栽培のみでとらえるのでなく,消費者のところへとどくまでの社会と広くとらえることにより,農業をより深く学習することができる。
・ これまで本校の児童は,米作りや農産物を栽培し,労働の大切さや収穫することの喜びを味わう学習をしてきた。農産物を料理したり,ゲームを考えたりしながら,みんなで楽しい収穫祭をすることができた。しかし,農業の問題や食品の安全性,販売方法,流通のしくみなどについては考えを深めることはなかった。
 そこで,農産物を栽培し,工夫や苦労を交流する中で,農業に対する関心を高めさせたい。また,その販売方法も自分たちでルールを決め,インターネットを利用して農産物交換を行うことにより,販売や電子商取引に対する理解をさせたい。
5. 目 標
・農業に対する関心や理解を深める。
・みんなが利用しやすい販売のルールを作り,利用することができる。
6. 学習展開

 

学習内容

学習活動

支援と評価




1,学習課題の確認

本時の学習内容を確認する。

(評)意欲的態度で取り組むことができたか。

 インターネットを使い,自作の農産物や,地域の特産物を紹介し,ふるさと子ども市場で交換する中で学習を深めよう。


2,農産物を出品する

 自作の農産物,加工品を作る課程や,工夫したことなどをグループで話し合う。

 相手にわかりやすいように商品の紹介を書き出品する。

(評)工夫したことが相手に伝わるように表現できたか。

 特典を付けるなど,いろんな販売方法を紹介する。


3,農産物を買う

 ふるさと子ども市場に出品されている商品をみながら入札をしていき,参加者どうしがほしい商品を競り落とし購入する。

(評)電子商取引について理解し,欲しい商品を入手することができたか。




4,感想を出し合う

 農産物を受け取った感想や,競に参加した感想をメールに書き相手に送る。

 電子メールだけでなく,テレビ会議なども使い交流していく。

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3. 学習の展開

3.1 総合的な学習での農産物栽培
 今年度,総合的な学習で,農産物を栽培し農業や食に関する学習をすることにした。グループごとに計画を立て栽培を始めた。そば,アメリカのピーナッツ,さとうきびなどいろんな種類の作物を植えた。

3.2 ふるさと子ども市場の開設
 ホームページ上の市場で,ルールや取引方法を考えるため,次のような事前学習をした。
(1) 青果市場に行き実際に競のようすを見学。
(2) インターネットを使って商品を販売しているサイトを見ての学習。
(3) 実際に畑で収穫した野菜を使い,枝豆1莢の価値を基準にした通貨「エダー」を使い校内で競の体験をおこなった。
 このような学習を基に,子どもたちがホームページ上の市場の取引方法を考え,地域の方の協力を得て,CGIを使ったWebふるさと子ども市場を開設した。

3.3 ふるさと子ども市場を使った農産物の交換
 8グループの参加で,10月15日から11月16日の期間,市場を開催した。
 開催までには,各グループの紹介を書いたり,ふるさと子ども銀行へ口座の開設をしたりして準備をした。
 子どもたちは,グループごとに商品のアピール文を考えたり,落札者にはおまけをつけるなどの販売方法で工夫をしたりと興味を持って出品することができた。(図1)入札についても,始めはやり方がわからず不安がる子もいたが,希望商品に,他のグループが入札をしてくると,競ったり,入札時期を工夫したりして楽しんで市場に参加していた。
 出品された商品は,青森のりんご,宮城の三陸ワカメなど(図2)のように18件で,このうち12件が実際に取引された。インターネット上でやり取りするより,実際に商品が届くと交流しているということが実感でき,関心が高まっていった。

図1 商品を出品する
図2 出品と入札の画面
図1 商品を出品する
図2 出品と入札の画面

3.4 発展学習
 4年生,社会科「寒い地方のくらし」で,青森県と広島県の気候ちがいを知るという目的で,テレビ会議を使い交流学習をした。また,県内の学校とは,スキー教室をいっしょに行い,交流を深めた。

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4. 成果と課題

 ふるさと子ども市場終了後,参加した子どもたちと教職員にアンケートをとった。
 子どもたちは,23名が回答してくれた。そのうちの90パーセントが楽しかったと答えた。その理由として「買ってくれた人が,おいしかったと言ってくれたのがうれしかった。」「林檎やワカメなどは,どこの名産地かがわかったことがなぜか楽しかった。」「毎日,商品が売れているかを,見るのがおもしろかった。」「商品がくるのがたのしみだった。」などで,楽しくなかった理由は,「自分の出品した商品が売れなかったから。」というものだった。
 今後交流してみたいところとして,沖縄,九州,北海道が多く,中には外国の学校と取引してみたいというものもあった。また,その他の感想として,「もっと,友だちの様子や顔がわかると深く関わられたと思う。」「パソコンのやり方も少しわかった。」というのもあった。
 教職員からは,「子どもは意欲的に取り組むことができ,開催期間や時期も適当だった。」「社会科で,ほかの地域のくらしに目をむけたり,物流のしくみを学んだりするのに役だった。」「指導者の連携と事前の打ち合わせをもっとしっかりやっておく必要がある。」という意見が出された。
 子どもたちは,農産物の生産活動から,インターネットを使った販売・購入,料理まで体験することで,農業や食生活に対する理解と関心を高めたようだ。また,自分の住んでいる所と気候などが違う地方に興味を持つことができ,社会科などの学習につなげることができた。パソコンの操作がにがてだった子も,ふれる機会が多くなったこともありスキルアップにもなった。
 電子商取引についての理解は,自己評価になるが60パーセントの子どもがわかったと答えた。ホームページ上の市場作りにおいて,電子商取引の仕組みやルールを主体的に考えた子どもは,電子商取引について理解を深め,問題解決する力をつけることができた。
 このたびの企画は,年度途中からのスタートということもあり,参加校がたいへん少なくなった。また,教職員の事前打ち合わせが十分にできず盛り上がりにかけた。情報の交流や指導計画など,詳しい打ち合わせをどのようにしていくか課題である。
 また,中山間地域におけるインターネット利用の活性化を図り,地域のネットワークを教育に活かすため,今回の取り組みを地域に紹介した。農産物の交換については興味を示したものの,インターネットやパソコンの操作が壁になり,地域ネットワークを拡大することができなかった。今後,地域で生きるための情報教育のあり方を模索していきたい。

ワンポイントアドバイス
 交流相手を探すために,ホームページを検索したが,絞込みがたいへん難しく時間がかかった。学校でホームページを作成する時には,キーワードを記入する等工夫が必要である。また,今回は,市場と銀行のページを作成し,銀行のページはプログラムを作ることができず計算や手続きを手動でおこなったため,多くの学校に参加を呼びかけることができなかった。背伸びしすぎないよう企画を推進する必要がある。

利用したURLなど
 青森県弘前市立草薙小学校(http://www.hi-it.net/~kusanagi/index.html)
 宮城県歌津町立名足小学校(http://www.d1.dion.ne.jp/~yamataro/index.html)
 沖縄県具志頭村立新城小学校(http://www.ii-okinawa.ne.jp/people/arasiro/index.html)
 広島県上下町立階見小学校(sinamijs@fuchu.or.jp)
 広島県比和町立古頃小学校(kogoro@maple.ocn.ne.jp)
 甲奴町立宇賀小学校 ふるさと子ども市場
 (http://www.fuchu.or.jp/~uga/ichiba/index.html)

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