E-Square ProjectEスクエア・プロジェクトホームページへ 平成13年度 成果報告書
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実践事例の報告  岡山大学教育学部附属中学校

「インターネット情報局」に参画して電子絵本協同編集の輪を広げる研究
〜特別天然記念物オオサンショウウオの電子絵本作成による保護啓発活動を通して〜

中学校第1学年・総合的な学習の時間
岡山大学教育学部附属中学校 藤本 義博

キーワード 
中学校,総合的な学習の時間,インターネット,ネットミーティング,電子絵本,協同編集,交流,協同学習,絵本,異年齢,異校種,異地域,環境,特別天然記念物,絶滅危惧種,貢献・寄与

インターネット利用の意図
 オオサンショウウオを保護啓発するための電子絵本をインターネット上に設計した仮想の編集会議室を利用して異地域・異年齢間で協同編集したり,Webページやインターネットテレビ会議システムを活用して保護啓発活動を展開する。さらに,NHKテレビ「インターネット情報局」の番組スタッフや出演者,視聴者とインターネットを介して交流を行うことで,インターネットとテレビの異なるメディアの融合が保護啓発の心を広げるのに有効であることを実証したい。

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1. 単元名 「オオサンショウウオ保護の心を伝える絵本を作ろう」
図1 インターネット情報局
図1 インターネット情報局

(1) これまでの研究の経過
 国の特別天然記念物オオサンショウウオは,この40年ほどで急激に減少し平成7年には環境庁より絶滅危惧種に指定された。そこで本校では,平成11年より2年間にわたりEスクエアプロジェクトの研究助成を受けて,保護啓発のための教材開発を行う学習で,研究者,生息地内の住民の方への取材や小学生との環境交流学習の際にはインターネットやテレビ電話などを,教材開発の際にはビデオカメラやデジタルカメラ,コンピュータデジタル編集機等の機器を必要に応じて効果的に利用できる情報活用能力を育てた。さらにインターネットによるネットミーティングを利用して小学生とWeb上での電子絵本協同編集会議室の構築と運用方法も開発することができ,そこで協同製作したオオサンショウウオを保護啓発するための電子絵本を近くの幼稚園児に読み聞かせたり,Webページで保護啓発活動を展開してきた。しかし,幼稚園訪問には時間的,物理的制約があり,Webページでは交流校からの反響がある程度で,保護啓発の拡充に課題が残った。

(2) 本年度のねらい
 本年度は,NHKテレビ「インターネット情報局」にプロジェクトの活動をとりあげていただき,番組を視聴する全国の方々に対して,オオサンショウウオの保護啓発をうながし保護啓発の心を拡げることをねらいとする。また,異年齢・異地域間の環境交流学習を設計し,年齢や地域による認識の違いや人と自然との共生の考えや価値観の違いに気づき,自然や社会事象に対する見方,考え方を深めたり,インターネット利用による協同作業が豊かな心を伝え合い,広げ合うことを実感して適切な情報理解を行うことを目的とする。

(3) 実施環境
 仮想編集会議室にマイクロソフト社のネットミーティングを導入して,マネージャー(WindowsNTサーバー機)に,アップした原稿のサイトにアクセスしている学校の子供たちどうしがチャット画面で会議を行えたり,電子ボードで図を示しあったり,さらにファイル転送を利用して,マネージャーとエージェント(各学校の端末)間で原稿ファイルの転送,回収を行うことのできる環境を整える。(図2は,仮想編集会議室の概念図を示す。)
マネージャー機:WindowsNTサーバー,CPU(PentiumV800MHz),メモリ(256Mバイト)
エージェント機:CPU(PentiumV733MHz),メモリ(128Mバイト),キャプチャーボード(アルファデータAD-KP302)
ネット環境:1.5Mkbps,10BASE-T

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2. 電子絵本編集会議室の構想と研究授業
図2 電子絵本協同編集会議室
図2 電子絵本協同編集会議室

(1) 指導の考え方
 電子絵本編集会議室の目的は,オオサンショウウオ保護啓発にあるが,その目的を達成する過程で,オオサンショウウオの生態や生活環境の文献および実態調査の方法を身につけさせたり,小学生と協同で絵本の制作,編集を行う中で絵本の評価を得ながらよりよいものを創造する能力態度を育成する。この絵本の制作・編集の際にはインターネットのネット−ミーティングを活用しながら進めたい。さらに,制作のようすや完成した作品をインターネットで随時送ったり現地収録を行っていただき,中学生向け教育番組「インターネット情報局」で放映することで保護の心をさらに広げていく努力と社会貢献の体験を積み重ねることで,生徒の問題解決能力,創造しようとする態度を身につけさせ,よりよく生きる生き方に気づかせたい。

(2) 生徒の実態
 本校の総合的な学習の時間の取り組みは,平成12年度第1学年から始まった。平成13年度に履修した36名の生徒は,動物や植物が好きで,地球環境問題に危機感を覚え,自然環境とその問題に対する取り組みに少なからず使命感を持っている。しかし,何をどのように取り組んだらよいのかを具体的に説明できるまでにはいたらない。そこで,オオサンショウウオ保護啓発のための幼児用・小学生用電子絵本を制作する過程で,身近な環境問題に取り組んでおられる先達者の書籍,番組さらには取材を通して中学生にも十分に保護啓発のための具体的で実際的な取り組みを見いださせたい。また,電子メールやネットミーティングなどのオンラインでの交流や直接学校を訪問しあったりして可能な限り交流学習を行いながら,コミュニケーションの重要性を見いだし,オオサンショウウオ保護のために積極的に交流しようとする態度も育てたい。

(3) 指導計画
【生徒へのオリエンテーションの内容】

【プロジェクト名】特別天然記念物オオサンショウウオの保護啓発プロジェクト
     〜幼児向け絵本をNHK番組に参加して作って保護の気持ちを広げよう〜 
                                          プロジェクトの先生(藤本 義博先生)
【目的】
特別天然記念物オオサンショウウオの絵本をつくって,幼稚園のみんなにオオサンショウウオを好きになってもらおう!
【解説】 オオサンショウウオはかわいいとか守りたいとかと感じることのできる幼稚園向けの絵本を,NHK教育番組「インターネット情報局」に参加してつくろう。このプロジェクトでは,オオサンショウウオの生態や生活環境の文献検索および河川における実態調査の方法を身につけたり,現実の環境問題に接することで切実感のある自らの課題作りや主体的・創造的な学び方を修得できます。また,異年齢・異地域間の環境交流学習で,年齢や地域による認識の違いや人と自然との共生の考えや価値観の違いに気づき,自然や社会事象に対する見方,考え方を深めたり,保護啓発の絵本などを作って幼稚園の子供たちに紹介する体験を通して幼稚園児の素直な喜びに出会って,人に貢献することの大切さを実感しましょう。
【計画】
活動段階
学習活動とインターネットの関わり
<1> 目的設定
(2時間)
第1次「オオサンショウウオをもっと深く知ろう」
 2年生は,昨年度の課題を整理して,オオサンショウウオや絵本作りについてどんなことを深められるか考える。
 1年生は,文献,インターネット,ビデオ,NHK放送教材で調べたり,研究者から直接お話を伺って国の特別天然記念物オオサンショウウオについて知る。
<2> 計画
(2時間)
第2次「絵本制作の計画をたてよう」
 興味や問題意識をもって具体的な絵本のテーマ(絵本で伝えたい内容と心・気持ち)や対象年齢を考える。
<3> 探究活動
(4時間)
※宿泊学習の18時間は含まない
第3次「保護啓発のための資料を集めよう」
 自らの絵本のテーマにそって,対象年齢を設定し,わかりやすく興味をもてる表現のあり方を市販の絵本等から学び取る。文献,インターネット,ビデオ,NHK放送教材で調べたり,研究者の方に取材したり,野外調査を行ってオオサンショウウオや絵本作りに関係していることについてさらに深める。特に,2年目に当たる2年生は,5月に1泊2日で実施されるプロジェクト宿泊学習において,オオサンショウウオの生息指定を受けている河川に観察に出かけて環境の様子を撮影したり,住民の方に取材を行う。
<4> 表現活動
交流活動
(12時間)
第4次「交流学習を進めながら絵本を作ろう」
 NHKの番組スタッフや出演者,川についての環境学習を行っている学校などとインターネットの電子メールで交流学習を行いながら,インターネット上に設置した仮想の編集会議室を活用して,協同で電子絵本を制作する。
 「インターネット情報局」の本校での現地ロケで制作の過程を紹介取材していただき,絵本作りの意欲や作品の質をさらに高める。
<5> 交流活動
貢献・寄与
(4時間)
第5次「完成した絵本を送ろう,ホームページで保護をよびかけよう」
 協同で創作した電子絵本を保護区の学校へ送ったり,Webページで保護をよびかけたりする。1年間の電子絵本創作の体験を一人一人研究レポートにまとめたり,完成した電子絵本を教育委員会や教育センターの視聴覚ライブラリーに登録していただいて環境学習を行う学校に還元したり,放送局や新聞社等のメディアを利用して社会一般にも保護を呼びかける。
図3 本年度の作品例
図3 本年度の作品例
(4) 研究授業案(第4次5時)
本時の
ねらい
○ NHK番組「インターネット情報局」の取材を受けながら,インターネットのネットミーティングを利用し,附属小学校6年「は」組の児童36名に,特別天然記念物オオサンショウウオの絵本作りを紹介する活動を行って保護の心を広げ,自分の作品の改善点を指摘できる
学習活動
指導上の留意点
備考
1.交流学習のあいさつを行う。



2.児童にオオサンショウウオを紹介するとともに,本時の交流学習の目的を確認し合う。
3.制作途中の絵本を1枚づつ紹介し,児童の質問に答えたり,感想をまとめる。
4.附属小学校の児童が学んだことや興味関心がわいたこと疑問,感想などの発表を聞き,訪問児童との別れのあいさつをする。
5.絵本作りのために参考になった小学生の反応や,テレビ番組の取材の感想を発表し合い,まとめを行う。
1.ネットミーティングでお互いにあいさつをし合う。
 ・授業前に,NHK「インターネット情報局」のディレクター,出演者の方々と取材の打ち合わせを行っておく。また,交流会場のコンピュータや電話等の機器の準備を確認しておく。
 ・授業前後の自分自身の変容に気づくために,授業前に事前の気持ちをノートしておく。
2.岡山県庁文化課に保護飼育許可済みのオオサンショウウオを交流の児童に紹介して,オオサンショウウオに対する興味関心を高めるとともに,感想を簡単に聞いてリサーチする。
 ・制作途中のオオサンショウウオの絵本についての感想や改善点を指摘するモニターとしての役割を附属小学校の児童に説明する。
3.あらかじめ本校のWebページの電子編集会議室に制作中の絵本を掲載しておき,互いに同じ電子編集会議室の絵本を閲覧しながら,ネットミーティングする。
 
4.
小学校の担任教師の司会のもとに本時の学習で学んだことを発表させる。
 ・小学校の総合的な学習で取り組んでいる生き物の学習に関係していることを発表させ,絶滅の危機は野生生物共通の課題であることに気づかせる。
 ・今後は協同で絵本作りをすることを提案した後,お別れのあいさつを生徒の司会進行で行う。
5.制作意図が小学生にどの程度伝わったか,また改善をどのようにしていくのか簡単に発表させる。
 ・生徒一人一人に絵本作りの今後の計画を簡単に紹介させる。
 ・授業後の気持ちをノートし,授業前後の自分自身の変容を発表させ,今後の意欲を高める。
 ・取材の方々にプロジェクトの目的や取り組みに関する感想をいただき,保護の心を広げるための改善点を見いださせる。
ネットミーティング可能なコンピュータ
電話
オオサンショウウオ
事前ポートフォリオ





Web上の編集会議室









事後ポートフォリオ
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3. 実践結果
図4 本校を取材したようすを番組Webページに紹介しているようす
図4 本校を取材したようすを番組Webページに紹介しているようす
図5 自己評価の観点
図5 自己評価の観点

(1) 番組で紹介された内容
 「情報局に,かわいいオオサンショウウオのイラストがたくさん届きました。オオサンショウウオは,岡山県に生息する国の特別天然記念物。今では,日本と中国のごく一部にしか生息しない貴重な生き物なんですが,河川の開発などで急速に数が減っているのです。イラストは,オオサンショウウオを保護するためにかかれたものでした。そこで,番組では,作品を送ってくれた生徒のみなさんを訪ねることにしました。」(図4参照)

(2) 生徒の自己評価
 平成13年度のプロジェクトをおえて,大変よくできた5点,できた4点,どちらともいえない3点,あまりできなかった2点,まったくできなかった1点で自己評価をした結果を図5に示した。プロジェクトの計画や交流活動,自分の得意なところや長所をプロジェクトに生かして自分を見つめ直した(よりよく生きる)点で大変よくできたと評価していた。

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4. 成果と課題
 生徒は, 「このプロジェクトで,オオサンショウウオのことがわかってさらに好きになりました。『オオサンショウウオがいなくならないようにこれからもがんばっていこう!』と思いました。」と絵本作りを通して保護意識が高まった。また,インターネットを利用した絵本作りのための協同編集のシステムを手軽に構築できるようになったことは,環境整備の面で大きな成果であった。さらに,保護の心を広めるためにWEBページだけでなく,テレビ番組の協力を得られたことも大きい。しかし,ネットミーティングを利用した編集会議は1対1対応でしかないので,複数でライブに編集会議ができるシステムを開発して改善を図っていきたい。
ワンポイントアドバイス
 オオサンショウウオは,体長1m,なかには1.5mにも達する世界最大の両生類である。生きた化石といわれ学術的にも貴重な生き物であるために,昭和2年に岡山県の北部が生息地として,オオサンショウウオ自体も昭和27年には特別天然記念物に指定されており,飼育することも実際の河川で捕獲することも一般にはできない。本実践において,異地域・異年齢間での共同学習のためのインターネットの利用のあり方を参考にしていただければ幸いである
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