徳島県・阿南市「伊島」の旅

伊島の「朝」

 一夜明けて、朝の漁港に向かった。朝の街は無防備で「素」の表情を見せてくれる。この日は台風の影響はまったく感じられない完璧な晴天だった。「昨日は本当によく釣れたものだ」と感心しながら、岸壁から覗き込んだ海は底の方までハッキリ見ることができた。昨日は気がつかなかったが今朝は朝の光が海に差し込んでいるので、夜釣りが行われた新波止の岸壁を端から歩いていくと、昨日釣れた魚よりは小ぶりな魚がたくさん泳いでるのがハッキリわかる。その種類も縞々模様のイシダイなど、受賞作品にも紹介された魚が見ることができたので何だかとても嬉しくなった。いろんな漁港にいったことはあるが、こんな美しい漁港は見たことがない。まさに此処は「お魚天国」だということが実感できた。この島に入る前までは、分刻みで立てた計画の推移に満足したり、ドキドキしたりしていたが、この島に渡ってからそうしたことがとても無意味なことのように感じられるようになってきた。

 台風が呼び込む風の影響もなくなり、打ってかわって穏やかな海が広がっている。本土(四国)側もハッキリ見ることができる。今日は漁にも出られるようで、漁船どうしが拡声器でやりとりしながら寄り添うように漁港を出ていった。

 短い滞在だったが、街に走る幾筋かの路は何度も歩いた。山の向こうにも少しだけ足を伸ばした。旅人としては、ほぼ満足である。しかし私が見た「伊島」の日常(表情)はほんの一部を体験したに過ぎないのだろう。どんな街にもそれぞれの四季に見せる表情。また晴れた日や、雨の日、風の日で表情は変わるだろう。そしてそこには人々の仕事があり、生活がある。そんな街の表情が入賞したコンクール作品には詰め込まれているので、私達は多くの人と感動を共有できるのだと確信している。

 午前10時の2便で島を出ることにした。
 歩くたびにサラサラと現れるフナムシともこれでお別れだ。帰りは余裕で10分前に乗船した。連絡船の窓から見える岸壁を男の子達がロードワークをしていた。農林水産大臣賞を受賞した男の子達が今では中学生になっている。昨日の夜釣り大会にも顔を見せていたが、表彰式に来てくれた時よりも、さらに精悍な顔つきになってきた。きっと彼らが将来、この島を受け継いで行くのだろう。彼らが東京に来てくれた時の経験以上に、私はこの島でいろんなものを思い出させてもらった気がする。また四国に渡るようなことがあった時、予定を延ばして、この島に渡ってみようと思う。その時、彼らが漁船に乗って海へ出て行く姿を見れることを期待して・・・島を去った。(2004.8.3./kun.)

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