北海道苫小牧東高等学校 パソコン同好会顧問 矢嶋 裕之
6.1.1 実施のねらい
本校は旧制中学校から引き続く北海道としては最も伝統の長い地域における進学校である。また,自主自律をモットーによく学び,そして,放課後の部活動も熱心な文武両道している生徒の多い学校です。本校科学研究部の部長を3年間務めた後,大学へ進学し,教員となって卒業後20年ほどして戻った私(以下,顧問とす)は,当時発足間もないパソコン研究同好会の顧問となった。生徒だった頃から地域における河川の水質分析に取り組んでいたため,関連した事項でもある酸性雨に関する興味もあったが,測定に使う実験器具が何もない中では生徒に昔の自分のレポートを見せて説明するのがやっとであった。しかし,一昨年(平成12年)ふとしたことからこの企画を知り,参加するチャンスを得た。そして,生徒に話したところ,実験器具などの提供も受けられることに強い興味を示したため,参加することとなった。そして,今年度は同好会が進めている地域を調べる活動の一貫として参加を希望したものである。
6.1.2 指導計画及び指導案
本節では今年度の活動を振り返ってまとめることとする。
【4月】《引継》
前年度の活動の中心を担っていた生徒が3年生に進級し,課外講習や模試に忙しくなってきたため,前年度の活動の報告と新入部員への引継をしてもらった。時間の関係もあり,口頭伝達と紙面での配布といろいろあったが,このことが今年度の活動の最終まとめの形態の決定へつながった。本校のパソコン教室にインターネット環境が配備される連絡も入り,生徒にも期待感が広まった。
【5月】《実測の開始》
初めてレインゴーランドを見る生徒にとっては,どうしてもおもちゃのように見える。確かに小学校3年生の娘を持つ顧問の自宅には似たおもちゃがある。だから,生徒に『これは,おもちゃではなくて,ちゃんとした実験器具だ』という説明からしなくてはならず,顧問としてはやや辛い。ただ,その実験器具の取り扱いに慎重さを要することなどを実際に指導する中で,生徒にも実測に対する意気込みが出てきた。レインゴーランドの設置場所は昨年度と同様に本校屋上とした。しかし,実際に生徒に実験をさせてみると小さいカップをうまく移せず,途中で落としてしまうことが度重なり,採雨はできても思うように測定できないという事態が続いてしまった(前年度も同様であった)。
【6月】《定期考査と活動の低迷》
前期中間考査があり,一時期部活動が禁止となる。だからこの時期雨が降っても測定はできない。顧問も大量な分掌業務がありとても手が回らない。今年は特にインターネット関連の会議が極端に多くなり,生徒の指導に全然時間が割けなくなった。そのため,中間考査後,生徒が活動を開始しようとしても顧問がつけないため,屋上の鍵を借りれず,実測はストップしたままとなってしまった。ただ,成分分析用のサンプルを効率よく集める装置を作らせ,理科の先生からビーカー4つを借用して少ない雨でもサンプルとして送るのに十分な量を確保する手だてを確立した。6月末から顧問も参加して,活動が再開する。
【7月】《サンプルの1回目の送付》
7月3日と5日の降雨サンプルを広島大学の中根教授の元へ発送した。前年度は開始した時期がやや遅かったこととレインゴーランドだけではpHなどの測定後にサンプルとして送るだけの降雨が残らなかったため,降雪期に生徒が雪を集めてきて溶かして送ることしかできなかった(11月18日)。こうした前年度の経緯があったため,生徒も顧問も降雨のサンプルを期限内に送れたことに一安心したためか,あるいは7月中旬に行われる学校祭の準備が本格化したためか降雨サンプルを発送した後の活動はまた低迷してしまった。顧問も活動の様子が気になってはいたもののインターネット利用規程作りの大詰めの時期であったため,時間に追われる生活を余儀なくされ余裕がなかった。
【8月】《夏期休業》
昨年度は秋以降の開始であり,北海道における降雨期のある長期休業としては初めてであった。顧問が新教科『情報』の現職教諭等講習会の講師を務めている事もあり,観測場所を本校屋上から学校近隣にある生徒の自宅の庭先に一時的に変更することも考えたが,生徒の意見も取り入れ,顧問出張中は自主活動となった(早い話が活動しないということ)。本来,一番活動に制約のない時期だが,平成14年度の夏までは前述の講師の役務を担っており仕方がない。本州と異なり,8月中旬から授業が開始したが,この頃から新入部員が急増し,同好会設立以降,最大人数を要することとなる(本校では,インターネット利用講習会を受講した生徒は教員が同席さえすれば自由に使えることとなっているが,生徒が誤解して入部したものであった)。この時期に入部してきた生徒は,同好会の一部の者と顧問がこのような活動をしていることは知らない。
【9月】《パソコン教室管理規定の変更とパソコン同好会》
9月初め,パソコン教室に電話回線が引かれ,インターネット接続が完了した。しかし,実際に生徒が授業や放課後に利用を開始したのは10月に入ってからであった。ただ,インターネットの利用開始は同好会に思わぬ影響を与えることとなる。本来,酸性雨のpH測定などは理科実験室で行うべきだが,本校ではこの取り組みをパソコン研究同好会の活動として行っているため,当時パソコン教室の片隅で行っていた。しかし,インターネットの利用開始以後,顧問又は別の教員が同席しないとパソコン教室で活動できないこととなり,放課後の会議や課外講習のため,同好会は活動の希望はあってもできないこととなる。午後5時を過ぎれば顧問がつける日はたくさんあるのだが,遅い時間から活動を始めると生徒の帰りのバスがなくなるなど諸事情があり,雨が降っても測定は翌日あるいは数日後となり,屋上の鍵を借りてレインゴーランドの回収に行くと,傍らのビーカーにはカラスの糞が浮いていたり,風によってレインゴーランドが傾いたり倒れたりしていてうまくいかないことが多かった。また,9月下旬から以前から考えていたこの1年間の活動のまとめと地域を調べるという本来の同好会活動の目標の達成のため,ウェブ化して作品をまとめるプランについて生徒と話し合いを始めた。
【10月〜11月】《活動は低迷のまま,降雪期を迎える》
本校ではパソコン機器整備委員会がインターネット利用規程案を作成し,職員会議での議決を経て決定したのだが,その規程案の実務的作成は顧問の私がした。当初,顧問がつけない日の同好会の活動が制約されることはわかっていたのだが,それ以上に何でもできてしまうインターネットを生徒だけで使っていて何かトラブルに巻き込まれたり,逆に何かトラブルを発生させてしまったら学校という公共機関だけに大変な事になると考え,教員の同席を求める規定案にした。しかし,このことがこれほどまでの停滞や低迷を招くとは思っていなかった。10月以降,屋上の鍵の管理やパソコン教室への顧問同席などのため,降雨調査は進展がほとんどない。また,降雨サンプルの発送も9月に2検体を追加分析のために発送したのが最後であり,現在,顧問自宅の冷蔵庫には10月11日の降雨サンプル1本と空の容器とが一緒に入ったままである。
【12月】《まとめ,そして,季節は降雪期》
昨年度は雪が降ったある日,生徒が外に出て行って大急ぎで雪を集めたこともあった。しかし,その後,屋上に設置して降雪を集めるために右図のような手製の装置を生徒と一緒に作った。しかし,屋上の鍵の管理をめぐる点と屋上に施してある耐水(防水)膜の管理上の問題から特に冬季は鍵を貸してもらえなくなり,作った装置はほとんど使われていない。降雨としての観測は終わったため,今後はこれまで1年以上観測地点としていた本校屋上を別の場所に移すつもりでいる。12月初旬の後期中間考査を終え,どこに観測地点を移したら良いかを話し合わせており,正月明けに報告を受けることになっている。活動のまとめを担当している生徒は現在自宅のパソコンでホームページビルダーの利用練習をしており,これも1月以降少しずつ進むものと思われる。
【1月〜3月】《実践のまとめ》
今年度は昨年度と異なり,ある程度形に残るものとして活動のまとめを作る予定である。具体的にはウェブ化させてプレゼンテーションに近いものを考えている。そして,それを4月の新入部員の勧誘に役立てたいと思っている。
以上が4月〜12月の酸性雨調査の活動の報告と1月〜3月の活動予定である。本校パソコン研究同好会の生徒のうち,顧問の私と一緒にこの活動をしているのは僅か3名であり,他の多くの者はワープロ検定のための練習やイラスト作成など各自のテーマでパソコンを道具として利用している。生徒のインターネット利用も始まり,ある者は早速インターネットを活用して情報検索したり,自分のホームページ作成をしている。ただ,顧問が同席しないとパソコン教室での活動はできないため,以前に比べると活動が全体的にも鈍っている。
6.1.3 活動を進める上での評価の基準
授業と異なり同好会での活動のため,評価をするという場面はないが,一般的には次のようなことが想定されるのではないだろうか。
(1)降雨観測をして,酸性雨の問題を身近な問題としてとらえることができたか。
(2)降雨観測をする中で生じた疑問をインターネットを利用して関連情報を集めることによって解決あるいは解決への糸口をつかめたか。
(3)定量分析(測定)を繰り返す事によって,計測機器の扱いになれていったか。
(4)計測結果を使ってプレゼンテーション用の作品にまとめることができたか。
(5)全国的な企画に参加して,見ず知らずの人とメールなどを用いて意見交換などを積極的に行えたか,また,その結果,新たな発想が生まれたか。
6.1.4 支援者・協力者との関係
支援者や協力者にあてはまるかどうかわからないが,本校のパソコン研究同好会としては苫小牧市環境保全課の職員の方に意見を聞いたり,電話やFAXでのやりとりを続けている。実は,平成12年度の夏休み前の時期に苫小牧市で行われた酸性雨調査(苫小牧市環境保全課実施)に同好会として参加したのがそもそもの発端だった。この調査では0.1%のBCG溶液を使ってpH測定をするものであった。そして,その後,本企画に参加して降雨のpH・伝導率の測定を始めることとなる。しかし,測定を続けるうちに塩素濃度がいつ測定しても0%であることに生徒も顧問も疑問を持つようになり,苫小牧市環境保全課との連携が再び始まる。本校屋上からは広々と広がる太平洋が望める。そんな海岸に面した苫小牧で降雨に含まれる塩素濃度が0とはどうしても思えない。自宅から持参した食塩で食塩水を作り,計測器で計測するという簡単な実験ではそれなりの値を示し,計測器の問題ではないことがすぐわかった。加えて,環境保全課の方も0ではないはずとの意見ではあったが,保全課でもそれ以上の具体的なデータは持っていないらしく,顧問としてはお手上げとなる。そこで,今年度1回目の降雨サンプルを発送する際に中根教授に塩素濃度についての分析もお願いした(結果は最近ダウンロードして得られた)。
6.1.5 教育実践活動における留意点
本校パソコン研究同好会では各種のウェブコンテスト(ホームページコンテスト)用の作品作りに取り組んでいる。その指導中で顧問が常々口にしているのは『単に書籍で調べた内容をまとめた』作品ではなく,『自らが体験したことを通して得られた内容をもとにしてまとめた』作品を重視したいということである。苫小牧市の酸性雨調査に参加したり,本企画に参加させていただいたのも実体験を得るためである。科学研究部のような部活動であれば更に進んだ取り組みに進化させていくことも可能だが,実験器具などのないパソコン教室での活動ゆえ,これが限界であった。留意点(問題点)は次のようになる。
《定点観測に関すること》
(1)本校ではインターネット利用開始以後,パソコン教室の利用は顧問等教員が同席しなければならなくなった。活動の場所を別の場所に変えるなど生徒だけでも活動が継続的に行える体制づくりが急務である。
(2)レインゴーランドの設置場所について,本校でも多くの学校同様屋上であった。これは,降雨のある前からあらかじめ設置しておいた方が正しく観測でき,そして,学校の屋上はあまり人が立ち入らないためであった。しかし,屋上への鍵の管理の面でかなり制約が多く,顧問がつけないときは測定できないことが多々あった。学校に百葉箱のような観測点を作るなど,生徒だけの自主的な観測ができるような準備も必要である。
(3)多くの学校では屋上や校庭など一ヶ所での観測であると思われる。無理のない長期間での活動スタイルとしてはこれが好ましいが,レインゴーランドあるいは別の測定器具を多数用意して同日多点観測はできないか。以前,苫小牧市で実施した酸性雨調査でも同じ日の降雨でも地域によってpHの値にかなりの差があった。これを全国的に実施するとどんな結果になるだろうか。環境汚染の進み具合の縮図となって現れるのではないかと考えている。
(4)本校では問題にはならなかったが,多くの生徒で一台のレインゴーランドを使って観測している学校では責任があいまいになりがちである。観測当番表などを作成し,降雨があった場合,確実に採取できる工夫が必要である。
《観測結果の利用に関すること》
(1)本校の場合は観測結果を使ってウェブ作品など何かをまとめるという行程だったので,測定データはいろいろと利用されたが,観測が主体の学校では測定結果がその後あまり利用されないことが多い。本企画では参加校はインターネットを介してデータを入力して全国的な分布のあり様を見ることができた。しかし,それにとどまることなく測定結果を利用した独自の取り組みも可能であろう。また,せっかく測定したデータを本校でも同好会の活動として作品作りに利用はしたが,校内外を問わずデータの公表は全くしていなかった。多くの方に知ってもらう取り組みも必要であったと今反省している。
(2)本校の場合,9月までは校内でインターネットを利用できるところがなかったので仕方がないが,やはり測定データの入力は当番を決めて行う体制が必要である。本校では顧問単独か顧問と残っていた生徒が顧問のノート型パソコンからデータ入力をした。今後はパソコン教室からの入力となるだろう。
(3)昨年度も今年度も本校では観測や測定を実施し,データ入力までは行えたが,全国的なデータをダウンロードして全国的な状況と本校が得たデータとの比較までは至らなかった。顧問としては今年度最も生徒に期待した取り組み内容だったが,インターネットの利用開始時期が若干ずれ込んでしまったとはいえ,全く手つかずというのは残念である。全国的な企画に参加しているのだから,参加意義を十分理解した自主的な活動を今後期待するものである。
《その他,本企画一般に関すること》
(1)昨年度はメーリングリストを顧問は積極的に利用した(当時,校内でインターネットを利用できなかった生徒が掲示板等を利用できなかったのは仕方がないが)が,今年度は昨年度と異なりメーリングリストによる配信がほとんどなかったように思う(あるいは単に顧問が今年度登録申請をし忘れたせいなのか)。メーリングリストの活用や掲示板の活用は新たな発見につながることが多いので積極的でありたい。
(2)(特に昨年度は)顧問も生徒も全国的な企画は初めてだったため,初体験のことばかりで与えられた課題はこなしたと自負しているが,それ以上の自主的な取り組みまでは至らなかった。例えば本企画に参加している高校間での協働実践を目指した取り組み(たとえ,その実現までは至らなくても)に挑戦するなど幅広い広がりを示唆する様に実践は前向きでありたい。
(3)生徒も顧問もよくわからなかった本校における降雨に含まれる塩素濃度が数ppmとわかり,手元にあった測定器で0%となっても仕方がないことはわかった。この経験は生徒にとっても顧問にとっても大きな収穫であり,先日もダウンロードした分析結果を片手に調べている生徒を見かけ,顧問としては最高の喜びだと感じた。サンプルを分析していただいた学校はこの分析結果を元にした更なる取り組みが可能ではないか(ただ,現実的には教室レベルを超え,研究室レベルになってしまうため,難しいとは思うが)。
6.1.6 終わりに
12月下旬に実践報告書作成の依頼を受けたため,生徒たちとのディスカッションなしで顧問の視点からの報告書となった。中には,生徒の目から見ると違って見える点も多々あるかもしれない。本稿で述べてきたように,本校で酸性雨の調査に参加したのは生徒の希望からわき起こったというより,顧問の誘いに生徒が乗ってきて始まったものである。そのため,その活動もこれまでのところ,どうしても顧問主導であることが多かった。今後は名実ともに生徒が主体である活動となるように努めていきたいと思っている。
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