徳島県・阿南市「伊島」の旅


※1
正確に伝えると、草むらに長らく走らせていない軽トラックが置き去りにされていたが、もう長い間使われてないように思う。

衛星通信の残像

 車のないこの街(※1)には、その代わりとして、それぞれの軒先には手押し車が置いてある。いわゆる一輪車や、オリジナルでつくられた荷車が自動車や自転車の変わりに置かれている。連絡船で運ばれた荷物を船着場にとりに行く際やいろんな荷物を運ぶために、この街には欠かせない存在であることがわかる。
 車がないことで、この島にはもうひとつの特徴があるようだ。エンジン音など機械が出す音は限られているので、街の音が敏感に感じられることだ。それにこの島にはウミネコが騒がない(私がいたときだけかも知れないが)。時折、トンビが強い風を楽しみながら旋回しているだけだ。海が荒れて漁にでれないこんな日には、島の中はほぼ自然の音風景(サウンドスケープ)だけに包まれしまう。

 まだ旅館に行くにも早すぎるので、漁港で時間を潰すことにした。本土側は依然、黒い雨雲に覆われているが、もう島には雨も降りそうにもない。1時間ほど岸壁で過ごすことにした。普段ならもっと穏やかな海の音が聞こえるのだろう。今日は強い風が島の地形に当たって尺八のような音が鳴り続いていた。

 やっと、昼を過ぎて、漁協での販売が始まった。パンを買ってブランチをすませる。公園などはないので、近くの連絡船の待合所を使わせてもらった。どうやら島からでるはずの2便が欠航になったらしく、午後3時30分の3便の時間まで、誰も来そうにもなかった。

 待合所の隅には自作パソコンが置かれていた。第9回のコンクールで「農林水産大臣賞」を受賞した時に、インターネットを見ることができない島の人々に子供たちの功績を知ってもらうために担任の村井先生が苦心されて設置されたものだ。設置当時の通信環境は利用期間限定の衛星回線だったが、今ではその利用期間が終わったために役目を終えて片付けられていた。現在、この島の通信環境は携帯電話程度のスピードになってしまっている。受賞後のエピソードで、この待合所に設置したパソコンの話を聞いたときから、伊島(日本中の「島の学校」は似た環境にある)の置かれた状況を訴えたたくて、以前からこの島の取材を考えていた。

 最近ではありがたいことに、多くの方がこの島に目を向けてくれるようになり、いろんな取材やイベントがこの島を舞台に行われるようになっている。通信環境に関しても前向きに検討がされているらしい。(※2)

※2
阿南市が離島・伊島でインターネットに高速で接続できるよう整備を進めていた「伊島・中林十八ギガヘルツ帯無線アクセスシステム」の四無線局が平成17年3月11日、開局した。(四国総合通信局のリリース)

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