E-Square ProjectEスクエア・プロジェクトホームページへ 平成13年度 成果報告書
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「酸性雨/窒素酸化物調査プロジェクト」実践マニュアル

7. データの活用・分析
本データの活用例,分析例を示す。学校は適当にピックアップしている。
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7.1 pH及び導電率の分布

 すべての参加校が最低限pH値を測定しており,まずはその活用が考えられる。
 全参加校の全データをダウンロードし,一降雨の平均pHを横軸,その発生頻度を縦軸に表わしたものを図 7-1に示す。

pHの頻度分布

図 7-1 pHの頻度分布

 これを見ると日本にもpH3付近の強い酸性の雨が降っていることがわかる。また,全国的な降水の平均pHの頻度は4〜5が最も多く,ついで5〜6が多くなっている。このことは日本列島の降水が全国的に酸性の傾向が強いということを意味している。全観測データのうち,pHの最小値は3.1,最大値は8.5であり,ともに神奈川県大和市立光丘中学校で観測されている。
 一降雨の平均導電率の分布を図 7-2に示す。9割の雨は100μS/cm以下となっているが,中には200μS/cm以上の雨も観測されている。

平均導電率の分布

図 7-2 平均導電率の分布

 地域別に比較すると,関東地域や瀬戸内海地域が比較的低いpHに分布しており,東北地方や北海道地方は相対的にpHが高くなっている。また,日本海側では,冬場にpHの低い雨が観測されている。これは,大陸からの越境酸性雨の影響が大きいためと考えられる。また,各校別のグラフから,地域によってpHのちらばりがかなり異なっていることがわかる。



図 7-3 各地における一降雨の平均pH

 pH3という酸性度は,ほぼ食酢と同じである。オレンジジュースはpH4程度,少しすっぱめのオレンジジュースはpH3.5程度である。日本各地に降っている雨はほぼ,オレンジジュース並の酸性度といえる。

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7.2 pHと導電率の関係

 横軸に平均pH,縦軸に平均導電率をとったグラフを図 7-4に示す。



図 7-4 pHと導電率の関係

 導電率が0に近づくとpHも5.6に収束していくといえる。逆に,導電率が高くなると,酸性またはアルカリ性が強くなったりする一方で,中性を示すものもあり,一般にpHに散らばりが大きくなっている。また,各校のグラフを詳しく見ると,導電率とpHの正の相関が見られる地域と,負の相関がある地域があることがわかる。
  正の相関が見られたのは,札幌市立発寒中学校,いわき市立磐崎中学校,宮城県登米町立登米中学校である。これらの地域では,導電率もあまり高くなく,酸性の汚染物質の少ない地域と考えられる。発寒中学校で採取された2000年11月の雨水のイオンクロマト分析では,塩化物イオンが多く検出され,それ以外にナトリウムイオン,アンモニウムイオンなどが検出されている。塩化物イオンとナトリウムイオンは海塩起源の可能性が高い。また,アンモニウムイオンは工場起源か,窒素肥料を散布する農耕地の影響が考えられる。
  負の相関が見られたのは愛媛県立新居浜工業高校である。ここでは,導電率が高くなるにつれてpHは小さくなり酸性度も高くなっている。新居浜工業高校で採取された2000年10月,11月の雨のイオン分析では,硫酸イオンと硝酸イオン,そしてアルカリ成分であるアンモニウムイオンが多く検出された。この地域では強い酸性汚染物質が影響しており,大気汚染が進んだ地域の特徴といえる。
  広島大学附属福山中学校の観測データも同様の傾向がある。新居浜工業と比較して若干導電率の高いときにアルカリ性が強くなるケースが見られる。
  神奈川県大和市立光丘中学校では,このpHの散らばりが大きくなっている。汚染物質として酸性,アルカリ性の双方の物質が影響を与えている。導電率が非常に高くなるときがあり,大気汚染が進んでいることを示している。人為的大気汚染の影響に加えて,2000年8月から活動を活発にしている三宅島からの火山性ガスの影響もあると考えられる。
  どの地域も導電率が50μS/cm付近でpH4 〜 7付近まで幅広く分布しているが,100を越えてもこの幅はあまり大きくなっていない。これはpHが酸性度に比例した数値でないために見られる特徴です。
  また,pHが5 〜 6の比較的きれいと思われる雨水でも,導電率で見ると大きな散らばりがあり,意外と強い汚染があることもある。酸性雨の状況を調べるのにpHだけでは不十分であることがあらためてわかる。

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7.3 降水量とpH・導電率との関係

 横軸を降水量,縦軸を平均導電率としたグラフを図 7-5に,縦軸を平均pHとしたグラフを図 7-6に示す。各データを季節ごとに分けて表記している。
  一般に降水量が少ないときはpHの散らばりも大きく,降水量が多くなるにつれてpHは5.6に導電率は0に近づく。
  大気中の汚染物質は雨水に溶け込み,大気中の濃度を減らしていく。そのため,初期降雨にたくさん溶け込み,降水量が多くなるにつれ大気が洗浄され徐々にきれいな雨水になる。雨粒の大きさもpHや導電率に影響する。小さい雨粒の方が体積に対する大気に触れる面積の割合が大きいため汚染物質が溶け込みやすく,よりたくさん汚染物質を含むようになる。そのため,酸性霧による森林被害が深刻な問題となっている。
  50mmを越える雨でも比較的高い導電率の場合もある。これは雨雲自体がかなりの汚染物質を付着していたり,汚染物質の供給がある可能性があるといえる。このような雨は広域的な酸性雨を降らす場合があり,越境酸性雨の可能性もある。
  図 7-7は,2000年度2校で採取された観測データの一部を1mmごとのステップでグラフにしたものである。図 7-5,図 7-6と比較して1ステップ目(降りはじめ1mmの雨)のpHが,平均のpHより幅広く分布していることがわかる。多くのデータでステップが進むにつれpHも中性に近づき,雨がきれいになっていくといえる。


図 7-5 降水量と平均導電率


図 7-6 降水量と平均pH


図 7-7 降水ステップごとのpHと導電率

 導電率のグラフでも顕著にこの特徴がでている。多くの雨が2ステップ目で1ステップ目の半分程度の値になり,その後徐々に導電率が下がる。このグラフのデータは初期降雨8mmまでを見ているため,図 7-5,図 7-6ほどは中性に近づいていない。
  以上のように,初期降雨が最も汚染が激しく,雨量が増えるにつれ一般にきれいな雨になっていくといえる。

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7.4 季節による雨の違い

 横軸を導電率,縦軸を平均pHとし,季節ごとに区別して表記したグラフを図 7-8に示す。


図 7-8 季節ごとの平均導電率と平均pH

 強い汚染が見られた光丘中学校では,春は導電率が100μS/cm以下で比較的小さい値を示している。しかし,いずれの季節もpHの散らばりが大きく,はっきりとした特徴見られない。
  広島大学附属福山中学校では7.2で考察したように,導電率が高くなるとアルカリ性を示すものがでてくる。これは特に春の雨の特徴である。秋冬の雨は,導電率が高くなるにつれpHが小さくなる傾向がはっきりと見られる。これに対して春の雨では,酸性,アルカリ性双方に分布が広がっている。これをさらに詳しく見るために,風向きを考慮に入れる。横軸を風向き,縦軸を導電率,pHとしたグラフを図 7-9に示す。なお,風向きは,南: 0とし,以下,時計回りに西: 4,北: 8,東: 12と割り振っている。


図 7-9 風向きによる酸性雨の状況(広大附属福山)

 夏は北からの雨のpHが低く,南からの雨はpH6程度に高くなっている。これは,南からの雨が海水を巻き上げていると考えることができる。これに対して春の北からの雨は,夏や冬と比べてもかなり高めのpHとなっています。このときの導電率はさほど高くなっていない。このことより,春の北からの雨にはアルカリ性の汚染物質が含まれていると考えられる。
  西日本や日本海側では春先に中国大陸から黄砂が飛来することがある。黄砂は,中国大陸の黄土高原やゴビ砂漠などの砂で,カルシウムやマグネシウムを豊富に含む微粒子である。これが嵐で巻き上げられ,春先の強い偏西風に乗って数千kmの長距離運ばれ日本にやってくる。早い年で1月から観測されることもあり,日本への年間飛来量は300万トン,西日本を中心に1平方キロメートルあたり2 〜 3トンと推定されている。この黄砂が雨に混じると,アルカリ性になると考えられる。広島の場合,春先のアルカリ性を示す雨の原因はこの黄砂現象も影響しているものと推定されている。
  石川県の小松工業高校も,春の雨がアルカリ性を示している(図 7-10)。


図 7-10 風向きによる酸性雨の状況(小松工業高校)

 秋の雨は導電率が低くpHも小さい値を示しているのに対して,春の雨の導電率は秋同様低いながら,pHは2程度高くなっている。これも春先にアルカリ成分が飛んでおり,黄砂現象が影響していると推定できる。また,冬に導電率が高くなっているが,これは主に雪として降ったものである。雪は浮遊物質を核として成長することから,雨より導電率が高くなることがよくある。そして降水量が多くても強い酸性を示すのは,大陸からの越境酸性雨の可能性もある。

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7.5 台風の雨と梅雨の雨との比較

 雨の汚染の状況は,その雨雲の生成・発達過程,雲の移動経路,ローカルな大気汚染の状況などの諸条件で違ってくる。ここでは,具体的に,雨雲の進路でどのような雨が降ったかを考察する。
 台風は北太平洋南西域で発生した低気圧が発達して生じる。熱帯地方のあたたかい海では海水が蒸発して低気圧に向かって吹き込み,大量の水蒸気が供給されることで熱帯低気圧から台風へと発達する。こうしてできた台風の場合,大気汚染の影響が少ないとともに,ローカルな汚染物質も強風により飛ばされるため比較的きれいな雨となる。また場合によっては,雨の中の海水成分により比較的pHが高く観測されることもある。
 2000年9月11日の台風14号は東海地方に1時間に110mmもの記録的な雨をもたらした。この日の雨の酸性度は各地でpH6前後の比較的低い値となり,導電率も小さくなっていた。特に東海地方では台風により巻き上げられた海水成分の影響でpH6を越えた。
 これに対して,梅雨は梅雨前線によって発生する。梅雨前線は日本の北側のオホーツク海高気圧から吹く冷たい風と,南側にある太平洋高気圧から吹く暖かく湿った風がぶつかってできる。この梅雨前線で上昇気流が生じ,湿った空気が上昇して雲ができ,雨をたくさん降らせる。停滞した梅雨前線がもたらす長雨では,ローカルな汚染物質が溶け込んだ雨になると考えられる。また,雨が続き降水量が増えるに従い比較的きれいな雨になる。

 以上のような分析は,プロジェクトでの観測データだけでなく,気象協会などから提供されている天気図や雲の様子と合わせて検討すると興味深い。

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7.6 屋久島に降る酸性雨の考察

 本プロジェクトには,世界自然遺産として登録されている屋久島より,北部にある宮浦中学校,南部に位置する岳南中学校の2校が参加している。この2校の雨の状況には大きな違いがあった。
 宮浦中学校では比較的酸性度の高い雨が降っているのに対し,岳南中学校の雨はその多くがpH7程度であった(図 7-11)。

屋久島の観測データ

図 7-11 屋久島の観測データ

 岳南中学校のイオンクロマト分析の結果では,ナトリウムイオンが多く含まれており海水の影響を受けている可能性が高いと考えられる。これに対して,宮浦中学校では,常に酸性の雨となっており,降水量が多くなるにつれ酸性度が高くなる特徴があった。ステップデータを見ても,降水初期より後の方がpHが低くなる傾向が見られ,導電率も高く汚れた雨となっている(図 7-12)。

宮補中学校観測データのpHと降雨量の関係

図 7-12 宮補中学校観測データのpHと降雨量の関係

 自然が豊富な屋久島にも,強い酸性雨が降っている。これは大陸からの越境酸性雨の可能性もあり,環境問題の解決には国境を越えた対策が不可欠であることを感じさせてくれる。

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