インターネットを利用した情報技術活用支援センターでは,次の(1)〜(6)を充実させる必要がある。
(1)支援者
本センターの運営を通して「支援機器の利用に対する期待が大きいこと」,「短期間で支援機器を利用した効果が見られること」が確認された。これらに適切な対応を行うためには,障害のある子どもへの教育的なかかわりと,支援機器の機能や操作について知識と経験のある支援者が対応する必要がある。教育ニーズのある子どもに直接支援者が対応することでより大きな効果が得られる。そのため,経験豊富な支援者を確保することが必要である。
(2)試用機器
支援機器を有効に利用することができる子どもたちの障害の状態や活動場面は多様である。したがって,試用提供する支援機器もそれにあわせて多種類準備する必要がある。
最近は,多種の支援機器が市販されてきており,これらを選択して利用することにより,個別の教育ニーズに対応できるようになってきている。本センターが保有している試用可能な支援機器のなかには,本センターの趣旨に賛同した支援機器のメーカーやディーラーから提供された支援機器もある。豊富な試用機器を確保していくにあたって,さらに多くのメーカーやディーラーの理解と協力が求められる。
(3)他の相談支援センター等との連携
本センターの相談を受ける範囲は全国にわたっており,支援機器のカタログ的な情報の提供に留まらないインターネットを利用した教育ニーズのある子どもたちへの実際的な支援をめざす我が国最初の相談支援事業であった。インターネットを利用した支援機器活用の相談に関して,具体的なイメージ,その可能性を示したとともに,着実な相談支援を積み重ねてきた。
今後,より多くの子どもたちの教育ニーズに確実に対応するためには,各都道府県政令指定都市の教育相談事業や他省庁が全国的に実施する「障害者・高齢者相談支援事業」など地域との連携が必要であると考えられる。
(4)地域の支援センター等との連携
近年,地方分権の進むなかで都道府県などが独自に障害のある人たちの情報活用を支援する施策(例えば,障害者情報バリアフリー化支援事業など)が実施されている。 例えば,群馬県では平成13年12月9日に「群馬県障害者情報化支援センター」を開所した。この支援センターは,障害のある人のパソコン利用を支援してきたボランティア団体(パソコンサポート群馬:PSG)に運営が委託されている。PSGの会員の半数以上は障害のある人である。これまで拠点が確保できたったため,在宅訪問や学習会を中心にパソコン利用の経験のある会員が初心者を支援してきた。支援センターには,常時最低2名の支援者がおり,数台のパソコンと障害に対応した代表的な支援機器や支援ソフトウェアを備えている。開所以来,1日10人近くの相談者が来所しており,週末はパソコンデスクが満席になる。また最近,これまで支援の経験のない障害が重度で重複する人からの支援が増えており,支援者自身がレベルアップするための研修会などを検討する必要もでてきている。
「高齢者・障害者の情報通信利用を促進する非営利活動の支援等に関する研究会」報告書(総務省・厚生労働省2001.5.30)では,高齢者・障害者のIT利用を促進する非営利活動等の促進について報告と提言を行っている。ここでは「障害者のIT利用については,障害の種類・程度によって操作能力が多様であるため必要な支援の内容も多様であるとの事情があることから,障害の特性に配慮した指導・助言ができるリハビリテーションエンジニア,障害者施設職員などの専門家,パソコンボランティアに対する指導者,パソコンボランティア自身に対する研修を行うことが,それぞれ求められる」と述べられている。障害に応じた利用についてのサポートを行う人の専門性の向上が重要である。
他の多くの自治体でも「障害者情報バリアフリー化支援事業」が進められており,このような支援者が相談者と直接対応できる地域の相談支援センターが全国に設置され,その機能が発揮される日は遠くないと考えられる。
(5)盲・聾・養護学校のセンター機能の充実
個に応じたアシスティブテクノロジの普及が浸透している米国では障害のある児童生徒に必ずIEP(個別教育計画)が作成されている。目標はインクルージョンであり,IEPにおいてはインクルージョンのための手だてとしてアシスティブテクノロジが位置づけられる。IEPは学校区で作成され保護者の承認を得て執行される。IEPに明記された支援機器について学校区は予算を講じなくてはならないとされている。IEPにどのような支援機器を記述するかについてアセスメントを行うのが学校区にある「アシスティブテクノロジ・センター」である。センターでは作業療法士・心理療法士・言語療法士・特殊教育教員などの専門職がその判定,調整を行う。もちろん,各学校での支援機器の利用についての教員に対する指導も行っている。
支援機器の普及のためには米国のような「目標」や「体制」を整備することも重要である。わが国では盲・聾・養護学校が地域の特殊教育センターとなることを目指している。残念ながら現在は地域の盲・聾・養護学校は機器整備も専門性も十分ではなく,一部の学校や教員がその役目を担えるのが実状である。これらの整備を早急に進めることが課題である。本センター事業では盲・聾・養護学校教員からの相談が多かった。地域の特殊教育センターを目指す盲・聾・養護学校のアシスティブテクノロジに関する専門性を高めるための援助機関として本センターは有意義であったと考えられる。今後も盲・聾・養護学校が地域の特殊教育センター機能を充実させていく過程において,それを支える取り組みが重要であると考えられる。
(6)支援センター間の連携
障害のある子どもたちの支援機器の関するニーズは多様であり,支援機器の活用には子どものよりよい活動の実現をめざしたフィッティングの過程(教育的試用の過程)が重要である。このため,支援センターは市販や自作を含めた多種の支援機器を準備しておき,多様なニーズに対応できる体制をもつ必要がある。しかし,支援センター単独では,多様なニーズに対する多種の支援機器を準備するには限界がある。そこで,支援センター間で連携し,互いに所有する支援機器を相互利用することにより,この課題が解決されることが考えられる。支援機器に関する情報や支援機器を活用した指導例などの情報を共有し,効果的な教育的かかわりを相互に学習し合うことも可能になる。これらの支援センター間の連携を支えるものとして,インターネットの利用が非常に有効である。さらに,地域の支援センターに対してグローバルな視点で情報を提供できる広域の「センターのセンター」の機能が必要であると考えられる。本実践研究はその方向性についても示唆している。
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