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日本のロケット開発
〜航空宇宙工業にみるものづくり〜 |
学年 |
クラス |
生徒数 |
実施日 |
合計授業時間 |
第1学年 |
1クラス |
20名 |
平成15年10月29日、 11月5日、12日、26日 |
420分 |
学年 |
教科名 |
単元 |
第1学年 |
総合学科「産業社会と人間」 |
授業実施校である岩倉総合高等学校では、総合学科1学年の必須科目「産業社会と人間〜地域の産業を学ぶ〜」において、中部地区の航空宇宙工業を取り上げ、世界トップレベルの技術力やその発展を支えるチャレンジ精神等をテーマとして、生徒の職業観、勤労観を養う。
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中部地区は全国でも航空宇宙分野の研究・開発施設がたいへん豊富な地域であり、日本の航空宇宙工業の発展過程において重要な役割を担ってきた。とりわけ航空機やロケット開発においては世界トップレベルの技術力を誇り、現在も日本の航空宇宙工業の中心として活躍している。
本授業は当地域の航空宇宙工業の代表として三菱重工業株式会社の協力を仰ぎ、「航空宇宙工業」激動の歴史とそれを乗り切ってきた先人達のチャレンジ精神、またその精神を現在に継承し、世界最高水準の航空機やロケットの開発に取り組む姿勢を、ITを活用した効果的手法と実地学習により学習・体験する。
授業は工場見学を中心とした事前・体験・事後の流れを計4回にわたり実施する。
1回目の授業は事前学習として、航空宇宙工業について、また工場を見学する三菱重工業 名古屋航空宇宙システム製作所について、Web教材による調べ学習をおこなう。このWeb教材は、航空宇宙工業の激動の歴史とその産業をリードしてきた三菱重工業の先人達の偉業をストーリー化したもので、動画や音声を駆使してわかりやすく理解させる。
2回目の授業は体験学習として、機密性が高く、一般はおろか社員ですら入場が制限されている三菱重工業の飛島工場を訪問し、ロケットと航空機の開発現場を見学する。見学は複数のグループに分かれ、生徒と比較的年齢の近いロケット開発スタッフと航空機開発スタッフのガイドにより、ロケットや航空機がどのように組立てられ、それらが社会にどのようなかたちで貢献しているかを学習する。
3回目の授業は事後学習の一貫として、工場見学でガイドしていただいたスタッフを学校に招き、働くことの充実感や辛いこと、苦しいことなど、身近な経験談をもとにディスカッション形式の授業をおこなう。この授業では、教材や工場見学だけでは伝えにくい、仕事のポリシー・創意工夫・情熱などのものづくりの思いを伝えることにより、働くこと、仕事とは何かを考えさせることをねらいである。説明の中で、言葉で伝わりづらい部分や、イメージがあるとより理解しやすい部分においては、グラフや写真、動画等を用いたIT教材を活用し、生徒の理解を促す。
最後となる4回目の授業は、これまでの授業の集大成をパワーポイントにまとめ、同学年の生徒の前で発表する。発表用のパワーポイントは最初の授業で使用したWeb教材等から画像を活用し、生徒自身が制作する。
この一連の授業を通して、生徒自身の将来の進路について、また働くことはどういうことかを、航空宇宙工業のノウハウとIT教材を用いて、考えさせる内容とする。
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この一連の授業のねらいは、生徒たちが地域の産業を知り、またそこで働く人々に触れることで、授業実施校における学習指導要領に基づく総合学科必須科目「産業社会と人間」で必要とされている「職業の選択決定に必要な能力・態度、将来の職業生活に必要な態度やコミュニケーション能力を養うと共に、自己の充実や生きがいを目指し、生涯にわたって学習に取り組む意欲や態度の形成」を産業界(三菱重工業株式会社 名古屋航空宇宙システム製作所)のノウハウを効果的手法(web教材等)に基づいて活用することにより図ることである。
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実施単位 |
テーマ |
第一回授業 |
事前学習〜航空宇宙工業の歴史と三菱重工業株式会社を知る |
実施場所 |
岩倉総合高等学校 教室 |
実施時間 |
100分 |
講師 |
岩倉総合高等学校 教諭 |
使用教材 |
Web教材(インターネット)
三菱重工業の会社案内パンフレット |
授業の進行・内容 |
授業の様子 |
■進行
事前学習としての位置付けとなる本授業では、翌週に控えた工場見学の予備知識習得を目的に、航空宇宙工業の歴史と三菱重工業について、パンフレットやweb教材を用いた調べ学習をおこなった。
進行は、はじめに教師がパンフレットを用いて、三菱重工業について10分程度の説明をおこなった。
続いて航空宇宙工業発展の歴史と先人の創意工夫をストーリー化したweb教材を使って各自調べ学習をおこなった。
その後、生徒は複数のグループに分かれ、配布したワークシートをもとに、翌週の工場見学の学習テーマについて話しあった。
■内容
・ 三菱重工業株式会社の会社案内パンフレット
・ web教材「航空宇宙工業の歩み」・・・航空宇宙工業発展の歴史とそこに生きる先人の創意工夫・情熱
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三菱重工業の会社案内使った説明風景

Web教材を用いた調べ学習
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実施単位 |
テーマ |
第二回授業 |
体験学習〜ロケットと航空機の組立工場を訪問 |
実施場所 |
三菱重工業株式会社
名古屋航空宇宙システム製作所 飛鳥工場
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実施時間 |
120分 |
講師 |
三菱重工業株式会社
名古屋航空宇宙工業製作所
航空機・ロケット開発スタッフ |
使用教材 |
ビデオ 〜大空への挑戦〜
(三菱重工業支給) |
授業の進行・内容 |
授業の様子 |
■進行
本事業のメインとなる体験学習授業として、三菱重工業株式会社 名古屋航空宇宙システム製作所の飛島工場を訪問し、ロケットや航空機の組立スタッフによるガイドのもと、工場を見学した。
はじめに講堂でビデオ鑑賞をおこない、飛島工場で作られているロケットや航空機について理解した。
次に航空機の組立工場を見学し、国際分業をおこなっている航空機製造において三菱重工がどのような役割を担っているかの説明をうけた。
続いてロケットの組立工場を見学し、打ち上げを来年に控えたH-2IIAロケットの組立行程とその役割等を学んだ。
最後に産業界講師を交え、グループで質疑応答を含めたディスカッションをおこなった。
■内容
@ビデオ鑑賞〜大空への挑戦〜
工場見学のポイントをビデオで予習
A航空機の組立現場を見学しよう
B777やグローバルエクスプレスの組立現場を見学
Bロケットの組立現場を見学しよう
H-IIAロケットをはじめとする宇宙機器の組立作業を見学
C質疑応答
別室に集合し、組立スタッフに質問をする。
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ビデオ鑑賞及び説明風景

工場見学に向かう

航空機の組立工場にて説明を受ける

ロケットの組立工場での説明風景

ディスカッション風景
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実施単位 |
テーマ |
第三回授業 |
事後学習1 産業界講師授業「働くこと、仕事とは?」 |
実施場所 |
岩倉総合高等学校 教室
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実施時間 |
100分 |
講師 |
三菱重工業株式会
名古屋航空宇宙システム製作所
総務部 総務課 1名 飛鳥工場 組立スタッフ2名 |
使用教材 |
Microsoft(R)PowerPoint(R) ファイルドキュメント |
授業の進行・内容 |
授業の様子 |
■進行
第3回授業は、生徒に比較的年齢が近い三菱重工業の講師を学校に招き、パワーポイントを使った講義を実施した。話題の中心となるのは技術的な話ではなく、あくまで仕事、働くことをテーマにお話いただいた。
内容は、まず総務部のスタッフによる三菱重工全体の業務についての説明の後、航空機開発スタッフとロケット開発スタッフがそれぞれの仕事についての講義をうけた。
産業界講師はパワーポイント教材や業務で使う小道具等を使いながら、入社のきっかけや、ものづくりへの思い、やりがい、こだわりなどを講義した後、20分程度の質疑応答とディスカッションをおこなった。
■内容
1.三菱重工の仕事
2.どんな仕事してる? 〜民間機造編〜
プロフィール、一日のスケジュール、
海外での業務経験 他
3.どんな仕事してる?〜宇宙機器製造編〜
プロフィール、一日のスケジュール、
種子島宇宙開発センターでの
ロケット打ち上げ業務 他
4.質疑応答 〜学生時代編
5.質疑応答 〜社会人編
6.ディスカッション
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総務課社員による三菱重工業についての講義

航空機組立スタッフによる講義風景

ロケット開発スタッフによる講義風景

ディスカッション風景
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実施単位 |
テーマ |
第四回目 |
事後学習2 学習成果発表会 |
実施場所 |
岩倉総合高等学校 体育館
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実施時間 |
100分 |
講師 |
岩倉総合高等学校 教諭
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使用教材 |
Microsoft(R)PowerPoint(R) ファイルドキュメント |
授業の進行・内容 |
授業の様子 |
■進行
生徒が作ったプレゼン資料を用いて、同学年生徒の前で、プロジェクターによる学習成果発表をおこなった。
■内容
発表はグループに分かれておこない、生徒一人一人が交代で説明をした。説明に使うパワーポイントの作成は、この発表会の前に、計4時限を使っておこなった。
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発表会の風景

発表会の風景

発表会の風景 |
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合計3回に渡り授業を実施したが、生徒の反応が一番良かったのは3回目の産業界講師の授業だった。
これまでの調べ学習、工場見学をうけて実施したこの3回目の授業は、事後学習の一貫として、産業界講師を学校に招いて授業をおこなうもので、これまで学習したことをベースとしながらも、また違った切り口での授業を行った。その内容は技術の話がメインではなく、あくまで働く人を主体としたもので、生徒に仕事の楽しさ、やりがい、辛さ、苦しさ等を伝えることがねらいだった。そのため講師は人選から慎重におこない、年齢が生徒に比較的近く、生徒が自身の将来に置き換えて親しみを持って授業を受けられるような条件で人選した。これが功を奏し、はじめ生徒に緊張もあったものの、授業は終始フレンドリーな雰囲気でおこなわれた。
講師はパワーポイントや小道具を使いながら、自分の仕事の楽しさややりがい、仕事の困難をどのようにして乗り切るかなど、働くこと・仕事とはどのようなものなのかを、自分の仕事を例に説明した。なかでも講師が持ち寄ったロケットや航空機の開発に使う材料や小道具などは好評で、10万円もするロケットの一部に使われる直径2cm程度のゴムのような素材でできた輪など、関心をよせて見入っていた。これら小道具は、生徒に最後まで集中力を持って授業に参加さしてもらうための工夫として用意していただいたもので、これは期待通りの成果があった。
ディスカッションでは講師が左右二手に分かれ、生徒と輪になって話をした。生徒は、親しみを持って各自で抱いていた素朴な疑問を講師にぶつけ、大いに盛り上がった。唯一残念なことは、このディスカッションが授業の最後におこなったため、盛り上がってきたところで終わってしまったことだった。
本授業全体の目的である「生徒の職業観、勤労観を養う」という点に関しては、高校一年生という学年が時期尚早であるとの意見もあったが、高校一年生なりに社会人の生活や仕事について少なからず関心をもったようであり、目的は概ね達成できたと実感する。
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実施場所 |
第一回:愛知県立岩倉総合高等学校 パソコン教室
第二回:三菱重工業 名古屋航空宇宙システム製作所 大口工場
第三回:愛知県立岩倉総合高等学校 教室
第四回:愛知県立岩倉総合高等学校 体育館 |
使用した機器 |
第一回:デスクトップPC(1人につき1台)
第二回:なし
第三回:ノートPC、プロジェクター、スクリーン
第四回:ノートPC、プロジェクター、スクリーン |
その他 |
第一回:三菱重工業株式会社 会社案内パンフレット
第二回:航空機やロケットの部品、模型等 |
教材タイトル |
調べ学習用web教材「航空宇宙工業の歩み」 |
教材仕様 |
Html、Macromedia Flash |
教材概要 |
航空宇宙工業発展の歴史とそれに携わった先人の創意工夫をストーリー化。ストーリーはナレーションで進行され、各シーンに合せて写真やイラストが自動的に展開される。各3分程度のストーリー9話とそれを深く理解するための50を超える補足情報により、生徒の興味・関心に合せた調べ学習をサポート。 |
教材タイトル |
講師プレゼンテーション 補助教材「働くこと、仕事とは」 |
教材仕様 |
Microsoft(R)PowerPoint(R) ファイルドキュメント |
教材概要 |
講師の出勤から帰社までを写真とともに綴った一日のスケジュールや講師の仕事におけるやりがいや苦労話を写真やイメージイラスト、動画等により補足し、講師の説明を分かりやすくサポートする。 |
所 属 |
授業での説明 |
三菱重工業株式会社 名古屋航空宇宙システム製作所 総務部 総務課 |
講師 |
三菱重工業株式会社 名古屋航空宇宙システム製作所 組立二課 |
講師 |
三菱重工業株式会社 名古屋航空宇宙システム製作所 組立三課 |
講師 |
■授業実施者
(産業界講師)から |
- 産業界講師は、授業当日以外でもその準備などで大きく時間が取られるため、企業、とりわけ上司の理解が必要となる。
- 一連の授業で自分の仕事の意義や、やりがいを見直す良いきっかけとなり、仕事に対するモチベーションが上がった。このような取り組みは実施企業側にとっても有意義だとおもう。
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■担任の先生から |
- このような取り組みは生徒にとって刺激になるだけでなく、教員にとってもプラスになるため、学校への効果は大きい。今後もこのような取り組みを継続しておこなっていきたい。
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■生徒から |
- こんな近くにロケットを作っている場所があるなんて、知らなかった。
- 日本の機械が、これほどまで世界に認められるものだとは思っていなかった。
- 勉強も遊ぶも、一生懸命にやることが大切なんだと、ふと思いました。
- 三菱では、働いている人はもっと勉強していると思った。
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■教育関係の立場から |
- 自分達で調べた事を実際に見て、聞いて、最後に自分でまとめるということは生徒にとって身になると思う。
- 長い目で見て、ものづくりの活性化につながる取り組みだと実感した。
- 教室だけでの授業とは違って、実際に目で見る理解力は大きい。
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■授業情報提供者から |
- 産業界講師は教育のプロではないため、生徒が何を求めて、それをどのように伝えるかは教育のプロである先生方から伝授していただけるとさらに良いものになる。
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