E-Square ProjectEスクエア・プロジェクトホームページへ 平成13年度 成果報告書
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実践事例の報告  愛媛県立新居浜工業高等学校

地域社会と連携した情報ボランティア活動の展開
−地域社会における情報格差の解消努力−

愛媛県立新居浜工業高等学校 宇佐美 東男(usami@ehime-net.ed.jp)

キーワード 
・情報格差    ・情報ボランティア  ・地域社会  ・コラボレーション
・情報インフラ  ・IT講習会   ・無線地域ネットワーク構築実験
・校内LAN    ・えひめGFDay   ・NPO   ・ストリーミングサーバ

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1. はじめに

 我が国のインターネット利用は普及期に入り,利活用によって利益を享受できるものと享受できないものとの格差が顕在化しはじめた。情報格差の出現である。
 インターネットの普及は様々な意味で社会に大きなインパクトを与えているが,情報格差の問題は,個人にとって社会生活の営みに大きな影響を及ぼす。また,企業など組織にとっても,情報化の問題をクリアできなければ存亡に関わる危機さえ含んでいる。今後,社会問題化することは必至であると思われる。
 国のe-Japan戦略では2005年を目標に世界の情報先進国を目指して,情報インフラの整備をはじめ,人作りや電子政府等のアプリケーション開発などに力を注いでいる。しかし,国内における情報格差の問題解決に対する明確なアクションプランはあまり見当たらない。このことは多くの自治体においても同様ではないだろうか。
 この情報格差に関する問題解決を地方のレベルで取り組むには,どのような方法があり,また実践可能なのかについて,これまで研究に取り組んできた。
 研究実践は,学校が設置されている地域社会と連携した情報ボランティア活動という形で進め,成果を得ることができた。

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2. 情報格差解決の方策

 個人や組織にとって,社会の情報化をスムースに受け入れることができない理由は大雑把にいって二つある。一つは情報化に対するスキルの欠如であり,それに対する研修の機会等が無いか少ないということであろう。二つ目は地方の情報インフラ整備が都市のそれと比較して,相当のタイムラグがあり,未だ充分整備されていないことである。
 そこで,誰もが任意に参加できるIT研修の機会を多く作ることが,解決の糸口となると考えられる。実践は学校独自に企画したIT講習会と国の計画に基づく県主催のIT講習会を本校で実施することで,高校生も参加した情報ボランティア活動の機会を得た。
 また,情報インフラの整備については,基本的部分は国の計画等によるが,エンドユーザの部分に関しては,地域の情報ボランティアの活用など,関係者の努力によってある程度は解決できると思われる。
 今回の研究では,地域社会と連携した情報ホランティア活動によるIT講習会への参加や無線による地域ネットワークの構築実験,校内LAN等ネットワーク構築作業に関する実践研究を行った。
 情報ボランティア活動を行う組織は,従来からこの地域で活動している任意団体「えひめGFDay:地域社会の技術者,専門家,研究会,情報関連産業等の業界組織によって構成」があり,この活動に参加してきた。今後,さらに安定した日常的な活動とするために,地域行政機関や研究団体,産業組織,一般市民等との連携を得て,NPO(非営利活動団体)等,法人格を持った情報ボランティア組織の設立準備に取り組んできた。

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3. 活動状況

 生徒たちは地域社会における情報格差解消を目的としたIT関連の研修会にボランティア活動として参加している。また,島嶼部・山間地などの遠隔地を対象とした無線地域ネットワークの構築について地域社会と共同研究を行っている。これらの活動には生徒,教職員,地域社会の専門家,地域ネットワーク提供企業,製鉄会社研究所,情報サービス産業等の業界組織が参加している。
 地域社会市民を対象としたIT講習会は,主に本校コンピュータ室を会場として行われた。これまで一年余りの間に延べ60日間行われ,受講者は約400名に達している。その中には85歳を筆頭に多くの高齢者の参加があった。この研修会には一日あたり2〜5名の生徒が参加し,日頃のIT学習の成果をボランティアとして役立てることができた。
 生徒たちの活動は受講者から高く評価されおり,このようなデジタルデバイドの解消を目的としたボランティア活動への参加は,情報化社会に積極的に参画する態度を育成する機会として位置けることができると考えられる。

IT講習に生徒が参加している風景
IT講習で高齢者を指導する生徒
「IT講習に生徒が参加している風景」
「IT講習で高齢者を指導する生徒」

(1)IT講習会の実施
実施場所:本校コンピュータ室  募集受講者数:各40名  実施日時:以下日時
平成12年         講習内容
12月6日午後6時〜8時 高度情報通信社会について,コンピュータとネットワーク等
12月7日午後6時〜8時 基本ソフトの操作,アプリケーションソフトの利用など
12月8日午後6時〜8時 インターネットの利用,情報検索,文書作成等
12月11日午後6時〜8時 ブラウジング,翻訳,Webメールの利用等
12月12日午後6時〜8時 POP3メールの利用,暗号化等
12月13日午後6時〜8時 ホームページの作成,情報モラル等
平成13年
1月29日午後6時〜8時 高度情報通信社会について,コンピュータとネットワーク等
1月30日午後6時〜8時 基本ソフトの操作,アプリケーションソフトの利用など
2月1日午後6時〜8時 インターネットの利用,情報検索,文書作成等
2月2日午後6時〜8時 ブラウジング,翻訳,Webメールの利用等
2月5日午後6時〜8時 POP3メールの利用,暗号化等
2月6日午後6時〜8時 ホームページの作成,情報モラル等

2月28日午後6時〜8時 高度情報通信社会について,コンピュータとネットワーク等
3月1日午後6時〜8時 基本ソフトの操作,アプリケーションソフトの利用など
3月4日午後6時〜8時 インターネットの利用,情報検索,文書作成等
3月5日午後6時〜8時 ブラウジング,翻訳,Webメールの利用等
3月21日午後6時〜8時 POP3メールの利用,暗号化等
3月25日午後6時〜8時 ホームページの作成,情報モラル等

5月9日午後6時〜8時 高度情報通信社会について,コンピュータとネットワーク等
5月10日午後6時〜8時 基本ソフトの操作,アプリケーションソフトの利用など
5月16日午後6時〜8時 インターネットの利用,情報検索,文書作成等
5月17日午後6時〜8時 ブラウジング,翻訳,Webメールの利用等
5月23日午後6時〜8時 POP3メールの利用,暗号化等
5月24日午後6時〜8時 ホームページの作成,情報モラル等

6月20日午後6時〜8時 高度情報通信社会について,コンピュータとネットワーク等
6月21日午後6時〜8時 基本ソフトの操作,アプリケーションソフトの利用など
6月27日午後6時〜8時 インターネットの利用,情報検索,文書作成等
6月28日午後6時〜8時 ブラウジング,翻訳,Webメールの利用等
7月4日午後6時〜8時 POP3メールの利用,暗号化等
7月5日午後6時〜8時 ホームページの作成,情報モラル等

9月25日午後6時〜8時 高度情報通信社会について,コンピュータとネットワーク等
9月26日午後6時〜8時 基本ソフトの操作,アプリケーションソフトの利用など
9月27日午後6時〜8時 インターネットの利用,情報検索,文書作成等
10月2日午後6時〜8時 ブラウジング,翻訳,Webメールの利用等
10月3日午後6時〜8時 POP3メールの利用,暗号化等
10月4日午後6時〜8時 高度情報通信社会について,コンピュータとネットワーク等

10月29日午後6時〜8時 基本ソフトの操作,アプリケーションソフトの利用など
10月30日午後6時〜8時 インターネットの利用,情報検索,文書作成等
10月31日午後6時〜8時 ブラウジング,翻訳,Webメールの利用等
11月5日午後6時〜8時 POP3メールの利用,暗号化等
11月6日午後6時〜8時 ホームページの作成,情報モラル等
11月7日午後6時〜8時 ホームページの作成,情報モラル等

11月26日午後6時〜8時 高度情報通信社会について,コンピュータとネットワーク等
11月27日午後6時〜8時 基本ソフトの操作,アプリケーションソフトの利用など
12月3日午後6時〜8時 インターネットの利用,情報検索,文書作成等
12月4日午後6時〜8時 ブラウジング,翻訳,Webメールの利用等
12月10日午後6時〜8時 POP3メールの利用,暗号化等
12月11日午後6時〜8時 ホームページの作成,情報モラル等
平成14年
1月8日午後6時〜8時 高度情報通信社会について,コンピュータとネットワーク等
1月9日午後6時〜8時 基本ソフトの操作,アプリケーションソフトの利用など
1月10日午後6時〜8時 インターネットの利用,情報検索,文書作成等
1月11日午後6時〜8時 ブラウジング,翻訳,Webメールの利用等
1月17日午後6時〜8時 POP3メールの利用,暗号化等
1月18日午後6時〜8時 ホームページの作成,情報モラル等

(2)無線地域ネットワーク構築実験
 無線地域ネットワーク構築実験に関する研究では,第三セクター方式で運営されている 地域CATV(ケーブルテレビ)会社,製鉄会社研究所(無線ネットワーク研究開発部門), 地域インターネット研究会,教師,高校生等が参加している。無線実験の例として,本校屋上(地図上の<1>)に2.4GHz帯のアンテナを設置し,約2500m離れた地域CATV会社屋上(地図上の<2>)との間で,パケット伝送試験を行い,約1M(Hz)の速度を確保できた。また校内に実験的な無線LANを構築し,電波の反射・回析等の実験も行った。この研究活動は,産・学・地域のコラボレーションといえる。特に,この活動の形態は,生徒たちにとって地域の専門家や研究機関との直接交流をすることで,学校教育だけでは得ることのできない貴重な体験学習の機会となっている。

無線による僻地地域ネットワーク構築実験エリア
「無線による僻地地域ネットワーク構築実験エリア」
「携帯用無線実験装置」

 このように地域社会とのコラボレーションは,従来の学習方法とは異なり,活動そのものが校内だけではなく,多くの人と関わりを持つことが前提となることから,学習活動はダイナミックなものになる。生徒に対して成長のきっかけを与えることにもなる。
 現在,約2500mの直線距離でのインターネット通信は成功しているのが,更に地図上の島嶼部<3>や山間部の中継地点<4>を経由して,山間僻地<5>までの実験に取り組んでいる。この実験が成功するには,山間部の地理に詳しい人や山脈による電波の反射影響などに関して経験豊かな人,通信関係の規制等法令に詳しい方など多くの専門家の活躍が条件となるが,これまで情報ボランティアとして活動してきた「えひめGFDay:情報ボランティア組織であり,活動の際は任意に参加できる自由な形態の組織」や自治体の協力で実験は順調に進んでいる。最終的には,僻地や遠隔地との間で動画教材等を配信できるストリーミングサーバを利用した実験やTV会議など動画情報によるコミュニケーションを行いたいと思っている。
 ストリーミングサーバで配信されるコンテンツは様々な場面で利用されることを想定している。例えば,校内クライアントからの動画教材利用,地域社会一般市民への学校情報公開,生徒の家庭学習用教材配布,中学校や進路選択用情報として中学生及び保護者の利用,進路指導関係として大学や求人企業などへの学校情報の提供などが考えられる。

ストリーミングサーバ
ノンリニア映像編集システム
「ストリーミングサーバ」
「ノンリニア映像編集システム」

(3)校内LAN等構築作業
 自校の校内LAN敷設工事は情報ボランティアとして特別活動(放送部など)で構築作業を行った。放課後を利用して約一年をかけ,全てのホームルーム教室や特別教室の敷設工事を完成させた。現在では全ての教室にはインターネットに接続されたパソコンが設置され,授業や休憩時間・放課後・早朝等に利用されている。
 また,他校のLAN敷設工事にも,他校生徒や地域社会の専門家,教師等とのコラボレーションの形で実施され情報ボランティアとして参加している。
 今後はさらに高い技術(光ファイバー工事等)を習得し,高度なLAN構築にも参加できるようにしたい。

他校のLAN敷設工事
校内LAN敷設工事
「他校のLAN敷設工事」
「校内LAN敷設工事」
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4. 問題点・課題

 IT講習会を実施して感じたことは,すでにある程度の情報スキルを持っている人と,高齢者や身体の不自由な人,子供たちなどまだスキルを持っていない人との情報格差は,今後,加速度的に広がりそうだということである。すぐにでもこれを社会問題として本格的に対策しなければならない時機にきていると思う。
 現在,インターネットを利用している市民は五千万人を越えている。これからさらに倍増し格差は広がる。
 情報格差には,地理的な要因,例えば都市と地方といった地域による「情報インフラ整備」の格差と地域を構成する人々や産業など「人」の面での格差が存在するが,これら双方を同時進行で解決しなければならないことはもちろんである。
 現実的な方法の一つとして,地域の自治体や市民グループ,情報関連産業等から協力を得て,法人格を持ったボランティア組織を設立する。この組織は情報格差解消を目的に活動を地道に継続することである。このことに関連して,自分自身としても学校が設置されている自治体(新居浜市)の情報化基本計画策定に関わる機会があり,そこで情報ボランティア組織創設の提案を行い協力を得られることになった。今後はこれを発展させ,組織の形態をNPO化することで安定した活動を継続したいと思っている。
 最後に,地域に置かれた学校は,公共教育機関として,このような問題の解決に少しでも役立つことができれば幸いと思う。また,この問題は解決方法とてボランティア活動という手法で取り組むため,社会的にも認知されるものと思われる。今後,学校教育に正課としてボランティア活動が導入された場合や,現在実施されているインターンシップ(高校生の就業体験)の一つの受け皿としても活用できるものである。そのためにも法人格を持つ組織を創設する必要がある。また,人材面,財務面等で国や自治体からの適切な対策が講じられることも期待したい。

ワンポイントアドバイス
・高校レベルの研究活動においても,地域の産・行・学の連携には意義がある。
・地域社会と連携した活動には,地域行政や上位機関等への根回しも大切な仕事となる。

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