徳島県・阿南市「伊島」の旅

カニの出迎え

 連絡船を降り、久しぶりの本土からの物資を待ち受けていた島の人々をすり抜けて、島の中へと進んでいった。本土(四国)方面を見ると、台風に引き寄せられる雨雲がハッキリわかる。島はうす曇だが、暑くなりそうな予感。まだ9時前だ。旅館へは2便で渡ることになるだろうと連絡していたので、しばらくバックをゴロゴロと引きずりながら島を歩き回ることにした。

 伊島は漁港付近に約90世帯が集落をなして、200人ほどの方が暮らしている。伊島小学校(伊島中学校)は島の街の最奥部にあり、當所神社と松林寺が両サイドから街を見守るかたちになっている。店は漁港から町への入り口にある漁業協同組合があり、いわゆるコンビニエンスストアがひとつだけである。車は走っていない(車は必要ないという方が正しいかも知れない)。

 ひとまずは学校へ行ってみることにした。校庭へつながる道の別れ際で、お寺の掃除を終えたらしいお婆さんたちに声をかけられた。
 「船は揺れたやろ?」
 これが島に着いての島の方とのファーストコンタクトだった。普通の街であれば私が旅行者かどうかはわからないはずだ。しかし、この島では私は完璧な旅人なのだ。

 「ええ、まぁ。(たぶん揺れたんだと・・・)」

 突然のこととはいえ、気の利かない返事をしてしまった自分に深く反省をした。
 さて、この日の学校は登校日だが午後からだったので、まだ子供たちは誰もいない。学校をそのまま抜けて、神社へ向かった。今度は神社に向かう階段で、カニの出迎えを受けた。どうもカニの動きの間合いは妙に人間的で面白い。神社に参った後、再び漁港へ。1時間も歩けば、島中のほとんど(集落部分)を歩けてしまう。台風明けの暑さもあって、人と出会うことは少なかったが、いろんな場所で、いろんな生き物の息づかいが感じられる。この街では人が少なくても不思議なくらいさびしさを感じない。

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