E-Square ProjectEスクエア・プロジェクトホームページへ 平成13年度 成果報告書
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「酸性雨/窒素酸化物調査プロジェクト」実践マニュアル

5. 高等学校における実践活動
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5.1 地域の環境保全対策と酸性雨調査

三重県立四日市工業高等学校 熊谷守恭

5.1.1 実施のねらい

 四日市市では,昭和35年頃より,コンビナートに隣接する地域に集中して呼吸器系疾患が発生し,硫黄酸化物による大気汚染が深刻な社会問題となった。このような公害問題を早急に解決すべく行政を中心に調査や対策が行われ,昭和39年にばい煙規制法,昭和41年に水質保全法・工場排水規正法の適用,昭和42年の三重県公害防止条例の施行,昭和43年の大気汚染防止法,昭和46年の水質汚濁防止法の施行など各種の規制が行われたが決して十分なものとは言えなかった。
 こうした中で抜本的な環境改善を果たす役割を演じたのは,三重県公害防止条例により,全国に先がけて昭和47年より実施された硫黄酸化物に係る総量規制並びに昭和49年より実施された化学的酸素要求量(COD)に係る総量規制であった。これら規制や公害防止計画の実施並びに環境問題に対する配慮等が功を奏し,危機的な様相を呈した時期を克服して,昭和51年には全市域で硫黄酸化物に係る環境基準を達成するなど着実に環境改善がなされてきた。
  平成2年には,三重県・四日市市及び産業界の出損により「(財)国際環境技術移転研究センター」を設立し,これまでに蓄積されてきた公害防止技術・知識を開発途上国に移転するため,海外からの研修生の受け入れ,海外での現地研修,調査団の派遣等の事業を行っている。
  平成5年11月に,「環境基本法」が制定された。本市においても,質的に高い水準を求める市民意識の高まりの中で,コンビナート工場に対する悪臭公害等の一層の改善要望のほか,市民の身近な生活環境にも目が向けられ,主要幹線沿道を中心に自動車交通による騒音や大気汚染,生活排水による水路・河川等の水質汚濁,中小工場,建設工事,深夜営業に係る騒音問題などが注目されており,公害問題の態様は,多様化,広域化している。
  平成7年3月に,基本理念等を定めた「四日市市環境基本条例」を制定し,これに基づき,望ましい環境像「地球的な視野に立ち,皆で取り組む水と緑の豊かな,安らぎと潤いに満ちたまち」の実現を目指し,「快適環境都市宣言」を行った。

<平成11年度 四日市市の環境保全より抜粋>

 また,化学物質を製造し,または取り扱う事業者が自己決定・自己責任の原則に基づき化学物質の開発から製造・使用・最終消費を経て廃棄に至る全ライフサイクルにわたって,安全・健康・環境面の対策を実行し改善を図っていく自主管理活動であるレスポンシブル・ケア(四日市地区レスポンシブル・ケア)の地域対話により,四日市地区加盟企業の環境保全の取り組みの説明を受けるなど,地域住民との対話が実現している。
  そのような背景の中で,四日市工業高校では,酸性雨/窒素酸化物調査プロジェクトに参加することで,生徒が四日市市の酸性雨や窒素酸化物による大気汚染の現状を確認し,正確なデータを発信する機会とする。また,雨水の成分を分析し,過去のデータを地域の環境白書などで調べ,現状と比較しながら酸性雨の原因や傾向を明らかにすると共に,インターネットの活用により広域情報を知ることで,工業高校生にできる研究テーマを見つけ,学習意欲を高めたいと考えた。

5.1.2 指導計画及び指導案

 課外活動の中で,レインゴーランドを使用し,1mm毎の完全分取による雨水のpHとEC(電気伝導度)の測定を行い,降雨のpH自動測定装置(PC8801制御による自作)により測定した降雨の時刻と降水量,pHのデータを,レインゴーランドで測定した値と比べながら,測定精度を高める。
  授業では,3年生における工業化学実習(4時間×4週×4班)と課題研究(4時間×12週)で,降雨pHのグラフ作成,Webページ作成を進める。
  当校生の環境保全意識をアンケート調査で調べ,今後の取り組みや進め方について,学校全体で検討する。

5.1.3 活動を進める上での評価の規準

 授業(工業化学実習)で行うコンピュータ処理(Microsoft Excelによる集計とグラフ作成)では,処理操作の技能を重点にしたため,評価が難しいが,課題研究では取り組み状況や成果がはっきりわかるので評価しやすい。取り組み状況と成果では,いかに魅力あるテーマを見つけられるかが重要であり,評価は取り組み状況に重点を置く。また,課題研究が平成15年度からの新カリキュラムでは,総合的学習として取り組むことになるため,評価の必要が無くなる。

5.1.4 支援者・協力者との関係

 三重県環境学習情報センター(http://www.eco.pref.mie.jp/forum/center/center1.htm)では,県民に開かれた環境学習,情報の拠点として,平成11年8月にオープンし,見学自由の展示ホール,研修室,分析実習室,図書コーナー,インターネット端末があり,県民が環境にやさしい行動を起こすきっかけとなる,さまざまな支援をしているので,積極的に利用したい。
  環境のための地球学習観測(GLOBE)プログラム:本部 (http://www.globe.gov/)日本中央センター(http://www.fsifee.u-gakugei.ac.jp/globe/)の環境監視活動に参加し,生徒の学習意欲を引き出す。

5.1.5 教育実践活動における留意点

 酸性雨の調査は,雨水の採取・測定・コンピュータ処理・データ分析の順序がある。雨水を取る機会は,毎週の授業では無理があるし,測定も早急にする必要があるため,授業で行うのはコンピュータ処理になってしまう。
  また,酸性雨調査結果をWebページ(http://www.mtu.ne.jp/~moriyasu/)で公開したが,コンピュータ処理には興味を示しても,データの意味や傾向を探ることは知識が無い上に難しく,取り組もうとしなかった。
  測定だけに終わらず,長期的なデータ分析や成果発表をするには課外活動で取り組んだ方がいいと考える。
  地域の環境保全対策などの授業はまったくしていないが,公害防止技術や知識は,工業高校生には必要であり,酸性雨調査などをしながら関連づけて学習すれば理解が早いと考える。
  平成13年10月,「環境に対する意識調査」を実施した。酸性雨/窒素酸化物調査の取り組みを始めてからの環境意識の変化(高まり)を確認するまでには至らなかったが,環境保全教育の推進に役立つ学校行事を企画することできた。

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5.2 実践活動の継続の必要性

富山県立大門高等学校  川端 剛至

5.2.1 実施のねらい

 2年間にわたってこの調査活動を課題研究で行ってきたが,今年度はデータ収集と継続をねらいとして活動を行うことにした。

5.2.2 指導計画及び指導案

 この調査の希望者がいなかったため,課題研究で行うことが不可能になり,データ収集のみを主体として,3年生に手伝ってもらうことで調査を行った。科学部に調査の依頼も考えたが,理数離れの傾向もあってか,部員数が少なく,お願いすることはできなかった。

データ収集の方針は,基本的に毎月上,中,下旬ごろに1回程度測定とした。

5.2.3 活動を進める上での評価の基準

 活動してくれた生徒は3年生の授業選択者で,立場上無理をかけることはできないと考え,一定の場所で測定を行い,記録するという形式となり,評価の基準は特に設定しなかった。

5.2.4 教育実線活動における留意点

(1)実践で得られた成果

表1

表1

グラフ1

グラフ1

グラフ2

グラフ2

 ようやく年間を通したデータを収集できたので,表1の2001年のデータから平均pHグラフ(グラフ1)と導伝率グラフ(グラフ2)を作成してみた。 グラフ1から,7月に関しては残念ながらほとんど雨が降らなかったため,測定するチャンスを逸したが,どの月もpHは4から5の間で,pH4.5を中心として夏に上がり,冬に下がる傾向を示した。この測定結果から,冬には化石燃料の消費が多くなるためにpHが下がるのではないかと思われる。
  グラフ2からは,導電率の年間平均が40〜50μSを示し,日本海側特有の降雨量の多い冬の時期に高い導電率を示すという傾向を示した。4月,5月に少し高くなっているのは,偏西風による黄砂の影響を受けるのではないかと考えている。
 測定に参加してくれた生徒も,このような田舎でも酸性雨が降っていることをグラフやデータで確認してくれたようである。

(2)反省・課題
 2001年はグラフ1のような傾向を示したが,2002年もこのようなpHの傾向が続くのかという再現性を確認したいと考えるので,来年度も継続して測定活動を行っていきたいと思われる。また,もっとサンプル数を増やして一定の傾向をつかめればと考える。
 今年は測定調査のみで,たまたま協力してくれる生徒がいたため測定できたが,これを継続するためには,調査を受け継いでいく工夫が必要であるという大きな問題が残った。課題研究での実践も強引に考えたのであるが,あくまでも本人たちが行いたい課題を優先するので,今回は控えた。先輩たちが行ってきた調査を受け継いで,これをどのように伝え,継続させていけばよいのかを考えなければならない。

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5.3 課題研究(理科)による実践

奈良県立登美ケ丘高等学校

5.3.1 実施のねらい

 本校では,平成10年度〜12年度まで文部科学省の事業である「学校情報化推進のためのネットワーク活用方法研究開発事業」に取り組んだことをきっかけに,理科では,「環境」をテーマに,ネットワークを活用した課題研究を実施している。
 本プロジェクトへは,環境問題への興味・関心を,生徒の身近な環境における主体的な観測・測定を通して持たせるとともに,環境への理解を深めていくことができ,さらには他校との交流によって,さらに広い視野に立った環境問題について関心を高めることができるものとして参加した。また,総合学習への第一歩としても,考えている。

5.3.2 指導計画

 本校では2年生(文型・英語型)の生物で,課題研究の時間を設け,実験実習を含めた課題研究を1クラス6グループにわけ,教員3人のティームティーチングで実施している。課題研究「環境」のテーマの中で,酸性雨は1班,窒素酸化物については2班が調査・測定を担当し,期間中の測定を行った(9月〜2月)。測定結果をもとに他校との比較・検討を行い,中間発表,ホームページ作成へとつなげた。窒素酸化物については,測定と共にさらに植物への影響なども考えた。

2年 生物 課題研究(年間計画)週4時間(内2時間は講義)
実験・調査のテーマ設定  
   実験・調査計画
   予備実験
   中間発表・検討会
   実験
   発表
   自己評価・他者評価
   評価確認
   Webページ作成中(班ごと)
学校ホームページで公開予定
   http://www.nar-tomigaoka-h.ed.jp/j/science/science.htm

5.3.3 活動を進める上での評価の基準

(1)求める評価のあり方

  • 様々なテーマに対して客観性のある評価
  • 一人一人の発想・工夫に対応するきめ細やかな評価
  • フィードバックさせることにより,生徒の学習活動に生かせる評価
  • 考える力をつけるための評価
  • 生徒の主体的な行動をサポートできる評価

 上記の実現のために理科教員全員で共通理解をして評価を行い,下図のように評価の多様化・複数化を行う。

図1

図1

(2)発表時における留意点 (表1・2)

  • 計画性
  • 着眼点  (独創性・展開)
  • 情報収集選択力
  • 思考力
  • 表現力  (発表態度・わかりやすさ・資料の提示方法・資料の内容) 
  • チームワーク

表1

表2

(3)グループ担当教員の個人評価

  • 評価を的確にフィードバックできたか。
  • 班内で自分の役割を十分に果たせたか。
  • 課題研究を通して,育てたい能力がどこまで身に付いたか。

(4)教員の自己評価

  • 生徒の主体的な取り組みを支援できたか。
  • 科学的思考態度の獲得を支援できたか。
  • 評価・指導がアカウンタビリティーにたるものであったか。
  • 教員間の連携が充分にとれたか。
  • 今年度の指導上の課題を明確にし,改善点をしめすことができるか。

5.3.4 支援者・協力者との関係

 理科教員全員の,協力支援体制ができている。今後,近辺の学校とのデータの比較活用および,共同研究をおこなってみたい。TV会議などの利用も考えられるのではないか。また,チャットやメール・掲示板など生徒同士の交流の場も増やせるとよいと考えている。

プロジェクト実践に当たって利用した資料・ホームページ等

5.3.5 教育実践活動における留意点

  • その雨の降った時刻の天気図を作成し,大まかな大気の流れとpHの関係を調べてみてもよい。本校では酸性雨の測定値と気象台の測定値との関連性が 問題になった。  
  • 測定には継続(忍耐力)が必要である。夏期・冬期休業中の測定は困難であり,どうしていくかが今後の課題である。
  • 生徒主体の活動としてどう意識づけていくか。
  • 今後この取り組みを理科の学習活動の中でどう位置づけていくか。
  • 酸性雨・NOxともに,原因と風向の問題は非常に難しい。
  • チャットやメール・掲示板など生徒同士の交流の場が増やせると,疑問点などもぶつけたりできるのではないか。
  • NOxの測定については,校外に設置するときは,協力のお願いの札をつけておくと,興味・関心も高まり,回収しやすい。また,雨の日は,じょうごを使うと雨が入らずうまく測定できる。
  • メーリングリストによってさまざまな問題点が解消でき,他校の情報・状況もわかるので困ったときは活用するとよい。本校では理科職員全員に転送したので,非常に役立った。
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5.4 地理における実践活動

松山東雲中学・高等学校  國原 幸一朗   

5.4.1 はじめに

 本校は1998年度より本企画に参加しているが,継続した観測やパソコンを活用した学習を通して,環境問題をより身近な問題として捉えるようになるとともに,環境保護のために,これからどうすればよいかを考え,実践する能力を高めていきたいと思っている。ネットワークを利用し,様々な情報を収集・交換することによって,環境問題をより深く多面的に考察できるようになるが,それだけでなく,新教育課程で実施される「総合的な学習」でも,本企画の成果を活用することができるのではないか。今年度は,本校で土曜日(第1・3・5週)に実施している選択講座を受講する生徒が観測や文化祭の展示を行い,高校1年の現代社会や高校3年の政治経済の授業で酸性雨について学習したが,本稿では,地理歴史科の選択「地理B」(高校3年,9名)の授業実践について紹介する。

5.4.2 実施のねらい

 対象の生徒は,高校1年の時に「国際・情報」(=英語科)で,パソコンを利用して酸性雨について学習した。授業では,まず(1)ビデオ(キリンビール株式会社・毎日ビデオライブラリー(1997)「未来からの電子メール」)を視聴して,様々な地球環境問題のイメージをつかませ,ワークシートにそれぞれの問題の原因と影響について書かせた。次に(2)冬休みの課題とした「環境問題に関する新聞」を相互に評価し合い,得点(3段階)とよかったところを書かせた。生徒間の評価は甘かったが,構成や配色・レイアウト・内容の豊富さと分かりやすさがすぐれているものが高得点となった。さらに,(3)地球環境問題の中で酸性雨を重点化し,インターネットを利用して,酸性雨調査をしているグループの名前と活動内容,外国の酸性雨の現状と被害,測定方法などを調べさせた。その後,レインゴーランドや測定機器を教室に持ち込んで,生徒に計測させた。酸性雨の原因や影響については,ある程度のことを生徒は知っていたが,さらにどこまで深められるか,測定値の意味を理解させることが課題となった。授業後に観測活動に参加してみたいと言った生徒が数名いた。しかし,担当者が公務や学校行事などで十分に指導できず,結局は担当者が中心となった取り組みとなった。生徒が継続して観測し,環境問題への関心を高められるようになることと,地理歴史・公民(社会)科で観測と授業を関連づけることのむずかしさを実感した。このクラスはホームページを検索して,Word文書にまとめる作業をいくつかの科目で行っているので,ホームページを見て調べるという学習だけではうまくいかなくなっている。興味をもつ内容については詳しく調べ,教員を驚かすこともあるが,その内容は授業内容としたいこととや授業のねらいと合致しないことも多く,授業展開や学習方法において工夫が求められている。地理の授業におけるパソコンの活用という点から,(1)各地の測定値を比較し,地域差に着目する。(2)地域差の地理的要因とそれらの関連性をふまえ,(3)環境問題への関心を高める,(4)環境保護への実践につながる,(5)WordやExcel・ホームページなどを活用して資料活用能力を高める,(4)地理的ものの見方・考え方を育てることを学習のねらいとした。

5.4.3 指導案と指導経過(4時間の予定であったが,5時間かかった)

学習内容

パソコン・インターネットの活用

指導上の留意点

酸性雨とは何かを調べる

(1時間)

 

(1)検索エンジンを利用し,酸性雨に関するホームページを検索する(Yahoo)

(2)リンク集とコメントを作成する(Word)

リンク集をホームページに掲載することを意識させ,短い言葉でまとめるにはどうすればよいかに着目させる。

観測データを集計する

(1時間)

(1)本企画の観測データをもとに集計表を作成する(Excel)

(2)グラフを作成する(Excel)

これまでにExcelを利用していないが,操作面で多くの時間を費やし,行き詰まることがないよう

配慮しながら,統計図表

の作成法を理解させる。

観測値を分析する

(2時間)

(1)集計表・グラフを印刷する。

(2)インターネットで観測地付近の地図や気象データを収集する(Internet)

(3)分かったことをまとめる。

(Word)

カラープリンターがないために作業意欲が減退しないよう,分析に関心を向けさせる。地域や月日による数値の大小を土地利用や気象などと関連づけることができるようにする。

まとめ

(1)授業の感想をまとめる。

(Word)

これまでの授業との違いや酸性雨についてどれだけ理解できたかなどについて書かせる。

(1)酸性雨のリンク集づくり
 酸性雨に関するホームページはたくさんあるが,高校生の学習で役立つものを集め,リンク集をつくった。以下は,生徒に人気のあったURLである。
http://www.adorc.gr.jp/jpn/
http://www.eic.or.jp/ecolife/c015.html
http://kids.gakken.co.jp/kids-db/sanseiu/sanseiu.html
http://www.asahi-net.or.jp/~dd8k-kruc/
http://www.d1.dion.ne.jp/~sakagu32/index.html

(2)本校の観測結果より
 本校の観測値は,本企画のホームページに入力されていないが,メモしている測定結果から,「太平洋で発生する低気圧や前線がもたらす降雨のときはpH値が高く,中国大陸で発生した雨雲が東進してもたらす雨のpH値は低い。降り始めの雨は不純物を多く含む。窒素酸化物(Nox)調査では,工場周辺地域よりも自動車交通量の多い地点の方が窒素酸化物濃度は高く,風向きにも左右される」ことが分かった。

(3)全国参加校のpH値を分析
 授業では,参加校の観測値(2001年4月〜8月)をExcelで作表し,観測値の多い4校を抽出して,pH値の日別変化をグラフに書かせた。次に4校以上が観測している日を選び,pH値の階級区分図を作成し,考察させた。その際,Web上の窒素酸化物濃度の分布図や対象校周辺の地図を参考にした。以下は,参考にしたホームページのURLである。
http://pine.fukuyama.hiroshima-u.ac.jp
http://kids.gakken.co.jp/kagaku/taiki/taiki97.htm
http://www.isize.com/map/

(4)生徒の意見

  • 新居浜のpH値がかなり低く,全体的に瀬戸内海沿岸のpH値が低い。工業地帯に限らず,値の低いところがある。
  • 自然がたくさんあるところはpH値が高いことが分かった。インターネットでそれぞれの学校周辺の様子を調べると,機械・化学工場,ガソリンスタンド,米軍基地などがあった。
  • 同じ地域であっても,日によってpH値が違う。西日本のpH値が高かったのは,中国大陸から吹く風と関係があるのだろうか。

(5)授業後の感想

  • 酸性雨のことは,地理などの授業で今までに何回か勉強したことはあったが,何が原因で酸性雨になるか,どのような影響をもたらすかといったことしか分からなかった。でも,この授業で酸性雨のしくみや,どの県にどのくらいのくらいの酸性雨が降っているかなども調べられて分かった。
  • 酸性雨を調べて,地域による差があることが分かった。今までの酸性雨の学習は資料を見るだけだったが,今回は資料を活用し,インターネットを使うことによって,新鮮な感じがした。地図を見ることによってその地域の地理が分かり,なぜ酸性雨の値が高いかかが分かった気がした。
  • 酸性雨のことをいろいろと調べてみて,今までは工業地帯とか自分の住んでいる地域には関係のないものだと思っていたが,本当はすぐ近くにある問題だと気がついた。雨の日にpH値を測れば酸性雨が降っていることが分かるし,表を集計して地図を色分けすると,愛媛県は全国の中でも結構,酸性雨の降っている地域にあたることも分かった。これからは,もう少し自分の身の回りのことについて関心をもたなければならないと思った。

5.4.4 活動を進める上での評価の基準

 (1)酸性雨とは何か,(2)酸性雨の原因,(3)酸性雨の影響,(4)酸性雨対策についての知識の定着度をみるために,これまで客観テストやワークシートを作成したりしたが,本授業においては客観的知識を身につけるだけでなく,(1)環境問題への関心と実践へつなげようという意識が高まったか,(2)地図や統計図表などの見方と作成方法が理解できたか,その結果,地理的ものの見方・考え方が育成されたか,(3)インターネットの操作方法が分かるようになり,レポート作成において著作権などを配慮することができるようになったなども評価の対象とした。学習意欲・態度・技能は授業や作文などからも推測できるが,多くの生徒が「授業はよかった」と評価してくれた。ただ授業実践が環境保護への実践につながるかが課題で,統計図表の作成・活用方法の理解と地理的ものの見方・考え方については,様々な教育活動と関連させながら,年間計画全体として評価されるべきなのかも知れない。授業では操作上のトラブルや手違いが多く,緻密で用意周到な計画が必要であった。

5.4.5 支援者・協力者との関係

 定点観測とインターネット,パソコン地図による作業は,環境問題をより身近な問題としてとらえるきっかけとなった。機器を用いて体験させることにより,酸性雨に対する興味や関心が高められた。私のような社会科の教員が本企画に参加し実践できたのも,多くの方のおかげである。測定等で分からないときはメールで教えてもらい,春休みには広島大学附属福山中学・高等学校を訪問して,平賀先生とお会いし,激励された。
  しかし校内で活動を広げ,多くの方に知ってもらうことができなかった。職員室前など,校内の掲示板に観測データを表示し,観測データを本企画のホームページに書き込めなかった。推進グループをつくり,役割分担を明確にすべきだった。特定の教員が中心となって継続すると広がらないし,深まらない。校内で積極的に協力してもらえる教員がいなく,またネット上でしか動きが見えず,参加校が近隣に少ないプロジェクトに参加していると,教育実践活動が行き詰まってしまうと,停滞傾向が長期化する傾向がある。それを払拭するために,地域の関連グループとの連携やメーリングリストの効果的活用が必要となる。本来はまず自校で教員・生徒間の連携を固め,他校や地域に広げていくべきものであろう。しかし,多くの企画に見られるように,自校の連携がとりにくい・専門の教員がいない場合には,まず周囲の方々に協力していただき,自校の教育実践体制を整えていくという方法をとらねばならないのではないかということを感じた。

5.4.6 教育実践活動における留意点

 授業後,(1)年間指導計画の中で,インターネットを活用した環境問題解決学習をどう位置づけるか,(2)生徒が積極的に活動し,実践力を高めるためにどうすればよいか,(3)パソコンやインターネットに関する系統的知識や技能を習得するプログラムをどのようにカリキュラムの中に関連づけるか,(4)他教科の学習内容や既習内容を整理し,体系化する必要性などを課題として取り組んでいかなければならないと感じた。

5.4.7 実践を終えて

 観測は,達成感が得られないと継続しない。生徒に観測させ,複数の教員が実践活動に関わる場合,分かりやすい作業手順と責任の明確化が必要である。観測データのもつ意味の理解から,環境保護への実践にどう結びつけるかは,クラスや学年・教科・科目によってアプローチの仕方が異なり,多教科の教員の話し合いが必要となる。教科・科目・学校を超え,地域や大学などとの連携をはかるため,もっとメーリングリストを活用すべきであった。そこでの情報交換を活発にするために酸性雨調査に限定しないテーマで議論したり,学習に役立つ画像や種々の観測データ,授業実践例などを広く公開したりすることが必要となる。しかしまだ,インターネットが身近な存在でない学校や教員が多い。身構えないで自然に道具として利用できるものであってほしい。しかし,そうはいってもインターネットを通して,多くの方々と情報交換できるようになった。インターネットの情報は正しいとは限らないが,様々なソフトの画面を同時に開き,見比べながら情報を整理・加工してまとめ,自分の考えを体系化していくような授業や教育活動が増えると思う。生徒が負担にならない作業と進度・興味や関心を高めるような授業内容や方法などの工夫によって,成果が上がり,継続できることを本企画を通して強く感じた。夢はふくらみ,理想と現実のギャップを感じることもあるが,一歩一歩,着実に歩み,大きな成果を実らせたいと思う。

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5.5 環境問題と今後のエネルギー問題についての調査・研究

大分県立緒方工業高等学校  向 智章

5.5.1 実施のねらい

(目的)
  生徒が大気汚染の一つの指標として環境調査を自ら行うことによって,その学習意欲を高め,身近な環境問題としての酸性雨,二酸化窒素などの実態を地域的かつ広域的に把握し,その発生メカニズムへの理解を深める。今後も需要が高まるエネルギーについての様々な関連問題も,身の回りの環境調査や放射線測定などを通じて自らの課題として解決にむけた取り組みや研究を行う。

(意義)
  本校では,地球環境問題の一つである酸性雨などの自然破壊の問題と,今後のエネルギー問題を,身の回りの現象や授業を通じて,生徒が自ら考え理解を深めていく。その手法としてインターネットなどを活用した環境・エネルギー調査や,それをテーマとした海外校との交流を通じて価値観や視野を広げ,情報教育と環境教育の両方の面から学習を深めていく。

5.5.2 指導計画及び指導案

(指導計画)
第1次
第2次
第3次


第4次


第5次

オリエンテーション及び課題選択,グループ編成
課題解決における研究方法習得
情報収集,整理,測定
 発電所見学,身の回りの環境問題についての調べ学習
 酸性雨,二酸化窒素,自然界に存在する放射線の測定
情報発信の組み立て
 海外校との「環境」をテーマとした交流
 学習成果をホームページにアップ
発表,評価,まとめ
 課題研究発表会

(指導案)学習指導案(対象教科 課題研究  対象生徒 電気科3年6名)

1 題 材  環境汚染とエネルギー問題との関連についての考察

2 指導観
 今日,電気や石油は容易に光や力や熱に変わり,大変便利であり,われわれの文化的生活をいたるところで支えている。しかしこの便利な電気や石油も,一歩立ち入って考えると,地球資源を消費し,さらに環境汚染を引き起こしている一面がある。ところが私たち消費者は,「自分の生活に影響していないようだからあまり関心がない」「理解しているが,今の文化的な生活水準を下げることはできない」などの言葉に代表されるように,環境保護について真剣に考えているとは言えない状況も見られる。これからの地球環境の保全や今後のエネルギー問題について,真剣に考えていくことは,私たちが取り組まなければならない大きな課題の一つである。
 そこで,課題研究を通じて,環境やエネルギー調査・測定などの活動を行い,環境保全を科学的に認識させていく。その際,様々な情報メディアを活用することを通して,その情報を分類・整理,環境について考えさせることを目標としている。またそれらの問題解決に向けて,校外交流を通じて班で分担・協力させることによりテーマの解決を効果的に進められるようにしたい。さらに,これらの学習を通して身近な環境問題や将来のエネルギー問題について新たな認識と探究心を生徒自身に身に付けさせたい。

3 指導目標
(1) 自分の地域の環境問題に対して積極的に関心を持たせ,環境教育に関する学習を生かして,地域社会での環境保全活動に進んで参加する態度や今後のエネルギー問題を解決のための技術者としての資質や能力を育成する。
(2) 情報メディアを活用し,地域環境の実態を正確に理解させ,自然と人間との共存・共生の可能性を探り,環境保全に努めさせる態度を身に付けさせる。
(3)インターネットやメールで交流学習を行うことにより様々な価値観を身につけさせる。

4 活動計画

  • インターネットを活用して環境やエネルギー調査を行う。
  • 各種データを測定を分析し,その場所をデジタルカメラ等で記録する。
  • 収集データをコンピュータに取り込み情報を分類・整理する。
  • メールなどを活用して環境をテーマとした海外校との交流を行う。
  • 学習成果をホームページ上などで発表する。

5.5.3 活動を進める上での評価の基準

(情報収集・測定活動)

  • インターネットによる情報の検索ができる。
  • コンピュータやデジタルカメラなどの操作ができる。
  • 測定を正確に行うことができる。
  • 測定値からデータの特性を読みとることができる。
  • 物理的,自然的条件による関連性の分析ができる。
  • 各学校との測定データを比較と相互評価できる。
    (メールやチャットによる校外交流)
  • テーマに沿った活動や交流ができる。
  • 継続性や発展性のある内容で交流ができる。
  • 海外校のメールを翻訳できる。
  • 伝えたい内容を自己表現し翻訳してメールを送信できる。
  • 班で役割を分担・協力してテーマの解決を効果的に進められる。

(まとめ)

  • パワーポイントなどを活用し情報を整理する。
  • ホームページ上に学習成果を公開できる。

(発表)

  • 環境問題を自分の問題として考えて意見・発表ができる。
  • 環境保全のため何をしなければならないか自分の言葉で発表できる。
  • 今後のエネルギー問題の解決ついて自己主張ができる。

5.5.4 支援者・協力者との関係

 本校は,グローバルプロジェクト推進機構(Eスクエアプロジェクト)に参加している。その機関を通じて,環境問題に取り組む海外校の紹介をしていただいき交流活動を行っている。また,発電所の見学は,本校卒業生の九州電力株式会社のご協力により実施し,放射線の測定は,放射線測定協会から測定器をサポートしていただいている。

5.5.5 教育実践活動における留意点

  • 環境調査や交流を通じて,これまでの自分たちの取組,環境破壊・保全に関する現状,これから求められることについて理解させる。
  • 環境保全等について,交流を通じて主体的に考えることができる態度を身に付けさせる。
  • 班全員に課題意識を持たせ,それを解決するために協力して意欲的な取り組みをさせる。
  • 交流相手校との英語の本文の原稿と翻訳は,最終的に指導者が確認する。
  • インターネット,デジタルカメラ,コンピュータ等の活用を図りながら,著作権や肖像権に配慮しホームページ上で学習成果の情報発信をさせる。
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