E-Square ProjectEスクエア・プロジェクトホームページへ 平成13年度 成果報告書
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「酸性雨/窒素酸化物調査プロジェクト」実践マニュアル

4. 中学校における実践活動
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4.1 総合的な学習での実践


〒601-1104
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京都市立花背第二中学校
京都市左京区花背大布施町797
http://www.edu.city.kyoto.jp/hp/hana2-c/
hana2-c@edu.city.kyoto.jp

4.1.1 校区の概要

 花背第二中学校は京都駅より北に約40km,700〜800mの山々に取り囲まれた標高400mの山間地にある京都市最北の市立中学校である。校区には淀川水系の源流域にあたる清流が流れており,オオサンショウウオが多く棲息している。夏にはホタルが乱舞し,四季を通じてカワセミ,ヤマセミが飛ぶ自然豊かな所である。

4.1.2 総合的な学習の時間の取り組み

 本校の総合的な学習の時間の取り組みは,平成12年度は学校で大きなテーマを決め,生徒たちは,そのテーマに沿った学習取り組みを個々に行ったが,平成13年度は,学校からの枠を無くし,生徒一人一人が,今,興味関心を持っていることを学習する時間にした。その結果次の4つの学習を行うことになった。

 *雨について
 *スポーツ能力UP
*地域の草花について
*ものづくりについて

4.1.3 1年男子生徒の取り組み(雨について)

学習の流れ  
4月21日 オリエンテーション
5月 1日 自分の学習するテーマの設定
5月 8日 テーマ設定理由完成 資料収集
5月22日 資料より学習準備物を考える。実際になにを調べるか考える。
5月29日 花背の雨(酸性雨)を調べることにする。
6月12日 学習計画を立てる。
6月19日 グランド隅にビーカーを設置し,たまった雨をリトマス試験紙で酸性かアルカリ性か調べる。もっと詳しく酸性度を調べる方法ないか調べる。
7月10日

ロール式のリトマス試験紙で酸性アルカリ性を詳しく調べる。 パックテストで酸性アルカリ性をもっと詳しく調べる。
降り始めの雨を採取するための装置のあることを知り校長先生に購入を頼む。

9月11日 酸性雨分取器を組み立て,降り始めの雨の採取を始める。
9月18日 ph計で酸性かアルカリ性かを細かく調べることを知るが,使用しようとしたph計の補正ができず,パックテストの結果よりph計が不良品であることが確かめられる。
ph計の交換をお願いする。
10月 酸性雨分取器で降り始めの雨の採取を再開するが,次のような失敗をしてしまった。装置のカバーを逆に取り付け採取できない。また,採取カップを逆に取り付けてしまい雨の分取りが上手く出来ず8番の採取カップと水受けカップだけに雨がたまる。
11月中旬〜 地域的なことだが,霜が降り,分取り装置が固まってしまい,小雨が降っているのに装置が開かない。
12月中旬〜 みぞれや雪になり装置では採取できない。
1月 校庭は一面の銀世界で,今は,雪の酸性アルカリ性をどのように調べたらよいか悩んでいる。(教師から教えることはしない。生徒から訪ねられれば助言するだけである。)

4.1.4 まとめと評価について

 どのような学習のまとめになるか今のところまだ分からないが,失敗を繰り返しながら学習を深めていっている過程を担当の教員が評価することになる。

4.1.5 支援者・協力者

 平成11年度より環境学習の実践において東京学芸大学環境実践施設の支援を受けており,本年度より酸性雨窒素酸化物調査プロジェクト事務局のみなさんに器材提供・情報提提供でお世話になっている。

4.1.6 酸性雨?酸性霧?(立ち枯れ木について花背二中の一考察)

 本校からはアクセス出来ないのだが,交流ページの酸性雨被害写真のなかに,立ち枯れ木の写真が多く投稿されているようだが,これらは酸性雨被害ではなく,酸性霧被害ではないかと思われる。なぜそのようなことを思うかというと,通勤途中に立ち枯れの木があるが,山全体が枯れているのではなく,国道沿いの一定高さの範囲で立ち枯れがあり,その高さが,朝霧が立ちこめる高さや,谷の出っ張りで空気の流れがぶつかるところなのである。山の谷間には汚れた空気がたまり,谷を流れる川や沢で水分があるので湿度が高く朝霧が一定の高さで出来る,朝陽があたる,下記の式が出来るわけである。
  空気の汚れや排ガス + 霧(水分) + 太陽(光)? 光化学スモッグ(強酸)ではないかと考えるようになった。

国道沿い立ち枯れ
雨上がりの霧

国道沿い立ち枯れ

雨上がりの霧

4.1.7 パスワードつき交流ページとファイアーオール

 京都市立学校のインターネットプロバイダーは京都市情報教育センターでファイアーオールを市立学校全体にきつくかけており,各校からはセキリティ付きのホームページやパスワード付きのホームページにはアクセス出来なくなっている。そのためホームページ上のグループ交流が出来ないが,現在のようなコンピュータウイルスや問題の多いホームページが多くあるインターネット社会では,教育現場としては仕方ないことだと考えている。

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4.2 選択理科「環境領域」における実践活動

富山県福光町立吉江中学校  林 秀次

4.2.1 実施のねらい

 学校のある富山県福光町は,富山県の西部砺波平野の南端に位置している。周囲には田園地帯が広がり,西には霊峰医王山を望む自然に恵まれた町である。この町では環境の変化が余り感じられない。しかし実際はどのような状況なのかを考えるために,選択理科で環境領域を設け,酸性雨,紫外線調査,放射能調査などを行い福光の環境について考える。
 この取り組みを通して,理科の学習で学んだ「正確な実験を行うための注意点を守って実験観察に取り組む。」ということを実践する。また,既習事項などから仮説をたて,検証していくという科学の流れに従って学習進める機会とする。

4.2.2 指導計画

選択理科指導方針(3年)

  • 私たちを取り巻いている環境問題を身近なものと考え,積極的に環境を守ろうとする態度や意欲を育てる。
  • 疑問を解決するために必要なことは何かを考え,解決のための見通しをもつことができる。      
  • 自分の調べたこと,感じたことをわかりやすく表現することができる。また,そのために適したメデイアを選択し,活用できる。
  • 他の地域の情報と比較し,自分たちの身近な環境について深く考えていくことができる。

吉江中学校選択理科年間指導計画

吉江中学校選択理科年間指導計画

 酸性雨グループの仮説

 仮説1 県内にも火力発電所があり,また,自動車の台数も大変多くなっているので,酸性雨が降っているだろう。しかし,富山県は自然環境が整っているので他の地域(東京など)に比べると一般的に酸性度が低いのではないか。
 仮説2 富山県は日本海側に位置しているため,黄砂が流れ込んでくる時期(春先)の酸性度は高いのではないか。

  取り組みの結果からの感想
    思ったよりも酸性度が高くない。中性に近い雨が降っていた。金沢などでの測定値よりも福光町のpHは高かった。(中性に近い)これは,自動車の交通量,工場の数によるものであろうと考える。
    黄砂が来た日,また,その後の観測はできなかった。ぜひやってみたい。きっと酸性度の強い雨になるだろう。(中国の工業地帯の酸性物質が流されてきているはずだ。)2月から3月ごろには黄砂がくる。そのときに調べてみたい。
    冬,福光町では雪が降る。一見大変純粋できれいに見える由紀であるが,この雪も酸性なのではないか。新雪が降るときに調査してみたい。

今後の酸性雨の状況についての予測  

  • 火力発電所からのガスの発生量はあまり変わらないだろう。
  • 自動車の車両数についてもそんなに爆発的には増えないと考えられる。
  • 近年の車は,平成12年度規制をクリアし,さらに 優 車両,良 車両など排気ガスに配慮されているので,今後そのような車さらにはハイブリッドカーなどの低公害車が増えることから,酸性雨の状況も改善されていくと考えられる。
酸性雨調査の野帳
酸性雨調査の野帳

 

酸性度の強さによって水草はどのようになるのかを調べる実験の様子
*酸性雨調査の野帳
*酸性度の強さによって水草はどのようになるのかを調べる実験の様子

4.2.3 活動を進める上での評価の基準(酸性雨グループ)

 関心・意欲・態度
   酸性雨に興味を持ち,福光に降る雨についての酸性度を測定しようとする。

 技能・表現
   レインゴーランドの正確な活用ができる。
   測定ごとに蒸留水を用いて洗浄してから次の測定を行うなど正確な測定に心がけてpHなどを測定できる。

 思考・判断
   富山県の地理的な関係から,酸性雨の状況を予測し,確かめることができる。
   実験の結果をもとに,酸性度の状況についての考察を加え,予測との違いの理由を明確にできる。

4.2.4 支援者・協力者との関係

 酸性雨について,このネットワークのみならず,富山県の火力発電所付近の状況などいろいろな地点の測定値や,一般的な富山県の風の流れなどを比較することで,酸性雨の原因に触れることができると良いと考える。 そのため,富山県の総合教育センターや,県庁,気象庁などとも情報交換ができると良い。

4.2.5 教育実践活動における留意点

  • この取り組みにおいては,いろいろな地域に出回るデータとなるので,正確な測定が求められる。そういう意味で,今まで理科の実験を通して学んできた「正確な実験」の必要性を理解させる必要がある。また,その大切な機会となる。
  • 学校での測定となるため,よる早い時期に降った雨についてはたまってから時間がたった雨の測定となるので測定しなかった。日中の降雨が始まった雨について測定を行った。 
  • 測定結果についての考察をしっかりと行うようにした。単なる測定だけではなくて,その原因などを話し合う時間を取ることで,酸性雨に対する意識が高まった。
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4.3 酸性雨/NOxプロジェクトの会議(チャットによる交流)

松山市立南中学校  星川 良紀

4.3.1 実践のねらい

 身のまわりの環境問題について,生徒に少しでも興味・関心を持たせるためにこの交流活動の企画に参加した。そのことにより,生徒が環境問題についてしっかりと捉え,自分の住んでいる地域について,常に問題意識を持ちながら,積極的に活動できるようなきっかけになればと考えた。

4.3.2 実践内容

 本校では,まず会議の実施の前にオリエンテーションを行った。その中で,役割分担を行ったり,事前に調べておくことや,質問内容,また学校での観測結果の確認などについて話し合わせたりした。その結果,交流活動の中では,学校を詳しく紹介する,調査活動について詳しく意見を述べる,といったテーマごとでグループを作り,分担しようということになり,生徒が使えるコンピュータも複数台準備した。当日は,オリエンテーションの内容を確認させたあと,チャットに参加させた。(参加生徒6名)また3名の教員で,文字の打ち方の指導を行ったり,文章の書き方,意見の述べ方について生徒に吟味させたり,実際に教員がチャットに参加して会議をコーディネートしたりするなどの補助を行った。

4.3.3 実践の記録(チャットで話し合った内容,生徒の感想から)

(1)チャットで話し合った内容
○身のまわりの気象・学校のまわりの環境について

  • 屋久島(岳南)の気温は19度です。皆さんのところはどうですか。こんにちは,ところで,最近の屋久島の天気はどうですか? ちなみに僕は,福山中の生徒です。こちらは,晴天が続いておりますが,しかし,超さむいです。
  • 群馬のNさん,私たちも元気です。こちら愛媛の松山市はとても暖かいですよ。そちらのほうは今何度ぐらいですか。お返事を待っています。松山の外気温は12,3度くらいです。
  • 松山南中,郷土部のみなさん。今の群馬の気温は,ちょっと不明です。隣の教室へ見に行ってきますね。パソコンの部屋はエアコンです。隣の部屋は11度だったよ。

○酸性雨/NOx調査について

  • 皆さん,酸性雨の濃度はどれくらいですか?
  • つくば市の雨は平均5.5pHです。
  • 測定についてですが,異なるPHメーターで,同じサンプルを測り,PHメータの固定点を揃えても,違う値が出て,困りました。
  • 屋久島の宮浦中さん,・・・レインゴーランドは,群馬でも3回も壊れたんですよ。群馬は,風がつよいから・・・・。用務技師さんが固定する台を作ってくださったのですが,やはり,壊れました。なかなか大変ですが,壊れたなりに使っています。
  • 酸性雨でホントに毛が抜けるの?
  • こんにちは。僕たちは二酸化窒素について調べています。二酸化窒素を測る時,とても苦労したのですが,何か簡単にできる方法はありませんか?

(2)本校生徒の感想

  • 今日やったチャットはとても楽しかった。群馬県の人に文章を書いて,返事をもらって初めての体験だったので,とてもよかった。またやってみたい。
  • このチャットをより多くの人に知ってもらいたいです。またその中で意見交換が活発に行われたらもっとすばらしいと思いました。非常に楽しかったです。

4.3.4 実践を終えて
(1)得られた成果
  自己紹介,学校の紹介と,他の学校の生徒と対話するにつれ,生徒の興味・関心は飛躍的に高まっていった。調査結果については,少しですが話し合うことができた。また話し合いを通して,お互いの親睦が図れたように感じた。本当の目的は,お互いの考えを述べ合い考えを深めることであり,今回はその目的を果たしたとは言い難いが,討論するための下準備はできたといえる。日頃の身近な環境問題に関心を持ち,これから取り組んでいこうとする動機づけにもなった。また教員としても,この活動結果から改善点をみつけたり,次回のプログラムを提案したりすることまでできた。

(2)今後の課題
 今回のチャットによる交流活動は,生徒にとっては初めてで,時間的な制約もあって,考察結果についての意見交換を行ったり,また広い視野から環境問題をとらえてそれぞれの生徒が意見を述べ合ったりする,といったところまで話し合いを深めることはできなかった。第2回のチャットが計画され,会議の持ち方(質問に対する答え方,情報の共有化等)についてなど周到な準備を行い,生徒の課題意識を明確にさせることができたら,非常に有意義な討論がなされると予想される。
 また,多くの学校へのインターネットの接続はなされたものの,まだまだ生徒にとって身近なインターネット環境の整備がなされていない。また総合的な学習など,教科等のカリキュラムの中での環境教育の位置づけなどが望まれる。しかし,ハード面の環境が充実したとしても実践するのは人間である。環境整備とともに,生徒の課題意識をよりいっそう引き出すための教師側の工夫や熱意も重要であると思う。
 活動の評価について,ややもすると主観的になりがちであるが,個々の行動パターンをデータ化したり,また回を重ねるごとにデータを累積することで活動の深まりを見たりといった,もっと客観的な方法を取り入れていくべきであったと思う。それから形式にとらわれずネットワークを使った良さも取り入れたり,教員自身が学習方法に対する意識を変えたりする など,従来の方法に比べ柔軟に扱っていくことが必要であると思う。

(3)ワンポイントアドバイス
○活動環境について
 この活動のように教育的な配慮から,ある期間ある限られた人々しか入れないといった,イントラネット的なものを利用すべきであると思う。また,それぞれの学校の接続形態を把握し,技術的,経済的な問題点があるか確認したり,そのことを考慮した計画を練り直したりすることも大事だと思う。活動組織については,それぞれの人が主体性を持ち関わった上で,教員,生徒などリーダー,サブリーダーなどがボランティア的にコーディネートしていく必要があると思う。
○会議の方法について
 基本的には,Face to face で行う会議のしかたを参考にしたらと思う。会議の目的,内容について明確にして,ある程度順序だって発言してもらうようにする。かといって,あまり形式にとらわれすぎると,話し合いが無味乾燥なものになってしまう。事前にオリエンテーションを行い,進行役や分担を決めたり,時間的なことを含めた内容を説明したり,テーマごとにグループを分けるなど,会議に対する共通意識を持たせるようにする。

(4)次回のチャットのために
 基本的な部分は,ネットを使わない会議と同じであるが,何回かチャットの機会があればこのような活動も可能かと思う。

  • テーマ別にグループ分けしたのちにチャットを行い,次に,それぞれのグループが別のテーマで,再びチャットを行う。
  • 同じく,テーマ別にグループ分けしたのちにチャットを行うが,次に,それぞれの代表者がチャットを行う中で,話し合いの結果を発表し,考えをまとめたのち,それをすべてのグループに報告する。

(5)ブロードバンド時代に向けて
 TV会議を使えば,顔をつきあわせての会議ができる。将来速い回線になることも考えると,現在よりも非常にスムーズなものになるであろう。 しかし,形がいろいろ変わっても,計画をしっかり立てたり,今までの活動の資産をいかしたりすることが,大事になってくると思う。ハードやソフトの充実によって,グループ別討議,パネルディスカッションなども,あたりまえのように実現できるかも知れない。

 

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4.4 総合的な学習としての酸性雨・NOx調査

広島大学附属福山中・高等学校

4.4.1 本企画に参加した意図

 広島大学附属福山中・高等学校(以下当校)では,新学習指導要領に向けて総合的な学習(当校での名称:LIFE)の実践研究に取り組んでいる。中学校2年生で実施しているLIFEII「環境学習」では,生徒が「自然を体験し」,「現在の状況を知り」,「環境のために行動する」という3つの視点を重視している。2001年度も酸性雨を中心とした観測活動を基礎にして,生徒主体的な活動の場としての探究活動に取り組み,環境を生徒の視点でとらえさせ解決方法を考えさせる実践を行った。酸性雨/窒素酸化物(NOx)調査プロジェクトは,この授業の1年間を通しての中心課題として活用している。

4.4.2 当校における酸性雨調査の実際

<酸性雨の観測>

 当校における酸性雨の研究活動も,2001年度で7年目になる。観測は2年生で実施している「環境学習」の授業の一貫として,有志の生徒を募り,観測委員会をつくって行っている。2〜3名のグループが1週間交代で,気象や酸性雨の観測に取り組んでいる。今年度の観測でも生徒は意欲的に観測に取り組んだ。今年度は観測グループが6グループあり,6週間に一度しか観測のチャンスがないため,観測の当番の週が来るのを生徒手帳のカレンダーに赤丸を付けて楽しみに待っている生徒もいた。酸性雨は中学校における学習内容では理科の「気象」単元との関わりが深いので,観測する生徒に気象にも興味関心を持たせようと,百葉箱を使って気温を測ったり,降水量や雲の観測などを毎日の観測として行っている。そうした活動とともに,雨が降った翌日はレインゴーランドのところへ行って雨の観測を行っている。雨は毎日降るわけではないので,確実に酸性雨の観測をするためには,毎日の活動として何か生徒に課題を与えて観測グループを動かすことが必要だと考えている。
  各観測グループともはじめて観測する週は担当教員が一緒に観測を行い指導をするが,次の担当週からは観測はすべて生徒にまかせている。その代わりに,データをコンピュータから入力する場面には立ち会って,その日の観測に関する生徒の疑問に答えたり,教員の側から疑問を投げかけたり,生徒とのコミュニケーションの確立につとめている。また機会をとらえてはインターネットの向こうにこのデータを見てくれている人がいること,同じ観測を続けている仲間がいることを意識させるように心がけた。生徒にはインターネットを通して自分たちの観測データが世界に公開されているということに対し,そして共同観測の仲間に対しての責任感が育っていると感じている。
  観測を停滞なく進めるためには,観測を担当する生徒と担当教員間のつながりを作り,それを一年間維持するための工夫が必要となります。当校でのやり方は,一年間生徒の興味関心を持続させ,また生徒に過重の負担をかけないというバランスから考えて,かなりうまく機能しているのではないかと評価している。

<酸性雨に関する科学的な理解のための学習>
 LIFEII「環境学習」では,酸性雨の観測を継続してきてホームページに蓄積されたデータを基にして,生徒に身の回りの環境を考察させている。まず酸性雨調査プロジェクトの全国の観測データを使って,日本の酸性雨の状況について考察させる。グラフ表示の機能も利用し,観測地点ごとの特徴を調べたり,地域ごとのpHや導電率の平均値を求めて比較を行なう。地球環境の現状を,自分たちの測定データをもとに考察していくことで,より身近な問題として捉えることができると考えている。
 酸性雨はデータを変化させる様々な因子が複雑に絡まった現象であるということも強く感じている。pHは,大気中の汚染物質の量や質,あるいはレインゴーランドのろうと部分に侵入する「ほこり」の量や質,また単に降水量ではなく時間あたりの降水量(雨の強さ)やさらに前の降雨からの経過時間,風の向きや強さ,日照の強さ・・・数え上げるときりがないほどの因子が考えられる。そのため例えば「pHの値がどのようなときに低くなるか」といった単純な相関関係を見つけることはきわめて困難になっている。
 そこで,当校では酸性雨のデータそのものを研究することは主目的とはせず,酸性雨の観測を動機付けにして,酸性雨のメカニズムや酸性雨問題を解決するための方策を考えさせることに主眼をおいた実践をおこなっている。
 インターネットには多くの酸性雨に関する情報が公開されており,これらを使って酸性雨についての情報を集める。酸性雨の調査方法や観測データを掲示しているページや,大気汚染の観測を行う方法を紹介したページ,酸性雨つららなどの建築物などにおける酸性雨がもたらした被害を紹介したページなどをもとに,酸性雨についての科学的な考察や経済活動と関連させての考察,健康や生物に関連した考察など様々な視点から酸性雨を捉えさせている。
 電力事業会社のホームページや自動車会社のホームページの中には,大気汚染を防止するためにおこなっている努力が詳しく紹介されているものもある。こうした情報は生徒にとって環境問題解決への方法を考え,地球環境の将来への展望を考えさせる上で重要でと考える。酸性雨の問題は,学習を進めていくとその深刻な状況に戸惑うような生徒もいる。自分たちの努力だけではどうにもならないという悲観的な考えになる生徒もいるのではないかと感じている。大きな企業の中にも利益優先ではなくコストのかかる環境対策を行っているという情報,そして小さな努力が社会を動かすといった情報は,生徒達の今後の環境問題解決への行動に大きな影響を与えるものと考えている。

<酸性雨の身の回りへの影響を考える>
酸性雨の身のまわりへの影響を考えるために,当校が1997〜1998年度に文部省より研究の指定を受けた環境データ観測・活用事業(EILNet)では,大理石の曝露実験をもとにして大気汚染物質のふるまいについての学習を行っている。大理石の曝露実験では大理石試験板を,屋外の雨の当たる環境と百葉箱内などの雨の当たらない環境に設置し,一定期間放置した後に回収して,大理石試験板の質量の変化などについて測定する。この実験を年間を通じておこない,雨量との関係や季節変化などを調査した。生徒はこの実験をおこなった後に校内のコンクリートの様子を見て,雨の当たるところとあたらないところで表面の様子に大きなちがいがあることに気づいた。また軒下には鉄筋がさびて露出しているところもあちらこちらに見られる。新幹線や高速道路の高架でコンクリート片が落下した事件は,単に施工上の問題や使用したコンクリートの質の問題も影響しているだろうが,大気汚染物質が溶け込んだ酸性雨がコンクリートを急激に劣化させていることが原因ではないかとも考えた。福山城の近くの建物には,いわゆる酸性雨つららと呼ばれるコンクリートのつららができている。また野外に設置してあるブロンズ彫刻の表面では,雨の伝わり落ちるところに黒いしみができているのも観察された。これらすべてが酸性雨の影響であると結論づけることは難しいが,そうした状況を生徒が自らの手で探し出し,酸性雨が影響した可能性について論議することができた。

<生徒の実験・観察を中心とした課題研究>
毎年LIFE「環境学習」の授業では生徒自らが課題を見つけ,その課題を解決していくことを目指して,夏休みから2学期の時期に環境問題をテーマにした課題研究に取り組んでいる。授業では生徒が課題を見つけ実験を計画する前に,pHに関する実験を全員に行わせている。pHは中学校では未修だが,水溶液を10倍に薄めていくと10倍うすめるごとにpHが1上がることを確認し,pHについて中学生に理解できる範囲でその意味を考えさせるようにした。またこの実験を例に取り,生徒の研究においても自分たちの理解できる範囲で計画を立て,新たな疑問が生じたらその課題を解明していく方向で研究を進めるように指導した。
  生徒の課題研究の成果は以前はレポートとして提出させていたが,1998年度よりコンピュータを利用してまとめさせ,インターネットのホームページで公開できる形で保存している。今のところ著作権の問題等もあり,学校外へは公開していないが,課題研究の内容を生徒が考える際に,先輩たちの研究を参考にするためのデータベースとして利用している。
  生徒達は素朴な疑問や個々の生徒の感性に基づいて,課題研究を展開している。どのような実験や観察をしたら自分たちの疑問が解決できるのか,この点が生徒達が最も悩む点です。輪ゴムを利用した大気汚染の測定方法を調べ出して実施したグループがある。輪ゴムは引き延ばした状態で空気中につるしておくともとの長さに戻らなくなる。それも空気の汚染がひどいほど引き延ばされたままの状態になりやすく,やがてぼろぼろに劣化して切れてしまうことを発見した。この例のように,まず情報をもとに自分たちの手で何か実験なり調査なりをしてみて,その課程で出てきた新たな疑問や課題を解決するためにさらに実験をおこなったり,情報を集めて考察していく。そうした課題の解決方法が,生徒の中で伝統として伝えられ,毎年の研究に生かされるようになってきているのではないかと感じている。

<窒素酸化物の観測と研究>

生徒達は前年度までの生徒がまとめた課題研究の報告レポートを参考にしながら,自分たちの研究の方針を立てている。先輩達の研究を基にさらに高度な目標を定めて研究を進めるグループもある。例えば過去に自動車の排気ガスをペットボトルに入れた水に通してみる実験をおこなったグループがある。ガソリンエンジンではpHは排気ガスの量を増やしていくと,ある値に達すると下がり方が鈍化するが,ディーゼルエンジンではpHが下がり続け,さらに実験を続けるとpH3.8程度まで下がり続けていく。ガソリンエンジンの排気ガスは二酸化炭素が水に飽和した後は他の酸性物質が少ないためpHがあまり下がらないが,ディーゼルエンジンには強い酸性物質が含まれているのではないかと生徒達は考察している。この実験を基に,後の学年のグループが自動車の排気ガスの成分は,どのようなものが含まれているのか,二酸化炭素と硫黄酸化物,窒素酸化物の3つの成分について気体検知管(ガステック)を使って調べた。確かにガソリンエンジンの排気ガスには二酸化炭素は多いが,酸性の強いSOx,NOxは検知できない量です。それに対してディーゼルの排気ガスには,SOx,NOxが含まれており,pHが下がり続けるのはこれらの物質が原因であろうと考察した。
  今年度はこの研究をさらに発展させ,酸性雨/窒素酸化物調査プロジェクトの課題でもある,窒素酸化物に重点を当て,大気汚染の原因物質に関する考察を深めることを目的に観測を行った。
  プロジェクトでは一週間おきに6回の観測を行うことになっていたので,観測担当のグループが順に観測を行い,最後の2つのグループは窒素酸化物に関してだけはグループを一緒にして,観測することにした。一回ごとに観測グループが違うため,すべての観測に教員がついて指導した。教員の会議日の都合から,基本的に火曜日にカプセルを設置して水曜日に回収するように計画したが,実際には学校行事の関係などでやむを得ずずらすこともあった。
  測定結果については,1つのグループが課題研究の一環として担当し,当校の場合は交通量の多い場所が窒素酸化物の値が高くなると考察している。また,他の学校の測定値を集め,町中の学校ほど窒素酸化物の値が高い傾向があるとまとめている。測定値がすべて0(変化しなかった)学校の生徒が,変化が出なくて残念だと掲示板に書いていたが,その学校の酸性雨の様子はどうなのだろうかと,窒素酸化物と酸性雨を直接結びつけて考察していた。

4.4.3 実践を終えて

 酸性雨/窒素酸化物調査ホームページには電子掲示板が設置され,参加校の情報交換に利用されている。しかし書き込みの件数は少なく活発な利用がされるまでには至っていない。2000年度からはチャットも行われているが,定常的に利用するまでには至っていない。こうした交流の活動は,地域的に離れた子どもたちが共同観測を行って学習を進める上では欠かすことのできない重要な試みだと感じている。
 インターネットでのコミュニケーションでは,相手に自分の考えをいかに伝えるかに成否がかかっている。自分の考えを論理的に整理し相手に納得してもらうためには,まず自分がよく理解できていなければならない。また文字を中心とした交流では,内容を簡潔に整理して伝える工夫も必要となる。こうした訓練は環境教育に限らず,これからの社会で必要とされる能力を育む上で重要であると考えている。
  酸性雨/窒素酸化物調査プロジェクトが,IT時代の学びの場として位置づけられるように,こうした取り組みをさらに充実させていきたいと考えている。

21世紀に向けての中学校新学習指導要領では,生きる力としての「生徒の問題解決能力の育成」に重点が置かれた。中でも今回の改訂の柱とも言える「総合的な学習」では,教科学習で学んだ力を生かして未知の問題を見つけ,解決方法を追求する実践が求められている。問題解決能力とは,知識を得るための手法を訓練するだけのものであってはならないと感じている。
  当校の環境教育でもっとも強く意識していることは,生徒にいかに実践力を付けさせるかという点である。環境に対していかに豊富な知識を持ち,環境問題の重要性を理解していたといえども,実際に環境に対して行動ができなければ環境問題の解決はあり得ない。環境問題の解決には,知力と行動力の双方をあわせて育成することが求められるのではないか。
  こうした視点をもとに,当校の環境教育の実践は計画実施されているが,その成果はなかなか目に見えるような形で現れていない。しかし生徒たちの今後の生き方の中で何らかの価値が見いだせるような実践になるように,今後も酸性雨/窒素酸化物(NOx)調査プロジェクトを活用していきたいと考えている。

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