E-Square ProjectEスクエア・プロジェクトホームページへ 平成13年度 成果報告書
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特別支援教育ネットワーク・センターの実践研究

4. 研究の結果
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4.1 教育実践活動における成果

 各事例やアンケート結果などにみられるように,本センターを利用した人々の評価は非常に高く,こうした支援センターの必要性を主張する声が多い。その大きな根拠となっているのは,「他にこうした情報を入手する方法や支援機器を試用する機会がこれまでなかった」という点にある。もとより支援機器活用に関する情報は,教育のみならず,福祉,衛生,医療,労働等の各分野に分散しており,相互に情報が流通する機会が少ない。こうした情報の発信先や実践機関はまだまだ少ない上に遠距離にあり,欲しい情報を学校現場の教員や保護者がたぐり寄せる方法というのはこれまでなかった。さらに,実際に試用してみないと支援機器が障害のある子どもたちに有効であるかどうかの判断が困難であり,そのような支援機器を試用できる環境が皆無に近い状態であった。
 インターネットをはじめとした広域ネットワークの発展は,こうした情報過疎におかれていた人々にとって,離れたところからも居ながらにして必要な情報を検索利用していくことができるようになるという大きな恩恵を与えた。しかしながら,支援機器そのものの情報を得ることはできても,その機器をどのように利用することができるのか,どういう点に制限がありどういう使いこなしが必要かなどの実践上の動的な情報を得ることは困難となっていた。
 教育は絶えざる試行錯誤の繰り返しであり,障害のある子どもたちの教育においては,個々の障害の状況や教育ニーズもそれぞれ異なっている。したがって,支援の方策や機器利用も,それぞれの指導場面に合わせて,試行錯誤しながら育て上げていく必要がある。ところがこうした実践活動を各学校の教員が個別に行っていたのでは,極めて効率が悪い上に,ノウハウを積み重ね情報を共有し発展すると言うこと自体ができなくなる。また,各支援機器が個々の子どもたちに適合できるのかどうかと言う基本的なことも確認の方法がなかった。実際に高価な(需要と供給のバランスの関係から,福祉関係の機器は一般に高額である)機器を買ってみたら使えないなどと言う不幸な事態に陥ることになる。こうした一連の制約によって,支援機器を学校現場で普及させ効果的に利用するということ自体に困難な状態があった。
 本センターでは,こうした課題を解決するために,3つの支援システムを実施した。
 1)相談内容について,支援スタッフが協議して対応する。
 2)有効と判断できる支援機器を一定期間貸し出し,実際に試用してもらう。
 3)必要があれば,相談者を訪問し支援する。
 こうした「支援システム」は大きな効果を上げ,相談者から大きな評価を得たのはアンケート結果からも明白である。とりわけ,これまで支援機器の利用について知識が乏しかった保護者やコンピュータに不慣れな教員からの相談も増え,着実に利用の効果が上がってきたことがわかる。
 上記を踏まえ,本実践研究では次の成果を挙げることができた。

  • 相談者の約8割が情報技術の活用に関して有効なサポートを受けることができた。
  • 支援機器の貸出,試用は,相談者の教育ニーズに応え,有効な支援機器の購入,次年度への予算申請につながった。
  • 相談者の支援を通して,支援スタッフ間で情報技術の活用に関するニーズ,課題等の蓄積,情報交換を行うことができた。
  • 特別支援教育における情報技術活用には,本センターのような支援体制を備えた支援機関が必要であることが証明できた。
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4.2 教育実践活動における留意点,課題の抽出

 「障害のある子どもたちこそ最新技術の恩恵を受けるべきであって,パソコンやインターネットなどの情報技術についても,子どもたち一人一人のQOL(生活の質)を高めるための有効な道具となりうるのではないか」,これが本実践研究に関わってきた支援スタッフ一人一人の問題意識である。しかし,その一方で,パソコンなどを導入したいのだがどのように使ったらいいのか分からない,インターネットを利用したいのだがどのように設定すればいいのか分からない,そもそも自分の学校の生徒にも本当に使えるのだろうかなどの困惑の声も多く聞かれる。特に,特別支援教育の現場では子どもの障害の状況が多様であり,一つのケースでうまく行ったからと言って必ずしも他のケースで成り立つとは言えないことも多い。
 パソコンなどの情報機器はソフト・ハードの両面からカスタマイズが可能であり,それ故に,特別支援教育の現場における多様なニーズにこたえうる道具である。しかし,その多様さ故に,それを支える技術も特殊性が高く,使いこなす技術のハードルは必ずしも低いとは言えない。情報機器の持つフレキシビリティが個別ニーズの高い特別支援教育現場に親和性をもたらすのと同時に,そのフレキシビリティが,逆に,現場での普及を阻害している大きな要因ともなっているとも言えるのである。近年,ノーマライゼーションとかインクルージョンという言葉がしきりに使われるようになってきたが,上述したハードルを越えない限りデジタルデバイド(情報格差)の克服はあり得ないことになる。
 本センターは,
 1)相談内容について,支援スタッフが協議して対応する。
 2)有効と判断できる支援機器を一定期間貸し出し,実際に試用してもらう。
 3)必要があれば,相談者を訪問し支援する。
という3つの支援システムを実施した。前項で述べたように,本実践研究は大きな成果を挙げたが,その一方で課題も残った。1)に関しては,相談の内容が具体的でなく,子どもの障害の状態や支援機器を利用する目的が不明確であり,対応が困難なケースもあった。反面,子どもの障害の状態や支援機器の機能,試用したい目的などが明確なケースもあった。2)に関しては,相談者に支援機器が送付されても,コンピュータとの接続方法や操作の方法がわからず,利用が困難なケースもあった。また,子どもの活動場面や日常的な生活のなかで支援機器をどのように使用したら効果的であるかという,教育的なかかわりが充分でなく,送付された支援機器が活用されていないのではないか,と思われるケースもあった。3)に関しては,費用と支援スタッフの時間の関係で,対応したケースは少なかった。しかし,実際に相談者に直接対応することは,子どもへの教育的なかかわりと機器の使用方法との両面において,有効な支援の在り方であることが確認された。
 また,全体を通して,「人的体制」,「継続性」の課題も残った。「人的体制」に関しては,支援スタッフ一人一人は本来の業務を抱えながらの支援であるため,該当のケースの支援には自ずと限界がある。そのため,基本的に時間の調整がしやすい電子メールでのやりとりから始める相談システムを取っているのである。しかし,相談者全てが電子メールの扱いに習熟しているわけではなく,また,前述したように子ども一人一人の障害の状況が非常に多様である状況を電子メールだけで理解し回答するということは非常に難しい。「継続性」に関しては,支援内容の性格上,高速ネットワークの普及に伴うテレビ会議システム,画像通信システムの利用,子どもの障害の状態を客観的に把握できるようなチェックリストの整備等と共に,相談者に対して,恒常的にサポート出来るような支援機関の整備が強く望まれる。

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4.3 インターネットを利用した情報技術活用支援センターの望ましい在り方
 インターネットを利用した情報技術活用支援センターでは,次の(1)〜(6)を充実させる必要がある。

(1)支援者
 本センターの運営を通して「支援機器の利用に対する期待が大きいこと」,「短期間で支援機器を利用した効果が見られること」が確認された。これらに適切な対応を行うためには,障害のある子どもへの教育的なかかわりと,支援機器の機能や操作について知識と経験のある支援者が対応する必要がある。教育ニーズのある子どもに直接支援者が対応することでより大きな効果が得られる。そのため,経験豊富な支援者を確保することが必要である。

(2)試用機器
 支援機器を有効に利用することができる子どもたちの障害の状態や活動場面は多様である。したがって,試用提供する支援機器もそれにあわせて多種類準備する必要がある。
 最近は,多種の支援機器が市販されてきており,これらを選択して利用することにより,個別の教育ニーズに対応できるようになってきている。本センターが保有している試用可能な支援機器のなかには,本センターの趣旨に賛同した支援機器のメーカーやディーラーから提供された支援機器もある。豊富な試用機器を確保していくにあたって,さらに多くのメーカーやディーラーの理解と協力が求められる。

(3)他の相談支援センター等との連携
 本センターの相談を受ける範囲は全国にわたっており,支援機器のカタログ的な情報の提供に留まらないインターネットを利用した教育ニーズのある子どもたちへの実際的な支援をめざす我が国最初の相談支援事業であった。インターネットを利用した支援機器活用の相談に関して,具体的なイメージ,その可能性を示したとともに,着実な相談支援を積み重ねてきた。
 今後,より多くの子どもたちの教育ニーズに確実に対応するためには,各都道府県政令指定都市の教育相談事業や他省庁が全国的に実施する「障害者・高齢者相談支援事業」など地域との連携が必要であると考えられる。

(4)地域の支援センター等との連携
 近年,地方分権の進むなかで都道府県などが独自に障害のある人たちの情報活用を支援する施策(例えば,障害者情報バリアフリー化支援事業など)が実施されている。 例えば,群馬県では平成13年12月9日に「群馬県障害者情報化支援センター」を開所した。この支援センターは,障害のある人のパソコン利用を支援してきたボランティア団体(パソコンサポート群馬:PSG)に運営が委託されている。PSGの会員の半数以上は障害のある人である。これまで拠点が確保できたったため,在宅訪問や学習会を中心にパソコン利用の経験のある会員が初心者を支援してきた。支援センターには,常時最低2名の支援者がおり,数台のパソコンと障害に対応した代表的な支援機器や支援ソフトウェアを備えている。開所以来,1日10人近くの相談者が来所しており,週末はパソコンデスクが満席になる。また最近,これまで支援の経験のない障害が重度で重複する人からの支援が増えており,支援者自身がレベルアップするための研修会などを検討する必要もでてきている。
 「高齢者・障害者の情報通信利用を促進する非営利活動の支援等に関する研究会」報告書(総務省・厚生労働省2001.5.30)では,高齢者・障害者のIT利用を促進する非営利活動等の促進について報告と提言を行っている。ここでは「障害者のIT利用については,障害の種類・程度によって操作能力が多様であるため必要な支援の内容も多様であるとの事情があることから,障害の特性に配慮した指導・助言ができるリハビリテーションエンジニア,障害者施設職員などの専門家,パソコンボランティアに対する指導者,パソコンボランティア自身に対する研修を行うことが,それぞれ求められる」と述べられている。障害に応じた利用についてのサポートを行う人の専門性の向上が重要である。
 他の多くの自治体でも「障害者情報バリアフリー化支援事業」が進められており,このような支援者が相談者と直接対応できる地域の相談支援センターが全国に設置され,その機能が発揮される日は遠くないと考えられる。

(5)盲・聾・養護学校のセンター機能の充実
 個に応じたアシスティブテクノロジの普及が浸透している米国では障害のある児童生徒に必ずIEP(個別教育計画)が作成されている。目標はインクルージョンであり,IEPにおいてはインクルージョンのための手だてとしてアシスティブテクノロジが位置づけられる。IEPは学校区で作成され保護者の承認を得て執行される。IEPに明記された支援機器について学校区は予算を講じなくてはならないとされている。IEPにどのような支援機器を記述するかについてアセスメントを行うのが学校区にある「アシスティブテクノロジ・センター」である。センターでは作業療法士・心理療法士・言語療法士・特殊教育教員などの専門職がその判定,調整を行う。もちろん,各学校での支援機器の利用についての教員に対する指導も行っている。
 支援機器の普及のためには米国のような「目標」や「体制」を整備することも重要である。わが国では盲・聾・養護学校が地域の特殊教育センターとなることを目指している。残念ながら現在は地域の盲・聾・養護学校は機器整備も専門性も十分ではなく,一部の学校や教員がその役目を担えるのが実状である。これらの整備を早急に進めることが課題である。本センター事業では盲・聾・養護学校教員からの相談が多かった。地域の特殊教育センターを目指す盲・聾・養護学校のアシスティブテクノロジに関する専門性を高めるための援助機関として本センターは有意義であったと考えられる。今後も盲・聾・養護学校が地域の特殊教育センター機能を充実させていく過程において,それを支える取り組みが重要であると考えられる。

(6)支援センター間の連携
 障害のある子どもたちの支援機器の関するニーズは多様であり,支援機器の活用には子どものよりよい活動の実現をめざしたフィッティングの過程(教育的試用の過程)が重要である。このため,支援センターは市販や自作を含めた多種の支援機器を準備しておき,多様なニーズに対応できる体制をもつ必要がある。しかし,支援センター単独では,多様なニーズに対する多種の支援機器を準備するには限界がある。そこで,支援センター間で連携し,互いに所有する支援機器を相互利用することにより,この課題が解決されることが考えられる。支援機器に関する情報や支援機器を活用した指導例などの情報を共有し,効果的な教育的かかわりを相互に学習し合うことも可能になる。これらの支援センター間の連携を支えるものとして,インターネットの利用が非常に有効である。さらに,地域の支援センターに対してグローバルな視点で情報を提供できる広域の「センターのセンター」の機能が必要であると考えられる。本実践研究はその方向性についても示唆している。

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